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−某日、喜寿美堂君の北海道土産「トドの缶詰」が届く。
♥助手アベナ:トド?トドってサ、オットセイみたいなやつよね。
♠安濃スクラ氏:そんなもんじゃネェ。コイツだば、デケエのになると体長3メートルは超すわな。体重は1トンぐれあらぁ。
♥助手アベナ:おお、大きいんだぁ。似たようなのにオットセイ、アシカ、トド、セイウチ、それからアザラシもいるよね、区別がよくわかんないよ。みんな仲間?
♠安濃スクラ氏:今日はトドの講義だな。この事務所には黒板がないのが、玉に傷。
♥助手アベナ:古畑事務所の玉に傷は他にもイッパーイあるよん。
♠安濃スクラ氏:こらんどば外形似ている。みんな大きな括りではアシカ目という分類に入るベさ。そのうち、トド、アシカは同類のアシカ科だが、アザラシはアザラシ科、オットセイはオットセイ科、セイウチはセイウチ科という独立の分類になる。
♥助手アべナ:うん、うん。それぞれ別の形態や特徴があんのね。
♠安濃スクラ氏:大きいのから説明した方が分かりが早いかも知ンネナ。これらのうちもっともデケエのが、個体により差もあるが、トドだな。「海馬」とも表されたりする。体重1トン、体長3.5メートルくらいなもンだな。なにしろでけえ。同じ分類のアシカは「海驢」、海の驢馬だな、なんとなくイメージ湧くべな。こいつは小セエ。
トド「海馬」に次いでデケえのがセイウチだな。こやつは「海象」だ。1メートルくれエの長ゲェ牙がある。見かけマンモスみてえがら、「海象」はうまい表現だな。体重0.8トンから1トンくらい。
♥助手アべナ:なるほどね。大きさから説明されると分かりやすいね。次は中くらいのやつかな。
♠安濃スクラ氏:アザラシは分かりやすい。こいつは「胡麻斑海豹」だ。漢字だけで分かるべな。身体に斑点や模様があり、豹に見立てたんだロな。全体に灰色っぽい。ゴマちゃんは有名だべな。最もチっこいのがオットセイだ。これはマリンランド等でよく見られる「芸」するやつだな。こいつ中国語では「海熊」英語でも「海熊」また「海猫」とも表記されるらしいが、知ってのとおり「熊」ってことはないよな。
♣田圃青年:トドは北海道では多いンですね。
◇古畑任次郎:北海道はメッカだが、津軽海峡にも遊弋するそうで、それが漁網を破ったり、漁場を荒らしたりするので「海のギャング」と言われている。
♠安濃スクラ氏:そのギャングの記事が地元新聞に出てるべさ。
『下北・津軽半島のトド被害112件
冬場に本県の下北、津軽の両半島沿岸に来遊するトドの被害が一月からこれまでに百十二件に上ることが二十二日、分かった。県庁で開かれた「県トド漁業被害防止対策協議会」で県水産振興課が報告した。下北地区では今年、二回の威嚇射撃を実施したが、それ以降被害が減少していることから、会議では今後もトドが発見された海域付近で威嚇射撃をして追い払うことを確認しあった。』(東奥日報04)
♣田圃青年:こうなると、「トド害」ということになりますよね。
♥助手アべナ:でもさぁぁ、それは人間中心の考えかたで、トドにだってトドの生活圏がある訳でしょう。
♠安濃スクラ氏:下北にはトドにまつわる話題がイっペあるヨ。そんだけトドが頻繁に出没してたってこっタナ。
♣田圃青年:たとえば、どんな。
♠安濃スクラ氏:江戸時代まではトドやオットセイは流氷に乗って下北の尻屋、袰部海岸、正津川の戦式谷地、大間の弁天島などに漂着していたラシ。海岸でノコノコしているところを地元の猟師に撲殺されたようだな。村木源助の『風土年表』に「享保三(1718)年、正津川にて海馬(トド)漁、初まりけるが、寛政に至りて廃れたり」とあるがらして、なにかしら環境の変化があったようだベサ。
また、トド漁は偶然のビジネス・チャンスだったことでなく、定期的・季節的な漁労であったらしく、「明治六年第六大区一小区内の諸雑税中に海馬漁税(年間拾円)があって、田名部の村木清吉が納租」(『風土年表』)なんて記録が残っているベナ。
♣田圃青年:「海馬漁税」が制定されているってことは恒常的にトドの漁労があったということになりますね。また、「税を払う」ほどの期待しうる報酬があったということですよね。収獲したトドをどのように捌いたのでしょうね?
♠安濃スクラ氏:さきの田名部(今のむつ市)の村木清吉という人は「明治二十五、六年頃まで海馬肉を取扱い、田名部市中に売子を出して海馬肉を触売りした」(『風土年表』)とある。
♥助手アべナ:食用肉とされたのね、トドは。‥なんか可哀想。
♠安濃スクラ氏: アザラシの場合、昔は、皮は馬の手綱・かんじきの紐などの用途として、脂肪は燃料とされたらしいな。後々まで北海道でアザラシ漁が行われるが、下北のトドの場合、食用獣肉の記録しかネェ。もっとも獣肉生産者の記録しか残ってないのかも知れネガ。
♣田圃青年:いかにも海の文化、海洋資源の宝庫、下北らしい話しですね。
♠安濃スクラ氏:もう一つ、トドと人間の関わり人文科学編だ。維新の後、田名部の旧藩の元同心、辻、工藤某は尻屋沖のトド島にトド漁に行こうとした。で、土地の尻労の漁師を昔の職位をかたに、多分脅すようにしたんだろか、なんやかんやでともかく船を出させトド島に着いた。
首尾よくトドを仕留め、解体に余念のない両人を尻目に、漁師は二人を置き去りにして逃げ帰る。漁師は両名を遭難したとして報告した。両家の家人は捜索の果てにトド島で半死半生の二人を発見したという(趣旨『宇曽利百話 笹澤魯羊』)。
♣田圃青年:どっちもどっちなんでしょうが、冬の暗灰色の津軽海峡のようなスカッとしない話しですね。
♥助手アべナ:人間の心性の振れのマージナルな事例みたいね。
◇古畑任次郎:王さんの出前遅いな。ベナッチ、催促電話!
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