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「Gioconda's Smile(ジョコンダの微笑)」はハクスリー自身の脚本で「A Woman's Vengeance(女の復讐)」というタイトルで映画化された。1946年にハリウッドで映画化されるわけであるから、脚本が原作者であろうと容赦はない。映画会社の重役さんからすると、題名に「ジョコンダ」という聞き慣れない、少なくとも大衆には聞き慣れない名前が登場するのはよろしくない。これはイタリア製のバイクの名前かと勘違いされるという意見が出て、タイトルは無粋にも「女の復讐」になった。せめて「モナリザの微笑」にもならなかったものか。
主人公の奥さんが殺されるわけであるから、当然裁判劇になる。これもハリウッド映画のおきまりのパターンである。主人公は女性関係にルーズな男ではなくて、ハンサムで金持の素敵な男性である。甘くやるせない音楽が流れる中、彼は若い女性にいつしか恋心を抱くわけであるが、二人は不倫の関係にあるわけではない。
病弱な奥さんが死んでから二人は結婚している。それが奥さんが毒殺されたことが判明してから状況は一変する。深刻な裁判がはじまり、ああこの主人公の運命やいかに?当時のハリウッド映画では、ハンサムな男性が無実の罪で死刑になってはならない。相手の女性も若くて気だての良い美人である。絶対に不幸になってはならない二人である。顔を見ただけで、誰と誰が幸せになるか最初から予想され、予想通りにならなければいけない。
処刑の時間が刻々とせまるなか、正義の味方が現れて、奥さんを殺した真犯人が自白して処刑を止めさせるところで映画は幕を下ろす。よかった、よかった。ハリウッド万歳!
原作者が映画会社に映画化の権利をゆだねたら、何も文句は言えない。しかしこの映画のシナリオを書いたのは原作者自身である。まあ仕方がないか。郷にいれば郷に従う。誰だって自由の国アメリカにくればドルが欲しいのだから。ハリウッド資本主義の検閲はスターリン・ソビエトの検閲とどっこいである。
だいぶ否定的なことをいったみたいだが、出演者はなつかしい。主人公はシャルル・ボアイエ、真犯人の女はジェシカ・タンディーである。ジェシカはハリウッド生え抜きの女優ではなく、イギリスの舞台女優であった女性で、私も二本ぐらいは彼女の登場する映画を見ている。いい女優である。ジョーン・フォンテーンとジョセフ・コットンの「旅愁」でコットンの奥さん、ジェームス・メイスンの「砂漠の鬼将軍」でロンメル将軍の夫人を演じている。
でもこの映画はましである。私が英語の授業で印象に残っているハクスリーの「若きアルキメデス」は彼のシナリオではないが、大昔にハリウッドで映画化されたのをこの度ウェブで知った。この映画は「若きモーツアルト」とでも題すればよいような内容になっている。題名も「名声への前奏曲」とかになっている。最後は多少原作に敬意を表してはいるらしいが、ハリウッドお得意の芸能人のサクセス・ストーリーに近いようである。おそらく新聞社の輪転機と汽車の車輪が高速で回転するシーンが出てくるだろうな思い、見たくもない。
比較的最近今度は原作に忠実な題名も「若きアルキメデス(Il Piccolo Archimede)」というイタリア映画が制作されたみたいである。監督も「原作に忠実であり、よくできたと思う」と自賛している。この映画の入手は私には困難みたいである。可能性としてはオークションで入手することだが、私には辞書を引き引きイタリア語のオークションに参加する度胸はない。さらに出演者が英語をしゃべり、字幕がイタリア語であれば目も当てられない。
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