新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

終章(二部)

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 フィリッポスその後−骨肉の争い(さらに続き)
(うーむ)
 王は唸った。本来ならば、子が先進的な戦術を修得したことを喜ぶべきことだ。
 だが、それは彼が心中宿敵と決めた国の戦法となれば、心穏やかでいられない。




「勝負はついた。終了の合図を送れ」
 王は立ち上がると、背を向け足早に宿舎へ帰還した。
 勝者を決めることなく、いずれを称賛するでもない。
「あ…陛下が…」
 勝利に沸き立っていたデメトリオスの側近たちは呆然とした。
(またしても…兄に不当な肩入れを…)
 この事に、デメトリオス王子はますます不満を募らせた。
 だが、本当の事件はこの後に起こった。




 その夜。
 犠牲式の後は宴会と決まっている。どんちゃん騒ぎとなった。
 マケドニアは、豪傑すなわち酒豪という気風の強い土地柄だったため、将軍将校たちは率先して酒を呑み酒豪であろうとした。酒の弱い人には、さぞ苦痛であったろう。
 だが、酒の入った席では予期せぬ諍いが起きるもの。
 それはデメトリオスの宿舎での酒宴が発端であった。
「今日は、完全なる弟君の勝利であったよ」
「いかなる敵とも遭遇しても大丈夫ですな」
 酒が入って気が大きくなったか、王子の配下の兵たちは遠慮なく騒ぎ立てた。



「よーし」
 デメトリオスがふらりと立ち上がった。
「兄君の宿舎に押し掛けるか」
 酒の勢いというものであろう。いつもの自制が失われていた。
 制すべき側近も、脳の理性の部分が停止したのか、一斉に囃し立てた。
「それはよろしいですな」
「次代の君がいずれか、この際はっきりさせましょうて」
 デメトリオスとその手勢は、模擬戦で使用した武具を手に手に通りに出ると、気勢と奇声の区別もない様で行進し、そのままペルセウス王子の宿舎に押し寄せたのである。



 デメトリオス王子とその兵は、ペルセウス王子の宿舎門前で騒ぎ立てた。
「ペルセウス王子よ!今宵の酒はさぞまずかろう!」
「いずれが次代の王位に相応しいことが分かったろう!」
 槍の尻で門を叩き回った。
 これはまずかった。乱暴狼藉といわれても仕方がなかった。




 ペルセウス王子は、宿舎を抜け出し、父王の許に走り訴え出た。
「弟が兵と共に押し掛け、わたくしを害そうとしました」
 父フィリッポスは苦虫噛み潰し、すぐさまデメトリオス王子を呼びつけた。
 デメトリオスも己の非行を悟ったものであろう。
「申し訳ございませぬ。酒に酔い、つい無礼に及んでしまいました」
 すぐさま詫びたが、ペルセウスはここぞと非難した。
「日頃の思い上がりが出たものであろう」
「何を仰せか!思い上がりならば兄上の方でしょう。日頃陰険な策を凝らしてばかり…」
「なんだと!」
 父の前で兄弟掴み合いになりかけた。




「やめぬか!」
 王は怒った。そして、懇々と諭し始めた。
「余は、常日頃、説いて来た筈だ。兄弟共に力を合わせれば、それは王国に最大の力をもたらすことを。実例として、ペルガモン王国の兄弟たちのことも常々よく見ておくように、と」
 ペルガモン王国は、エウメネス二世、次弟アッタロス、三男フィレタイロス、末弟アテナイオス、四人兄弟すこぶる仲が良く、そのことが王国の安定と繁栄に寄与していた。



 国の関係は犬猿の間柄ながら、フィリッポス王は、このことは素直に感嘆していた。
「お前たちは、余の話を聞き流すばかりで、互いに憎悪の刃に磨きをかけていたようだ。よいか、これからはしかと心せよ。さもなくば王国は衰退しよう」
 だが、この後も、ペルセウスとデメトリオスの争いが止むことはなかった。
 それは思わぬ悲劇を呼び寄せることとなった。


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 フィリッポスその後−骨肉の争い(続き)
 王より帰国を命じられたデメトリオスは血相を変えた。
「なにゆえでございます!父上!」
 今回の遠征は、いわば王子二人の初陣でもある。だから、互いに功を競い合って来た。王子に従う家臣たちの浮沈もかかっている。そのことが連戦連勝にも繋がって来た。




「いや、そなたの働きに不満がある訳ではない。王都周辺が騒がしいと聞こえて来たので、そなたを差し向け沈静化しようと思ったのだ」
 王はそんな風に言い訳したが、デメトリオスは素直に受け取らなかった。
 なぜならば、彼の耳にはペルセウス王子が何やら囁いた後にこの呼び出しがあったことを、王の側臣から密かに聞いていたからだ。
(またしても、兄ペルセウスの、よこしまな告げ口よな)
 そう思っているから、父の言葉も、兄への不当な肩入れとしか聞こえない。




「これは王命である」
 父は王の威厳をもって命じた。
「陛下は、兄の言葉を真に受け、わたくしめを…」
「違う」
 王は厳しく遮った。
「そなたを大事に思えばこそ都の守備を任せるのだ。心得違いをいたすな」
「はい…」
 デメトリオス王子は不承不承帰国の途に着いた。




 デメトリオスがペラに戻ると、至って平静で騒乱の気配すら感じられなかった。
(…やはりか)
 胸中、荒野に風が吹きすさぶが如くとなった。
 間もなく、父と兄が得意げに凱旋して来たが、宮中に出仕する気にもなれなかった。
(父は、まだローマと戦うつもりでいるらしい)
 王子とて父の野心に薄々勘付いていた。だが、ローマと事を構えれば、王国は滅亡しかないと思い、父を必死に諌めて来た。ローマに赴き火消しにも躍起となった。
(それが気に入らないらしい…)
 兄が即位すれば、これまでの対立から無事に過ごせそうになかった。
(これはローマに亡命した方が良いかも知れぬ…)
 王子は真剣に身の振り先を考え始めた。
 その矢先に事件は起こった。




 王都ペラの郊外で、国家の英雄クサントスに捧げる犠牲式が催された。
 これは、犬を犠牲に供し、引き裂いた犬の体の間を軍隊が行進するという奇妙な儀式で、王国代々行われて来た儀式らしかった。きっとクサントスという人物は、犬に何かしら関係する事績を残したのであろう。
 この犠牲式の後、フィリッポス王は、王子二人に命じて模擬戦を催した。
 即ち、二組に分け、一方をペルセウス王子を大将とし他方をデメトリオスを大将にして模擬合戦を行わせた。兵数武具は全く同一であるから、要は指揮采配の優劣が明らかになる訳だ。




「それ、敵の隊列を突き崩せ!」
 歩兵を前面に猪突猛進する兄の軍勢に、最初押し込まれていた弟の軍勢であったが、
「よし!左右より攻めかかれ!」
 ここぞと騎兵を両側面から衝かせた。すると、兄の軍勢は脆くも崩れたった。




(ふーむ。これは…)
 フィリッポスは目を見張った。
 兄の采配は伝統的なマケドニア式だが、弟の戦術は明らかに違う。ハンニバル式でありスキピオ式、否、今やローマ式と呼ぶに相応しい包囲撃滅戦術であった。
 ヘレニズム諸国がローマに敗北して以降、急速に戦いの主流は、これまでの長槍を持った歩兵重視のファランクス戦法から、騎兵活用のローマ戦法が主流となり始めていた。
 デメトリオスは、ローマ人質時代に、親しかったフラミニヌス若しくはスキピオその人に手ほどきを受けたのやも知れぬ。


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 フィリッポスその後−骨肉の争い
 その後も、フィリッポスは来る対ローマ戦のため精力的に動き続けた。
 フィリッポスは、ペルセウスとデメトリオスの二人の王子を伴い、大軍を率いて未だ服さぬトラキア北部(現ブルガリア)へ進攻した。



「ここならばローマも文句はいうまいて」
 トラキア南部は、ギリシア人諸都市が多くパンガイオン金鉱もある要衝で、ローマや同盟国の目が常時光っている。が、内陸のトラキア北部ならば異心を疑われることはない。
 確かに北トラキアはギリシア・ローマ世界からすれば辺境だが、未開の土地では決してない。豊かな森林、肥沃な平原。古来トラキア人の王国が栄えて来た大地である。



 しかも、ここを制圧すれば、精強なるトラキア人が支配下に入るのだ。
「大軍が手に入るのと同じだ」
 フィリッポスは抜け目なく勘定していたに違いない。
 また、この地域は、かつてアレクサンドロス大王の父フィリッポス二世が遠征したこともあり、その際に建設した植民都市がトラキア人支配の許で残っていることも、興味関心を誘った。二世王は、ここを制圧し、大王の東方遠征の基礎を固め得たのだ。
「フィリッポス(五世)がフィリッポス(二世)の偉業に倣うのだ」
 遠征は順調に進んだが、途中である事件が起こった。




 フィリッポスは、敵対するトラキアの諸部族を撃破し、北へ北へ突き進んだ。
「ハイモン山に登ろうではないか」
 王は思い立った。ハイモン山とは今日のブルガリア西南部にある鋭峰。
 この山頂からポントス海(黒海)とアドリア海の両方を見渡すことが出来ると聞いたからだ。実際、アドリア海を望むことは出来ないのだが、そういわれていたらしい。



「陛下」
 王子ペルセウスが進み出た。
「登山には、デメトリオスを連れて行かぬ方が宜しゅうございましょう」
「なぜそんなことをいう?」
「あやつはローマびいき。何かを漏らすやもしれませんぞ」




 確かに、デメトリオス王子は、ローマ人質時代に厚遇され、解放後も訪問するたびに歓待を受けていることから、マケドニア宮廷内のローマ派筆頭ともいえる存在となっていた。父が反ローマの言動をするたびに諌めて来たほどだ。
 だが、その言葉に王は怒った。
「汝は…。余が兄弟常々仲良くせよと申しているのを忘れたか」
 兄弟の険悪を懸念し、日々言い聞かせていた彼なのであった。
「いいえ。申し上げたいのは、弟に異心なくとも危険ありということです」
「なに…」
「弟の許にはローマから訪れる者が多うございます。何気ない会話の中で、陛下の遠征の有様を聞けばどう思うでしょう。ましてや、ポントスからアドリアを見渡すハイモンに登ったと聞けば、きっとローマの警戒を招くに違いありません」




「む…」
 王は言葉に詰まった。
 彼は、本心を息子たちにも明かしていない。軍備増強・領土拡大も、テッサリアやトラキア南部の失地を埋め合わせるためであると誤摩化していた。
 だが、ペルセウス王子は勘付いていたらしかった。この王子の方が、父の気質を強く受け継いでいるらしい。
「…そなたの危惧する所は分かった。デメトリオスには余が話そう」
「ははっ」
 ペルセウスは、己の目的が達せられたことを確信し、笑みを浮かべて踵を返した。


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 フィリッポスその後−暴政の嵐(さらに続き)
 王の命令が実行されると、またしても王国全土に悲泣が響き渡った。
 遺族の中には、王への恨みを忘れ名士として活躍していた人も多い。その彼らが妻子共々容赦なく拘束されていく。無論、拘束だけでなく、次々と処刑された。その無残な最期の有様に同情し、民衆は泣き崩れた。
 追捕から逃れるべく必死に逃走を試みた者たちもいたが、逃れ得た者は僅かであった。多くが投獄され、すぐさま処刑された。
 かつて、フィリッポスに父を殺された女性がいた。その彼女にも、容赦なく追っ手の手が迫った。彼女と夫、その子の一家は、断崖絶壁に追い詰められた。




「邪悪なるフィリッポスに伝えるがいい」
 女性は静かに言った。
「かかる悪事をなす王朝の永くないことを。いずれ思い知るであろう、とな」
 それは不吉な予言。アンティゴノス王朝の滅亡を唱えるものだ。
「おのれ…」
 捕吏が前に進み出ると、その途端、彼女たち一家は海に身を投じた。
「ああっ!」
 捕吏たちは立ちすくんだ。それは、人間生命の最期の潔さを見せつけられたからだ。




「なに、そんなことをほざきおったか!」
 凶暴な王は烈火の如く怒った。
「親類縁者一人も残すな!全員捕えて処刑せよ!」
 王は吠えた。
 もはやまともではない。王国の土台をなす民の殺戮に手を染めた時点で、王ではなく邪悪なる独裁者。祖国人民の敵だ。


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 フィリッポスその後−暴政の嵐(続き)
「まだ静まらんのか」
 フィリッポスは苛々と重臣たちに訊ねた。
「は。移住先のエマティアでも大変な騒ぎになり、近頃は都も騒がしく」
 国民の強制移住は、王国の基盤を強化するどころか、王国の存立すら危うくし出していた。全くの愚策であった。



(このままでは余の身も危うい)
 フィリッポスは自身に迫る危険を察知した。迂闊に都の市中を行幸することも憚れる有様。彼を恨みに持つ者が、いつ凶刃を振りかざして来てもおかしくなかった。
 こういう危機感は本能に属する。次第に、王は安眠すら脅かされ始めていた。
(寝所も危険だ。侍女や召使いとして入り込んでいるやも知れぬ…)
 王は、民衆の呪いの通り、苦悶し出した。まさに自業自得。




(思えば、余に恨みを持つ者は無数にいる…)
 そのことを思い浮かべ、脂汗を額に浮かべた。
 アラトス親子や、先王の重臣たちに、かつての学友たち。この王は、己の専制権力の邪魔になる者は全て抹殺して来た。当然、王に恨みを抱く遺族はその数倍に及ぶ訳だ。




「こうなれば…」
 王の目は血走っていた。
 重臣たちは胸騒ぎがした。こういう王の顔からは、ろくな命令が出て来ない。




「余が命じて処刑した人々の子を探し出し、全て拘束せよ」
「えっ!それは…」
 重臣たちは絶句した。
 何の罪の名目もない。ただ罪人の子どもであったからという理由で逮捕を命じたのだ。
 だが、王の顔は青白く揺らいだ。もう、かつての溌剌な君主の面影は消え失せていた。




 王は心を病んだ病人の如くつぶやいた。
「父を殺し、その子を生かしておくのは愚者のわざ」
 これは、とある詩の一節。
 そんなものを持ち出さねばならぬほど、命令の正当性はなかった。
「何を躊躇するか!すぐさまかかれ!災いの種を刈り取るのだ!」


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