|
東と西の物語 東は東、西は西、両者が互いにまみえるのは 天と地が神の座す最後の審判に出席する時。 地の果てから来ようとも偉大な二人が対峙する時は 東も西も国境も家系も育ちも血統もない。 カマールは二十人の手下と国境荒しに出かけ 大佐の自慢の雌馬を盗み出した。 夜が明ける前に厩舎の扉から引き出し カーキンをはずして遠くへ駆けていった。 しばらくして斥候隊を連れた大佐の息子が言った 「カマールの居場所を知っているのはおらんか?」 しばらくしてレサルダールの息子のモハメッド・カーンが言った 「朝の霧の方角を調べれば、奴の見張りの居所は分かりますぜ。 夕暮れにアバザイを荒らし――明け方にはボネイアに行きます。 ブクロー砦をとおり、隠れ家で飯を食うにちがいありませんぜ ブクロー砦まで鳥のように駆けなされば 神のお恵みで、奴がタング・オブ・ジャガイに着くまでに捕まえられましょう だが奴がタング・オブ・ジャガイを越えていたら、すぐに戻ってくるがええです この恐い平原にはカマールの手下がどこにもいますぜ。 左手には岩、右手には岩、間には低く傾いた棘がありやす 人間が見えないときは、撃鉄を引く音がしますぜ」。 大佐の息子は馬に乗った、馬は若造の灰色の馬 膨らんだ口は鐘のよう、心は地獄、思いは絞首台。 大佐の息子は砦に着き、食事をして行けと言われたが―― 国境の盗賊を追いかけるので食事もそこそこにした。 彼はブクロー砦を発ち、できる限り速く馬を飛ばした。 ついに彼はタング・オブ・ジャガイの水路で雌馬を見付け ついに彼はカマールを乗せた雌馬を見つけ そして彼は雌馬の白い目が見える距離で、ピストルを鳴らした。 彼は一度、二度と発砲したが、弾はうなりながら外れた。 「撃ち方は兵隊みたいだが」とカマールはいった。「乗馬も見せてもらおうか?」 タング・オブ・ジャガイも越えたし、砂の悪魔は吹き荒れ 灰色馬は十歳の雄鹿のように逃げるが、雌馬は雌鹿のよう。 灰色馬は馬銜傾け、頭を上に上げるが 赤い雌馬は馬銜棒とじゃれ、乙女が手袋と戯れるよう。 左手には岩、右手には岩、間には低く傾いた棘があり 人が見えないのに、撃鉄を引く音を三度聞いた。 連中は空から低い月を追い払い、蹄は曙を呼び出す 灰色馬は手負いの牡牛のようだが、雌馬は生まれたての雌鹿のよう。 灰色馬は水路で崩れ――彼はドスーンと落馬し カマールは赤い雌馬を引き戻し、騎手を引っ張り出した。 カマールは手のピストルを鳴らし――争う余地はほとんどない 「わしの情けだ」とかマールは言った。「随分長く乗ったからな。 二十マイルは岩一つも、木立もない どこにも膝にライフルを立てた手下が一人はいる。 もしもわしが下げている手綱の手を上げたなら 逃げ足速いジャッカルどもが並んで大騒ぎだ。 今上げている頭を下ろしたら 上の凧も落ちるまで口笛を吹くが、吐きそうな声をだすだろう」 大佐の息子は静かに答えた――「鳥や獣に施すがよかろうが 宴会の前に腐った肉を食いにくる人を勘定してみたらいい。 千の剣が次々に僕の骨を持ち去ったとしよう 多分ジャッカル一匹の肉の値段は泥棒では払えまい。 刈り取り前の穀物を馬に、貯蔵した穀物を手下に食べさせ 厩の屋根藁は家畜を殺す火に使われる。 だがもし公正な値段だとお考えなら――仲間は食事を待つ 猟犬はジャッカルに似ている――吠え、付け回し、呼び出す! 高い値段をお考えなら、子牛、金、干草で お父さんの雌馬をくれないか、僕はきっと戻ってくる!」 カマールは彼の手を握り、彼を立たせた。 カマール言った。「狼と灰色狼は犬の話はしない わしのせいで実際苦しいのなら、わしも恥ずかしい。 どんな修羅場をくぐると、死を迎えながら無駄口が叩けるのかね?」 大佐の息子はあっさり答えた。「僕は一族の血筋にこだわっている。 お父さんの贈り物として雌馬を受けてくれ――雌馬は真の男を乗せたのだ!」 赤い雌馬は大佐の息子に近寄り、彼の息をすり寄せる 「二人とも大物だが、雌馬には若い方がいいらしいな」 馬泥棒からの持参金としてトルコ石の象嵌の手綱 刺繍入りの鞍と鞍敷きと銀の鐙を雌馬に持たせよう」。 大佐の息子は銃口の部分を握って拳銃を取り出し 「あなたは敵から拳銃を受け取ったが、友人を仲間に入れますか?」 「贈り物には贈り物を」カマールは真面目に言った。「手足には手足を」 お前さんの父親はお前さんをよこした。わしは息子を送ることにしよう!」 彼は口笛吹いて一人息子を呼びつけた。息子は山の頂上から落ち―― 彼は春の牡鹿のように草を踏み、休める槍であった。 「お前のご主人だ」とカマールは言った。彼が斥候隊を指揮し 路肩を行くときは盾として左側を行かなければならぬ 死かわしが結びつきを断つまで、野営のときも食事や寝るときも お前の命は彼の命――知恵で彼を守るのがお前の宿命だ。 お前はだから白い女王の肉を食べねばならぬ。女王の敵はお前の敵 お前は国境線の治安のため父親の砦を攻撃せねばならぬ お前は部下を鍛え、権力への道を切り開かなければならぬ―― おそらく、わしがペシャワールで吊るされる時、お前はレサルダールに昇進していよう。 二人は互いに目を見て互いの誠を確かめ合い 二人はパンと塩で義兄弟の契りを結んだ。 カイバルの短剣の柄と奇妙な名前の神にかけ 火と刈った芝で義兄弟の契りを結んだ。 大佐の息子は雌馬とカマールの息子は灰色馬に乗り 独りで旅立ったブクロー砦に二人に帰還した。 守備隊に寄ると二十本の刀がさっと抜かれた―― 全員が山岳部族と確執していた。 「もうよい!もうよい!」と大佐の息子は言った。「鋼鉄を腰に納めよ!」 お前たちは昨晩まで国境の盗賊を攻撃してきたが――その男は今晩から斥候隊員だ。 東は東、西は西、両者が互いにまみえるのは 天と地が神の座す最後の審判に出席する時。 地の果てから来ようとも偉大な二人が対峙する時は 東も西も国境も家系も育ちも血統もない。 ラドヤード・キプリング(1865−1936)
|
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
2009年03月15日
全1ページ
[1]
|
キプリングの「東と西の物語」の最後の場面である。カマールと大佐の息子の二人の偉大な人物の結末は私が想像していた以上のものであった。あくまでキプリングの創作であるが、カマールの決断は東に対するあらたな伝説を生みかねない気がした。 III “No talk shall be of dogs,” said he, “when wolf and gray wolf meet. May I eat dirt if thou hast hurt of me in deed or breath; What dam of lances brought thee forth to jest at the dawn with Death?” Lightly answered the Colonel’s son: “I hold by the blood of my clan: Take up the mare for my father’s gift—by God, she has carried a man!” The red mare ran to the Colonel’s son, and nuzzled against his breast, “We be two strong men,” said Kamal then, “but she loveth the younger best. So she shall go with a lifter’s dower, my turquoise-studded rein, My broidered saddle and saddle-cloth, and silver stirrups twain.” The Colonel’s son a pistol drew and held it muzzle-end, “Ye have taken the one from a foe,” said he; “will ye take the mate from a friend?” “A gift for a gift,” said Kamal straight; “a limb for the risk of a limb. Thy father has sent his son to me, I ’ll send my son to him!” With that he whistled his only son, that dropped from a mountain-crest— He trod the ling like a buck in spring, and he looked like a lance in rest. “Now here is thy master,” Kamal said, “who leads a troop of the Guides, And thou must ride at his left side as shield on shoulder rides. Till Death or I cut loose the tie, at camp and board and bed, Thy life is his—thy fate it is to guard him with thy head. So thou must eat the White Queen’s meat, and all her foes are thine, And thou must harry thy father’s hold for the peace of the border-line. And thou must make a trooper tough and hack thy way to power— Belike they will raise thee to Ressaldar when I am hanged in Peshawur.” They have taken the Oath of the Brother-in-Blood on leavened bread and salt: They have taken the Oath of the Brother-in-Blood on fire and fresh-cut sod, On the hilt and the haft of the Khyber knife, and the Wondrous Names of God. The Colonel’s son he rides the mare and Kamal’s boy the dun, And two have come back to Fort Bukloh where there went forth but one. And when they drew to the Quarter-Guard, full twenty swords flew clear— There was not a man but carried his feud with the blood of the mountaineer. “Ha’ done! ha’ done!” said the Colonel’s son. “Put up the steel at your sides! Last night ye had struck at a Border thief—to-night ’t is a man of the Guides!” Till Earth and Sky stand presently at God’s great Judgment Seat; But there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth, When two strong men stand face to face, tho’ they come from the ends of the earth. 東と西の物語 その三 カマール言った。「狼と灰色狼は犬の話はしない わしのせいで実際苦しいのなら、わしも恥ずかしい。 どんな修羅場をくぐると、死を迎えながら無駄口が叩けるのかね?」 大佐の息子はあっさり答えた。「僕は一族の血筋にこだわっている。 お父さんの贈り物として雌馬を受けてくれ――雌馬は真の男を乗せたのだ!」 赤い雌馬は大佐の息子に近寄り、彼の息をすり寄せる 「二人とも大物だが、雌馬には若い方がいいらしいな」 馬泥棒からの持参金としてトルコ石の象嵌の手綱 刺繍入りの鞍と鞍敷きと銀の鐙を雌馬に持たせよう」。 大佐の息子は銃口の部分を握って拳銃を取り出し 「あなたは敵から拳銃を受け取ったが、友人を仲間に入れますか?」 「贈り物には贈り物を」カマールは真面目に言った。「手足には手足を」 お前さんの父親はお前さんをよこした。わしは息子を送ることにしよう!」 彼は口笛吹いて一人息子を呼びつけた。息子は山の頂上から落ち―― 彼は春の牡鹿のように草を踏み、休める槍であった。 「お前のご主人だ」とカマールは言った。彼が斥候隊を指揮し 路肩を行くときは盾として左側を行かなければならぬ 死かわしが結びつきを立つまで、野営のときも食事や寝るときも お前の命は彼の命――知恵で彼を守るのがお前の宿命だ。 お前はだから白い女王の肉を食べねばならぬ。女王の敵はお前の敵 お前は国境線の治安のため父親の砦を攻撃せねばならぬ お前は部下を鍛え、権力への道を切り開かなければならぬ―― おそらく、わしがペシャワールで吊るされる時、お前はレサルダールに昇進していよう。 二人は互いに目を見て互いの誠を確かめ合い 二人はパンと塩で義兄弟の契りを結んだ。 カイバルの短剣の柄と奇妙な名前の神にかけ 火と刈った芝で義兄弟の契りを結んだ。 大佐の息子は雌馬と今は追跡者のカマールの息子と出発し 独りで旅立ったブクロー砦に二人に帰還した。 守備隊に寄ると二十本の刀がさっと抜かれた―― 全員が山岳部族と確執していた。 「もうよい!もうよい!」と大佐の息子は言った。「鋼鉄を腰に納めよ!」 お前たちは昨晩まで国境の盗賊を攻撃してきたが――その男は今晩から斥候隊員だ。 東は東、西は西、両者が互いに会まみえるのは 天と地が神の座す最後の審判に出席する時。 地の果てから来ようとも偉大な二人が対峙する時は 東も西も国境も家系も育ちも血統もない。 ラドヤード・キップリング
|
全1ページ
[1]

桜と日本人ですね。なぜか、三島由紀夫を思...



