|
[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
非難から喝采へ
紀元前184年。ローマ政治の風向きは大きく変わりつつあった。
監察官(ケンソル)のマルクス・フォルキウス・カトーの保守派が台頭し、あたかも政権与党の如き勢力を見せていた。
かつて絶対的勢力を誇ったスキピオ、フラミニヌス連合の党派は、ローマ市民の中核を成す農民たちを見舞った経済的苦境に、急速に支持を失いつつあった。
「なんでこのような」
上流紳士たちは戸惑ったろうが、そういうものだ。
国民生活の基盤である経済が揺らげば、政治の潮流にも不可避的に激変を及ぼす。
武家政権を切り拓いた平清盛も、一時の繁栄後、後白河院の謀略、藤原貴族の反抗を招き、源氏との大規模な抗争の末、彼の死後平家一門は滅亡した。政権後半、日本全土を覆った飢饉の影響大きく、民衆の支持が失われたのが致命的であった。
第二次大戦を戦い抜き人気の高かった英国首相チャーチルも、終戦間際の総選挙に敗れ、労働党に政権を譲り渡している。これも経済再建を労働党に託したものだ。
いかなる国家党派勢力一門も永遠に栄えるなどということは決してないのだ。
その政治的逆風を、スキピオ家の人々はひしひしと感じていた。
名門と言われる家々には、支持者が朝に挨拶に訪れる。だが、それが明らかに激減していたからだ。
「兄上、本当にコミティアに出席なさるのですか」
弟ルキウスが案じた。
彼はアジアの勝利後アシアティクスの添え名をローマ市民から拝し、一躍名声を獲得したが、今や兄と重大な危機を共にしていた。告発の対象は、彼が執政官であった時なのであるから。兄が有罪ならば弟の彼も罪は免れ得ない。
「出席する。元老院で言明したことだからな」
兄スキピオは素っ気なく答えた。
近頃、覇気が失われ、まるで枯れ木のような頼りなさであったが、言葉にはかつてと同じ力があった。
「しかし…カトーのあの調子では、兄上を元老院から追放せんと企んでいるに相違ありませんぞ。もし兄上にそのようなことあれば…」
そう。スキピオはコルネリウス氏族の頂点にある人物。事はスキピオ一人の問題では済まない。スキピオ一門ひいてはコルネリウス氏族の存亡の危機となる。
「プレプス(平民)たちの心変わりも不安です。ラエリウスたちが走り回ってくれていますが…昨今の世情になかなか反応は芳しくなく」
スキピオの支持層の一つに平民たちがいた。だが、その彼らが生活苦に陥っている。彼らの心を引き戻すのは至難であった。
「ローマびとに良心があれば…そのようなことはあるまい」
スキピオは宙を見詰めた。
|