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大王への道15−反逆者の処断(さらにさらに続き)
漆黒の闇に包まれたアンティオコス王の本陣。
王の幕舎だけ、こうこうと明りが灯っている。
ここだけは異様な興奮の熱気に包まれていた。
アカイオスは、アンティオコス王とその重臣たちの前に引き据えられた。
王は、静かな表情で、この叔父の顔を見詰めていた。そう。叔父なのだ。
その叔父は、籠城の疲労を微塵も見せぬ、精悍な顔立ちのままであった。
(これが…我が宿命の敵)
喜びに沸き立つ重臣の中、彼だけは、孤峰に立つ孤独と虚無に襲われていた。
三年も戦い続け、あたかも究極の宿敵同士と成り果てていたが、当初は自身の即位を後押ししてくれた人物なのだ。だからこそタウロス以北の総督に任じもした。少々の出過ぎにも目をつむってきた。
「なぜこのような…」
そう口にしかけると、アカイオスが遮るように言った。
「それは愚問だ。王家の血筋に生まれ、本懐を遂げるべく立ち上がったのみ。そうとしか答えられぬ」
「身の破滅を招いても、か」
「左様。それが男子の本懐」
胸を傲岸と反らし、堂々と弁じた。悪びれる様子は全くない。
命乞いもない。反逆者として堂々最期を遂げるつもりらしい。
「なるほど…」
アンティオコスは頷いた。
直ちに反逆者の処断を諮った。
やがて、王は立ち上がり、叔父アカイオスに峻烈な処断を言い渡した。
「汝アカイオス、王族の一人でありながら、内より王家の転覆を謀り、外にプトレマイオスと通じ、リュディアの王位を僭称しディアデマを戴いた不遜、誠に許し難し。それゆえ、そなたは死罪。その遺骸は串刺しにして天下に晒す」
アカイオス、じっとアンティオコスの顔を見詰めていたが、薄笑いを浮かべた。
「ふ…」
「立て!」
ボリスとカンビュロス、重臣に取り立てられたばかりの二人が獄吏となった。
「我が甥よ、さらばだ。我が運命を心に刻んでおくが良い。王者たらんとする者の、これは一つの必然なのだということを」
それが、アカイオス最後の言葉であった。
刑は直ちに執行された。
アカイオスは斬罪に処せられ、その首は槍に刺し、遺骸は串刺しにし、アクロポリスから見える箇所に、これ見よがしに晒された。
評するに、アカイオスは機を逸したがゆえに道を誤ったというほかない。玉座を望むならば、まさにセレウコス三世が暗殺された時しかなかった。それをみすみす見過ごしておきながら、心変わりして王環を望むというのは時を心得ぬ振る舞い。王者の資格がそもそもなかったということだ。
夜が白々と明けると…。
まず、アンティオコスの陣営から大歓声が上がった。
そして、アクロポリスに向かって、勝ち誇ったような声を投げかけ始めた。
「貴様らの大将は死んだぞ!」
「お前らが寝入っている間にな!」
嘲笑う声と共に、それはアクロポリスへと響いた。
「また訳の分からぬことを言ってるぜ」
夜明けと共に頂きの城壁に現れた兵士は、ふんと鼻先で笑っていた。
挑発はずっと続いている。だから、それの新しい手口と思ったのだ。
だが…。
敵陣の前に、突き立てられたサリッサの穂先に刺さった首、そして、胴体が杭に串刺しにされている。
「あっ!」「あれは…!」
それは、彼らが、次代の君主と崇め奉ってきた、アカイオスの無残な姿。
「我が君…!」
妃のラオディケ、将のアリバゾス、誰もが呆然としていた。
やがて、城のあちこちからすすり泣きが漏れ聞こえてきた。
アクロポリスはまだ落ちていない。だが、大将を失っては何の籠城か。
それから間もなく。
アクロポリスでは猜疑心が高まり、ついにはラオディケ派とアリバゾス派に別れて内紛が勃発した。籠城戦の生命線である団結が崩れては、もはやどうにもならなかった。
ラオディケは、結局、アンティオコス王に降伏の使者を送った。堅固無類のサルディスのアクロポリスを明け渡す代わりに将兵の安全を求めた。
アンティオコス王は降伏を認め、ラオディケの身柄をポントス王国に送還した。というのも、王の妻もポントス王国の王女(名も同じラオディケ)。だから、ポントスとの関係を慮ったものであろう。その他の将兵の多くも許し、自己の兵力に加えた。
紀元前213年早春のことである。
こうして、三年に及ぶアカイオス征討戦は終わりを告げた。ペルシスからリュディアに至る広大な地域に、アンティオコスの王権は回復することとなったのである。
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