|
https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
大王への道14−抜かりなき用心を衝く
明けて紀元前214年。早くも季節は秋となっていた。
ここアレクサンドリアのプトレマイオス宮廷。
「まずい。まずいぞ」
宰相ソシビオス、肥満体をゆすり、前後左右歩き回っていた。
彼の耳にも、アンティオコスとアカイオスの争闘の経緯は逐一報告されていた。両者の争いはシリア王権を巡る戦いではあったが、アカイオスがエジプトの援助を得ていることは周知のこと。だから、これはエジプト対シリアの代理戦争でもあった訳だ。
エジプトにとっては、同盟者アカイオスの勝利に越した事はないが、戦い自体の長期化こそ望ましい。シリアの国力を削ぐこと自体、エジプト国家の安全に直結するからだ。
だが、サルディス市街はとうとう陥落してしまった。
(もし、このままアクロポリスが落ちれば…)
アンティオコスは帝国全土に己の王権を宣言するであろう。その勢威は、いずれ再びコイレ・シリアへと向けられることは火を見るより明らか。
アカイオスさえ健在であれば、いずれ、シリア領内のどこかに火の手が上がるであろう。アンティオコスは、その鎮圧に忙殺され続けることになる。
(何としてでもアカイオスを救わねばならぬ)
それでは、アカイオス救援のため出兵するかというと、それは頭になかった。
というのも、プトレマイオス四世王の暗愚、ソシビオス一派の専制復活により、多くの有能な将たちがエジプトを去り、シリア宮廷に亡命してしまった。この人材払底の折、シリアとの全面対決は避けたかった。
(ラフィアの幸運を再び期待するのは無謀だ…)
「アカイオスはどうしている」
「はい。アクロポリスに立て籠り、頑強に抵抗を続けております。アンティオコスは攻めあぐね、兵糧攻めに切り替えた模様にございます」
「そうか…」
アクロポリスには三年の籠城に耐え得る兵糧武具が備蓄されていた。また、時折、エジプトからの援助物資も届けられていたから、あと少しならば持ち堪え得るであろう。
(それも、あと半年が限界…だな)
ソシビオスは慎重に計算した。
兵糧尽きれば、機略の人アカイオスも降伏のほかない。
「よし。ボリスを呼んで来てくれ」
「ははっ」
現れたのは体躯堂々としたクレタ島出身のギリシア人。
「宰相。ボリス、まかり越しましたございます」
「おお、よく来てくれた。日々調練に勤しんでいるとか、まことご苦労なこと」
「なんの。宰相の引き立てにより今日がある我。何を措いても駆けつける所存」
ボリスは、テオドトスやニコラオスの亡命以降、急速にエジプト軍内において重きをなしていた男である。アンティオコス宮廷のラゴラスといい、クレタ島には、こういう野心に充ちた若者が、ごろごろしていたのであろう。
ソシビオスは、難題の解決を、この壮者に託した。
「アカイオス殿救出の方法でございますか」
「うむ。何か良い手立てはないものかのう」
「左様ですなあ」
ボリス、思案していたが、
「城内のアカイオス殿と連絡さえとれるのならば、手はなくもありませぬ」
と言った。
「それは本当か」
「はい。アンティオコス軍に同郷のカンビュロスという男がおります。包囲軍の一隊を受け持っているとか。彼を通じ、救出出来るかと存じます」
「おおお」
ソシビオスは肥えた体を震わせた。
「是非、アカイオス殿救出のため尽力してくれ給え。それこそが、我が王家の安泰に多大に寄与するのであるから」
エジプト宰相は、救出作戦の資金として10タラントンという莫大な金額を用立てると共に、アカイオスの信頼する海外人脈を紹介してやった。
「ロードスとエフェソスに彼の信頼する人物が住んでおる。彼らの書付けを受け取り、サルディスに向かうがよい」
|