新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第13章世界帝国の章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全44ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]


[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ローマ講和会議−エウメネス王の深謀遠慮
 紀元前189年初夏。ここローマ。
 地中海全域の諸国から使節が集まった。ローマ元老院で、アンティオコス王との和平の条件を詰めるためである。
「もはや世界の事は定まった」
「ローマ国が覇者と決まった」
 となると、この会議が新たな世界秩序を決めることになる。とあって、諸国は総力を挙げ選りすぐりの人材を送り込んで来た。




「何としても、王国の存続を確保せねば」
 必死の形相であったのは敗戦国シリアの使者アンティパトロスとゼウクシスだけではなかった。戦勝国の側にある国々も同じであった。
「何とか我らの領土拡大を認めてもらわねばならぬ」
 特に激しく鞘当てしていた二つの国があった。
 ペルガモンとロードスの二国である。
 これに訝しむ向きがあるやも知れぬ。先の大戦では、両国は息をぴたりと合わせ、アンティオコス大王の大軍と海陸で戦い、見事勝利を収めた。
 だが、アンティオコスの勢力退潮が明らかになった今、両国は勢力拡大を競い合うライヴァルへと変じた。それが国際関係というものだ。第二次大戦の戦勝国アメリカとソ連が戦後長く対峙したのと同じである。否、大戦の最中ですら、アメリカと大英帝国の間では、熾烈な覇権争いが繰り広げられていたのだ。




 ペルガモン王国は、国王エウメネス二世自身乗り込んで来た。
 対するロードスは冷静沈着な指揮官エウダモスを送り込んだ。
 二人は戦勝の功労者でもある。
 この両国が、ローマのアジアにおける二大同盟国と位置づけられていたから、二人は大いに歓待された。豪華な宿舎、手厚いもてなし。待遇は群を抜いていた。
 元老院の会議が始まり、真っ先に意見を述べる栄誉を与えられたのは、そのエウメネスであった。




「ペルガモンのバシレウス(王)よ、元老院より受け取りたいものを何なりとおっしゃってください。あなたの希望については、最大限叶えられるよう取り計らいますから」
 破格の申し出であった。ローマ元老院や上流人士たちが、いかにエウメネスに好意熱情を抱いているかを示してあまりあった。ペルガモンは、父アッタロス一世の治世より親ローマを国是とし、マケドニア、シリアと戦い続けたローマ同盟国。
 このことが、エウメネス王に対する一種の熱狂を巻き起こしていた。
 この時ならば、王が少々無理な要求をしても恐らく通ったであろう。
 だが、この王は違った。




「もし、ローマ以外の国よりそのような申し出があれば、私が思い上がった要求をしないようローマの人々に相談したことでしょう。だが、他ならぬローマの人々よりその申し出を受けた今、ローマの人々に委ねることが最善であると思います」
 謙虚な言動に終始した。
 むしろ元老院が物足りなく思うほどで、一人の議員が立ち上がり、
「遠慮なく申し出てほしい。元老院としては、感謝の意を表するため、可能なことは何でもするつもりなのであるから」
 と添えたが、それでもエウメネスは要求をあからさまにすることはなかった。
 王は、そのまま退出してしまった。


[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 旅立ち(さらに続き)
「兄上…よいのですか」
 このあり得ぬ出来事に、ルキウスは半ば呆然とし、口を挟むことすらできなかった。圧倒的な歴史事実の迫力に、兄の言葉に、頷くしかなかった。
 だが、ハンニバルの去っていく光景に慄然として来た。自分は執政官。国家に対する重大な責務に反したのではないか、その不安にくるまれ出した。




「終わったんだ」
「終わった?」
「ローマの敵は地上から消え失せた。復讐は望まぬのがローマの美徳。また、それが地上の安穏を願う神々の意思。それとも、そなたは、なおハンニバルを虜囚として民衆の前に引き出したい、そう思うのか」
「それは…」
 ローマの男は、敵将を引き連れローマで凱旋式を上げることを無上の栄誉とする。とすると、ハンニバルというローマを恐怖に陥れた男は、捕虜としてはこれ以上のものはない筈であったが…。




「そうですな…。確かに、私もそう思えませんな」
 ルキウスは苦笑した。
 そう願うならば、一声上げれば、神殿の外にいるリクトルを呼ぶことも出来た筈。ハンニバルを捕縛するなど訳もないことだ。
(そうしなかったということは、私も、兄と同じ思いを抱いていたということだ)
「民衆の前に引き出すのは、ローマを侮ったアイトリアやエピロスの煽動政治家どもだけで充分。ローマを侮ればどうなるか、それを知らしめれば足りるのであるからな」
 スキピオは微笑んだ。




 間もなく。
 スキピオ兄弟を乗せた船がエフェソスから出港した。
 エフェソス市民から無数の歓声が飛んだ。ギリシア諸都市に自治を回復したスキピオ兄弟は、彼らにとっても英雄そのものだったからだ。
「ありがとう、諸君!」
 スキピオは力強く手を振った。
 そして、アジアの大自然に向かって、心の内で呟いた。
(さらばだ…アジアよ。我が好敵手よ…)

旅立ち−終章3


[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 旅立ち
 別れの時がやっ来た。
「これからどうなさるおつもりです」
 スキピオが問うと、ハンニバルは苦笑した。
「安心し給え。ローマの災いとなることはなかろうて」
「いや、そうではなく…。落ち着き先はあるのですか」
 ハンニバルはアンティオコスの王国を追われる運命。天下の覇者ローマの罪人となる。この地上に受け容れてくれる国があろうとは思えない。
「心配無用。ある。だが、教えられんな。君の弟は追捕の責任者」
 ハンニバルは微笑した。
 



「ならば…」
 スキピオは周囲を見回した。
 聞き耳を立てている者がいないかどうか確認すると、
「今から独り言を申します」と言った。
「独り言?」
 ハンニバルは怪訝な眉をした。
「それゆえ私は何も関知しませぬ。もし独り言に配慮するとすれば、それは神々の仕業。それによって何か動くとすれば神慮。人の慮外にある事柄。…よいな、ルキウス」
 不思議な物言い、不思議な念押し。
「は…。兄上がそう仰せならば」
 弟は戸惑いながらも素直に頷いた。




「私がハンニバルならばビュテニアに赴きます」
 スキピオは言った。
 どうやらハンニバルの行く先を暗示するつもりのようだ。
「ビュテニア…ローマの同盟国ではないか」
 ハンニバルは眉をひそめた。
 ビュテニアはペルガモン王国の北隣、小アジアの北西を領分とする王国。スキピオのアジア上陸と共に、ローマ同盟国に変じた国だ。




「これは独り言です」
 スキピオは苦笑した。
「ビュテニアの王プルシアスは猜疑心の強い男。戦後、強大化するペルガモン、勢力回復を狙うマケドニア王フィリッポスへの対応に、さぞ頭を悩ませておりましょう」
 そう。諸国は、早くも戦後の新秩序を前提に活発に動き出していた。
 ローマという覇者の許で、なるべく多くのものを手に入れたい、そう考えるのは国家指導者の義務であり本能だからだ。


[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 世界の覇者インペラートル(さらにさらに続き)
(問題はこの次だ)
 使者の二人はスキピオの口元を凝視した。
「そして、割譲すべき土地は…」
 セレウコス王家の最大の関心事に、二人の使者はごくと唾を呑み込んだ。
 この要求如何によっては戦いはまだ続き、帝国は存亡の瀬戸際に追いやられる。




「タウロス山脈以西の全てを明け渡し、またプトレマイオス王家(エジプト)から奪った領土を全て返還すべきこと」
 スキピオは僅かに微笑んだ。
 二人の使者は一瞬ぽかんとし、次の瞬間喜悦の表情を浮かべた。
「おおお」「なんと」
 それは、確かにヘレスポントスの折の要求と寸分違わぬものであった。
(まさか…)(本当にこんなことが)




「細かな点は、関係諸国を集め、元老院における会議にて詰めることになろう」
 戦勝国はローマだけではない。ペルガモン王国、ロードス、アカイア同盟ほか大小のギリシア人都市国家。さらに、エジプト、その他アジアの諸都市など、どこの国々もセレウコス朝に要求したいことを山ほど抱えていた。その利害の調整が不可欠だ。
 執政官とその幕僚たちの一存だけでは遺漏なく取り決めることは不可能だ。
「が、以上の点に異存なくば和議を取り結びたいと思う。いかがかな」
「ははっ」「我らに異存はありませぬ」
 使者の二人は即座に承諾した。
 大王から、領土割譲について以前と同じ内容−タウロス以西の割譲−ならば直ちに承諾せよと命令されていたからだ。




 執政官ルキウス・スキピオがすっくと立ち上がった。
「ならば、ローマの同盟国並びに関係諸国、そしてシリア王国の人々よ、この夏にローマに参集されたし。そこにおいて、講和の是非、内容を審議することであろう」
 それは地中海世界の支配者の宣言。
「ははーっ」
 諸国の代表は恭しく畏んだ。





 間もなく。スキピオ兄弟がサルディスを出立してエフェソスに凱旋することとなった。
 立ち現れた執政官ルキウスの姿に対して、
「コンスル閣下万歳!」「ローマ国家万歳!」
 将兵から歓呼が上がった。




 ところが。次に現れたスキピオ・アフリカヌスの姿に対して、
「インペラートル!」
 そんな歓呼が上がった。
 それは不思議な呼称だ。『インペリウム=命令権』を保持する者ということだ。
 しかし、日本にもあるではないか。例えば『大御所』という呼称だ。字面から言えば大きな御所、つまりお屋敷ということでしかない。
 日本人は、地名建物で権威を誇る物差しにしている。御堂殿といえば藤原道長のことを、鎌倉殿といえば幕府将軍の源頼朝を、大御所といえば徳川家康を指した。そして、内裏様といえば天皇・天子。官職位階などでは表現し得ぬ権威を表したものだ。
 スキピオも位階は副官に過ぎずインペリウムを保持していない。そこら辺の塩梅を『インペラートル』という言葉に込めたのであろう。常にインペリウムを保持しているかの如き権威をまとう者、という栄誉ある称号。すなわちローマの最高司令官、と。
 この称号は、後に定着し、実力者たちがこぞって称することになる。
 英語のエンペラー(皇帝)の語源ともなる訳だ。




「インペラートル!」「インペラートル!」
 率先して叫んでいたのは、セルギウスらスキピオ子飼いの将兵たち。それに声を合わせて他のローマ将兵が、続いて同盟国将兵が訳も分からず声を合わせ、ついには山野に谺が満ち満ちていく。
 スキピオ・アフリカヌスは手を挙げて応えた。
 彼には理解できたろう。新たな権威を讃える呼び名として。
 それは、メガス(大王)に代わる、地上に現れた新たな覇者の称号でもあった。


 第13章世界帝国の章終わり。終章へ続く。


[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 世界の覇者インペラートル(さらに続き)
 翌朝。アンティパトロスとゼウクシスはローマ軍本営に招かれた。
 二人は極度に緊張していた。
 エウメネス王らの横槍はないと分かった。だが、である。




(果たしてスキピオはどのような要求をしてくるか)
 大王からは、以前の要求と同程度のものが出されるとの見通しが伝えられていたが、二人はそれを甚だ疑問視していた。
(あのマグネシアの勝利を経て同じ要求などということがあり得るであろうか)
 スキピオの本営は、地中海世界がローマの威風に靡いたかのような威容であった。
 二人の疑念は猜疑から畏怖へ変じた。だから、スキピオの前に出て弁明が許されると、饒舌すぎるほどに語り始めた。




 まず王族アンティパトロスが進み出た。
「我ら敗戦の身に講和の機会をお与えくださり幸甚の極み」
 彼は型どおりの挨拶から始めると、ギリシア人らしく論じ出した。
「天上の神々はローマ国家と閣下に微笑むこととりました」
 それは、今回の勝利は幸運によるものだということだ。
 確かに、マグネシアの戦いは幸運そのものの経過を辿った。スキピオの遠謀、エウメネスやドミティウスの機略、ルキウスの決断、それらも寄与したが、大王軍の戦車隊があのように脆く崩壊しなければ、どう推移したろう。長期戦になれば、アジアの後背には大王の戦力が無数に控えてあるのだ。このように直ちに終戦とはならなかったろう。




「それゆえに」
 続いてゼウクシスは語気を強めた。
「謙虚かつ寛大な心を忘れるべきではないと存じます。なぜならば、その心を忘れれば神々の加護はたちまち失われ、新たな覇者があなた方の上に君臨することは必定であるからにございます」
 思い上がって過大な要求をしないよう要望した。
「我が君主アンティオコスは、自身を省みて、その思い上がりが今日の事態を招き寄せたものとして、謹んでローマ国家との和議を取り結びたいと申しております。そのためならばいかなる努力も惜しむまい、と。ローマ国家とその同盟国におかれても、胸襟を開き、そのための途を我らにお示しいただきたい」
 要は、どうすれば許してもらえるのか、和平に応じて呉れるのか、そのことを言った。




 スキピオは黙って使者の言葉に耳を傾けていたが、おもむろに口を開いた。
「我がローマは、敗北したからとて屈せず、勝利したからとて奢らず」
 建国以来の国家の美徳を上げた。この精神がローマ国家発展の原動力となったことを。誕生間もない怪しい出自の都市国家に人を集め、同盟市を増やした。
 そして、エトルリア人、サムニウム人、ギリシア人、カルタゴ人という強敵を破る原動力となったことを。今や、ローマ有力者の中にエトルリア人やサムニウム人を祖とする者があることを誰も疑っていない。将来、そこにはギリシア人やカルタゴ人すらも含まれることになろう。




「従って、ローマが貴国に与える回答は、ヘレスポントスで与えたものと同じである。すなわち、賠償金15000タラントン、締結時に500タラントン、民会批准時に2500タラントン、残12000タラントンを年譜1000タラントンを12年で弁済すべきこと」
 賠償額はカルタゴに課された額の1.5倍。だが、東方諸州から上がる潤沢な歳入を充てれば何とかなる額。ゼウクシスもアンティパトロスも覚悟して呑み込んだ。




「次に、ローマへの敵対を煽った人々の引渡しを要求する。カルタゴ人ハンニバル、アイトリア人トアス…」
 スキピオは戦犯の名を縷々と読み上げた。
 これも予想の範囲内だ。むしろ、セレウコス朝の王族将軍の誰の引渡も要求していないことは、希有の寛容とすらいえよう。

全44ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • JAPAN
  • 時間の流れ
  • ダイエット
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事