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フィリッポスその後−骨肉の争い(さらに続き)
(うーむ)
王は唸った。本来ならば、子が先進的な戦術を修得したことを喜ぶべきことだ。
だが、それは彼が心中宿敵と決めた国の戦法となれば、心穏やかでいられない。
「勝負はついた。終了の合図を送れ」
王は立ち上がると、背を向け足早に宿舎へ帰還した。
勝者を決めることなく、いずれを称賛するでもない。
「あ…陛下が…」
勝利に沸き立っていたデメトリオスの側近たちは呆然とした。
(またしても…兄に不当な肩入れを…)
この事に、デメトリオス王子はますます不満を募らせた。
だが、本当の事件はこの後に起こった。
その夜。
犠牲式の後は宴会と決まっている。どんちゃん騒ぎとなった。
マケドニアは、豪傑すなわち酒豪という気風の強い土地柄だったため、将軍将校たちは率先して酒を呑み酒豪であろうとした。酒の弱い人には、さぞ苦痛であったろう。
だが、酒の入った席では予期せぬ諍いが起きるもの。
それはデメトリオスの宿舎での酒宴が発端であった。
「今日は、完全なる弟君の勝利であったよ」
「いかなる敵とも遭遇しても大丈夫ですな」
酒が入って気が大きくなったか、王子の配下の兵たちは遠慮なく騒ぎ立てた。
「よーし」
デメトリオスがふらりと立ち上がった。
「兄君の宿舎に押し掛けるか」
酒の勢いというものであろう。いつもの自制が失われていた。
制すべき側近も、脳の理性の部分が停止したのか、一斉に囃し立てた。
「それはよろしいですな」
「次代の君がいずれか、この際はっきりさせましょうて」
デメトリオスとその手勢は、模擬戦で使用した武具を手に手に通りに出ると、気勢と奇声の区別もない様で行進し、そのままペルセウス王子の宿舎に押し寄せたのである。
デメトリオス王子とその兵は、ペルセウス王子の宿舎門前で騒ぎ立てた。
「ペルセウス王子よ!今宵の酒はさぞまずかろう!」
「いずれが次代の王位に相応しいことが分かったろう!」
槍の尻で門を叩き回った。
これはまずかった。乱暴狼藉といわれても仕方がなかった。
ペルセウス王子は、宿舎を抜け出し、父王の許に走り訴え出た。
「弟が兵と共に押し掛け、わたくしを害そうとしました」
父フィリッポスは苦虫噛み潰し、すぐさまデメトリオス王子を呼びつけた。
デメトリオスも己の非行を悟ったものであろう。
「申し訳ございませぬ。酒に酔い、つい無礼に及んでしまいました」
すぐさま詫びたが、ペルセウスはここぞと非難した。
「日頃の思い上がりが出たものであろう」
「何を仰せか!思い上がりならば兄上の方でしょう。日頃陰険な策を凝らしてばかり…」
「なんだと!」
父の前で兄弟掴み合いになりかけた。
「やめぬか!」
王は怒った。そして、懇々と諭し始めた。
「余は、常日頃、説いて来た筈だ。兄弟共に力を合わせれば、それは王国に最大の力をもたらすことを。実例として、ペルガモン王国の兄弟たちのことも常々よく見ておくように、と」
ペルガモン王国は、エウメネス二世、次弟アッタロス、三男フィレタイロス、末弟アテナイオス、四人兄弟すこぶる仲が良く、そのことが王国の安定と繁栄に寄与していた。
国の関係は犬猿の間柄ながら、フィリッポス王は、このことは素直に感嘆していた。
「お前たちは、余の話を聞き流すばかりで、互いに憎悪の刃に磨きをかけていたようだ。よいか、これからはしかと心せよ。さもなくば王国は衰退しよう」
だが、この後も、ペルセウスとデメトリオスの争いが止むことはなかった。
それは思わぬ悲劇を呼び寄せることとなった。
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