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もっとも異教的な日本の菓子屋がでっち上げた「ホワイト・デー」のついでといっては罰が当たるが、「グリーン・デー」ともいうべき「セント・パトリック・デー」を取り上げておこう。明日はアイルランドの守護聖人セント・パトリック(Saint Patrick)の祝祭日である。宗教改革以前にカトリック教会により聖人になった人物に関しては、イギリス国教会は一応の敬意を払っているかと思っていたが、私の種本”The English Year”にも、Edith Holden の絵入り日記にも、セント・パトリックには一切ふれていない。
彼はアイルランドとの連想が強すぎてイギリスでは敬遠されたのであろうか。”The English Year”は古来からのイギリスの民俗を記述する本であり、長くカトリックと対立し、アイルランドとの長い抗争の歴史を持つイギリスでは、このアイルランドの守護聖人を祝うはずはなかった。習慣がなかったから、記述がないのも当然である。Edith Holden の絵本でも同様である。
本当はイギリスとアイルランドの民族的融和の象徴ともいうべき人物である。セント・パトリックは実は母の胎内に宿る時からイギリス人を憎んでいるとされるアイリッシュではなく、ブリティッシュであった。4世紀末、アイルランドの異教徒により誘拐されて奴隷生活の辛酸をなめた。彼は脱走に成功したが、アイルランド人に怨みを持つことなく、再びアイルランドに渡り、キリストの恩寵を説いて、アイルランドをヨーロッパ有数のカトリック教国にした人物である。ちなみにマザー・テレサはユーゴ出身であるが、アイルランドに渡り修道女になった。
セント・パトリック・デーは今や春のお祭りの一つであり、クローバーが生え、クロッカスが芽を出すと、セント・パトリック・デーの近いことを人々に思い起こさせる。バレンタイン・デー同様に宗派的色彩がほとんどない日である。事実、わたしはカナダに滞在したことがあるが、公立の小学校ではこの日にちなんで緑色の飾り付けをして、セント・パトリックの遺徳を讃えることなく、春を祝っていた。セント・パトリック・デーは「緑の日」なのである。
セント・パトリックが春あるいは緑の聖人になったのは、公式的には3月17日に死亡したということになってはいるが、彼がキリスト教の教義である「三位一体」の概念をクローバーなど「三つ葉」の植物を手にして説教をしたという伝説に由来していると思う。「三枚の葉はそれぞれ、父と子と聖霊であり、それらが一体となっている」という説教である。ニューヨークなどアイルランド系の移民の多い都市ではこの日、人々は緑の服を着たり、三つ葉を襟に差してパレードする。
脱線しそうであるが、Edith Holden は現代風にいえば、きわめてイギリス的なエコロジストである。彼女にはこの「緑の祭り」にふれるわけにはいかないもう一つの宗教上の理由がある。彼女はユニテリアン(unitarian)の家に育った女性である。ユニテリアンというのは聞いたことがあるが、私はよく知らなかった。キリスト教の宗派対立を非難する人たちかなと漠然と思っていた。今回勉強してはっきりしたのは、ユニテリアンとは神の唯一性を信じるキリスト教徒である。三位一体、キリストの神性をを否定する人たちである。キリストはこの人たちによれば、模範となるべき人間なのである。彼女には三つ葉のクローバーに特別の宗教的思い入れはそもそもないのである。
このセント・パトリック・デーも商業的意味があり、カード会社をはじめ張り切っている。ブローチやらの広告を見ることが出来る。「四つ葉のクローバーのブローチなら欲しいけど、三つ葉のブローチなんて要らない」という女性がいたら、その女性はセント・パトリックとは何の縁もない異教徒である。
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