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199.ヘルツォーゲンベルクからブラームスへ [ベルリン]1887年1月9日 親愛なる友へ
あなたの室内楽の新作は妻のみならず私たち男にも――ヨアヒム、シュピッタ、ハウスマン、私――明らかに王者の贈り物でありました。いずれも目立ちながら素朴な観念から可能な限り明快に構築され、感情的品位において若く新鮮であり、その信じがたい簡潔さにおいて円熟し賢明であります。その結果は私の知るもっとも説得的な音楽になっており、形式の一般的傾向はつねに満足のいくものであると同時に驚異に充ちたものであります。
私たちはチェロ・ソナタ(1)の味を知っております。そしてこのバイオリン・ソナタとトリオ(2)はこの新しい流れの完全な展開であります。誰も、あなたですら、この先何処へ行くか予想もできないでありましょう。どうか地平を切り開き、巨人たちを虜にしてください。小人は簡潔になろうとすれば、言いたいことを犠牲にせざるを得ません。私たちはアラビアン・ナイトの漁師(3)のような気がします。彼の小さな箱から巨大な魔神が飛び出してきます。違いは、私たちは箱の中身には驚かないのですが、閉じこめられていた箱の容量に驚くのであります。 どの具体例を引用しましょうか。トリオの第二楽章は依然として最高に驚嘆すべきものであります。そこでまったく新しい鍵を打たれました。にもかかわらず、最初の数楽節でその性格は確立されており、もうなじみであるような気がします。短い楽章がスイと通り過ぎて、これをたちどころに把握できたのはこの明確な輪郭のせいであったことを認識しました。それから、バイオリン・ソナタのアンダンテです。私たちはたちまち恋に落ちました。最初は、愛らしいへ長調の貴婦人が憂いを帯びたノルウェーの道化(4)と婚約する思いつきは好きではありませんでした。でもこの結びつきは良かったわけです。非常に子宝に恵まれましたから。 バイオリン・ソナタのフィナーレは私たちの好奇心をそそりました。ヨアヒムと私は、ホ長調ロ音のドミナント7度に達したところで、この曲がりくねったアラベスク(5)の後に、第二主題を期待しておりました。私たちは耳と口を開いて聴いていました。その瞬間が過ぎ、真に妙なる第一主題が再登場したのです。私たち衒学者は主要な調子のドミナントを阻害終止で取り戻すか、あらたに組み合わせるために完全に終止するか、少なくとも7Eのホ音で長いペダル音を導入しイ長調(6)に経過部をつくるでありましょう。ああそうです。私たちは衒学者です。一方はあなたが思い通りにでき、他方は私たちには手が届かないときには、あなたの決定にたいし私たちの学問は何の役に立つのでしょう。ソナタの第一楽章は私たちの好みの中でも特別の位置を占めます。変ハ短調(展開部の(7))に入るのどかな経過の効果は独創的で大変魅力的です。イ長調の第一主題の陽気な再登場もそうです。展開部から振り切って完全に自由になり、笑いながら、「おい相棒、もうすんだよ。一人きりで行かせてくれないか。」トリオに戻りますが、巧みに切られた7/4バー(8)は蠱惑的です。二つの合唱部が互いに休みながら、三人が役を交代し、知り尽くした曲をリハーサルし、記憶からキューを拾い上げているようです。ところで、あなたは人形に並々ならぬ関心を示しておられますが、思うようにさせています。あなたの巨大な蹄はフィナーレの冒頭に現れますと、人は運勢を見て、死体を数えます。すくなくとも妻の瀕死を、とくに16部音符の楽節(9)で確認しました。このpp 主題が弦の和音とピアノ(10)のはねる音を伴って実に見事です。主題を伴ったハ長調コーダがレガート(11)で演奏され、最後に途方もない歓喜、リズムが正しくないが、それはどうでも良い。それから、私は第一楽章の第二主題(12)を忘れるところでした。あなたがリストであれば、私はあなたの手にキスをしたところですが、そんなことは思いつきもしないでしょう。 私のような年老いたおしゃべりの祝福と感謝に多少の意味がありましたならお受けいただくことを希望し、あわせて曲の包み紙が不適切(13)であったことをお詫びいたします。 いつまでも誠実なるあなたのヘルツォーゲンベルクより (1)作品97。 (2)作品100と作品101。 (3)漁師ディアンダールの冒険。 (4)ヘルツォーゲンベルクは、ニ短調ヴィヴァーチェが3度ヘ長調のアンダンテ・トランキロと交替して楽章を閉じていることを言っている。その彩色においてグリークのバイオリン・ソナタ、作品8を連想させる。 (5)48ページ第18小節。 (6)8ページ第1小節 (9)8ページ最終小節 (10)ブラームスは3/4+2/4+2/4(アンダンテ・グラチオーソ)で分割した。 (11) 27ページ第15小節。 (12) 26ページ第11小節。 (13) 34ページ第6小節。 (14)35ページ、「元の速さで(tempo primo)」。 (15)4ページ第3小節。 (16)ヘルツォーゲンベルクの作品。
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