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フィリッポスその後−剥げ落ちた仮面(さらにさらに続き)
フィリッポス王は真っ青になった。
(なぜ…ばれたのだ…)
ばれないほうが不思議だ。身内親族を虐殺された遺族の全てが口をつぐんでいる訳がない。誰かがカッサンドロスの犯行を告げれば、その上司オノマストスの指示は明らかで、そうなればフィリッポスの所業であることは一目瞭然。このことを思わぬのは、フィリッポス、完全に目がくらんでいるとしか言いようがない。
「王よ、直ちに両人を引き渡し給え」
プルクルスは重ねて要求した。
王は狼狽した。
(カッサンドロスはともかく、オノマストスを引き渡すわけにはいかぬ)
オノマストスは王家の重臣。即ち、これまでの数々のフィリッポス王の所業を目にして来ている。彼が保身のため洗いざらいローマ元老院にぶちまければ、王の悪行の全てが白日の下に晒されることになる。
「カッサンドロスは引き渡す。彼から全てを聴取すればよい」
オノマストスの引渡は断固拒んだ。
「なぜ拒むのです」
「オノマストスはマロネイア市内にもその周辺におらず、事件には関与していないことは明らか。ゆえに引き渡す訳には参らぬ」
その後の交渉でも拒み続け、やむを得ず、プルクルスは、ひとまず実行犯カッサンドロスだけを連れてローマに帰国することとなった。
だが、帰国途中、そのカッサンドロスは毒殺された。同伴していた従者による犯行だ。
「これで、マロネイア事件の真の首謀者がフィリッポスであることは明らかとなった」
プルクルスは激怒した。
彼は全権大使。その彼がフィリッポスの条約違反を認定すれば、ローマ元老院はマケドニアを敵国と宣言することになろう。
(さて、これからどうしたものか)
フィリッポス王は悶々とした。
後先考えずマロネイア事件の如き暴挙を仕出かしておいて、何を悩むのかと呆れてしまうが、彼は真実悩んでいた。
(我が国とローマは両立し得ない)
密かに対ローマ戦を決意した。
元々キュノスケファライ敗戦後の降伏も、彼にすれば一時の方便であったが、その後のローマ優勢に反攻の機会は訪れなかった。いや、一度だけあった。アンティオコスのギリシア本土上陸の時(紀元前192年)だ。その好機を、自尊心にかこつけ、逃したフィリッポスだったが…。
(だが、今はまだその時ではない)
ローマやその同盟国に気付かれないよう、少しずつ兵力増強は図っていたが、ローマの圧倒的戦力に比べれば見劣りするのは否めない。
(もっともっと増強し、大兵力を集め、兵糧を備蓄し、武器も集積せねばならぬ)
企みを明らかにした時点で、ローマを凌駕する戦闘力を保持しておかねばならない。
(今は時を稼がねばならない)
王は、そう判断すると、次男のデメトリオス王子を呼び出した。
「そなた、フィロクレスと共に直ちにローマに赴くのだ。そして、我が国を弾劾せんと目論む諸国に反論し、ローマの人士の心をこちらに引き戻せ」
こんな大役を命じたのは、デメトリオス王子が、かつてローマに人質として滞在し、その間、上流人士から大いに人気を博したことによる。
「はい。我が弁舌でローマの人々をマケドニア支持にして御覧にいれましょう」
王子は胸を叩いた。
「頼むぞ」
ローマに赴いたデメトリオス王子。
果たして、マケドニア非難で議場が渦巻く中、彼が颯爽と登場し、切々と祖国マケドニアの救済を求める演説を行うと、一転、元老院議員の同情は彼に集まった。
「デメトリオス王子よ。我々はあなたの誠実に免じ今回のことは咎めぬことにする。とるべき処置は、今後、全て取られるものと信ずる」
格別の言葉がかけられたデメトリオス、若者らしく無邪気に喜んだ。
さらに、元老院は、フィリッポスにこの格別の沙汰を知らせることにして、再度特使を派遣しこう告げさせた。
「王が格別な寛恕に恵まれたのは、ひとえにデメトリオス王子の御蔭。そのことを、きっとお忘れなきよう」
この言葉に、フィリッポスは顔を一瞬歪めたが、すぐに穏やかな君主の顔になった。
「それはありがたきこと。余は良き息子に恵まれたということですな」
だが、心の内はまさに憤怒の炎がめらめら上がっていた。王たる自分を、まるでとるに足らぬ存在と言い渡されたに等しいのだ。
(おのれ…ローマ。この屈辱を晴らさずにおくものか)
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