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グルジアからの分離独立を図る南オセチア自治州をめぐるロシアとグルジアの「戦争状態」は、ロシア軍が首都トビリシ郊外やポチ、ゴリなどグルジア各地を攻撃するなど、戦線拡大でロシア軍の「ルール違反」が目立つ。プーチン政権下の軍改革で不満を高めた軍部の「独走」との見方も出ている。
グルジア高官は「ロシアが先に動いた」と批判したが、たしかにロシア軍部隊の南オセチア進出は極めて迅速で、グルジア側の動きを十分想定していたのは間違いない。
ロシア軍は八月二日まで、北カフカス軍管区で一万人近い部隊が参加する軍事演習「カフカス2008」を実施。演習そのままの攻勢が目立った。休暇中のメドベージェフ露大統領、北京五輪開会式出席のプーチン首相は、虚を衝かれた格好だった。
ソ連時代、巨大な利権を謳歌したロシア軍は、プーチン政権下でリストラや軍改革を強いられた。ソ連国家保安委員会(KGB)出身のイワノフ前国防相、セルジュコフ現国防相は参謀本部の人員削減、軍資産や軍保養所の売却を進め、これに抗議していたバルエフスキー参謀総長は今年六月に解任された。
「ソ連軍の流れを汲む軍首脳は、プーチンらKGB派によって疲弊を強いられたことに不満を強めていた。今回、軍の存在感を誇示するため、政治命令を超えて行動した」(モスクワの消息筋)という。
軍とKGBはソ連時代、実は犬猿の関係だった。プーチン首相が慌てて北京から北オセチア共和国に飛んだのも、軍の独走に歯止めをかける狙いがある。最も右往左往したのは、就任したばかりのリベラル派最高司令官・メドベージェフ大統領だろう。
エキセントリックな行動の多いサーカシビリ・グルジア大統領も独走が目立った。ライス米国務長官が七月にグルジアを訪れ、グルジアの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持。その後、ロシア軍の演習と並行して、グルジア領内で米国と合同軍事演習を実施したことから、南オセチア攻撃に米国の支持が得られると判断したようだ。今回、敗北となると、同大統領の失脚につながる可能性もある。
ただ、グルジアには、米軍将校ら数十人が駐在してグルジア軍の訓練に当たっており、軍内部の動きから米国は南オセチア進攻を察知していたはずだ。
エネルギーの国策利用や周辺諸国への膨張など、ロシアの行動への懸念を強める米国が、ロシアを挑発するため、グルジア軍の行動を容認したとの見方も成り立つ。関係当事者の誤算と思惑が増幅して予想外の戦火拡大につながった模様だ。
(フォーサイト2008年9月号)
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