ヘ短調作品34

ルブランの回想録の link 先はゲストブックを御覧ください。

キップリング

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キップリングは「兵舎のバラッド」を発表して好評だったそうである。「今日の詩」はその中の詩「ダニー・ディーバー」である。研究者によれば、インドに駐屯する連隊で実際にあった事件をモデルにした詩だそうだ。

この詩を理解するにあたって知っておかなければならないのは、当時の軍は地方部隊である。さらに兵卒が労働者階級であり、いい教育を受けていないので、いい英語を話せない。キップリングは意識的に、兵士達のよくない英語を使っているとのこと。そう言われればそんな気もするが、それが分かるほど私に語学力があるわけではない。

戦友を射殺した兵士の処刑を連隊が見に行かされる話である。軍上層部の思惑だろう。軍律厳しきイギリス軍の兵隊の道徳教育の一環として処刑を見せるのである。詩にでてくるが、犯罪が犯人の「恥」にとどまらず、連隊の「恥」であり郷里の「恥」になるという教育もなされる。「恥」という感情に訴える教育は何処も同じだったようである。


Danny Deever

“WHAT are the bugles blowin’ for?” said Files-on-Parade.
“To turn you out, to turn you out,” the Color-Sergeant said.
“What makes you look so white, so white?” said Files-on-Parade.
“I ’m dreadin’ what I ’ve got to watch,” the Color-Sergeant said.
For they ’re hangin’ Danny Deever, you can hear the Dead March play,
The regiment’s in ’ollow square―they ’re hangin’ him to-day;
They ’ve taken of his buttons off an’ cut his stripes away,
An’ they ’re hangin’ Danny Deever in the mornin’.

“What makes the rear-rank breathe so ’ard?” said Files-on-Parade.
“It ’s bitter cold, it ’s bitter cold,” the Color-Sergeant said.
“What makes that front-rank man fall down?” says Files-on-Parade.
“A touch o’ sun, a touch o’ sun,” the Color-Sergeant said.
They are hangin’ Danny Deever, they are marchin’ of ’im round,
They’ave ’alted Danny Deever by ’is coffin on the ground;
An’ ’e’ll swing in ’arf a minute for a sneakin’ shootin’ hound―
O they ’re hangin’ Danny Deever in the mornin’!

“’Is cot was right-’and cot to mine,” said Files-on-Parade.
“’E’s sleepin’ out an’ far to-night,” the Color-Sergeant said.
“I ’ve drunk ’is beer a score o’ times,” said Files-on-Parade.
“’E’s drinkin’ bitter beer alone,” the Color-Sergeant said.
They are hangin’ Danny Deever, you must mark ’im to ’is place,
For ’e shot a comrade sleepin’―you must look ’im in the face;
Nine ’undred of ’is county an’ the regiment’s disgrace,
While they ’re hangin’ Danny Deever in the mornin’.

“What ’s that so black agin the sun?” said Files-on-Parade.
“It ’s Danny fightin’ ’ard for life,” the Color-Sergeant said.
“What ’s that that whimpers over’ead?” said Files-on-Parade.
“It ’s Danny’s soul that ’s passin’ now,” the Color-Sergeant said.
For they ’re done with Danny Deever, you can ’ear the quickstep play,
The regiment’s in column, an’ they ’re marchin’ us away;
Ho! the young recruits are shakin’, an’ they ’ll want their beer to-day,
After hangin’ Dannv Deever in the mornin’.

Rudyard Kipling (1865–1936)



ダニー・ディーバー

「ラッパ鳴りました。なんでですかね?」と行進中の兵卒。
「起床ラッパ。起床ラッパだ」と曹長。
「顔色がわるいですね。なんでですかね?」と行進中の兵卒。
「気分がわるい。見に行かにゃならん」と曹長。
ダニー・ディーバーはぶら下がる。葬送行進の曲が聞こえる
連隊はぐるりと方陣の隊列を組む ― あいつは今日ぶら下がる。
ボタンと記章は取り外され
ダニー・ディーバーは朝ぶら下がる。

「息が荒いですね。なんでですかね?」と行進中の兵卒。
「すごく寒い。すごく寒い」と曹長。
「最前列の兵隊が倒れました。なんでですかね?」と行進中の兵卒。
「日射病だ。日射病」と曹長。
ダニー・ディーバーはぶら下がる。軍楽隊はあいつの周りを行進し
地面の棺のそばに立つダニー・ディーバーで止まった。
死が猟犬のようにしのびよる間、あいつは30秒ゆれるだろう。
ああダニー・ディーバーは朝ぶら下がる。


「あいつのベッドは私の右でした」と行進中の兵卒。
「あいつは今晩よそで寝ていたのさ」と曹長。
「あいつのビールをなんども飲んじまいました」と行進中の兵卒。
「あいつは苦いビールをひとりで飲んでいたろうよ」と曹長。
ダニー・ディーバーは絞首刑だ。見ておけ!あいつが立っている場所を
あいつは寝ている戦友を撃った ― 見ておけ!あいつの顔を
郡出身の連隊900名の面汚し
ダニー・ディーバーは朝ぶら下がる。

「お日さまが出ているのに黒い。どうしてですかね?」と行進中の兵卒。
「ダニーがもがいているだ」と曹長。
「空から泣き声がします。どうしてですかね?」と行進中の兵卒。
「たった今ダニーの魂がいっちまったのさ」と曹長。
ダニー・ディーバーの作業がすみ、クイックステップの曲が聞こえ
連隊は縦隊で行進していく。
新兵がふるえている。連中はビールがほしいだろう
ダニー・ディーバーがぶら下がった後だものな。

キップリング



3詩節すべて8行からなるが、最初の4行は兵卒と曹長の会話である。脚韻は必ず下の4語で終わっている。

[Files-on-Parade, said, Files-on-Parade, said]

音はきわめて近いといえよう。4語とも同韻のように見えるが、批評家はもちろんParade とsaid を同韻とは見なさない。辞書で調べるまでもない。ただキップリングを崇拝する批評家には、この微妙な違いが、整然と行進しているように見える部隊の動揺を表現して心憎い。

つまり公式的には最初の4行は

[a, b, a, b]

であるが、崇拝者からすれば

[a, a', a, a’]

ということである。

後半の4行の脚韻は

[c, c, c, d]
[e, e, e, d]
[f, f, f, d]
[c, c, c, d]

となっている。形式的には満点に近いというのだろう。基本的には手放しの好評で迎えられ、新しい文学の誕生という評価まであった。

だがスペイン内戦に義勇兵として参加したジョージ・オーウェルの評価は辛辣である。「『ダニー・ディーバー』はキップリング作品の性格をよく表す詩である。つい読みたくなるように、われわれの下品な欲望に巧みに訴える」と断じている。彼によれば "good bad poetry" である。一見芸術的だが本質的には下劣である。読者の下品な興味を意識して書かれたエロ小説みたいな評価である。

私個人としては、ジョージ・オーウェルの本を読んだ事はある。スペインの共和派を支持したジョージ・オーウェルの勇気を尊敬したい。キップリングは帝国主義者である。彼の評論はキップリング批判なのか、帝国主義批判なのか。最初からオーウェルの判決文が決まっていたとしたら、彼には詩を論ずる資格があるのか。

いずれにせよ我々には別に驚くべき詩ではないのだけれど、当時としては話題作であったことは確かである。

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最後の詩節など、やはり詩ですね。変な言い方ですが。共同性を維持するための求心、スケープゴート、みせしめ、は人間の共同的な存在の仕方につきまとうもののようです。以前<人柱=人身御供>なるものの伝承の民俗学研究で、<人柱=人身御供>幻想が共同性を固めるために利用されてきたのでは、という説を読んだ事があります。

2007/4/24(火) 午前 8:38 緑の森

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まさに見せしめです。フランスの外人部隊ではありません。以前の軍隊組織は特定の地方出身者からなります。ですから軍隊の規律だけではなく、卑怯な人間はおめおめと国に帰れないという共同体規制にも兵士達は縛られています。研究者によると、戦友の殺人は軍隊の恥ですから、この処刑は公開処刑ではなく、連隊内部で処刑されたという話です。兵士達はその処刑をみることを強要されるのです。大英帝国のためにという教育は郷里の恥という意識を呼びさますことで強化されます。私は「緑の森」さんの民俗学にはまったく無知でした。興味はあります。有り難うございました。

2007/4/24(火) 午前 11:36 [ fminorop34 ]


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