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バイロイト第五日
中休み
アンソニー・トマシーニ
ニューヨーク・タイムス 7月31日
バイロイト ― ワグナーの「指輪」のチクルスには二日の休日がある。昨晩、「ジークフリート」と「神々の黄昏」の合間の休みには、私が音楽のことは一切忘れて、街のカフェで何本もグラスを傾けて地元のピルスを味わっていだと思われるでしょう。
いや私は、洗練されたピアニスト、アンドラーシュ・シフのベートーベンの三曲のソナタのリサイタルを聴きに行ったのです。この選択はよかった。ベートーベンをかくも優雅に弾かれるのを聴くと元気が回復するというものである。私はブリュンヒルデ、彼女の馬、神々とともに、今晩焼身自殺する覚悟が出来た。
このリサイタルの魅力は、バイロイトの歴史地区にある、辺境泊のオペラ劇場で音楽が聴けることである。この建物は1744年にフリードリッヒ大王の姉である、大変教養のある辺境伯夫人ウィルヘルミーネの依頼で建てられた。便利な「レッツ・ゴー・ジャーマニー」本によれば、彼女は英国の王位継承者との結婚の話もあって進行しかけた。だが、両親はブランデンブルク−バイロイト辺境伯と結婚すべきとした。芸術的才能のあるウィルヘルミーネからすれば、バイロイトは文化的僻地であった。そこで彼女は入念に装飾を施されたバロック様式のオペラ劇場を建てた。彼女のオペラ作品も上演された。馬蹄形のリングになった聴衆席はわずか600であるが、完成時にはドイツ最大のオペラ舞台を誇ったという。
この劇場は辺境泊オペラ劇場を訪問したとき、彼の音楽祭の候補地を調べていたワグナーの目に留まった。高くて、奥行きがある舞台に、彼は興奮した。この劇場で音楽祭を催すことかんがえたが、いかんせん聴衆席が狭すぎる。ロココ風の装飾、金色の装飾、壁画は今なお見るべき物がある。そしてワグナーは遠いが、文化的なこの町バイロイトを音楽祭に理想的な土地としたのである。
このオペラ劇場はベートーベン・プログラムを演奏するには素晴らしく想像をかきたてる場となった。シフ氏は32曲のピアノソナタ全曲の録音を完成させているが、彼はこの夏にワイマールの特別企画の芸術祭で全曲をシリーズで演奏する予定である。この芸術祭はワグナーのひしゃごになたるニケ・ワグナーが取り仕切ることになっている。バイロイト音楽差は、このシフ氏の演奏を、彼のシリーズ演奏の予告番組として位置づけたのである。彼はワイマールで一定期間滞在して演奏するのである。ミズ・ワグナーはこのプログラムを紹介し、ワイマールとバイロイトの接点およびワグナーとリスト(彼女のひいお祖父さん)について、ワグナーのベートーベンへの傾倒を15分ばかり話をした。
シフ氏は3曲の幻想的なベートーベンの思弁的な作品を演奏した。2楽章の不思議なソナタ、作品27ホ短調、心にしみいるようだが、元気のあるイ調の28番のソナタ、おそろしいロ調のソナタ29番(ハンマークラヴィーア)を演奏した。演奏は柔軟で、洞察力に富み、明瞭であった。叙情的で伸びやかであるが、ベートーベンの鋭いリズムとメロディの変化に気を付けていた。シフ氏は、世界でもっとも素晴らしいバッハの演奏家の一人であるが、後期のソナタの複雑な対位法の曲の微妙な表現も自然であった。
「ほとんど歌唱不能な主役の「ジークフリート」と最後のフーガはほとんど演奏不可能な「ハンマークラヴィーア」を連日聞けるのはすごいことことである。ベートーベンもワグナーも実際の挑戦を考えずに未来の音楽をかいた。
「指輪」を私の近くで聞いていた人が何人かいるのに気づいた。休日の日にさらに音楽を聴こうというワグナー狂は私一人ではなかった。私は演奏会の後、この一週間で始めて涼しいマクシミリアン・シュトラーセをぶらぶら歩き、私のホテルのバーに立ち寄り、気分よくピルスを飲んだ。今夜は「神々の黄昏」、火曜日には、バイロイトで私の最後の一日、「トリスタンとイゾルデ」という「小品」である。
写真は辺境伯オペラ劇場である。
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