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183.エリーザベト・フォン・ヘルツォーゲンベルクからブラームスへ ベルリン、1886年2月3日 親愛なる友 昨日は、前の晩(1)はなんと天国的だったのでしょうと書く予定でしたが、そう書くわけにもいかなくなりました。 ご承知の通り、フィルハーモニーは良いオーケストラです。あの交響曲の演奏は良くなく、ただ完璧というだけです。ヨアヒムはリハーサルでは大成功でした。 彼の好意あふれる情熱は見ていて気持ちの良いものでした。彼は何事も見逃しませんし、どんな細部にも注意を払いました。彼は自分のフィドゥルを取って、自 分の望むものを示しました。リハーサルが酷なぐらいに長引きましたが、団員をなだめてさらに努力させ、我慢させる術も心得ていました。曲が明るく透明に なっていくのを感じました。聴くたびに美しい楽節はまばゆいばかりに輝きました。あなたがそこに来てわたしたちの表情を見て、一緒に聴かれたらと思いまし た。わたしの心は、長らく縛られていましたが、ついに自由になりました。曲は言ってみれば、この間ずっと私の肉体に訴えていました。気分を晴らし、共鳴 し、慰めてくれるものは何もありませんでした。でもこれで気が晴れました。偉大な印象と美を自由に表現できる権利の恩恵を確認しました。いいですか、わた しは自分の心を解放してくれたことであなたに格別感謝しています。 それでも、わたしの父がこの曲を聴けなかったことを思い、ため息をついた時はあります。彼はとくにあなたの音楽が好きでした。彼はいつもわたしに「野のわびしさ」と「ヒースの野に(??ber die Heide hallet mein Schritt )」(2)そ の他諸々を聴かしてくれと言いました。この愛すべき老人が聴くたびに若返るのを見たら、あなたは喜ばれたはずです。わたしが話題にしているのはこの話では なく、あなたの素晴らしい交響曲でしたね。わたしたちは非常に美しいものを期待していたのですが、効果は圧倒的で、想像を超えるものでした。わたしはアン ダンテで感動し涙を(幸せな涙)流しました。最初の力強い擬似フリージア調の復帰に続くホ音の持続の仕方、嬰ト調の穏やかな登場、最後に愛らしいホ短調は遠くのオルガン(3)の ように――これと比較できるオーケストラ効果をわたしは知りません――響きました。わたしはこの楽章を生きているときも死後も伴侶とするでしょう。これは 最初から最後まですべて旋律で、進行するほど美しくなります。夕暮れの繊細な景色の中の散歩するようです。色が深まり、光り輝く紅は紫色になります。わた したちはホ長調の第二主題の復帰(4)で 顔を見合わせ、わたしたちの心はあなたに感謝しました。なんとすべてが健全なのでしょう。その哀愁は純粋な泉から流れるものであり、良い意味で霊感を与え るものです。最近の傾向のように過剰でもなく、陶酔的でもありません。正しい心で聴くことができ、進んで魔術に身を任せられます。最後でドラムのロ音の二 打(5)はゾクゾクします。実際{楽譜挿入}に基づく楽節全体は繊細で美しく、{楽譜挿入}(6)への反対意見を取り下げます。それはあなたから出てきたからです。その他も見事です。スケルツォも驚きの連続です。この効果をすべて描写できる人がいるでしょうか。楽節、たとえば―― でも延々と続く例でうんざりさせてはいけません。わたしたちの努力が無駄ではなく、わたしたちが喜んで受け入れているというわたしの主張を確信したかったからです。わたしたちはライプツィッヒで――18日に会えるはずです――最愛のスコアを手にして、さらに良いことをすべて話せますか。ヨアヒムはわたしに気を使って、厳粛な約束をさせた上で二時間ほど貸してくれました。しかし食事の時間でしたので、返すまでに、第二楽章をヨハネス・レントゲンとトムスン(7)に聴かせる時間しかありませんでした。いつお会いする機会がありますか。フランクフルトの人たちが長いこと持っている二台のピアノのための編曲版を要求してもよいでしょうか。バルトが非常にわたしから学びたがっています。 バルトの話でバルギエル(8)を 思い出しました。彼はあなたの交響曲に夢中になっています。彼は完全に気が済んだはずです。心を縛っていた鉄のバンドは多分、鉄人ハインリッヒのそれのように二つに割れたはずです。彼はヨアヒムを抱きしめんばかりでした。――たしかにこの人は抱擁に値します。わたしはこんなことをする勇気がなくて残念でし た。彼の神聖な情熱には目を見張るものがありましたし、彼はあなたの音楽に心から傾倒していました。彼もオーケストラも最終楽章で興奮の極致に達し、間違いは一つも、効果が好ましくない瞬間も一つもありませんでした。交響曲全体でも間違った箇所はありませんでした。――新作では稀なことです。トロンボーン はホ長調を最高に演奏しました。フルートも愛らしい独白(9)を同様に演じました。とりわけ、演奏は明らかに一体性を生み出しましたが、この楽章にはもっとも賞賛さるべきことで、全体の堂々たる進行でフィナーレを構成し、「変奏」の丘と窪みは正しい比例で広い画面の中に納まっていました。そして、ヘル・グンプレヒト(10)はそれを有益で、学問的実験だと言っていました。どうして、反対だのに。 さてあなたは2月18日にライプツィッヒに来ますか。当てにしても良いのですか。ハインツは一日か二日ぐらいなら休暇が取れそうです。 さようなら。当のハインツからよろしくとのことです。彼は非常に良い作品を書いていてご機嫌です。ヨアンナ(11)からもよろしくとのことです。わたしたちの電報はあなたには届かないと思います。ヨアヒムから昨日伺ったのですが、あなたはケルン(12)にいるのですね。どうかお便りを下さい。全部埋められなくても便箋に書いてください。わたしはあなたが18日 にライプツィッヒに来るかどうかどうかを知りたいのです。それとわたしたちを多少とも好きなのでしょうか。わたしたちはめったに会わないし、お友達が多い ので、書き方を忘れたのではと思うことがあります。でもわたしたちはあなたの友情を維持したいのです。わたしたちにはぜひとも必要ですし、あなたもわたし たちの感情をずっとご存じです。 ビュルナーによろしく。彼のブルックナー病を直せましたか。彼はジフテリアのような疫病でした。 フリッチュの新聞(13)も実際信じられません。わたしがあなただったら、これ以上の賞賛を拒否します。 では今度は本当のさようなら。ヨアンナは言っています。「彼にわたしからのいい便りを送っておいて。」彼女は忠実な一人です。 わたしにも一言お便りを下さい。 忠実なるあなたのE.ヘルツォーゲンベルクより (1) ヨアヒムは2月1日フィルハーモニック・コンサートでホ短調交響曲を指揮し、最終楽章を変奏曲と呼ぶのが適切とし、パッサカリアの主題がプログラムに印刷された。 (2) 作品86の歌曲。 (3) 総譜の32ページ第3小節。 (4) 41ページ第2小節。 (5) 422ページ第7小節。 (6) 書簡176で指摘された不協和音。書簡集176。 (7) チェザール・トムスン(Cesar Thomson, 1857―)、バイオリニスト、指揮者、リュティッヒ(L??tich)と ブリュッセル(Brussels)の音楽院の教授。 (8) ヴォルデマール・バルギエル(Woldemar Bargiel, 1828-1897)、指揮者、フラウ・シューマンの異父兄弟。 (9) 総譜の90と88ページ。 (10) オットー・グンプレヒト(Otto Gumprecht, 1823―1900)、Nationalzeitung の音楽評論家。「ベルリンのハンスリック」といわれる。 (11) フラウ・レントゲン。 (12) ブラームスは2月9日のギュルツェニッツ・コンサートでホ短調交響曲と、「運命の歌」を指揮し、ニ短調コンチェルトを弾いた。 (14) Musikalische Wochenblatt。
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