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サーシス マシュー・アーノルド サーシス 営みの場はすっかり変わった! ヒンクセイに同じものは何一つない。 街道沿いの屋敷に訪ねる人はなく シビラの名前が表札から消え 捩れた大煙突も屋根から消えた− 丘も変わってしまったろうか? どう、オックスフォードから小道まで 不案内でも迷わずに来られる! 昔のことだが、よくやって来たものだ − サーシスと一緒に。サーシスがいた。 チャイルドワス農場の脇の小道はない? 小高い森を抜けると、頂上の楡の樹が 夕日の炎に染まる尾根に立つはず。 眼下に広がるのは、イルスリー丘陵 渓谷、寂しい堰が三つ、テムズ川の賑わいだ。 今宵は冬でも暖かく、空気は湿りをおび 緑はないが、春のように穏やかだ! 心なごむ紅色が野や林に撒かれる! 夢見る尖塔があの美しい町に聳え 六月を待たずに町は美しい盛りだ。 いつも美しいこの町、今宵も美しい!− この暗い高地を散策して気付いたが 目をつむっても道を通れたのに この能力はすでに失われていた。 西空に映えてひときわ輝く楡の樹 彼と一緒に来たが、今はめったに来ない。 − 懐かしい!楡の樹は元気だろうか? 僕たちの大事な樹。「立っている限りは 我らのジプシー博士は生きている。 樹が無事なら、奴も野原で無事さ」。 今ではめったに訪問しなくなったが 昔は、畑、花、住人を何でも知り尽し 脱穀の時期に納屋や積み藁の傍らで 田舎の人々とは顔なじみになったし 二人で始めて羊飼いの笛を吹いてみた。 ああ何ということだ!随分と長い間 笛を吹かず、田園の休暇も取っていない! どうしても吹けない、どうしても暗い心で 世間に戻り、人の旅立ちを忘れたい。 サーシスは意志の人、旅立っていった。 彼は田園生活の素朴な喜びが大好きで 好きな友人もいたが、長くは続かない。 羊飼いと間抜けな羊と一緒に過ごす この野原にあの陰が降りてきたのだ。 彼が知り合った人の惨めな人生で 彼は元気をなくし、考え込んでしまった。 彼は去った。彼が吹く笛は耳障りで 幸福な土地の外で荒れ狂う嵐の音だった。 嵐の去るのを待てない。彼は死んだ。 六月初旬の嵐の朝のことだった。 バラが咲き、真夏になる日の前 一年で最初の開花が終わるころ 庭の小道や草深い土地には 去った五月の赤や白の花が残り 栗の花が撒き散らされていた― 僕はカッコーが旅立つ声を聞いた− 湿地から渦巻く庭の木々を通り 土砂降りの雨と激しい風が吹いた。 花は去り、花とともに僕も去った。 まもなく華やかな真夏の日の祭りだ。 まもなくマスク・カーネーションが登場し、ふくらむ まもなく見られる、金紛を撒き散らすキンギョソウ 気取らぬ小屋の匂いを放つナデシコ 芳しく咲き乱れる花の群れ 道沿いに遠くまで映えるバラ 開いた格子窓を飾るジャスミン 夢見る庭の樹、満月、白い宵の明星を 群れなして見上げる花。 彼は聞かない!忙しい彼は飛んでいった! 気にすることはない。来年には帰り るわしい春には彼と再会し 生垣は白く、シダはピンと張り 森の小道でブルーベルは揺れ 刈り取ったばかりの草は香る − だがサーティスとは会えなかった。 彼は戻り、滑らかな葦を切り 世界が遂に認める一節を吹くはず − 君を負かすのは時、コリドンでない! ああ!だがコリドンは今や無敵!− 仲間を亡くしたシシリーの羊飼いなら 誰かが笛を持って出かけ ビオーンの不運を悲しむ歌を吹くはず。 禁じられた渡し場の川を渡り プルトンの額の皴を緩ませ シシリーの大気で開いた初花を頭に飾る ペルセポネを歓喜で動かし オルフェウスのように死から呼び覚ますものを。 音曲でたやすくお恵みを得たければ ドーリアの羊飼いがペルセポネに歌えばよい! 彼女はシシリーの野原を踏みしめ 彼女はドーリアの神聖な湧き水を知り 彼女はエンナに生える白百合をすべて 顔を赤らめるバラをすべて知っていた。 彼女はドーリアの笛、ドーリアの調べを好んだ。 ああ、彼女は侘しいテムズを耳にする筈もなく! 彼女の足はカムナーのサクラソウに触れてはいない。 嘆きを歌い彼女に願っても無駄のはず! 世界は風に飛ばされ廃墟になるだろう でもサーシス!あの古巣に行き、僕はしばらく 悲嘆にくれ、我らの樹の丘を訪れたいのだ。 僕でなくて誰が探し回れるだろう? 僕はあの水仙が隠れている森も 僕はあのフィフィールドの木も 僕は川沿いの野原が育む 白いバイモも赤いバイモも エンシャムの上、サンドフォードの下 テムズ支流の小川の生垣も知り尽くしている。 僕は丘の斜面を知っている。僕でなくて誰が知る? 懐かしい丘の斜面での歓喜 白い花の咲く古木を飾る棘 遠くから見える密集したサクラソウ 尖って突き出た紫のランは 忘れられし時の冠を あの時以来持ち続けている。 若者が緑の堤を降りていき 小川のほとりで光るのは 花の盛にさびしいサクラソウ。 あの娘は?貸し船屋の入り口にいた娘さ ボートで混み合う水門の前で 船を通してくれた。あの時はワイタムの野を通り 赤いサクレダマや黄色いシモツケソウを見ながら かすめるツバメや軽快な水辺のハエをかわし 控えめなテムズの岸辺を漕いだね。 僕たちの船の小波で川草が浮き上がり 草刈人が鎌を休め、通過を眺めていた。 みんな死んだ。君も死んだ! うん、君は死んだ!僕の周囲にも 夜はじわじわと陰を落とし始めた。 夜のベイルが昼をそっと覆うが分かるし 夜の冷たい吐息が痩けた顎や 白髪交じりの髪に忍び込むのを感じる。 僕は夜の軽やかな指がそろそろと 瞬間的な動作に触れるのを感じる − 朝の露を見に行くも、足は遅くなり 新しい感動にも心は弾まなくなり 挫けると、希望を早く取り戻せない。 今では長く見える道も、快活な青年の 未熟な目には短く見えたものだった。 今では曇り空に高く聳える山頂 今では真理の玉座が存在する山頂も 人生の朝には明るく輝く山頂だった。 打ち砕かれた世界の不破の砦が その城壁をさらに高くした。 世の中の騒ぎは次第に奇妙で空疎になり 君の休息の魔力が現実味を帯びて接近し 僕は友の訪問のように夜を受け入れる。 シーッ!静かな高台に声がする! ごらん、ほの暗い丘の斜面から家路に向かう オクスフォードの狩猟の連中さ 今でも馬に乗り、陽気にしゃべっている! バークシャー犬を連れて狩をしてきたのだ。 さあ、ではあの広い野原を越えて 飛んで行くよ!− 着いた!ごらん オレンジ色とすみれ色の黄昏の空を 華やかな彩の夕陽を浴びて 人気のない尾根に独り、あの樹が、あの樹が! 幸先いい!黄昏はベイルを下ろし 白い霧は這って藪から藪へと 西の空は色褪せ、空高くに星は瞬き 散在する農家からは灯が漏れる。 今晩はあの目標の樹に着けないが 幸先いい、いいぞ! 澄み切ったアルノの谷から聞きたまえ (君の瞼はこの大地を忘れたから 満開の白いキョウチクトウの下で 朝も気付かずに閉じたままだろう) 聞いているかい?サーシス、僕らの樹はあそこだ!− ああ駄目だ!まったくイギリスの野原、この薄暗い高台ときたら! この白い野バラも霞に包まれて こんな孤独は天を指すあの樹には良くない。 あの樹は愉快な南の国へ逃げ出したよ! 今度はもう少し楽しい調子で 大いなる母の神聖な行列と一緒に (君ほど繊細で純粋な精神に 偉大なる母も出会っていないと思うよ) アペニン山脈を歩き回ろう。 君は永遠に歌い継がれる昔の歌を聴いている− プリュギアの王の暑い穀物畑で 命がけの作物に鎌を当て 若きダフニスは銀の声で 再び君に歌うリチェルセスの歌。 彼が飼うシシリーの羊たちは歌う 彼の羊、彼の不幸な恋、彼の失明 − 彼の周囲から、飛び降りた絶壁から 天に向けて鳴り響いた声 そして黄金の空の不可思議を。 君はそこで死に、僕をここに この野に残した!だが僕は絶望しない。 僕は絶望しないで見つけ出す イギリスの穏やかな天空の下で 西の空を背にした孤高の樹を。 まだ、まだ、この斜面に、きっと 僕らのジプシー博士はまだ棲んでいるはず! 小屋の羊が干草をむしる野原も アネモネが五月まで咲き誇る森も 放浪者も彼を知っている。僕だって会えるさ! 彼が求めるのは移ろいやすく 輝きを恥らう光。僕もそうだ。 これは家柄や資産でも 地位、名誉、媚びる仲間でも 世界の市場で売買されるものでもない− だが滑りやすい時期が訪れたので まだ探し疲れてはいない。 彼は人の注目から逃れ 独りで去った。きっと独りで住んでいる。 心の趣くままに暮らしている。 サーシス、君も探検に加わったのだ。 君はほんのちょっと僕と山歩きをした! 何もなかった。あるのはこの楽しい探検だけ 君が弱っていれば、元気を取り戻せたし 君が悩んでいれば、安らぎになった。 このカムナーの素朴な大地 樹木茂るハースト、農場、静かな野原 君は陽気な青春時代に来たし 君は元気な盛りだった! そして今なお、あの場所には効果があるよ。 たしかに君の田園の笛の音楽が 楽しい素朴な調子を保てなかった。 調子は早く狂ってしまい、争いに暮れる 嘆きの嵐のような調子を覚えてしまい 使い過ぎて笛は傷み、君の喉は疲れた− 笛は衰弱し、君は沈黙した! 君には僕らの光を見る目があり 君を気遣う人と長くとどまれず 君の足は再びさ迷い歩き 人家を離れ、一日中歩き通した。 今ではめったに訪問しなくなったが! 都会の騒音の中、昔の君のいた所のように サーシス、僕の家に羊の鈴はとどかない。 大都会の不愉快な騒音を横切り 君の囁きをときどき届けておくれ 疲労と恐怖を追い払っておくれ。 君はなんて弱いのだ!僕は死ぬほど歩いたよ。 歩くのだ!僕らが求めた光はまだ輝いている。 証拠が欲しい?僕らの樹は頂上にあり 僕らの博士は丘の斜面を旅している。 マシュー・アーノルド
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マシュー・アーノルド
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桜と日本人ですね。なぜか、三島由紀夫を思...



全訳ありがとうございます。
アーノルドの友人、クラフという人物がどんな人で、アーノルドとどのような共通点があり、どこに相容れないところがあったのか、などが気にかかります。
「ドーヴァー・ビーチ」の中に出てくる信仰の問題、ヴィクトリア時代の特徴、「ドーヴァー・ビーチ」の最後にある比喩が何を表しているのか、問題山積です。
2009/2/27(金) 午後 9:26 [ otheR wind ]
クラフ(January 1, 1819 – November 13, 1861)は全く知りませんでした。私のは謎の人物ですが、手っ取り早く解説を読むのではなく、彼の詩をブログで紹介していこうと思います。ヨーロッパの革命に影響された人物はいくらもいるのでしょうが、彼もその一人かなと思います。ただ彼はもちろんバイロンのようにフランス革命ではなく、1848年の革命だろうと思います。ナイチンゲールとも近かったそうです。没年からクリミア戦争には関係していないと思います。
2009/2/27(金) 午後 10:29 [ fminorop34 ]
コメント有難うございました。マシュー・アーノルドの詩をもう一度見直そうとしましたら、なんと題名が間違えていました。「ドーバー海岸」でした。修正しておきます。 いい加減です。
2009/2/28(土) 午前 0:24 [ fminorop34 ]
もう一度訳し直します。有難うございました。
2009/2/28(土) 午前 0:42 [ fminorop34 ]