新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第13章世界帝国の章

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 世界の覇者インペラートル(続き)
 大王の使節ゼウクシスとアンティパトロスは、戦々恐々エウメネス王の許を訪問した。
(果たして和平に同意あるか)
 エウメネス王はローマ軍陣営における最強硬派と目され、大王のペルガモン包囲にも屈せず抗戦し抜いた。当然、大きな戦果を狙っているに違いないと思われたからだ。




 が、案に相違し、エウメネス二世王は、元来の穏やかさそのままで現れた。
「ようこそ。よくぞ我が許へお出で下さいました」
 使者の二人はほっとすると、すぐさま本題に入った。
「是非とも王君の力添えにより和平へと運びたく」
 和平条約に向けた協力を懇請した。
 協力の暁には、ペルガモンへの配分が増大するように報いたいとも申し添えた。




 エウメネス王は微笑を浮かべた。
「我が王国は、元々はセレウコス一世の恩徳により統治を認められました」
 ペルガモン王国は、アレクサンドロス大王後の覇権を争うディアドコイ戦争(紀元前322年〜同301年)の混乱の最中に誕生した。
 王家の初代は、ディアドコイの一人リュシマコスの配下フィレタイロスという人物で、ペルガモンでそのリュシマコスの銀9000タラントンを管理していた。そのフィレタイロスは、セレウコス一世の進軍にあっさり鞍替えして、その配下に付いた。
 リュシマコスの遺産を横領したフィレタイロスは、ペルガモンで勢威を強め、その子エウメネス一世はついに自立して王号(バシレウス)を称した。征伐に来たアンティオコス一世の軍も撃退。ペルガモン一帯に独自の王統を打ち立てることに成功した。
 そのエウメネス一世の次の王がアッタロス一世であり、その子が現国王エウメネス二世となる訳だ。




「成り行きで戦って参りましたが、我ら王家、その歴史も忘れてはおりませぬ」
 滔々と述べた。
 この王は、ペルガモンの図書館拡張工事を進めるなど、父アッタロス一世にも劣らぬ文化人でもある。振る舞いに豊かな素養が滲み出ていた。
「御安心あれ。私は和平に反対はいたしませぬ。ロードスも同じ。ならば、あなた方が説くべき相手は…スキピオ殿一人、ということになりましょう」


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 世界の覇者インペラートル
 紀元前189年二月。
 ここサルディスのアクロポリス。
 スキピオ・アフリカヌスは、本営をこの天空の城に移していた。




「良い眺めだ。古(いにしえ)の帝王たちが奪い合ったのも頷ける」
 日々飽くことなく、リュディアの大地を眺めていた。
「左様。クロイソス、キュロス、アレクサンドロス、アンティオコス…そして、アフリカヌス閣下」
 セルギウスは指折り、歴代の支配者の名を挙げた。
 クロイソスはサルディスを建設したリュディアの王。キュロスはペルシア帝国を創建しリュディア王国を滅ぼした大王。アレクサンドロスはそのペルシア帝国を滅ぼしこの地を支配し、アンティオコスは叔父アカイオスとの死闘の末にこの地を奪った。




 歴代の支配者に続けて自分の名を並べられると、スキピオは眉間に皺を寄せた。
「よせ。私はレックス(王)ではない」
 共和制ローマは王制を忌み嫌っていた。王制を打倒した経緯から、王位を窺うと見られると、それ直ちに反逆謀反。それゆえ、かつてヒスパニア遠征の折、現地部族の王たちから王として崇められた時にも、それを厳しく忌避した彼なのである。
「私はローマ市民。挙げるとすればローマ市民とせよ」
「ふふふ」
 セルギウスは含み笑いした。
(おかしなものだ。事績だけなら大王を名乗ってもおかしくない御仁なのに)




「閣下」
 ミルトが走って来た。
「使節団がこちらに向かっています」
「…そうか」
 スキピオは小さく頷いた。
(随分と逡巡していたようだが、ようやく来たか)
 安堵したことであろう。弟ルキウスの任期満了が間近に迫っていたからだ。
 ローマの政治家である以上、己の功名に無関心ではいられないが、何よりも弟に凱旋将軍の栄誉に浴させてやりたかった。マグネシアの勝利で充分その資格はあるが、終戦の立役者と讃えられる方がずっと華がある。




「使節団は、まずエウメネス王の陣営に向かったようです」
「ほう」
 声を上げたのはセルギウス。
「なにゆえにございましょうな」
 彼は、サルディスの新たな支配者の横顔に訊ねた。
「無論、我がローマの同盟国の動向が気にかかるからであろう」
 ローマが和平に賛成でも、同盟国全てが反対すれば和平は成立しない。
 その同盟国筆頭が、この大戦中、先頭に立って戦い続けたペルガモン。




「だが、それは全くの杞憂だな」
 スキピオは苦笑した。
「ほお。どうしてでございます」
「エウメネス王もひとかどの人物。敗者に鞭打つ愚物ではない。そんな仕打ちをして、我がローマよりどう見られるか、百も承知の筈だ」
 ローマ人というものは、特に上流人士は、人間の器量を重視する。
 狭量と見られると、たとえ味方でも決して重んじられることはない。己の功を吹聴するアイトリア同盟に対するフラミニヌスの冷淡な態度が、その典型である。
 反対に敵でも器量ある人物は重んじる。第一次ローマ・カルタゴ戦争後ローマを訪れたハミルカル(ハンニバルの父)を大歓待したのはその一例である。


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 母なる都市(さらにさらに続き)
「大丈夫です」
 今度はハンニバルが断じた。
「スキピオの要求は以前の線のままでしょう」
「そなたはマグネシアの合戦前にそのように申した。が、そんなことが果たしてあるのか?」
 勝利すれば要求が吊り上がるのが世の常。あの大勝利を経た後もローマの要求が変わらぬというのが現実問題として信じられない。




「それがスキピオなのです」
 ハンニバルは隻眼を僅かに細めた。
「むしろ敗北しても要求は取り下げぬことでしょう。逆に勝利したからとて要求を吊り上げぬ。それがスキピオという男なのです」
「ふうむ…」
「ここは彼を信用して差し支えないかと存じます。速やかに和平を図られますよう」




(英雄、英雄を知る、か…。スキピオとハンニバル。史上稀に見る英傑のようだ)
 返す返すも、この者をもっと重用しなかったのが悔やまれる。
 大王は頷いた。
「分かった。下がってよい」
「ははっ」




 ハンニバルが下がっていくと、大王は、王族のアンティパトロスとリュディア総督ゼウクシスを呼びつけた。
「そなたたちは直ちにここを発ち、サルディスに向かえ。スキピオ・アフリカヌスと協議し、和議を取り結ぶよう取り計らえ」
「はっ」「ははっ」
「ハンニバルとその配下マニアケスによれば、スキピオは和平を望んでいるとか。だが、同盟諸国はどう考えているか分からぬ」
 確かに、ペルガモンやロードスからすれば、この際叩くだけ叩いて、多くのものを得ようというのはありがちであるし、それが戦勝国の勢いというものであろう。マグネシアで完勝していることであるし。




「妨げるとすれば、ペルガモン王エウメネス」
 エウメネス二世は、かつて父アッタロス一世が広げたタウロス以西の領域の再復を念願している。
「彼の意向をまずは充分に探り、その上でスキピオとの会議に臨むように」
「ははーっ」


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 母なる都市(さらに続き)
「ハンニバル殿。余はローマと和平するぞ」
 ずばと結論を切り出した。
「左様でございますか」
 ハンニバルの表情は穏やかなままであった。
「反対せぬのか」
 大王は隻眼をまっすぐ見詰めた。
 ハンニバルは静かに首を振った。
「この時を逃せば和平へ運ぶのは難しくなりましょう。帰還したマニアケスもそのことを強く申しておりました。それがしも大賛成にございます」




「…そうか」
 大王がまず、この亡命の重臣に諮ったのは、この者が対ローマ戦に己の全てを賭けていたからだ。また、この者の意見によってギリシア遠征を決意した経緯もある。
 何よりも、ローマと和平すれば、ハンニバルはこの帝国に身の置き所はなくなる。そのことに配慮しないわけにはいかなかった。
 が、ハンニバルは我が身を顧みず、和平の提案に即座に賛成した。
 大王は、フリュギアの山々を見上げた時と同じ清々しさを覚えた。




「心配いたすな。そなたを売る真似は決してせぬ」
 大王は断言した。
「え…しかし」
 ハンニバルは戸惑った。
 ローマ側が自分の引渡を要求してくるのは疑いない。二度の大戦を引き起こした戦犯として。それを拒めば、恐らく和平自体成らぬであろう。



「なに。アイトリア人たちは引き渡す。そなたは…ふふ。まあ見ていよ」
 この時代、狡猾な策を巡らすことにかけて、ヘレニズム君主の右に出るものはなかった。陰謀・謀略渦巻く王家に育った者のみが備える素養なのであった。




「それより心配なのは、スキピオの領土要求がどこまで及ぶか、ということだ」
 大王がサルディスにある頃に交渉した時には、タウロス以西の放棄を要求された。
 そらすらも途方もない要求として仰天した。それ以上となれば、キリキア、帝都アンティオケイアすら脅かされることとなる。それは到底受け容れ難い。


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 母なる都市(続き)
(世界史の趨勢はローマにある)
 落ち着いた頭脳になった大王は、もはやそれを認めざるを得ない。
 同時に、即位から今日までの出来事が走馬灯のように甦って来る。
 信頼していたモロン兄弟の謀反。権臣ヘルイメアスの誅滅。
 王位を確立すると、エジプト王国との戦い、叔父アカイオスとの死闘。次いで、念願の東方遠征に打って出てパルティア、バクトリアを平定。メガスの権威を克ち得た。



 あと一つ。ギリシア本土制覇を達成すれば、大業は完成を見る筈であった。
 だが、新興ローマに見るも無残に敗れた。
(今は帝国の存続を図ることだ)
 単純な結論に到達した。だが、このように肚をくくること、マグネシアの敗戦後、それすらも難しい喧噪の中にいた。大いなる前進だ。




 大王はざぶと湯船から上がった。
「よし…。王妃よ、戻るぞ」
「え、もうでございますか」
「そなたはしばらく滞在しても構わぬぞ」
 大王は笑った。
「いえ。わたくしは陛下と一心同体。一緒に戻ります」
 少しむっとした口調となった。
(面白い女だ)
 こういうところがあった。誰よりも大王のことを慮る、そのことに己の自尊全てを傾けているようであった。
 王妃も美しい姿態も露に、大王の後に続いた。
 大王は、衣服をまとうと、そそくさとアパメイアの城に戻って行った。




 帰城した大王は、直ちにハンニバルを呼び出した。
 大王麾下の重臣たち全てがこのアパメイアに集まっていた。ここでの御前会議が、今後の帝国の一大方針を決することになるからだ。
「陛下、ハンニバル、参上いたしました」
「うむ」
 大王は頷いた。
 彼の姿を見て、一つの悔いをここで覚えた。
(この者に一度でも全軍の指揮を委ねればよかった…)
 そのことだ。テルモピュライ、マグネシア、いずれかをハンニバルが采配を振るえばどうなったろう。少なくともマグネシア敗戦の如き無残な結末にはならなかったろう。
(だが、もうその機会は訪れぬ…)


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