ヘ短調作品34

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マシュー・アーノルド

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バッカナリア



夜が来た。野は静かだ。
昼は聞こえなかった
渇いた小川のせせらぎが
再び戻ってきた。
刈られた麦は野に置かれ
束も、荷車の鈴の音も
刈り取り人も、犬も沈黙した!
みな農場に戻り寝に就く。
この日の仕事は終わり
遅れた落ち穂拾いも家に戻った。
丘のタイムや
遅咲きの白い花や
生垣の白いバラ
スゲのミントから
昼の間は控えていた香りを
清らかな地平にまでもとどけと
夜の大気が一吹きする。
星を数えながら
丘の向こうの流れる空を見てごらん。
夜が来た。野は静かだ。

飛び跳ね、歩き回る
ピョンピョン、ウロウロ―
次々あらわれ、円になり
ピカピカ、グルグル―
緑の松の杖を陽気に
空高く放り上げ
白い肩ごしにゆるく
彼らの髪に浴びせる―
ご覧!野卑なマイナスたち
森から飛び出し
若者とバッカスの血は
荒れ狂う。

ごらん!静かな土地を
彼らは大騒ぎして通る―
新緑の塊を投げつけ
草を踏みつける。
ご褒美の花輪を
生垣から引きちぎる。
野原一面は
彼らの戯れの声。

羊飼いの君、なぜ悩んでいる?
羊飼いの君、なぜ沈黙している?
楽しく歌いたまえ!
笛を吹きたまえ!
陽気な騒ぎは楽しくないのかい?
彼らの声には惹かれないのかい?
彼らの滑らかな肩は輝いていないのかい?
彼らの瞳は変わっていないのかい?
彼らの頬の赤みは
可愛くないのかい?
― 静寂も可愛い!
沈黙も可愛い!

II

世界は静か、新時代が来る。
過去は語り尽くされ、やり尽くされ―
名高い雄弁家は輝き
名高い詩人は歌い
名高い軍人は戦い
名高い理論家は考え
名高い俳優、彫刻家は仕事し
名高い画家は壁を埋め
名高い批評家は時代を評論した。
戦闘員は去り―
槍は吊るされ、弓は矯められ
強者が臨み、弱者は服す。

心地良き静寂の後に
争い収まり、互いに耳傾け
虐げられた人々
真昼の熱き圧搾機に
拉がれた敏感な人々の名誉も
次第に上昇していく。
死の時代が戦闘を繰り広げ
今や静まり返った平原でも―
名誉をかけて力尽き
光輝が安息の場を見つけた
暗闇に包まれた平原でも―
不滅の光が一つ、二つと
ゆっくりと空に立ち昇り
丘の向こうの星のように
永遠に輝き照らす。
世界は静か、新時代が来る。

激流や荒波は
轟音を立て―
墓や塚には
賛美の声上がり―
見よ!塞がれたる平原
舞台を準備し
過去を散らし
新時代が来る。
詩人は新しい詩を
思想家は新しい学派を
政治家は新しい制度を
評論家は新しい尺度を作る。
すべてが始まる。
生きることが報酬となる。
大地は行動で満たされ
歓声で満たされる。

詩人の君よ、なぜ苦しむか?
君はなぜ沈黙している?
賛美の声を上げよ!
君の笛を吹け!
放浪者の君はなぜ
眠り貪り、座り続ける?
輝ける新時代に魅力がない?
流れに光りがない?
見よ!天才を
芸術、科学、知力!
シーザーのごとき兵士
ピットのごとき政治家
フィディアスのごとき彫刻家
多くのラファエルたち
シェークスピアのごとき詩人―
みな美しい!
みよ、光り輝く頬に
天上の紅がさす!
静寂も同じ!
沈黙も同じ!

人々は現在の魔法を感じ
詩人は過去の魔法も感ずる。
人になしたることはなすべき
人の考えたることは考えるべし。

マシュー・アーノルド

イメージ 1

マシュー・アーノルドのバッカナリア(新時代)は前編と後編に分かれ、対を成している。後編は闘争とそのあとの宴である。

Bacchanal

II

The epoch ends, the world is still.
The age has talk'd and work'd its fill--
The famous orators have shone,
The famous poets sung and gone,
The famous men of war have fought,
The famous speculators thought,
The famous players, sculptors, wrought,
The famous painters fill'd their wall,
The famous critics judged it all.
The combatants are parted now--
Uphung the spear, unbent the bow,
The puissant crown'd, the weak laid low.
And in the after-silence sweet,
Now strifes are hush'd, our ears doth meet,
Ascending pure, the bell-like fame
Of this or that down-trodden name,
Delicate spirits, push'd away
In the hot press of the noon-day.
And o'er the plain, where the dead age
Did its now silent warfare wage--
O'er that wide plain, now wrapt in gloom,
Where many a splendour finds its tomb,
Many spent fames and fallen mights--
The one or two immortal lights
Rise slowly up into the sky
To shine there everlastingly,
Like stars over the bounding hill.
The epoch ends, the world is still.

Thundering and bursting
In torrents, in waves--
Carolling and shouting
Over tombs, amid graves--
See! on the cumber'd plain
Clearing a stage,
Scattering the past about,
Comes the new age.
Bards make new poems,
Thinkers new schools,
Statesmen new systems,
Critics new rules.
All things begin again;
Life is their prize;
Earth with their deeds they fill,
Fill with their cries.

Poet, what ails thee, then?
Say, why so mute?
Forth with thy praising voice!
Forth with thy flute!
Loiterer! why sittest thou
Sunk in thy dream?
Tempts not the bright new age?
Shines not its stream?
Look, ah, what genius,
Art, science, wit!
Soldiers like Caesar,
Statesmen like Pitt!
Sculptors like Phidias,
Raphaels in shoals,
Poets like Shakespeare--
Beautiful souls!
See, on their glowing cheeks
Heavenly the flush!
--Ah, so the silence was!
So was the hush!

The world but feels the present's spell,
The poet feels the past as well;
Whatever men have done, might do,
Whatever thought, might think it too.


バッカナーレ

II

世界は静か、新時代が来る。
過去は語り尽くされ、やり尽くされ―
名高い雄弁家は輝き
名高い詩人は歌い
名高い軍人は戦い
名高い理論家は考え
名高い俳優、彫刻家は仕事し
名高い画家は壁を埋め
名高い批評家は時代を評論した。
戦闘員は去り―
槍は吊るされ、弓は矯められ
強者が臨み、弱者は服す。

心地良き静寂の後に
争い収まり、互いに耳傾け
虐げられた人々
真昼の熱き圧搾機に
拉がれた敏感な人々の名誉も
次第に上昇していく。
死の時代が戦闘を繰り広げ
今や静まり返った平原でも―
名誉をかけて力尽き
光輝が安息の場を見つけた
暗闇に包まれた平原でも―
不滅の光がひとつ、ふたつと
ゆっくりと空に立ち昇り
丘の向こうの星のように
永遠に輝き照らす。
世界は静か、新時代が来る。

激流や荒波は
轟音を立て―
墓や塚には
賛美の声上がり―
見よ!塞がれたる平原
舞台を準備し
過去を散らし
新時代が来る。
詩人は新しい詩を
思想家は新しい学派を
政治家は新しい制度を
評論家は新しい尺度を作る。
すべてが始まる。
生きることが報酬となる。
大地は行動で満たされ
歓声で満たされる。

詩人の君よ、なぜ苦しむか?
君はなぜ沈黙している?
賛美の声を上げよ!
君の笛を吹け!
放浪者の君はなぜ
眠り貪り、座り続ける?
輝ける新時代に魅力がない?
流れに光りがない?
見よ!天才を
芸術、科学、知力!
シーザーのごとき兵士
ピットのごとき政治家
フィディアスのごとき彫刻家
多くのラファエルたち
シェークスピアのごとき詩人―
みな美しい!
みよ、光り輝く頬に
天上の紅がさす!
静寂も同じ!
沈黙も同じ!

人々は現在の魔法を感じ
詩人は過去の魔法も感ずる。
人になしたることはなすべき
人の考えたることは考えるべし。

マシュー・アーノルド

イメージ 1

マシュー・アーノルド(1822−1888)とアーサー・クラッフ(1819−1861)はともに1848年の革命の世代であった。闘争をどう評価するかに、基本的な相違点がある。クラッフは最後まで闘争を続けようとしたが、マシューは二つの勢力のいずれが勝利したとはいわず、墓標の上に新しい世界が生まれるとした。それを表現したのがバッカナリア(新時代)である。この詩は前編と後編に分かれている。前編は労働のあとの寛ぎと祭りである。ソフトの制約もあるので二回に分けて投稿する。

Bacchanalia



THE EVENING comes, the field is still.
The tinkle of the thirsty rill,
Unheard all day, ascends again;
Deserted is the new-reap’d grain,
Silent the sheaves! the ringing wain,
The reaper’s cry, the dogs’ alarms,
All housed within the sleeping farms!
The business of the day is done,
The last belated gleaner gone.
And from the thyme upon the height,
And from the elder-blossom white
And pale dog-roses in the hedge,
And from the mint-plant in the sedge,
In puffs of balm the night-air blows
The perfume which the day forgoes.
And on the pure horizon far,
See, pulsing with the first-born star,
The liquid sky above the hill!
The evening comes, the field is still.

Loitering and leaping,
With saunter, with bounds--
Flickering and circling
In files and in rounds--
Gaily their pine-staff green
Tossing in air,
Loose o'er their shoulders white
Showering their hair--
See! the wild Maenads
Break from the wood,
Youth and Iacchus
Maddening their blood.

See! through the quiet land
Rioting they pass--
Fling the fresh heaps about,
Trample the grass.
Tear from the rifled hedge
Garlands, their prize;
Fill with their sports the field,
Fill with their cries.

Shepherd, what ails thee, then?
Shepherd, why mute?
Forth with thy joyous song!
Forth with thy flute!
Tempts not the revel blithe?
Lure not their cries?
Glow not their shoulders smooth?
Melt not their eyes?
Is not, on cheeks like those,
Lovely the flush?
--Ah, so the quiet was!
So was the hush!

Mathew Arnold


夜が来た。野は静かだ。
昼は聞こえなかった
渇いた小川のせせらぎが
再び戻ってきた。
刈られた麦は野に置かれ
束も、荷車の鈴の音も
刈り取り人も、犬も沈黙した!
みな農場に戻り寝に就く。
この日の仕事は終わり
遅れた落ち穂拾いも家に戻った。
丘のタイムや
遅咲きの白い花や
生垣の白いバラ
スゲのミントから
昼の間は控えていた香りを、
清らかな地平にまでもとどけと
夜の大気が一吹きする。
星を数えながら
丘の向こうの流れる空を見てごらん。
夜が来た。野は静かだ。

飛び跳ね、歩き回る
ピョンピョン、ウロウロ―
次々あらわれ、円になり
ピカピカ、グルグル―
緑の松の杖を陽気に
空高く放り上げ
白い肩ごしにゆるく
彼らの髪に浴びせる―
ご覧!野卑なマイナスたち
森から飛び出し
若者とバッカスの血は
荒れ狂う。

ごらん!静かな土地を
彼らは大騒ぎして通る―
新緑の塊を投げつけ
草を踏みつける。
ご褒美の花輪を
生垣から引きちぎる。
野原一面は
彼らの戯れの声。

羊飼いの君、なぜ悩んでいる?
羊飼いの君、なぜ沈黙している?
楽しく歌いたまえ!
笛を吹きたまえ!
陽気な騒ぎは楽しくないのかい?
彼らの声には惹かれないのかい?
彼らの滑らかな肩は輝いていないのかい?
彼らの瞳は変わっていないのかい?
彼らの頬の赤みは
可愛くないのかい?
― 静寂も可愛い!
沈黙も可愛い!

マシュー・アーノルド

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サーシス マシュー・アーノルド

サーシス

営みの場はすっかり変わった!
ヒンクセイに同じものは何一つない。
街道沿いの屋敷に訪ねる人はなく
シビラの名前が表札から消え
捩れた大煙突も屋根から消えた−
丘も変わってしまったろうか?
どう、オックスフォードから小道まで
不案内でも迷わずに来られる!
昔のことだが、よくやって来たものだ −
サーシスと一緒に。サーシスがいた。

チャイルドワス農場の脇の小道はない?
小高い森を抜けると、頂上の楡の樹が
夕日の炎に染まる尾根に立つはず。
眼下に広がるのは、イルスリー丘陵
渓谷、寂しい堰が三つ、テムズ川の賑わいだ。
今宵は冬でも暖かく、空気は湿りをおび
緑はないが、春のように穏やかだ!
心なごむ紅色が野や林に撒かれる!
夢見る尖塔があの美しい町に聳え
六月を待たずに町は美しい盛りだ。

いつも美しいこの町、今宵も美しい!−
この暗い高地を散策して気付いたが
目をつむっても道を通れたのに
この能力はすでに失われていた。
西空に映えてひときわ輝く楡の樹
彼と一緒に来たが、今はめったに来ない。
− 懐かしい!楡の樹は元気だろうか?
僕たちの大事な樹。「立っている限りは
我らのジプシー博士は生きている。
樹が無事なら、奴も野原で無事さ」。

今ではめったに訪問しなくなったが
昔は、畑、花、住人を何でも知り尽し
脱穀の時期に納屋や積み藁の傍らで
田舎の人々とは顔なじみになったし
二人で始めて羊飼いの笛を吹いてみた。
ああ何ということだ!随分と長い間
笛を吹かず、田園の休暇も取っていない!
どうしても吹けない、どうしても暗い心で
世間に戻り、人の旅立ちを忘れたい。
サーシスは意志の人、旅立っていった。

彼はここでは苛立ち、落ちつかない
彼は田園生活の素朴な喜びが大好きで
好きな友人もいたが、長くは続かない。
羊飼いと間抜けな羊と一緒に過ごす
この野原にあの陰が降りてきたのだ。
彼が知り合った人の惨めな人生で
彼は元気をなくし、考え込んでしまった。
彼は去った。彼が吹く笛は耳障りで
幸福な土地の外で荒れ狂う嵐の音だった。
嵐の去るのを待てない。彼は死んだ。

六月初旬の嵐の朝のことだった。
バラが咲き、真夏になる日の前
一年で最初の開花が終わるころ
庭の小道や草深い土地には
去った五月の赤や白の花が残り
栗の花が撒き散らされていた―
僕はカッコーが旅立つ声を聞いた−
湿地から渦巻く庭の木々を通り
土砂降りの雨と激しい風が吹いた。
花は去り、花とともに僕も去った。

まもなく華やかな真夏の日の祭りだ。
まもなくマスク・カーネーションが登場し、ふくらむ
まもなく見られる、金紛を撒き散らすキンギョソウ
気取らぬ小屋の匂いを放つナデシコ
芳しく咲き乱れる花の群れ
道沿いに遠くまで映えるバラ
開いた格子窓を飾るジャスミン
夢見る庭の樹、満月、白い宵の明星を
群れなして見上げる花。

彼は聞かない!忙しい彼は飛んでいった!
気にすることはない。来年には帰り
るわしい春には彼と再会し
生垣は白く、シダはピンと張り
森の小道でブルーベルは揺れ
刈り取ったばかりの草は香る −
だがサーティスとは会えなかった。
彼は戻り、滑らかな葦を切り
世界が遂に認める一節を吹くはず −
君を負かすのは時、コリドンでない!

ああ!だがコリドンは今や無敵!−
仲間を亡くしたシシリーの羊飼いなら
誰かが笛を持って出かけ
ビオーンの不運を悲しむ歌を吹くはず。
禁じられた渡し場の川を渡り
プルトンの額の皴を緩ませ
シシリーの大気で開いた初花を頭に飾る
ペルセポネを歓喜で動かし
オルフェウスのように死から呼び覚ますものを。

音曲でたやすくお恵みを得たければ
ドーリアの羊飼いがペルセポネに歌えばよい!
彼女はシシリーの野原を踏みしめ
彼女はドーリアの神聖な湧き水を知り
彼女はエンナに生える白百合をすべて
顔を赤らめるバラをすべて知っていた。
彼女はドーリアの笛、ドーリアの調べを好んだ。
ああ、彼女は侘しいテムズを耳にする筈もなく!
彼女の足はカムナーのサクラソウに触れてはいない。
嘆きを歌い彼女に願っても無駄のはず!

世界は風に飛ばされ廃墟になるだろう
でもサーシス!あの古巣に行き、僕はしばらく
悲嘆にくれ、我らの樹の丘を訪れたいのだ。
僕でなくて誰が探し回れるだろう?
僕はあの水仙が隠れている森も
僕はあのフィフィールドの木も
僕は川沿いの野原が育む
白いバイモも赤いバイモも
エンシャムの上、サンドフォードの下
テムズ支流の小川の生垣も知り尽くしている。

僕は丘の斜面を知っている。僕でなくて誰が知る?
懐かしい丘の斜面での歓喜
白い花の咲く古木を飾る棘
遠くから見える密集したサクラソウ
尖って突き出た紫のランは
忘れられし時の冠を
あの時以来持ち続けている。
若者が緑の堤を降りていき
小川のほとりで光るのは
花の盛にさびしいサクラソウ。

あの娘は?貸し船屋の入り口にいた娘さ
ボートで混み合う水門の前で
船を通してくれた。あの時はワイタムの野を通り
赤いサクレダマや黄色いシモツケソウを見ながら
かすめるツバメや軽快な水辺のハエをかわし
控えめなテムズの岸辺を漕いだね。
僕たちの船の小波で川草が浮き上がり
草刈人が鎌を休め、通過を眺めていた。
みんな死んだ。君も死んだ!

うん、君は死んだ!僕の周囲にも
夜はじわじわと陰を落とし始めた。
夜のベイルが昼をそっと覆うが分かるし
夜の冷たい吐息が痩けた顎や
白髪交じりの髪に忍び込むのを感じる。
僕は夜の軽やかな指がそろそろと
瞬間的な動作に触れるのを感じる −
朝の露を見に行くも、足は遅くなり
新しい感動にも心は弾まなくなり
挫けると、希望を早く取り戻せない。

今では長く見える道も、快活な青年の
未熟な目には短く見えたものだった。
今では曇り空に高く聳える山頂
今では真理の玉座が存在する山頂も
人生の朝には明るく輝く山頂だった。
打ち砕かれた世界の不破の砦が
その城壁をさらに高くした。
世の中の騒ぎは次第に奇妙で空疎になり
君の休息の魔力が現実味を帯びて接近し
僕は友の訪問のように夜を受け入れる。

シーッ!静かな高台に声がする!
ごらん、ほの暗い丘の斜面から家路に向かう
オクスフォードの狩猟の連中さ
今でも馬に乗り、陽気にしゃべっている!
バークシャー犬を連れて狩をしてきたのだ。
さあ、ではあの広い野原を越えて
飛んで行くよ!− 着いた!ごらん
オレンジ色とすみれ色の黄昏の空を
華やかな彩の夕陽を浴びて
人気のない尾根に独り、あの樹が、あの樹が!

幸先いい!黄昏はベイルを下ろし
白い霧は這って藪から藪へと
西の空は色褪せ、空高くに星は瞬き
散在する農家からは灯が漏れる。
今晩はあの目標の樹に着けないが
幸先いい、いいぞ!
澄み切ったアルノの谷から聞きたまえ
(君の瞼はこの大地を忘れたから
満開の白いキョウチクトウの下で
朝も気付かずに閉じたままだろう)

聞いているかい?サーシス、僕らの樹はあそこだ!−
ああ駄目だ!まったくイギリスの野原、この薄暗い高台ときたら!
この白い野バラも霞に包まれて
こんな孤独は天を指すあの樹には良くない。
あの樹は愉快な南の国へ逃げ出したよ!
今度はもう少し楽しい調子で
大いなる母の神聖な行列と一緒に
(君ほど繊細で純粋な精神に
偉大なる母も出会っていないと思うよ)
アペニン山脈を歩き回ろう。

君は永遠に歌い継がれる昔の歌を聴いている−
プリュギアの王の暑い穀物畑で
命がけの作物に鎌を当て
若きダフニスは銀の声で
再び君に歌うリチェルセスの歌。
彼が飼うシシリーの羊たちは歌う
彼の羊、彼の不幸な恋、彼の失明 −
彼の周囲から、飛び降りた絶壁から
天に向けて鳴り響いた声
そして黄金の空の不可思議を。

君はそこで死に、僕をここに
この野に残した!だが僕は絶望しない。
僕は絶望しないで見つけ出す
イギリスの穏やかな天空の下で
西の空を背にした孤高の樹を。
まだ、まだ、この斜面に、きっと
僕らのジプシー博士はまだ棲んでいるはず!
小屋の羊が干草をむしる野原も
アネモネが五月まで咲き誇る森も
放浪者も彼を知っている。僕だって会えるさ!

彼が求めるのは移ろいやすく
輝きを恥らう光。僕もそうだ。
これは家柄や資産でも
地位、名誉、媚びる仲間でも
世界の市場で売買されるものでもない−
だが滑りやすい時期が訪れたので
まだ探し疲れてはいない。
彼は人の注目から逃れ
独りで去った。きっと独りで住んでいる。
心の趣くままに暮らしている。

サーシス、君も探検に加わったのだ。
君はほんのちょっと僕と山歩きをした!
何もなかった。あるのはこの楽しい探検だけ
君が弱っていれば、元気を取り戻せたし
君が悩んでいれば、安らぎになった。
このカムナーの素朴な大地
樹木茂るハースト、農場、静かな野原
君は陽気な青春時代に来たし
君は元気な盛りだった!
そして今なお、あの場所には効果があるよ。

たしかに君の田園の笛の音楽が
楽しい素朴な調子を保てなかった。
調子は早く狂ってしまい、争いに暮れる
嘆きの嵐のような調子を覚えてしまい
使い過ぎて笛は傷み、君の喉は疲れた−
笛は衰弱し、君は沈黙した!
君には僕らの光を見る目があり
君を気遣う人と長くとどまれず
君の足は再びさ迷い歩き
人家を離れ、一日中歩き通した。

今ではめったに訪問しなくなったが!
都会の騒音の中、昔の君のいた所のように
サーシス、僕の家に羊の鈴はとどかない。
大都会の不愉快な騒音を横切り
君の囁きをときどき届けておくれ
疲労と恐怖を追い払っておくれ。
君はなんて弱いのだ!僕は死ぬほど歩いたよ。
歩くのだ!僕らが求めた光はまだ輝いている。
証拠が欲しい?僕らの樹は頂上にあり
僕らの博士は丘の斜面を旅している。

マシュー・アーノルド

イメージ 1

マシューはまだジプシー博士に直接会ったわけではない。最終的な目標である山頂に立つ楡の樹に到達したわけでもない。この二つのシンボルの現状は読者には永遠の謎である。マシューとサーシスは詩の世界では共通の目標を掲げることもなく、共通の価値観を有することもなかった。サーシスの死後ようやく、二人だけで秘密の宝探しが出来たことに満足して詩を閉じる。


Thyrsis VIII

Thou too, O Thyrsis, on like quest wast bound;
Thou wanderedst with me for a little hour!
Men gave thee nothing; but this happy quest,
If men esteem'd thee feeble, gave thee power,
If men procured thee trouble, gave thee rest.
And this rude Cumner ground,
Its fir-topped Hurst, its farms, its quiet fields,
Here cams't thou in thy jocund youthful time,
Here was thine height of strength, thy golden prime!
And still the haunt beloved a virtue yields.

What though the music of thy rustic flute
Kept not for long its happy, country tone;
Lost it too soon, and learnt a stormy note
Of men contention-tost, of men who groan,
Which tasked thy pipe too sore, and tired thy throat--
It failed, and thou wage mute!
Yet hadst thou always visions of our light,
And long with men of care thou couldst not stay,
And soon thy foot resumed its wandering way,
Left human haunt, and on alone till night.

Too rare, too rare, grow now my visits here!
'Mid city-noise, not, as with thee of yore,
Thyrsis! in reach of sheep-bells is my home.
Then through the great town's harsh, heart-wearying roar,
Let in thy voice a whisper often come,
To chase fatigue and fear:
Why faintest thou! I wandered till I died.
Roam on! The light we sought is shining still.
Dost thou ask proof? Our tree yet crowns the hill,
Our Scholar travels yet the loved hill-side.

Mathew Arnold


サーシス その八

ああサーシス、君も同じ探検に向かったのだ。
君はほんのちょっと僕と山歩きをした!
何もなかった。あるのはこの楽しい探検だけ
君が弱っていれば、元気を取り戻せたし
君が悩んでいれば、安息になった。
このカムナーの素朴な大地
木の茂るハースト、農場、静かな野原
ここに君は陽気な青春時代に来たし
ここで君は元気な盛りだった!
そして今なお、あの好きな場所には効き目があるよ。

たしかに君の田園の笛の音楽が
楽しい素朴な調子を保てなかったが。
調子は早く狂ってしまい、争いに暮れ
嘆きの嵐のような調子を覚えてしまった
使い過ぎて笛は傷み、君の喉は疲れた−
笛は弱り、君は沈黙した!
君には僕らの光を見る目があり
君を気遣う人と長くとどまれず
君の足は再びさ迷い歩き
人家を離れ、一日中歩き通した。

ここを訪問するのは今では稀だ!
都会の騒音の中、昔の君のいた所のように
サーシス、僕の家では羊の鈴は聞こえない。
大都会の不快で疲れる轟音を横切り
君の囁きをときどき届け
疲労と恐怖を追い払っておくれ。
なんて弱いのだ!僕は死ぬほど歩いたよ。
歩くのだ!僕らが求めた光はまだ輝いている。
証拠が欲しい?僕らの樹は頂上にあり
僕らの博士は丘の斜面を旅している。

マシュー・アーノルド



写真はフィレンツェの墓地 The English Cemetery である。サーシスはここに眠っている。イタリアで死んだブラウニング夫人の墓が有名である。

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