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アンティオコスその後−収奪(続き)
その夜。
王は、王妃が寝入ったのを確めると、寝所から抜け出し、近衛兵を集めた。
「スサ市内の神殿を駆け回り、奉納品を悉く接収せよ」
「えっ!」
この命令に隊長たちは驚いたが、相手は絶対君主。否やはあり得ない。
「王家存続のため、国家のためである」
アンティオコスはそう断って、
「よいな。夜が明けるまでにし遂げよ。夜が明けて、そなたたちの姿を目撃されては民が騒ぎ出すからな」と命じた。
まるで強盗の首領の如き指図だ。だが、これから仕出かすことは、まさにその強盗そのものであった。
「かこしまりましてそうろう」
近衛兵五千は深更の闇の中を市街に出ると、神殿に向かった。
「よし、まずはここだ」
隊長が指差したのは、ゾロアスター教(拝火教)の最高神アフラ・マズダを祀る神殿。
彼らは階段を上がり、神殿内に踏み入ると、ゾロアスター教の象徴の火が、煌々灯っていた。奉納品が保管されてある内陣へずかずか進んで行く。
だが、由緒ある神殿というものは無人ではない。数人の神官が寝ずの番をしている。
その神官たちが血相を変えて現れた。
「どこの何様でございます!」「こんな無体な!」
その言葉は通じなかった。それはエラム語もしくはペルシア語。
近衛兵はマケドニア人やらアイトリア人ばかり。彼らはギリシア語しか解しない。
「黙れ!バルバロイ(野蛮人)!」
近衛兵は神官の一人を殴り倒した。説く言葉も、そもそも会話を交わす言語すら持ち合わせない彼らに、暴力しか拠り所はない。その振る舞いこそバルバロイであった。
「メガスの御命ぞ!神妙にいたせ!」
隠密裏の作戦の筈が、本能に従ってわめいてしまっていた。
『メガス』の意味はさすがに神官などの知識階層には理解出来る。従って、神官たちはこの狼藉の下手人を知った。
「ま、まさか」
国王が領内の神殿を襲撃する、そのあり得ぬ事態に我が目を疑ったが、よく見ると、まさしくセレウコス王家上位の将校がまとう軍装。
年長の神官が勇気を出して前に進んだ。
「いかにメガスとて、このような暴挙が許されましょうや」
たどたどしいギリシア語で抗弁した。
神官は神の尊厳を護持するためには生命をも賭す責務を負う。
だが、そんな彼の勇気は野蛮な剣の前では無力であった。
近衛兵らは一斉に抜刀した。
「邪魔立てすれば只では済まんぞ!」「どけ!どかぬと斬るぞ!」
刃を振り回し、神官たちを追い散らした。
「ひえー」「うわーっ」
神官たちは散り散りバラバラ逃げ出した。
「よし、宝庫を早く破壊して、奉納品を持ち出せ」
兵たちが、内陣の金庫に取り付き破壊し出した。
頑丈な施錠を叩き壊すと、重い扉をこじ開けた。
「おおお!」
そこには金銀財宝、美術品がうずたかく積まれてあった。
ここスサは、百五十年前、アレクサンドロス大王の東征の折に激しい略奪に遭っている。なのにこの莫大な貯蔵品。民衆の信仰の篤さであろう。
近衛兵は、金銀財宝の運び出しにせっせと取りかかった。
だが、神殿の外では、不穏な気流を急速に巻き上げ始めていた。
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