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最近よそのブログを訪問して、日本語にはない名詞の性(gender)にこだわり、的はずれなコメントを書いた。言い訳がましくなるが、これには私の個人的な理由がある。
私には度々ゲルマン語圏に出張したことがある友人がいる。ずいぶん以前になるが、彼はディナーに招待され、「ネズミの嫁入り」の話を英語で話した。この話は私の世代では知られているとおもうが、ブログ世代の人でひょっとしたら知らない人がいるかもしれないので簡単に紹介しておこう。
<<昔あるところにネズミがいました。ネズミには適齢期の娘がいたので、ネズミは娘を世界一強い婿さんと結婚させたいと思っていた。彼は太陽が一番強いと思い、太陽に娘をもらってくれといったが、太陽は雲にはかなわぬといった。そこで雲に娘をもらってくれといったが、雲は風にはかなわぬといった。そこで風に娘をもらってくれといったが、壁にはかなわぬと言った。そこで壁に娘をもらってくれといったが、壁はネズミにはかなわぬといった。結局娘は隣のネズミにもらってもらったとさ。めでたし、めでたし。>>
ところがホストが言うには、「この国ではその話は翻訳不可能である。」あるいは「この国ではそんな話はそもそもありえない。」その理由はネズミの婿さん候補には女性名詞がある。
ちなみに暇人はバビロンを使って sun, cloud, wind, wall の4語をドイツ語、オランダ語、ロシア語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ヘブライ語で調べてみた。男性名詞は m、女性名詞は f 中性名詞は n で表記する。
* ドイツ語 Sonne (f )、 wolke( f )、 wind( m )、 wand (f)
* ロシア語 Солнце (n) 、туча (f) 、ветер(m)、 стена (f)
* スペイン語 sol (m) nube (f)、viento (m) 、muro (m)
* イタリア語 sole (m) 、 nube (f) 、 vento (m) 、 muro (m)
* ポルトガル語 sol (?) 、nuvem (m) 、vento (m)、muro (m)
* ヘブライ語 שמש (nmf) 、 צל (nm)、 עיקום (nm)、 מחיצה (nf)
* オランダ語 zon (de) 、wolk (de)、wind (de)、 wand (de)
という結論で、この話の翻訳に関してドイツ語、ロシア語、スペイン語、イタリア語は失格であることが判明した。ポルトガル語は太陽 sol だけが分からなかった。私の検索能力不足か、辞書の不備である。ポルトガル語に関しては、ブラジルの人が日本には大勢いるし、本屋で辞書を立ち読みしてもよい。もし太陽が男性名詞であれば、この話はポルトガル語に翻訳することができる。
オランダ語はこの辞書では de と表記されており、男性名詞と女性名詞に共通な定冠詞らしい。ウェブの蘭英辞書に de と入力すると、the が出てくる。4語とも中性名詞ではないという情報しか得られなかった。これでは男性名詞か女性名詞か分からない。したがってバビロンの辞書では翻訳可能とも不可能とも結論は出なかったが、ドイツ語ときわめて類似しているので、女性名詞もあるのだろう。
ヘブライ語は文字化けしている。ただ字数だけは・の数と一致している。nmf とはどういう意味なのか分からない。お手上げである。
さいごに残されたのは、フランス語であるが、なんと4語とも男性名詞であった。
le soleil、 le nuage、 le vent 、le mur
なのである。
従ってフランス語ではこの「ネズミの嫁入り」は翻訳可能である。もちろん私は翻訳できるというわけではないが、「昔あるところに〜がいました。」と「めでたし、めでたし」のフランス語だけは他の辞書で調べることができた。
Il etait une fois un rat.
で始まり、
Ils vecurent heureux jusqu'a la fin de leurs jours.
で自然な訳が出来る。
もちろん英語では翻訳可能である。
Once upon a time there lived a rat.
で始まり、
They lived happily ever after.
で締めくくるわけである。
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