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世界の覇者インペラートル
紀元前189年二月。
ここサルディスのアクロポリス。
スキピオ・アフリカヌスは、本営をこの天空の城に移していた。
「良い眺めだ。古(いにしえ)の帝王たちが奪い合ったのも頷ける」
日々飽くことなく、リュディアの大地を眺めていた。
「左様。クロイソス、キュロス、アレクサンドロス、アンティオコス…そして、アフリカヌス閣下」
セルギウスは指折り、歴代の支配者の名を挙げた。
クロイソスはサルディスを建設したリュディアの王。キュロスはペルシア帝国を創建しリュディア王国を滅ぼした大王。アレクサンドロスはそのペルシア帝国を滅ぼしこの地を支配し、アンティオコスは叔父アカイオスとの死闘の末にこの地を奪った。
歴代の支配者に続けて自分の名を並べられると、スキピオは眉間に皺を寄せた。
「よせ。私はレックス(王)ではない」
共和制ローマは王制を忌み嫌っていた。王制を打倒した経緯から、王位を窺うと見られると、それ直ちに反逆謀反。それゆえ、かつてヒスパニア遠征の折、現地部族の王たちから王として崇められた時にも、それを厳しく忌避した彼なのである。
「私はローマ市民。挙げるとすればローマ市民とせよ」
「ふふふ」
セルギウスは含み笑いした。
(おかしなものだ。事績だけなら大王を名乗ってもおかしくない御仁なのに)
「閣下」
ミルトが走って来た。
「使節団がこちらに向かっています」
「…そうか」
スキピオは小さく頷いた。
(随分と逡巡していたようだが、ようやく来たか)
安堵したことであろう。弟ルキウスの任期満了が間近に迫っていたからだ。
ローマの政治家である以上、己の功名に無関心ではいられないが、何よりも弟に凱旋将軍の栄誉に浴させてやりたかった。マグネシアの勝利で充分その資格はあるが、終戦の立役者と讃えられる方がずっと華がある。
「使節団は、まずエウメネス王の陣営に向かったようです」
「ほう」
声を上げたのはセルギウス。
「なにゆえにございましょうな」
彼は、サルディスの新たな支配者の横顔に訊ねた。
「無論、我がローマの同盟国の動向が気にかかるからであろう」
ローマが和平に賛成でも、同盟国全てが反対すれば和平は成立しない。
その同盟国筆頭が、この大戦中、先頭に立って戦い続けたペルガモン。
「だが、それは全くの杞憂だな」
スキピオは苦笑した。
「ほお。どうしてでございます」
「エウメネス王もひとかどの人物。敗者に鞭打つ愚物ではない。そんな仕打ちをして、我がローマよりどう見られるか、百も承知の筈だ」
ローマ人というものは、特に上流人士は、人間の器量を重視する。
狭量と見られると、たとえ味方でも決して重んじられることはない。己の功を吹聴するアイトリア同盟に対するフラミニヌスの冷淡な態度が、その典型である。
反対に敵でも器量ある人物は重んじる。第一次ローマ・カルタゴ戦争後ローマを訪れたハミルカル(ハンニバルの父)を大歓待したのはその一例である。
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