新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第13章世界帝国の章

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 マグネシアの戦い−瓦解
 十数台の戦車が、ペルガモン兵の射撃により走行不能となった。乗員は戦車を捨てて逃げるしかなかった。
 これが大王軍にとって蹉跌の始まりとなった。
 というのも、後方から押し寄せる戦車は、立ち往生する戦車が邪魔で停止せざるを得ない。そして、さらにその後ろの戦車も急停止した。当然、大渋滞となった。
「どうした!」「早く進め!」
 後方から飛ぶ罵声に、
「馬鹿野郎!進めないんだよ!」
 と前方も怒鳴り返す。
 しかも、具合の悪いことに日没後の暗闇。事態の把握を困難なものとし、新たな手立てに手間取った。




 対照的に、身軽な軽装歩兵は暗闇を機敏に動き回る。
 立ち往生した戦車の群は彼ら軽装歩兵の格好の標的。
「それっ!奴らの頭上にありったけの矢と石をお見舞いせよ!」
 戦車隊の頭上に矢と石が降り注いで来ると、まず戦車を引く馬が恐慌状態に陥った。
 かん高くいななき、脚を大きく上げた。
「こらっ!」「大人しくしろ!」
 御者が鞭を打ちつけ、必死に落ち着かせようとしたが、生命の恐怖に囚われた動物を制御することは不可能に等しい。
 ついに後続の戦車の一部が逆走を始め、味方の列へと突っ込んでいく。




 これに驚いたのがまず二十二頭の象。そして、アラビア騎兵を乗せたラクダである。
 闇の中に突っ込んで来る戦車の車列に彼らは仰天した。
 象が驚愕して前脚を上げると、象使いは振り落とされそうになった。
「うわっ!」
「落ち着け!」
 象使いが必死に言い聞かせるも、戦車の振り回す鎌に、体の彼方此方を切りつけられると、半狂乱となった。
 ラクダも兵を乗せたまま逃げ出した。
 戦車隊の凶器が味方を混乱させる羽目になったのである。




 象やラクダが暴れ出し、その隣に控えていた重厚なファランクスの隊列に突っ込むと、今度は人間たちが恐慌に陥った。
「うわっ!」「逃げろ!」
 だが、ファランクス=重装歩兵部隊は、重装備の歩兵が、狭い空間に立錐の余地無く密集しているから、機敏な動きが取れない。ために、哀れ象に押し潰され、その鼻に吹っ飛ばされる兵が続出した。
「ひいい」「助けてくれ!」
 千六百人を横に十列、縦に五十人の三十二列、極限まで隊列を厚くしたことが、ここであだになった。象とラクダの群の狂奔で、帝国の誇るファランクスは無残に押し潰されていく。
 戦車隊潰乱に端を発した混乱は、急速に大王軍全体に波及した。


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 マグネシアの戦い−戦車隊(さらに続き)
 軽装歩兵は数人一組になり、脱兎の如く戦車に向かった。
 乗員の弓射の標的にならぬよう戦車の進路から距離を置き、弓をぐっと番え、また投石兵器をぶるぶるん回し始めた。
「撃て!」
 矢と石が一斉にびゅんと放たれた。
 それは低い軌道を描いた。そう。それは乗員を狙ったものではなかった。




「ひひーん」
 戦車を引く馬が突然いななき、車体ががくんと傾いた。
「うわっ!」
 戦車の御者はつんのめった。
 矢と石が馬の脚に当たり、馬がその場に崩れたからだ。
 二頭立てであるが、一頭が倒れては引くことはできない。当然、走行不能となる。




 停止した戦車の乗員が予期するのは、取り囲まれることだ。戦車の機動性の喪失は、生命の危機に直結する。
「くそっ」
 乗員は本能的に弓を構えたが、その時には軽装歩兵は逃げ去っていた。
「え…なんだ」
 乗員たちは拍子抜けした。
 が、エウメネス隊の軽装歩兵たちは決して逃げたのではなかった。彼らは次の獲物を狙って駆け出していたのだ。




「一頭だけを倒せばよし!次の戦車に向かえ!」
 軽装歩兵の小隊長らは、それを合い言葉に繰り返し叫んでいた。
 それはエウメネスが事前に噛んで含めるように命じていたこと。
「一頭さえ倒せば戦車は走行不能。乗員を討つには及ばぬ。そなたらの役目は、敵の戦車隊を役立たずなものにすることにある」
 無論、これはドミティウスと二人で練りに練った作戦。
 だから、一頭を仕留めると、彼らはすぐさま次の獲物を求め駆けて行く。




 同じことがあちこちで起こった。
 軽装歩兵が左右から遠巻きにして戦車を引く馬を狙い矢と石を撃ち込む。
 馬が倒れ、車体が傾き、走行不能となる。
「うわっ!」
 御者や乗員が車体から放り出された。
 戦車に軽装歩兵をぶつけるという意外な着想。
 戦車対軽装歩兵。この史上初めての対決は、軽装歩兵に軍配が上がりつつあった。


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 マグネシアの戦い−戦車隊(続き)
 大王軍にラッパの音が鳴り響いた。
 その音は、戦場にある全ての者に意外に響いた。日没後の会戦など前代未聞だからだ。




「やっとか!」
 戦車隊の指揮官アンティパトロス、戦車上で勇躍した。
「前進せよ!エウメネス隊に突っ込め!」
 抜刀し、切っ先を前方にびしと向けた。
「それっ!」「はあっ!」
 御者がびしと馬の背に鞭打ち、二頭の馬に引かれて戦車は勢いよく駆け出した。車軸の鎌を振り回し大地を疾駆していく。




「わあああ!」「うおおお!」
 戦場全体に大喚声が沸き起こった。
 ここに、地中海世界とアジアの命運を賭け、決戦の火蓋が切って落とされた。




 戦車隊は、エウメネス二世率いる重厚な厚みを見せる歩兵部隊に一散に向かって行く。
 ここに二万近い兵力が集結している。
「それっ!歩兵どもを駆け散らせ!」
 アンティパトロスは疾走する戦車の上で叫んだ。
 歩兵相手の戦車隊は無敵。重装歩兵であっても物の数ではない。盾や槍で戦車を押しとどめるなど無謀の極み。
 駆け散らしてしまえば、あとはこちらのもの。車体の上から、投槍や矢をびゅんびゅん放ち仕留めるだけだ。




(エウメネス隊を破り、転じてルキウスの本隊に攻め込むのだ)
 大王より一撃だけと念押しされていたが、アンティパトロスは、エウメネス隊を撃破すれば、それに乗ずるのは当然と思っていた。




 大喚声と共に押し寄せる戦車の大部隊。日没間際の残光に反射し、金具と車軸の鎌が閃光を放っていた。
「王君!戦車が来ますぞ!」
 アカイア同盟の将ディオファネスは叫んだ。
「慌て召さるな」
 エウメネス二世、泰然自若としていた。
 とはいえ、王も、この光景を想像し悪夢にうなされる日々を過ごした。そのため全身全霊の知恵を絞り考え抜いた。そして、一つの結論に達していた。




「軽装歩兵、前へ!」
 王の命令で歩兵の列の間から飛び出したのは、弓兵と投石兵の兵たち。
「戦車の左右より馬を目掛け撃て!」
 その命令は、予め隊長級の将官には伝えてあった。だが、王は敢えて改めてここで号令した。そうすることで、将兵全てに指揮官の意思を浸透させることが出来るのだ。
「おう!」


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 マグネシアの戦い−戦車隊
 時は夕刻。夕陽は、あたり一面の平原を黄金色に染め上げ始めた。
 大王軍の右翼。アンティオコス大王自ら騎兵隊三千を率いていた。
 精鋭アゲーマの先頭にあって突撃の時を窺っていた。




「陛下。このままでは日が暮れてしまいます」
 たまりかねたように、マニアケスが馬を寄せて来た。
 日没となれば足許が覚束なくなり、騎馬や戦車による突撃は危険。同士討ちの恐れも高まる。だが…
「これは我らには幸いぞ」
 大王は兜の下で小さく笑った。
「え」
 マニアケスの目は戸惑った。
「暗くなれば、ものを言うのは機動力ではない。歩兵の突貫力だ」
 大王はそんなことを言った。
 大王軍の中央は、帝国自慢の精鋭一万六千。千六百人の隊が横に十並び、それぞれの隊が前から五十人三十二列の分厚い小隊の列を組む。




(エパミノンダスとて、これを突破することは出来まい)
 レウクトラの戦い(紀元前371年)ではエパミノンダスは歩兵の隊列の厚さで、無敵のスパルタ軍戦士の隊列を押し潰した。彼の勝利は、その後のアレクサンドロス大王、ヘレニズム諸国の伝統的戦術に強い影響を与えた。
「戦車、騎兵で敵の隊列に動揺を与え、あとは歩兵の重圧で突き崩すのだ」
 大王は、あくまでも帝国の主力である歩兵戦力で勝負を決するつもりでいた。
「なるほど…」
 マニアケスも大きく頷いていた。




 ついに日没。影の脚が急速に伸びていく。
 その時。大王の右手がさっと上がった。
「戦車隊を進ませよ」
「はっ」
「但し一撃を与えたらすぐさま退かせよ」
 大王は念を押すように言った。




 彼は、ローマ軍側が思っているほど戦車隊に期待を寄せてはいなかった。
(あくまでも最初の一撃。速やかに引かせねばならぬ)
 戦車は図体が大きい。戦場の真ん中で立ち往生することにでもなれば、味方の進撃の邪魔になりかねない。大王の考える密集軍団の進撃に致命的となる。
「承知!」
 マニアケスは馬を飛ばした。


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 マグネシアの戦い−睨み合い(続き)
「我が軍の陣立てに乱れはないか」
 ルキウスは念を押した。
「はい。事前の作戦通りに配置いたしてございます」




 ローマ・ペルガモン・アカイア連合軍は整然と持ち場についていた。
 左翼に重装歩兵部隊。前列からローマ同盟国兵、アカイア兵、ペルガモン兵が順に並び一万三千。ペルガモンの投石兵と弓兵などの軽装歩兵部隊もここに混じっていた。この左翼の指揮はペルガモン王エウメネス二世に委ねられた。副将にアカイア同盟のディオファネス。
 中央にローマ軍重装歩兵一万。ここに総司令官ルキウス・スキピオがいた。
 右翼にローマ騎兵、ペルガモン騎兵。軍団長ドミティウスが指揮をとった。




 中央にローマ軍の主力ありとはいえ、歩兵の大半をエウメネスに委ねる陣立て。この戦いは、同盟国であるペルガモン、アカイアの命運を左右するものだからだ。
「敵の動きをよく見張れ」
 ルキウスは目を真っ直ぐに向けたまま言った。
「はっ」
 ミルトは馬を飛ばしてどこかへ駆けていった。




 ここローマ軍の右翼騎兵隊の隊列。
「軍団長殿」
 セルギウスが声をかけた。彼はドミティウスの側にあった。
「何かね、副官殿」
 事実上、この戦いの作戦を決定し、采配を取る男は、静かに前方を見詰めていた。
「戦車隊は、どうやらエウメネス隊の前に集結しておりまするな」
 はじめ中央に位置していた戦車隊であったが、ローマ軍の隊形を確認すると、斜め前方に移動し、エウメネス率いる歩兵部隊の前へ集まった。




「うむ」
 これも予想されたこと。戦車隊最大の武器は機動性だ。機動性に劣る歩兵隊の前に持って来るのは常道といえよう。それだから、セルギウスは、
「我らも戦車隊の側面を衝かねばなりませんな」
 と言った。戦車隊の機動性に騎兵の機動性で対抗せよ、ということ。。
「最後には、な」
「最後には…?」
「我らにも前の敵があるからな」
 ドミティウスは苦笑した。
 そう。前面には、セレウコス王子が最精鋭の騎兵隊アゲーマを率いて控えてあるのだ。これこそ敵の中核の一つ。騎兵を乗せた馬は、よほど逸っているのか、足摺している。士気旺盛な証だ。




(敵も考えている…)
 ドミティウスも唸っていた。
 戦車隊を活かすには、ローマ軍騎兵を封じなければならない。そのためのアゲーマ。しかも大王親子自ら率いているのだ。士気が上がらぬ方がどうかしている。
「いっそ我らから攻めかかってはどうでしょう」
 冷静沈着なセルギウスにしては珍しく、よほど逸っているのか、またまた軍団長の横顔に訊いた。
 というか、朝から続く睨み合いは果てしなく続き、早くも日が傾き始めていた。誰もが焦れていたのだ。




「戦車隊が動き出してからだ」
 ドミティウス、言い聞かせるように語気を強めた。
 戦車隊の動向で戦局を見極め得ると判断していた。
「我慢だ。これは国家の興亡を決する戦いなのだから」
 彼自身も今にも駆け出しそうになるほどに焦れているに違いなかった。


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