新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第13章世界帝国の章

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 マグネシアの戦い−睨み合い
 紀元前190年12月。
 ローマ軍、アンティオコス大王軍、早朝に始まった両軍の睨み合いは陽が高くなっても続いていた。



「あれから12年か…」
 馬上、感慨深げに呟いたのは、ローマ軍総司令官ルキウス・スキピオ。
 『あれ』とはザマの決戦のこと。あれから12年の時が経過していた。
 地中海の覇権を賭けたあの戦場、これに勝てば明日を掴めると思った。相手は無敵のハンニバル。だから、まさに国家の存亡、自らの生死を賭けた文字通りの決戦であった。
 それに比べると、この戦いにそこまでの切迫感はない。あの恐るべきハンニバルが味方する敵ではあるが、幸いかな、敵陣にその大敵はいない。




「世界の頂点を決する戦い」
 ルキウスはそう認識し、この戦いに臨んでいた。
 ローマ共和国、セレウコス朝シリア、いずれが世界の覇者かを決する戦いである。
 この戦いの勝者が、地中海からオリエントに至る世界を差配することになるのだ。




「敵の配置はどうだ」
 ルキウスは傍らにいるミルトに訊ねた。
 そのミルトは、四十を越えても、なお遥か遠くを見通す視力で敵陣を眺めた。
「は。敵陣の並びの通りにございます」
 即ち、左右両翼に帝国最精鋭の騎兵隊アゲーマ六千が配され、右翼をアンティオコス大王、左翼をセレウコス王子が指揮した。そして、中央に分厚い歩兵部隊ファランクス一万六千をリュディア総督ゼウクシスが指揮した。
 歩兵の隣には象が二十二頭、そして、その隣にはアラビアのラクダ騎兵。
 そして、注目の大戦車隊二百台は王族のアンティパトロスが指揮をとる。


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 全てを振り払え(続き)
 翌未明。
 ローマ軍陣営にラッパの音が鳴り響いた。
 総司令官ルキウス・スキピオを先頭に、軍団長ドミティウス、副官セルギウス、ミルトが続き、同時にペルガモン王エウメネス二世、アカイア同盟軍司令官ディオファネスも出陣した。
 そして、足並み揃え、マグネシア城外の大王軍に接近を開始した。




「なに。ローマ軍が出陣したと!」
 アンティオコス大王は寝床からがばと身を起こした。
「はっ、執政官ルキウス・スキピオを先頭に前進しております」
 告げていたのはマニアケス。
「うーむ」
(先を越されたか…)
 大王はそんな感覚に囚われていた。熟慮、慎重、葛藤、それら堂々巡りの如き逡巡に足踏みしている間に、敵はどんどん動き出す。ヘルモス河畔に進出、そして大胆な背水の陣、そして、ついに対決を求め出撃して来た。




「陛下」
 マニアケスは静かに口を開いた。
「もはやあれこれ悩む時は過ぎ去りました」
「うーむ」
「眼前の敵を打ち破ること、そのことに全てを賭ける時かと。全てを振り払うべきに存じます」
「全てを振り払う…か」
 大王は呟き、その言葉を舌に味わった。味覚を通じて感覚するかのように。




「よし」
 そう短く発した時、ようやく心の迷いに踏ん切りがついた。
「出陣だ。ローマ軍に我が軍の強さを見せつけてやるのだ」
「ははっ!」
 大王軍の陣営にもラッパの音が鳴り響いた。
 間もなく、各陣門からアンティオコス大王、セレウコス王子の率いる騎兵、ガラティア人やアイトリア人の歩兵部隊など、威風堂々出陣していった。
 やがて、ローマ軍を至近に捉える地点に到達すると、進軍を止めた。


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 全てを振り払え
 こちらローマ軍本陣。
「そうか…敵はまだ動かぬか」
 総司令官である執政官ルキウスは渋い表情を浮かべていた。
 既に背水の陣を敷いているのだ。直ちに決戦突入と運ばねばならないのが道理。兵糧補給の難もあること。それゆえ、軍団長ドミティウスの策に従い、挑戦状を矢文で多数射込んでやった。




「敵陣大いに騒ぎ立ちましたが…。恐らくは大王の命でしょう。動きはありませぬ」
 ドミティウスの報告に、
「なるほど…さすがメガスと讃えられるだけはある。盲動はせぬということだな…」
 答えながら、ルキウスは、心のどこかで安心する自分を自覚した。
(まだ戦わなくて済む…。巧くいけば兄の到着まで時を稼ぐことが出来るやも知れぬ)
 アジア渡航前、あれほど決戦を望んでいたのに、いざその舞台に立ち、大王軍の威容を眼前にすると、身をすくめるような心境になるのは人間の本能としてやむを得ないであろう。いかに連戦連勝を続けているローマ軍とて、ここは敵地のど真ん中。勝利の保証などどこにもないのである。




 ミルトがやって来て告げた。
「コンスル閣下、セルギウス殿がお越しです」
 それは、心待ちにしていた兄の消息である。
「すぐに通せ」




 現れたのは、猟師に扮したセルギウス。
「兄の具合はどうだ。こちらに来れそうか?」
「アフリカヌス殿は、一言コンスル閣下に伝えよ、と」
「私に一言?」
「攻めよ、と」
「攻めよ…それだけ?」
「はい」
 セルギウスは大きく頷いた。
「攻めよ、と。それで弟君は全て理解される筈、と仰せになられました」
「ふーむ」
 ルキウスは考え込んだ。
(兄は私を叱咤している)
 そこは兄弟である。すぐに察した。
 ヒスパニアやアフリカの戦線でも、弟だからとて馴れた態度を一切許さなかった兄。兄は弟を配下の一部将として遇し抜いた。




「そうか…。私はまだ兄に甘えていたのやも知れん…」
 ルキウスは呟くように言った。
「全てを振り払い、戦いに臨まれるべきかと存じます」
 セルギウスが語気を強めると、ミルトもドミティウスも大きく頷いた。
「全てを振り払え…か」
 ルキウス、言葉を玩味するように繰り返した。




「閣下」
 ドミティウスが業を煮やしたかのように進み出た。
「我ら、打つべき手は全て打ち申した。もはや何者も恐れることはありませぬ。恐れるとすれば、眼前に訪れた好機を逸することのみにございます」
「ふーむ」
「全力で格闘し敵を粉砕するのみかと存じます」
 軍団長の自信溢れる言葉を聞くと、幕舎の内は静まり返った。




「よし…」
 ルキウスが気合いの声を発した。
「明朝出陣する」
「おお」
 ドミティウスは勇躍した。
「大王が出て来る出て来ないに関わらず攻め寄せよ。我らの気概を見せつけよ」
「ははっ!」
 暗闇の中、ローマ軍陣営は慌ただしく動き出した。


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 進まぬ総帥と進めぬ総帥(さらに続き)
 こちらアンティオコス大王の本陣。
 深更までひそと話し合われていた。
「本当にスキピオは来ていないのだな」
 念を押していたのは大王自身。
「はい。手の者の報告は全て一致。スキピオ・アフリカヌスは未だエライアに留まったままにございます」
 マニアケスは語気を強めていた。




 大王軍首脳の焦点は、一点に絞られていた。
「果たしてスキピオは来るのか」
 来ると思えばこそ悠々采配を振るっていたのだが、まるでその虚を衝くかのように、ローマ軍はスキピオ不在の間に渡河して背水の陣を敷いて来た。
「ひょっとして、既に来ているのではないのか」
 アンティオコス大王はそう勘繰った訳だ。




「ならば、この決戦態勢は、スキピオ抜きで、ということか」
 大王はこれも幾度となく繰り返した質問をぶつけた。
「左様にございます」
「うーむ」
 スキピオがやって来るまで決戦はないであろう、その余裕で行動して来た。なのに、敵は一気に押し出して来た。
 スキピオが病中でエライアにあることは、ずっとアンティオコスの心の安定剤となっていた。病み上がりで陣頭で指揮も取れないのでは、仮にマグネシアにやって来ても恐るべき相手ではないであろう、と。
 だが、今では、スキピオの存在は疑心暗鬼の対象になっていた。
 背水の陣にドミティウスの挑戦状。そして、味方の激高と苛立。
 ローマ軍にとって、まさしくおあつらえむきな状況ではないか。
(これは、スキピオの策略ではないのか…。どこかで糸を引いているのではないか…)




「陛下」
 重臣ゼウクシスが進み出た。
「ここは意を決して前進なさるべきにございます。逡巡してあれば、ローマ軍の意気ますます上がり、反対に味方の士気はますます下がりましょう」
 ドミティウスの挑戦状以来、軍中には不穏な空気が漂っていた。
 何ゆえ戦わぬのかという突き上げが激しくなっていたのだ。
「左様にございます」
 セレウコス王子も同調した。
「敵の思惑をあれこれ詮索する時は過ぎました。そもそも味方の布陣は、いかなる敵の来襲にもくじけぬ不敗の陣。堂々戦うだけにございます」




 主立った将は全て決戦を望んでいた。
 これも大王を不安に駆り立てていた。
(このまま戦いに臨んで良いものか…)
 彼も知っている。成り行き任せ、これが一番良くないことを。
 だが、軍中は、戦わずにはおられぬ空気で充満しつつあった。
「今少し待て」
 大王はそう言うと、あたかも巌の如くとなり、もはや何も応えなくなった。


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 進まぬ総帥と進めぬ総帥(続き)
「そなた、ルキウスの許に赴いてくれ」
「何か秘策をお授けになりまするか?」
「攻めよ。それだけ言ってやれば充分」
「攻めよ…とだけでございまするか?」
 これまでのスキピオは、ふんだんに情報を吸い上げ、緻密な作戦を立て、実際の戦場でも抜群の嗅覚を働かせ果敢に動いた。
(その御方が、攻めよ、とだけで済ますとは…)




 スキピオは笑った。
「戦機は熟した。あとは渾身打ち破るのみ」
「敵は大軍。果たして大丈夫でしょうか?」
「そなたほどの者でもそう思うか。戦力の強弱は兵力の多寡に比例せぬぞ」
 これはスキピオの信念でもあった。
 思えば、彼が相対した敵は、いつも自分より多数の兵力を誇っていた。ヒスパニアのジスコーネ、アフリカのシファクス、そして、ザマ決戦のハンニバルだ。




「ルキウスは、彼らと渡り合っているのだ。なんのアンティオコス大王の大軍に後れを取ろうや」
 スキピオの肌感覚として、大王軍は、かつてのハンニバルやジスコーネが指揮したカルタゴ軍より数段劣る。
(それならばルキウスで充分。私が出しゃばる局面ではない)
 つまり、国運を賭けた決戦、そんな緊張はこの人物のどこにも漂っていなかった。




「普通に戦えば勝てる。それを伝えてやれ。ドミティウスやエウメネス殿の工夫もあること。戦車隊も恐るるに足らず」
 スキピオは輝く眼差しを見せて笑った。
(この方は…確信しておられる)
 戦場から遠く離れたこの地で、眼前の人物は勝利を確信していた。




 セルギウスは体を震わせた。
「かしこまりましてそうろう。今の御言葉、必ず弟君…あいやコンスル閣下にお伝えいたしましょう」
「うむ。頼む」
 その夜。セルギウスは疾風の如く南へと駆けていった。


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