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これまでのあらすじ
小アジアで王位を僭称したアカイオスを数年がかりの戦いで滅ぼしたアンティオコス三世。
209年春より念願の東方遠征を開始し、パルティア王国へ進攻。
麾下にポリュクセニダスやニコメデスらギリシア人猛将を従え、パルティア王都ヘカトンピュロスを攻略。パルティア王アルサケスをラボス峠の戦いに破り、アルボルズ山脈を越え草原地帯(ヒュルカニア)へと追撃する。
大王への道18−寛容をもって神速
アンティオコス軍は、ラボス峠を制圧すると、アルボルズ山脈を越え、ヒュルカニアの大地へと下って来た。
この肥沃な平原地帯は、草原の覇者が代々治める土地。古くは勇猛で鳴らしたスキタイ族が治めた。そして、今はパルティアが。恐らく、両者ともトルコ系の部族であろうと思われる。
「アルサケスはどこにいる」
斥候を四方に放ち、敵王の行方を探らせた。やがて…。
「アルサケスは、シュリンクス(現イラン領ゴルガーン)に立て籠っております」
シュリンクスはアルボルズ山脈北麓、ヒュルカニア最大の都市だ。この地方の主都。
「よし。ならばシュリンクスを包囲せよ」
ここを攻略すれば全パルティア平定。パルティア建国から三十年あまり、セレウコス朝を悩ませ続けて来た病巣の一つが片付く訳だ。
アンティオコスの大軍は城を何重にも包囲した。勝利に勝利を重ね、勝ち馬に乗るべく各地の部族の合流もあり、その兵力は膨れに膨れた。
アルサケス、城壁の上から、アンティオコスの将兵らが長大な柵をとんてんかんてん連ねていく様を、じっと見詰めていた。
「王様、すっかり取り囲まれてしまいましたな」
「ふん。ここは堅固無類。そう簡単には落ちぬ」
確かに、幅十メートルもの壕を三重に巡らし、壕の深さは六メートルにもなった。
とはいえ、遊牧の民の支配者でありながら、その戦いぶりは、およそ遊牧の民らしくない。取水口を埋めたり首都を放棄し山岳地帯に拠ったり籠城したり、と。遊牧の民ならば、平原地帯に疾駆する戦法をとるのが普通であろうに…。
これは、独立当初のアルサケス一世の時代、焦土作戦によりセレウコス朝を撃退した成功体験の記憶が強烈であったからであろう。
「我らはここで踏ん張る。その間にバクトリアから援軍が参ろう」
パルティアはバクトリア王国と攻守同盟を締結していた。両国ともセレウコス朝から独立した国。セレウコス朝の征討を恐れる点では一致していた。
だが、アンティオコスは、ここで時を与えなかった。
まず、周囲に整地装甲車を何台も配置した。これは巨大な防御盾のついた車両で、少しずつ前進して土を平坦にならしながら接近し、最後は破城鎚で城壁を破壊するもの。
「整地装甲車を前進させよ!」
装甲車の下では、多くの兵士が隠れ、城壁に向かい矢を放ちながら、他の者は土地を平坦に削り取っていく。
「ええい!接近させるな!」
パルティア兵も負けじと、雨あられと矢を放って来る。
彼らも必死だ。ここが落ちれば、草原の最果てに逃げるしかなくなる。
アンティオコスはさらに命じた。
「カタパルトを引き出せ!バリスタもだ!」
ヘレニズム王朝の誇る文明の器機が、がらがらと引っ張られて来る。
城の四方に据えられた。
「撃て!城壁を破壊せよ!」
猛烈な砲撃と射撃が始まった。
ずどんずどん、城壁に石が突き刺さった。
「おおお!」
城壁の上にいたアルサケス、思わずよろめいた。
(これは…悠長に立て籠ってはおられぬ…)
遊牧の王は、己の計算違いを痛感したに違いない。
恐らく、長期に及んだサルディス包囲戦の噂を聞き、籠城戦で充分時間を稼げると踏んだのやも知れぬ。ただ、サルディスのアクロポリスが山頂の断崖にあるのと比較すると、ここは平地の城。投石兵器の威力が遺憾なく発揮される地形であった。
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