ヘ短調作品34

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218.エリーザベト・フォン・ヘルツォーゲンベルクからブラームスへ(1)

ミュンヘン、ヘス・シュトラーセ 30

1888年2月16日

 親愛なる友へ

あなたの筆跡を再度拝見し、3頁半(2)におよぶ手紙とそれに続いてフラウ・フランツの豪華な花の葉書をいただき心強くなりました。ネアブラムシ問題に関して、彼らは完全におかしいのです。何年か前、無害なカーネーションの切り株二本をボーゼン(実に見事に成長していました)からベルヒテスガーデンに移植しようとしましたが、バヴァリア国境では泥棒か人殺しのように扱われました。花はザルツブルクの親切な御者によってオーストリア領まで連れ戻されました。議論のあげく(わたしはもちろん一歩も後に引きませんでした)花はボーゼンの検疫証明付きで戻ってきましたが、乱暴に扱われてねじれ、無価値になったあげくに、約10グルデンの費用がかかりました。意地悪で意味のない税務です。フラウ・フランツの親切がこんな報いを受けたと思うと情けないです。

さてあなたのすてきなお手紙感謝します。あなたの質問には回答が愉快でなくてもわたしは喜んで答えます。ハインリッヒの状態では消極的な計画しか立てられません。あり得ない事柄は分かっております。たとえば、夏のリーズライも、冬のベルリン帰省もありえません。この季節はすべて、好ましい環境がもたらしてくれるかもしれない回復の「強化」に費やされます。この病気の回復は遅々として進みません。どちらにしても、ハインリッヒは北の冬の危険を冒せません。夏がしてくれると願ったことを台無しにします。こちらの医師だけでなく、関心を持ち続けてくださっているライプツィッヒやベルリンのお医者さんの意見です。ですから見通しはずいぶん暗いのです。ハインリッヒの右足は捻れて硬直しているために安楽椅子に座ることもできず、彼は五ヶ月間寝たきりです。実際の痛みや不便もさることながら、生活の単調さはハインリッヒのように陽気で元気な人には耐え難いものです。雅歌作者の戒めにもかかわらず、彼は敏捷で疲れを知らぬ「足をよみしたもう」(31)のです。この精神的不活発も。これで不機嫌にならない人、絶望的にならない人がいるでしょうか。この人がすっかり落魄している二人の暗い時間の記述は差し控えましょう。

それでも悲惨の中にも明るい瞬間があります。ハインリッヒの肉体的条件が許す限り、喜びや気晴らしがあると気分が良いのです。たとえば、彼はたまにわたしが三部屋先で弾く小曲を――彼にはたまらなく良いみたいです――聴くことがあります。最近のバッハの巻(4)には大喜びでした。コントラアルト(5)の最後のアリア、とくに天国のすみかの愛らしい詩的な情景のある、「安息を見出したるところ」はいつも新たに魅了されました。その前の巻のカンタータ「さあエルサレムに行こう」(6)は美しく感動的でした。わたしたちのこのバッハは何という予言者で、何という詩人なのでしょう。バイブルの韻文はすべて彼には絵画であり、完全な挿話なのです。彼を知れば知るほど、常に新鮮な驚きです。



3月6日

親愛なる友、すでに古くなったので、わたしはケースから胎児の手紙を取り出すのは恥ずかしいのです。それでも削除する気にはなれません。なぐり書きのできるときの不明瞭な手紙をつなぎ合わせて満足している事実から、わたしがどれほど束縛されているか認識して頂けると思ったからです。あなたの貴重なお手紙はもっと早い返事に値するものですし、その気にさせるものですが、あいにくわたしは完全に拘束されています。わたしはかってない惨めな日を送っていますので、熱意は冷め、思考が乱れました。長い闘病と看護が患者と看護人双方を消耗させ、麻痺させるか信じられないでしょう。受け取った人が書き手の状態がわからない時には、どれだけの努力が伝達に要するかも信じられないでしょう。――さらにあなたは分かるはずもありません。あなたがご親切にノイヴィッテルスバッハに来られたときは全般に比較的穏やかでした。これでハインリッヒの病気は六ヶ月になります。――痛みはさておき、本当の病気なのです。あなたは外の生活と友人関係があるかと訊かれました。思わず笑ってしまいました。だってわたしたちはフロレスタン(7)のように孤独なのです。でも文字通りではありあません。フィードラー博士(8)がいます。素晴らしい方で、稀にみる立派な男性です。アイデアに富み、繊細にして高潔であり、非常な思いやりが態度にでています。この方に知り合えたのは幸運でした。それから、彼の奥さんがいます。聡明で親切な女性ですが、彼女のワーグナー崇拝が親密な関係の障害になっています。口論は絶えないのですが、レヴィ(9)は誰でも好きになる人です。彼はまっすぐで純粋な人ですから、この性質があればほとんどのことは我慢できます。彼は異端者を追跡するイエズス会員みたいな人で、唯一の救済の方法をずっとわたしに説教してきました。抵抗できないと思われるからでしょう。狂信者はいつもあわれな女につけこんできます。わたしは彼の一撃を受け流し、自分を守っていますので、仲良く名誉ある反目状態に落ち着きました。彼の優れた音感にもかかわらず、どのようにしてレヴィが多くの粗野な性質の犠牲になったのかはわたしには謎です。彼のワーグナー崇拝はそれほどでもありません。彼は神の前でひれふしたい一人です。それでも、普通は鋭い判断力も間違っている副次的な問題は多々あります。彼の無条件のワーグナー傾倒、パルシファルやその他の作品の弱点に対する鈍感さは理解しがたいものです。ええ、わたしが彼の交響曲(10)を実に無意味だと罵倒したときには彼は庇おうとはしませんでした。

わたしの「外出」がまれで、間隔が離れているので、わたしはこの冬にはほとんど何も聴いていません。12 月の中旬以降、わたしは医師の度々の忠告にもかかわらず、一晩も病室を出たことはありません。愛するハインツを抱えながら、それも夜に、自分だけの楽しみを考える人が何処にいるでしょうか。夜、彼はまったくわたしに頼っていますので、彼に本を読んできかしたり、励ましたりしています。いつだったか、好奇心からツェルナーのファウスト(11)を見に外出しました。もちろん、芸術的観点からすれば、化け物みたいで、信じがたい企画です。浅くて無味乾燥な中にも時折光る才能がありました。グレートヘンの墓の描写、母親が首を振る場面はぞっとするものでした。乞食の歌は魅力的でわたしはそれを書き写しました。ファウストの人物描写は終始さえないものでした。――そうなるに決まっています。天からの黄金のようなこの歌詞に音楽的装飾に値するものを創造できる人が何処にいましょうか。それにそんな余計なものを望む人がいるでしょうか。ハンスリックが指摘したように、この作品には無限旋律がほとんどありませんでした。ワーグナー風というよりはシューマン風で、例外は恋の場面です。フィドゥルが当然恍惚となり、なかば病的に興奮しました。愛の情熱の描写でワーグナーの伝統から逸脱しようという気概を持った人はいませんから。ワーグナーの影響のもっとも悪性の結果の一つは、新鮮で無邪気な肉欲の観念を放棄して、聴衆にある種のやましい気を起こさせる究極の欲望の官能的で重苦しい雰囲気を求めることです。つまりいたたまれなくという感じです。

哀れなリーズライの借り手を見つけるために努力してくださることを二人とも深く感謝します。わたしは見取り図を入れますので、ゴンペルツ教授に(フロイライン・ベッテルハイム(12)が結婚した方でなかったですか)渡して頂けませんでしょうか。この家を借りることを真面目に検討して頂けるなら、もちろん喜んで情報を提供します。ベッドとベッド枠八つが完全にそろっており、家賃は40ポンドにしましたことをお伝えください。フラウ・フランツの心遣いには感激しましたが、美的感性は手の届かない贅沢です。病気というものはすごくお金が要るものです。

今年の夏お会いして一緒に宿泊する希望を持っています。できるだけ乾燥した気候を選ぶとしたら、スイスかもしれません。そこでしたらあなたの本拠地に選べますね。そう期待したいものです。

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