新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第12章アジアの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 これまでのあらすじ
 小アジアで王位を僭称したアカイオスを数年がかりの戦いで滅ぼしたアンティオコス三世。
 209年春より念願の東方遠征を開始し、パルティア王国へ進攻。
 麾下にポリュクセニダスやニコメデスらギリシア人猛将を従え、パルティア王都ヘカトンピュロスを攻略。パルティア王アルサケスをラボス峠の戦いに破り、アルボルズ山脈を越え草原地帯(ヒュルカニア)へと追撃する。



 大王への道18−寛容をもって神速(続き)
 激戦は続いた。壕が埋められ、城壁が崩れ始めると、パルティア兵は覚悟の突撃を開始し、整地装甲車のシリア兵を襲撃し始めた。城壁と整地装甲車の間の狭い空間で、猛烈な白兵戦が展開された。
 さらに、戦いは地上だけではなかった。アンティオコス軍は地下に坑道も掘り進めており、それに対抗して地下に兵を配置したアルサケスの手勢と、坑道の中でも熾烈な戦闘が繰り広げられた。
 が、次第にアンティオコス軍の優位がはっきりして来た。
 カタパルト、バリスタの砲撃射撃は夜間にも敢行され、城壁に巨石がぶつかる衝撃音に、パルティア兵はひとときの安眠も与えられなかったのだ。




 昼夜を問わぬ猛攻に、アルサケス王も疲弊し切っていた。
「もはや、ここは支えきれぬ…。ニサに退却するしかない」
 ニサとは、現在のトルクメニスタンの首都アシガバード付近の地。パルティア最初の都にして国家発祥の地。シュリンクスから東に300kmにある。遊牧民から定住民になり始めた地ともいえる。




「ですが、ニサに向かう資金が足りませぬ」
 部下が言った。
 残存する兵力は八千ほど。それが三百キロを踏破するとなると、10日の行程を見越さねばならぬ。即ち、そのぶんの兵糧と水が必要。また、草原地帯を駆け抜ける馬もいる。莫大な資金が必要だ。
「市内のギリシア人から接収する」
「え!」 
 アレクサンドロス大王の東征以来、この地域にもギリシア人の植民者が居住していた。大王に従った兵士の子孫や、その後、渡って来た移住者たちだ。
 彼らも、パルティア王国の住民である筈だが…。




「背に腹はかえられぬ。金がいる。ギリシア人の兵士に取り囲まれている今、ギリシア人の安全など顧慮する暇はない」
 近代以降でも敵性市民という言葉が存在した。国籍は自国であるが民族が敵方に属する場合、他の国民から憎悪の目が向けられるという、多民族国家ではありがちな現象。
 ここでも、軍費調達のため、人の陥りがちな感情の赴くまま不法がなされた。
 その夜。パルティア兵は市内に飛び出しギリシア人の屋敷を襲撃した。そして、皆殺しにして家財全てを接収した。それは略奪強盗の振る舞いと何ら異ならない。
 そして、アルサケス以下パルティア軍は、崩れた城壁の間から突如打って出て、包囲を突破すると、東方へ退却していった。




 翌朝。アンティオコス軍はシュリンクスに入城した。砲撃に崩れた建物、憔悴し切った市民の出迎え。だが、王が驚いたのは、街の大通りに転がる無数の遺体であった。
「う…これは」
 ギリシア人の遺体である。ごみか何かのように、無造作に打ち捨てられている。
 市民から事情を聞いた王は烈火の如く激怒した。
「うぬ…。これが一国の王たる者の振る舞いか」
 背後を振り返った。
「ゼウクシス!ニコラオス!」
「ははっ」「はっ」
「直ちにアルサケスを追撃し徹底的に追い詰めよ!やつに息つく間を与えるな!」
「おう」
 ゼウクシス、ニコラオス率いる数万の軍勢は、すぐさま進発した。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

 これまでのあらすじ
 小アジアで王位を僭称したアカイオスを数年がかりの戦いで滅ぼしたアンティオコス三世。
 209年春より念願の東方遠征を開始し、パルティア王国へ進攻。
 麾下にポリュクセニダスやニコメデスらギリシア人猛将を従え、パルティア王都ヘカトンピュロスを攻略。パルティア王アルサケスをラボス峠の戦いに破り、アルボルズ山脈を越え草原地帯(ヒュルカニア)へと追撃する。


 大王への道18−寛容をもって神速
 アンティオコス軍は、ラボス峠を制圧すると、アルボルズ山脈を越え、ヒュルカニアの大地へと下って来た。
 この肥沃な平原地帯は、草原の覇者が代々治める土地。古くは勇猛で鳴らしたスキタイ族が治めた。そして、今はパルティアが。恐らく、両者ともトルコ系の部族であろうと思われる。




「アルサケスはどこにいる」
 斥候を四方に放ち、敵王の行方を探らせた。やがて…。
「アルサケスは、シュリンクス(現イラン領ゴルガーン)に立て籠っております」
 シュリンクスはアルボルズ山脈北麓、ヒュルカニア最大の都市だ。この地方の主都。
「よし。ならばシュリンクスを包囲せよ」
 ここを攻略すれば全パルティア平定。パルティア建国から三十年あまり、セレウコス朝を悩ませ続けて来た病巣の一つが片付く訳だ。
 アンティオコスの大軍は城を何重にも包囲した。勝利に勝利を重ね、勝ち馬に乗るべく各地の部族の合流もあり、その兵力は膨れに膨れた。




 アルサケス、城壁の上から、アンティオコスの将兵らが長大な柵をとんてんかんてん連ねていく様を、じっと見詰めていた。
「王様、すっかり取り囲まれてしまいましたな」
「ふん。ここは堅固無類。そう簡単には落ちぬ」
 確かに、幅十メートルもの壕を三重に巡らし、壕の深さは六メートルにもなった。
 とはいえ、遊牧の民の支配者でありながら、その戦いぶりは、およそ遊牧の民らしくない。取水口を埋めたり首都を放棄し山岳地帯に拠ったり籠城したり、と。遊牧の民ならば、平原地帯に疾駆する戦法をとるのが普通であろうに…。
 これは、独立当初のアルサケス一世の時代、焦土作戦によりセレウコス朝を撃退した成功体験の記憶が強烈であったからであろう。
「我らはここで踏ん張る。その間にバクトリアから援軍が参ろう」
 パルティアはバクトリア王国と攻守同盟を締結していた。両国ともセレウコス朝から独立した国。セレウコス朝の征討を恐れる点では一致していた。




 だが、アンティオコスは、ここで時を与えなかった。
 まず、周囲に整地装甲車を何台も配置した。これは巨大な防御盾のついた車両で、少しずつ前進して土を平坦にならしながら接近し、最後は破城鎚で城壁を破壊するもの。
「整地装甲車を前進させよ!」
 装甲車の下では、多くの兵士が隠れ、城壁に向かい矢を放ちながら、他の者は土地を平坦に削り取っていく。 




「ええい!接近させるな!」
 パルティア兵も負けじと、雨あられと矢を放って来る。
 彼らも必死だ。ここが落ちれば、草原の最果てに逃げるしかなくなる。
 アンティオコスはさらに命じた。
「カタパルトを引き出せ!バリスタもだ!」
 ヘレニズム王朝の誇る文明の器機が、がらがらと引っ張られて来る。
 城の四方に据えられた。
「撃て!城壁を破壊せよ!」
 猛烈な砲撃と射撃が始まった。
 ずどんずどん、城壁に石が突き刺さった。




「おおお!」
 城壁の上にいたアルサケス、思わずよろめいた。
(これは…悠長に立て籠ってはおられぬ…)
 遊牧の王は、己の計算違いを痛感したに違いない。
 恐らく、長期に及んだサルディス包囲戦の噂を聞き、籠城戦で充分時間を稼げると踏んだのやも知れぬ。ただ、サルディスのアクロポリスが山頂の断崖にあるのと比較すると、ここは平地の城。投石兵器の威力が遺憾なく発揮される地形であった。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 大王への道17−ラボス峠の戦い(さらに続き)
「来たぞ」
 重装歩兵の大軍、そして、延々と荷駄を積んだ馬車の列が続いていた。
 やがて、彼らの待ち構える眼下に差し掛かって来た。
「構えろ!」
 パルティア兵は弓を構えた。元は遊牧民であるから騎射を大の得意とする。無論、ここでは馬から降りて弓弦を引いている。
「放て!」
 が、その合図の瞬間、パルティア兵の背後から、ばしゃばしゃと矢が降り注いで来た。
「わっ」「げっ」
 パルティア兵はつんのめって倒れた。谷底に落ちる兵も続出した。
「な、何者!」
 見上げると、岩盤にアンティオコスの軽装歩兵がずらりと並んでいた。




「ははは。敵は混乱しているぞ」
 指揮官はロドス人ポリュクセニダス。
 そこにいたのは弓兵たちだけではない。いつの間に引き揚げたか、バリスタ(据え置き型の投石兵器)までが据えられていた。既に、きりきりと引き絞られている。
「さあ!石を放て!狡猾なバルティア兵を押し潰せ!」
 途端、ぶんぶん石が落下し、轟音を響かせた。
「わっ」「ひえ」
 もはや戦うどころではない。パルティア兵は前後左右に逃げ惑った。
 そう。アンティオコスは、敵軍がラボス峠一帯に待ち構えていることを察知すると、身軽な軽装歩兵を別の道から高所に登攀させ、敵の待ち構える背後から攻撃したのだ。
 彼は、サルディス攻めで難所の攻略法を知った。
「攻め寄せて来ぬと思う箇所にこそ最大の油断がある」
 それは、彼の許に集まるギリシア人傭兵たちが、身をもって教えてくれたことである。




 戦いはそこだけではない。峡谷はとても長いから、戦場は幾つにも分かれた。
 そして、同じ展開が繰り広げられていた。アンティオコスの軽装歩兵の背後からの奇襲にパルティア軍は逃げ惑った。
「よし!敵は逃げ腰になったぞ!一気に突撃せよ!」
 アンティオコス、馬上躍り上がるようにして采配した。
 勇猛なニコメデス、ニコラオスらギリシア人の指揮官が先頭に立ち、猛攻にかかった。
 戦いが正面からの激突となると、アンティオコス軍の優勢ははっきりし始めた。敵軍が接近戦に持ち込もうとする前に、遠くからバリスタで砲撃を加え、その戦意をまさしく打ち砕いた。そして、敵の隊列を崩してから歩兵の突撃を繰り出すと、パルティア軍はどっと崩れ立った。




 もはや、パルティア軍総敗北は明らかであった。
「いかん!引け!引くのだ!」
 アルサケスは、峠の陣を捨てて、北の大地へと退却していった。
 こうして、ラボス峠の戦いは、アンティオコス軍の大勝利に終わった。

イメージ 1

※↑アルボルズ山脈です。画像はテヘラン北東マーザンダラーン山です。

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 大王への道17−ラボス峠の戦い(続き)
 その頃。アルサケス二世はアルボルス山脈の要衝ラボス峠にいた。
 この峠は、ヘカトンピュロスからヒュルカニアに至る道筋。ここに長大な陣を構築し、待ち構えていた。
「そうか…アンティオコスは嬉々としてヘカトンピュロスに入ったか」
「はい。将兵も我らの残した戦利品の分配に大いに沸いておるようで」
 その報告にパルティア王はほくそ笑んだ。
「…ご苦労だったな。下がってよいぞ」




 この遊牧民の王にはある見通しがあった。
(アンティオコスはバクトリアに向かうに違いない。立ち去った後に、再び南へ戻りヘカトンピュロスを奪い返せば良い)
 パルティアは建国してから日が浅い。元々はアルボルズ山脈の北、現在のトルクメニスタンにいた部族連合だ。西進し山を越え文明世界に南進して来た。古来、メソポタミア・ペルシアで繰り返し見られた民族移動と同じ光景である。
 だから、アルボルズ山脈の北の草原地帯を駆けた記憶も新しく、この山並みの要害を盾にすれば何とでもなる、そう確信し、また高もくくってもいた。
 ここの布陣も、万が一、アンティオコスが攻め寄せて来た時に鉄槌を下すための用心に過ぎなかった。だから、日々、重臣たちと共に宴を催し寛いでいたのだ。




 と、その時。
「王様!」
 兵士が駆け込んで来た。
「どうした」
「アンティオコスの大軍が、こちらに向かって来ます」
「なにっ!」
「総勢十万の大軍勢が、幾つにも分かれ、峠道を一散に登って参ります」
「なんだと」
 慌てて幕舎を飛び出すと、眼下に敵の大軍が押し寄せて来るのが見えた。




「おおお!」
 アルサケスには大いに意外であった。
(この要害に飛び込んで来るとは…)
 バクトリアに向かうには、ヘカトンピュロスから東に伸びる街道を真っ直ぐに進むのが最短距離。アンティオコスには、ヒュルカニアは用がない土地の筈であった。
(あくまでも我がパルティアを倒すということか…望むところ)
 パルティア王はふふんと笑みを浮かべた。
(ここでアンティオコスを捕えれば、一気にメディアに勢力を伸ばすことも出来る)




「者どもよ!」
 幕舎の前に集まっていた指揮官たちに、アルサケス王は大音声を張り上げた。
「アンティオコスは我らの待ち構える所に飛び込んで来る!おっとり囲んで全滅させよ!ならば、セレウコスの王国を全て我がものとることも出来ようぞ!」
「おおお!」
 指揮官たちは持ち場に散っていった。
 ここは要害。登り口から峠までおよそ300スタディオン(約50km)もある。そこかしこに、狭隘な地形、小川の急流、岩山がせり出し、難所がひしめいていた。パルティア兵はその難所に陣取り、眼下を通過するところを襲いかからんとの企みだ。

イメージ 1

※↑通貨に彫られたアンティオコス三世の肖像です。頭に巻いている飾り紐が王者の証明「ディアデマ(王環)」です。

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 大王への道17−ラボス峠の戦い
 報告を聞いた王はことのほか喜んだ。
「よし、出だしは良いぞ。民に喜ばれる者こそ王者」
 アンティオコスは直ちに進発した。
 アルボルズ山脈の隘路を進み、街道の要衝カスピ門(現テヘラン東方)を無事通過すると、いよいよ砂漠地帯(カヴィール砂漠)深く進攻していった。
 困難が予期された砂漠の進軍も、途中のオアシス住民の協力もあり、さほど難渋することもなく進むことが出来た。




(このぶんだと、案外、何事もなく抜けられそうだぞ)
 予期したパルティア兵の待ち伏せもない。
 だが、延々と続く乾燥地帯。来る日も来る日も同じ光景が続く。半月ほどかけて、アンティオコス軍は、エクバタナからおよそ550km東方の地点に至った。




「陛下」
 ロードス出身のポリュクセニダスが前方を指差した。
 ロードス人は貿易の専門家。この辺りも行き交いしていたのやも知れぬ。
「間もなくヘカトンピュロスにございます」
 ヘカトンピュロス。パルティア王国の首都である。
 ここは現在のイラン領ダムガンの南方30kmに位置する。その名は『百の城門を有する都市』という意味で、まさしく四方に通ずる交通の要地にあった。西はカスピ門を経てメディアに至り、東はバクトリアやインド、南はペルシス、北はアルボルズ山脈を越えてヒュルカニア海(カスピ海)沿岸の草原地帯へ。
 初代アルサケス一世は、北方の草原地帯よりパルティア州に侵攻すると、セレウコス朝の総督を討ち、自分たちの国を建てた。そして、新都ヘカトンピュロスを建設した。
 が、このアルサケス二世の時代、まだ王城の名に相応しき大都市ではなかったようだ。



 斥候が戻って来た。
「陛下。アルサケス以下、城を捨て、北方へ撤退したあとにございます」
「なに。一戦も交えず王城を捨てたか」
「はい。北の山脈を越え、ヒュルカニアに退却したとのこと」
 北を見れば、アルボルズ山脈の険峻な山並みが連なっている。あの向こうがヒュルカニア地方である。




「ふーむ」
 アンティオコスは考え込んだ。
(防衛に適した王城を捨てるとは…)
「よし。ともかくヘカトンピュロスに入城だ」
 アンティオコス軍は、戦うこともなく、敵国の都を占領したのであった。


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • JAPAN
  • 時間の流れ
  • ダイエット
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事