新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第13章世界帝国の章

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 天空の城に舞う(続き)
 だが、間もなくアクロポリスという高みに達した時、前方でどよめきが上がった。
「どうした。何かあったのか」
 訝しんだ軍団長ドミティウスは喘ぎながら訊いた。だが、なにせ狭い通路。二人が横になるのがやっと。
 兵士を押しのけて前に出た。



「あ!」
 城門ががっしり閉じられている。
 いや、驚きはそれに向けられたものではない。
 城壁の上に一人の武将が屹立していたからだ。
「マニアケス…!」




 そのマニアケス、剣をすらりと抜くと、舞い踊り、朗々とした声で謳い始めた。
「ここは天空の城、リュディアの都」
「受け継ぎしはペルシアの諸王たち」
「大王が奪いディアドコイが相争い」
「争覇の果て得たものは空しさのみ」
「ゼウス、ヘーラーの高みに立てば」
「人の業など泡幻の如き儚きものよ」
「現れし西方の勇者たちよ悟り給え」
「際限なき欲望は身を滅ぼすことを」




(何と美しい…)
 ドミティウス以下将兵たちは、思わず見惚れていた。
「そこに参られたのはドミティウス殿よな」
 マニアケス、ラテン語で流暢に語りかけた。
 ドミティウスは、落ち着き払ったその容子に気圧されたが、そこは強情なローマびと。傲然と胸を反らした。
「いかにも。レガトゥスのグナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスである」
 正式に名乗りを上げると、投降を勧告した。麓の市街は既に落ちたことを告げ、
「もはや抵抗は無駄な犠牲を積み上げるのみ。こんな所で犬死にすることはあるまい。速やかに降り給え」
 穏やかに申し向けた。相手に対する敬意すら響いていた。
 将は将を知る、ということであろう。


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 天空の城に舞う
 マグネシアに大勝したローマ・ペルガモン連合軍は、すぐさま追撃にかかった。
「サルディスを獲れ!」
「メガスを捕えよっ!」
 軍団長ドミティウス、エウメネス王ら指揮官の雄叫びに、
「うおおお!」
 ローマ将兵、ペルガモン将兵は地響きの如き喚声で応えた。
 全軍、崩れる大王軍を追い、たちまちサルディスへと迫った。
 サルディスこそ、大王のギリシア征服事業の拠点。セレウコス朝の創業より守護し続けて来た西方の府。




 サルディスに殺到すると、既に軍民共に逃げ去った後と見え、山麓の市街は全くの無人であった。
「エウメネス王よ、ここは片付いた。さらに追撃しようではないか」
 ドミティウスが急き込むように言った。
 捕虜の言によると、大王は僅かな手勢と共に、さらに内陸深く退却し、どうやらフリュギア地方の都市アパメイア(現ディナル)を目指しているらしい、とのこと。




「いや、アクロポリスを接収しておかねば」
 エウメネス王は苦笑して悍馬の如き友邦の将を押しとどめた。
「アクロポリス?」
「あそこでござるよ」
 王は山頂を指差した。まさしく天空に聳える頂に、サルディスのアクロポリスはある。
 城壁の一角にセレウコス朝の象徴『ヴェルギナの太陽』の小旗が一旒、上空の風にぱたぱた翻っていた。
「ここを捨て奥地に進んだ後で、あそこを敵に占領されては一大事」
 なにせ、王は、このアクロポリスに立て籠って二年以上抗戦したアカイオスとの死闘を経験している。ここがどれほどの天険要害か、知り過ぎるほどに知っていた。




 ドミティウス、初めて気付いたかのようにまじまじ見上げていたが、
「なるほど、すぐさま押さえましょう」
 味方に命令すると、自身も将兵に混じって駆け出した。
 そう。このアクロポリスに騎馬で向かうのは不可能。断崖絶壁の稜線を伝って登っていくしかない。
 この険しい山道を重装備で登るのは一苦労。誰もがひいふう言いながら登攀していく。
 とはいえ、どの顔も意気揚々。




「山頂は先日まで大王の本営が置かれてあったらしい」
「世界一の富国。金銀財宝が残されているに違いない」
 宝の山に乗り込むような、そんな気分であったのだ。
 そして、厳格な赤髭の猛将ドミティウスからも、
「一番乗りには、わしから槍を取らせてやろうぞ」
 冗談めかした声が上がると、どっと歓声が沸いた。
 城攻めなどの功労があった将卒には、凱旋式の後に、金銀で装飾された槍が執政官から授与されるのだ。城攻めというほどではないこの場面で、しかも軍団長の彼が言った所に面白みを感じたものだ。


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 マグネシアの戦い−瓦解(さらにさらに続き)
 大王とその一隊は、味方が崩壊する中、懸命に東へ一散に駆け出した。
 しかし、早くもエウメネス隊の一部が、先回りして退却を妨げに出た。
「どけっ!死にたくなければ道を開けろ!」
 マニアケスは、槍をぶんぶん振り回した。
 功を焦ったペルガモン兵やアカイア兵は彼女の穂先にかかった。
 大王を守る彼女とアゲーマの奮戦で、大王は何とか危地を脱することが出来た。
 だが、背後では、大混乱に陥った大王軍の将兵はローマ軍に取り囲まれ、あえなく討ち取られ、包囲され投降を余儀なくされていた。
 



 間もなく。
 マグネシアの平原にローマ軍の凱歌が轟いていた。
 総司令官ルキウス・スキピオ、ペルガモン王エウメネス、軍団長ドミティウス、アカイアの将ディオファネスらの騎馬が現れると、歓呼をもって迎えた。
「ローマ共和国万歳!」
「ペルガモン王万歳!」
「アカイア同盟万歳!」




(勝ったのか…我らは…)
 総指揮官ルキウス・スキピオは、あり得ぬ事態に遭遇したかのように、呆然と馬上にあったが、味方の爆発する歓喜に取り囲まれ、ようやく勝利を知覚し出していた。
 大王軍崩壊の様を見ても、彼は、まるで夢か幻影を見ている心地ですらあった。
 彼は干戈一合すら交わしていない。否、味方が戦う光景すら間近に見ていない。
(こんな勝利があるのか…)
 彼にとっては天運、僥倖であったが、そのことが信じられぬ心地であった。
 しかし、周囲は歓喜で埋め尽くされている。ラテン語、ギリシア語、フェニキア語すら飛び交っている。いずれも、彼を称賛するものと分かる言葉である。
(勝った…勝ちましたぞ、兄上)
 ルキウスは、真っ暗になった空を見上げた。




 紀元前190年12月末。
 激戦必至と見られたマグネシアの戦いは、ローマ・ペルガモン・アカイア連合軍の圧勝に終わったのである。


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 マグネシアの戦い−瓦解(さらに続き)
「うぬぬ」
 大王は歯ぎしりした。噴き上がる憤りと怒り、にわかに始末がつかない。
「陛下!」
 別の騎兵が飛んで来た。
「ローマ騎兵隊が進軍を開始!セレウコス王子の隊に攻めかかっております!」
「なに…」




 そう。ドミティウス率いるローマ騎兵は、敵の大混乱に乗じ、暗闇の中、セレウコス王子率いるアゲーマに大攻勢を開始したのだ。
「陛下!このままではセレウコス王子は敵中に孤立することとなります!一刻も早く退却のご決断を!」
 そう。セレウコス王子は左翼に布陣している。つまり、西端に位置している。中央が崩壊している以上、味方の助勢も得られないのだ。




「陛下!」
 また別の兵が叫んだ。
「エウメネス隊が動き出しました!」
 夜間の戦いとなって、ローマ軍側に松明が灯り出していたが、それが大きくこちらに動き出すのが見えた。
 そして…。
「中央のルキウス・スキピオの隊も動き出しましたぞ!」
 即ち、ローマ軍全ての隊列が攻勢を開始したのだ。今こそ、大王軍の息の根を止める時と判断したに違いない。
 もはや大王軍の全面的な敗色は否みようがなくなっていた。




「陛下!」
「うぬぬ」
(こんなことが…こんな結末があるのか…!)
 帝国の命運を賭けた戦いの筈が、一つの隊の小さなつまづきが全てに波及し、為す所なく逃げ出さねばならないのだ。
 ザマの決戦では、ハンニバルは全身全霊の知恵を絞り全力をもって戦い敗北した。だから、何とか諦めもつく。死の覚悟もつくというものだ。しかし…。
(こんな負け方があるか…!こんな無様な…!)
 アジアの民にメガスと讃えられた男。それがこの無残な帰結。泣き出しそうになるのも無理はない。アゲーマもファランクスも、象軍もラクダ隊も、ただただ崩壊するだけ。




「陛下!このままで取り囲まれてしまいますぞ!」
 周囲は阿鼻叫喚。マニアケスら配下の怒号にも似た諫言が響いていた。もはや、取り巻く臣下たちも、日頃の礼儀を構う余裕すらなくなっている。
「退却だ!」
 大王は吐き捨てた。
 猛烈な自己嫌悪に襲われた。今の彼には、それしか命じることが出来ないのだ。
 


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 マグネシアの戦い−瓦解(続き)
「一体何が起きているのだ!」
 アンティオコス大王は最前から周囲を怒鳴りつけていた。
 聞こえて来るのは、象やラクダの咆哮、それに続いて味方の悲鳴や怒号ばかり。
 先ほどまで勇み立っていたアゲーマの馬たちも、怯えた嘶きを繰り返していた。
「この暗闇では…」「よく分かりませぬ…」
 近臣たちもおろおろ繰り返すだけ。
 確かに、こう暗くては満足に戦況も把握出来ない。日没の戦闘突入の決断が、完全に裏目に出ていた。




「陛下!」
 マニアケスが戻って来た。
「中央は破綻!ガラティア兵が逃げ出しています!」
「な、なんだと!」
 ガラティアとは、アジアに移住したガリア人の呼称。彼らの勇猛を宛てに、その騎兵の一部はアゲーマに配属されファランクスにも配していた。
 とはいえ、彼らガリア人の特質は、勝勢の間は勇猛であるが、ひとたび劣勢になると途端に臆病になる傾向があった。これはヨーロッパ・ガリア人と何ら異ならない。




「おのれ…頼りにならぬガラティアめ」
 大王は吐き捨てた。
 が、この期に及んで、もはや痛罵も何の効もない。




「陛下!ここはひとまず御退却を!」
 マニアケスが勧めたのは、密偵本能の危機を感覚したからであった。だが…
「なに!退却せよとな!」
 大王は目を剥いた。
「戦いらしい戦いはしておらぬ!こんなことで退けるかっ!」
 くわっと赫怒した。
 そう。只今の戦況は、戦車隊が潰乱し、その混乱が波及して来ただけ。大王と直属の兵は、ローマ兵と一合すら交わしていないのだ。




「ですが、中央が崩れ立っては戦いようがありませぬ。間もなくローマ軍本隊も動き出しましょう。その前に退却せねば…!」
 マニアケスも必死に諫言しながら、内心憤懣が渦巻いていた。
(この一大決戦を、こんな形で幕引きしなければならないとは…)


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