新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第13章世界帝国の章

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−これまでのあらすじ−
 東方を制覇したアンティオコス大王は、ギリシア世界の制圧を目指して西進。ローマと対立、開戦。
 緒戦は連戦連勝するも、テルモピュライの戦いで背後を衝かれ大敗(191年春)。
 アンティオコスはアジア(小アジア)に撤退。
 190年春。ルキウス・スキピオが執政官就任。兄スキピオと共にギリシアに来航して指揮官着任。
 速やかにアイトリア同盟と停戦すると、マケドニアを通過しアジア方面へ進撃開始。
 大王との合流を目指すハンニバル艦隊は、ロードス艦隊の急襲により撃破される(190年初秋)。
 そして、ミュオンネソス岬沖でローマ・ロードス連合艦隊が大王軍の艦隊を大破。ローマと同盟勢力は、ついにエーゲ海の制海権を掌握する(190年秋)。直後、大王はリュシマケイアを放棄し、スキピオ兄弟が占領。
 スキピオ兄弟はアジアに進撃。ところが、兄スキピオ・アフリカヌスは病を得てエライアに逗留。
 190年初冬。弟ルキウス、その軍団長ドミティウスらが先行してマグネシアに進出。大王軍と対峙する。


 進まぬ総帥と進めぬ総帥
 ここエライア。ペルガモン領の港町。
 スキピオ・アフリカヌスは、僅か五百人ほどのローマ兵とペルガモン兵に守られ、この街に滞在していた。




「閣下、本当にここに留まったままなので」
 そう訊いたのは、今や彼の右腕とも言うべき副官セルギウス。
 この問いかけも一度や二度ではない。
「巧くやっているらしいではないか」
 答えたスキピオ、病人とは思えぬほど血色が良くなっていた。
 彼の許には、ミルトから矢継ぎ早に経過が上がって来ていた。
 ルキウスが意を決してヘルモス川を渡河したこと、ドミティウスが挑戦状を叩き付けたことなど全て彼の耳に届いていた。




「総司令が、こんなに遠くにあるなど聞いたことがありませぬ」
 セルギウスは呆れたように言った。
 名目上の総司令官は執政官ルキウス・スキピオであったが、衆目は真の総司令官をスキピオ・アフリカヌスこの人と見ていた。




「総司令官は私ではない。ルキウスだ」
 スキピオの反応は、にべもなかった。
「とは申せ…相手はアジアの覇者セレウコス王朝。万全を期さねば…」
 セルギウスは、若き頃船乗りとして地中海を股に掛けた。そのためセレウコス王朝の巨大なることを知っていた。メソポタミアからインドに至る交易が帝国内で完結するのだ。
 その交易路はバクトリアなど中央アジアを経て西域諸都市にも通じていた。即ち、シルクロードの原型は既に完成を見ていた訳だ。名前の由来ともなった中国原産の絹は、最高級の布地として既にヘレニズム諸国にもたらされ、高貴な人々は着飾っていたようである。
 諸都市から上がる莫大な運上金。帝国内の小王国から運ばれる貢物。これが帝国の巨大な歳入となり、巨大な軍勢の動員を支えていた。


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 挑発(さらに続き)
 それからもローマ軍の挑発は続いた。
「無視せよ。あるいは嘲笑してやれ」
 そういうことで、陣前に押し掛けるローマ兵と大王軍の兵との間で、怒号や罵声が飛び交うようになった。
 だが、それから数日後のある日のこと。




「陛下!」
 セレウコス王子が顔を真っ赤にして大王の幕舎にやって来た。
「どうした。そなたも一軍の大将。いずれディアデマを戴く身ぞ。落ち着かぬか」
 大王が叱りつけるのも構わず、王子は書状を差し出した。
「これを御覧下さい!これを見れば陛下も穏やかでいられますまい!」
 矢文で投げ入れられたという。
「なんだ、これは」
「ローマ軍の軍団長ドミティウスからの挑戦状です」
「軍団長…の挑戦状?」
 大王ははらりと広げると、そこにはたどたどしいギリシア語が綴られていた。
 が、その内容は激烈なものであった。




『ローマのレガトゥス、グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブス、一筆大王に進上す。我ら、速やかなる決着を希望す。よって、明日、貴殿が出て来る出て来ないに関わらず、貴陣に攻め込む所存。よろしく覚悟ありたし』
「これは…」
 大王は唖然とした。
 一軍の軍団長に過ぎぬ男が敵の総大将に挑戦状を叩き付けて来たのだ。
(これは…いったい…)
 大王は、怒りというよりも、困惑の表情を浮かべた。




「マニアケス、そなたはこれをどう見る」
「はい。これはおかしゅうございますな」
「何がおかしい」
「ローマは規律を重んじる軍団。執政官の命令には絶対服従。背けば死刑」
 一部将に過ぎぬ軍団長が総指揮官たる執政官を飛び越えることはあり得ない、と。
「となると、この挑戦状は…」
「無論ルキウスも承知してのことでしょう。敢えて格の低い者を差出人とすることで、我らを怒らせるつもりかと」
「ふーむ」
 大王は顔を歪めた。
(ルキウスらはどうあっても戦いたいようだ…。さてどうしたものか)




 敵の思惑を嗅ぎ取った大王は、
「セレウコスよ、この挑戦状のことは味方には伏せておけ」
 父王の命に、今度はセレウコスが困惑の表情を浮かべた。
「もう全軍に知れ渡っております」
「なに…なぜだ」
「敵はこれと同じ矢文を多数射込んで参りました」
「なんと…」
 ドミティウスの無礼千万な挑戦状はギリシア語、ガリア語、ペルシア語で認められていた。そして、それぞれの陣所に幾つも撃ち込まれていたのだ。




「そのため味方はいたく激高しております」
「うむむ」
 いつの間にか、ある方向へ否応無く押し流され始めている。
(これは策だ。ドミティウスの策か。…いや、スキピオか!)
 大王は、あたかも見えぬ敵がそこにあるかのように、中空を睨み付けた。


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 挑発(続き)
「よし」
 大王もようやく決心した。
「出陣だ。陣立ては、かねがね申し渡した通り。よろしいか、諸侯よ」
「おおう!」



 大王軍は出陣した。
 城壁の前にあった部隊は、ローマ側の見立て通り、そのまま前進した。
 左右両翼に騎兵隊のアゲーマ、中央に重装歩兵隊のファランクス、歩兵隊の両脇を象軍が進み、さらにその両脇にアラビアのラクダ騎兵隊が進み、全軍の前方を戦車隊の大部隊ががらがらと進んでいく。その他にもカッパドキア投石兵やらリュディア弓兵などの兵が無数に従う。
 その進軍の様は壮観であった。それは、まさしく世界帝国の威容であった。




 大王の軍勢は、ローマ軍におよそ10スタディオン(約1.8km)に迫る地点に到達すると、進むのを止めた。
 ここから北を眺めると、ローマ軍の布陣が手に取るように分かる。ローマ軍は、まさにヘルモス川を渡ったすぐの場所に布陣している。
(本当に戦う気なのか…)
 大王は訝しんだ。




「陛下、いかがいたしましょう」
 ゼウクシスが訊ねたのは、直ちに合戦突入する気配がローマ軍に見えなかったからだ。
「うむ。ここにて、しばし様子を窺おう」
「はっ」
 大王軍は、総出になって長大な柵を連ね始めた。
 その様子を、大王は見詰めていた。
(さあ、スキピオよ。準備は万端整ったぞ。早くやって来い)




 ところが、である。
 翌日から、ローマ騎兵やペルガモン騎兵が、大王軍の陣前に押し掛け始めた。
「大王よ!出て来い」
「臆したか!戦え!」
 しきりに挑発を始めたのだ。




「陛下!このような侮り、放置しておくのでございますか!」
 セレウコス王子はじめ諸将は怒った。
 今、こんな大胆不敵な振る舞いを大王の権威に向かって仕掛け得るのは、世界広しといえども、このローマの勢力以外にはあるまい。




 アンティオコス大王は表情を微塵も変えない。
「挑発に乗るな。そのようなものに乗せられ戦えば、歴史家の物笑いぞ」
 齢五十を越えている彼。こんなものに動じる年齢ではない。
 というより、大王は不思議でならなかった。
(戦力劣勢にあるルキウスが、何ゆえ挑発を仕掛けてまで戦いを急ぐのか)
 スキピオが未だエライアに留まったままであるのは調べが付いている。
(何かある…それを掴むまでは動けぬぞ)

挑発−世界帝国の章78


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 挑発
 翌朝。大王軍の陣営は騒然となっていた。
「なにっ、ローマ軍が渡河して来たと!」
 大王も驚愕していた。
 そう。未明にローマ軍、そして、ペルガモン軍、アカイア軍などが大挙して川を渡り、そして、柵を延々と連ね始めたからだ。
「馬鹿な…少数の兵でなおかつ川を背にするなど…」
 大王は唖然とした。
 背水の陣は、洋の東西を問わず、軍略上あり得ない逸脱。




 この時、渋い表情を浮かべたものがいた。
 マニアケスである。
(先を越されたか…)
 彼女としては、川岸の線まで兵を進めておきたかった。昨日の進言もそのため。
(河岸に陣取ってあれば、河で敵の攻撃を阻むことも出来たものを…)
 確かに、敵の攻撃を持ち堪えることが出来れば、そのまま河中に追い落として大勝も出来よう。が、もし劣勢になれば、そのまま味方の隊列に敵軍が飛び込んで来る。
(味方は多種多様な民族部族て構成されている…危ういことだ)
 大軍勢ゆえ敵を押し込む力は強いが、小さな綻びが大きな破綻に直結しかねない、そんな脆弱性もある。その懸念を深くしていた。




「陛下」
 セレウコス王子が進み出た。
「我らも直ちに前進せねばなりません。さもないと、敵に侮られ、味方の士気は低下するばかり」
 王子の意気軒昂に他の諸将も声を合わせた。
「左様にござる」「我らも進まねば侮りを受けるばかり」
「うーむ」
 大王は思案した。
(敵はスキピオ・アフリカヌスを待つつもりはないのか…)
 ルキウスの積極果敢は意外であった。寡勢ゆえ、てっきりスキピオの采配を恃んでいるものと思い込んでいた。だから、こちらもゆったり構えていたというのに…。




「マニアケス、そなたはどう思う」
 大王は、類希なる嗅覚を持つ彼女に訊いた。
 マニアケスはすぐさま進言した。
「王子様の仰せの通り、敵勢が城門まで押し寄せて来れば、陛下の陣立ても不自由となりましょう。合戦に及ぶ及ばぬに関わらず、ここは御出陣遊ばすしかありますまいかと存じます」
 確かに、ここでの逡巡は味方の士気を落としめるだけでなく、合戦の足場を失うことにもなろう。


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 二人の指揮官の逡巡(続き)
 他方、ローマ軍本陣。
 こちらでも、総司令官ルキウス・スキピオが逡巡していた。




「…そうか。今日も敵に動きはなかったか」
 安堵する日々を送っていた。
 報告を上げる密偵の司令であるミルトは首を傾げた。
(あれほど大王軍との対決を念願しておられたのに、これはどういうことであろう)




 ルキウスの心情には明らかに変化が訪れていた。
(兄が到着してから戦端を開くのが良策だ)
 彼は、これまでヒスパニア、アフリカで活躍して来た。が、それはいずれも兄スキピオ・アフリカヌスの采配の下であった。自身が総指揮を振るうのはこれが初めて。
 しかも、敵が味方の三倍弱の大兵力であること、加えて、初見の戦車隊の大部隊。慎重を通り越し半ば萎縮していたのだ。
(兄をそばに置き、万全を期すべきである)




 と、そこに。軍団長ドミティウスとペルガモン王エウメネス二世が連れ立って現れた。
「コンスル閣下」
「お、どうなされた二人打ち揃って」
「敵の急所を見出しましたぞ」
「敵の急所?」
 二人は無敵に見える戦車隊の弱点を代わる代わる説明した。




「ふうむ…なるほど。それならば何とかなるやも知れんな…」
 ルキウス、ようやく愁眉を開いた。
「大丈夫です」
 ドミティウスは語気を強めた。
「我がローマの投槍兵、ペルガモンとアカイアの弓兵で一斉に攻撃をかければ」
 それは、ローマ軍伝統の戦法とは異なる、飛び道具主体の先制攻撃の進言であった。
「左様」
 エウメネスも同調した。
「戦車隊の足を止めれば、敵の中央を恐れる必要がなくなります」
 戦車隊の後方に大王軍の主力ファランクスの大部隊が控える。戦車隊を潰乱させれば、それらの戦力が役立たずになる、と王は説いた。




 二人の意見に、なおも熟慮を重ねていた総司令官ルキウスであったが、
「よし…」
 短く気合いの声を発した。彼の内でも勝算を見出したものに違いない。
「渡河するぞ」
 それは一大決心だった。敵の機先を制しヘルモス川を渡るというのだ。
 寡勢である兵を率い、なおかつ川を背にする。普通ならばあり得ない。
 だが、ドミティウスとエウメネスの二人も、これに異論無く賛同した。
「今こそ戦機にございます」


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