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ローマ人は、新年を新春を祝うにふさわしい春分の日にし、これをマルスの月とした。英語の March はこれに由来するというのは作り話ではない。いずこの文化でも戦の神は崇拝されるが、ローマでも一番人気は軍神マルスであるから、この一月の名前をマルスの月にしたという説もなるほどと思われる。この新年は星座では牡羊座(アリエス)であるから、ギリシャ神話の戦の神アレスのローマ神話版であるマルスが一月の名前になった、という説もなるほどと思われる。今週あたり風が強くて、勇ましい軍神の月の初めにふさわしい季節のようでもある。ヨーロッパでもこの月は風が強いのだろうか、風に関する伝承が多い。
しかしながらギリシャ・ローマ神話の神様たちといえば、私には色恋沙汰の話しか記憶にない。連中は後世の画家にヌードを描く口実を提供したのみである。マルスはヴィーナスと密通しており、お話としてはアレスのアフロディーテとの不倫の話と対応している。ただし両者とも戦争の原因を作ることはあっても、どれだけ勝利に貢献したのか。アレスがトロイ戦争でどちらに味方したのか覚えていないが、彼の不倫の相手アフロディーテはトロイ側であるから、トロイについたのか。もしそうだとしたら、何の御利益がアレスにあったのか、どうも性格のはっきりしない神様である。
マルスもただヴィーナスの相手の一人として美術に登場するのみである。いろいろあるようだが、私が一番面白くて気に入っているのは、ロンドンのナショナル・ギャラリーにあるボッティチェリの「ヴィーナスとマルス」の絵である。ヴィーナスを口説いている恋の勝利者軍神マルスではなく、しらけきったヴィーナスの前で、自分の体力に不相応な重い甲冑を脱ぎすて、疲れ果てて眠りこけている柔なマルスである。
ローマ軍はマルスの神殿で勝利を祈願して出征したそうだ。このマルスは神殿に収まっていたからローマの大帝国が成立したのだろう。こんなのが行軍に参加していたら、途中で行き倒れるか、足手まといになったことは間違いない。ボッティチェリの絵でこれほどユーモラスな絵はないように思う.
後記:これは雄羊(アリエス)とアレスを同一視したある著者のエッセイの記憶をたどって書いたものである。これを確かめようとしたが、ブリタニカにもOEDにもそんなことは書いていない。アリエス=アレスというのは単なる連想であろうか。
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