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中国、韓国などが、日本の常任理事国入りを阻もうとする動きは激しい。
しかしそれでも、日本には果たせる役割がある。
星野俊也 Hoshino Toshiya
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
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したたかなフランスが諸手を挙げて賛成し、唯一の超大国・米国が煮え切らない態度を示し、普段は泰然自若の中国がなりふりかまわずに猛反対する。こんな話が大事でないはずはないだろう。日本の国連安保理常任理事国入りに関する主要国の反応を見るだけでも、その重要性が浮かび上がる。しかし、同時にこれがいかに至難なことかも物語る。
国際連合創設から六十年。これまで何度となく改革が唱えられ、実際に多くの試行錯誤が繰り返された安全保障理事会の機構改革が、いま大きな山場を迎えている。今度こそ、期待される変化が国際政治のパワー・センターにもたらされるのか。国連本部のあるニューヨーク・マンハッタンをはじめ、世界各地で厳しい外交戦が繰り広げられている。
そもそも安保理とは、現存する最も普遍的な国際機関である国連の権威のもと、「国際の平和と安全」という重要分野で加盟国に対して拘束力をもつ決定(=安保理決議)を採択できるフォーラムである。日本が国際安全保障のさまざまな問題でいかなる役割を果たすべきかを議論する際に、安保理決議があるかどうかは政府も国民も真っ先に確認するのが常だろう。しかし、その決議は、実は「作られている」もので、日本がそのプロセスに参画できるのは何年かおきに非常任理事国に選ばれたときのみというのが現状である。日本にとっての安保理改革とは、こうした現状の打破にかかわる挑戦といえる。
もっとも、安保理の改革という総論にはいずれの国連加盟国にも反対はなく、焦点はいかに改革し、どの国が新たに安保理メンバーになるか、という各論部分であること、そして、真から「日本」を狙い撃ちして激烈に反対しているのは、中国、韓国、北朝鮮といった近隣国などごく少数にすぎない。
日本だけの常任理事国入りが問われているのであれば、国際社会のコンセンサス作りはさほど難しくはないはずである。話がこじれるのは、日本のほかにどの国に権力の中枢にアクセスする鍵を握らせるのか、という命題である。米国が新規の常任理事国候補として「日本」以外に言及しないのはこのためである。
のどから手がでるほどにそのポストを望む国もあれば、強烈にそれを阻止する国が出ていることもまた、安保理改革のステーク(利得)の高さを物語る。そして、そうした綱引きに日本はすでに引き込まれている。
激烈に反対する中国の画策
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こうした中、日本をとことん追い落とそうと画策に画策を重ねる中国の作戦は巧妙だ。中国は、日本を含む後述のG4の「枠組み決議」案を逆手にとり、「加盟国の総意」、「地域内の合意」、「途上国の利益拡大」など聞こえのよい要件を並べ、ダメ押しに拒否権をちらつかせながら日本の動きを封じ込めようとしている。もちろん、総意や合意を主張しながら拒否権行使を示唆する論理矛盾を中国が意に介する様子など微塵も見られない。「民衆」が立ち上がったとする四月の反日デモといい、こうした一連の外交攻勢といい、必死の姿から読み取れるのは、これほど日本の常任理事国入りは中国にとってインパクトがあるということだろう。
本年三月に提出されたコフィ・アナン国連事務総長の改革案は、深刻さを増す安全保障と開発と人権という三つの主要な政策分野を一つのパッケージとして包括的に取り組む大胆な枠組みと、そうしたダイナミックな政策立案を可能とする国連機構改革案を提唱し、その中核に安保理改組を位置づけた。
事務総長が、具体的に二つの安保理拡大案を提示したことはよく知られている。常任理事国五カ国(P5と呼ばれる米英仏露中)と非常任理事国十カ国(任期二年で再選不可)の計十五議席からなる現状の安保理を拡大するという基本方針の下、常任枠を追加するA案と、非常任枠のみを追加するB案の二つである(事務総長は、折衷案の可能性も示唆している)。
これらは、アナン事務総長が先に指名した世界の有識者からなる「ハイレベル委員会」の提案を踏襲したものだが、その提言の取りまとめの時点からすでに二案を併記しなければならないほどに意見が分裂していたところに、安保理改革の難しさがにじみでている。
実際、新たな脅威への対応には野心的な新機軸を打ち出したハイレベル委員会だが、残念なことに、安保理改組については、予想されるP5の反発を不必要に先取りし、委員長のパンヤラチュン元タイ首相をはじめ多くの委員の間に虚無感が漂っていた。安保理を拡大するにしてもせいぜい非常任議席止まりという空気が強かったのである。一部の委員から、何としても常任枠の拡大も盛り込むよう強い働きかけがあって、ようやく両案併記まで巻き返されたが、新常任理事国の拒否権保有のオプションは見送られた。それでも、かろうじて安保理改革の舞台は整えられ、アナン事務総長は「九月までの改革」を提言した。
現在、この機会に常任理事国入りをめざす日本、ドイツ、インド、ブラジルの四カ国グループ(G4)がA案をベースに常任議席の拡大を含む「枠組み決議」案を提起する一方、安保理拡大に加盟国の「総意」の必要を訴える「コンセンサス・グループ」がB案のように非常任枠のみ拡大する案を引っさげ、両者間の対立と多数派工作が熾烈をきわめている。後者の主眼が、G4を含むライバル国の常任理事国入りの阻止にあることは明白で、中国は日本に対する支持の切り崩しのため、しきりとその動きに歩調を合わせている。また、両陣営とも、現在の安保理に十議席の追加を提案しているが、米国は二十五カ国では大きすぎると難色を示しはじめている。
体質改善を実現するために
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日本の安保理常任理事国入りの必要は、米国に次ぐ第二の分担金拠出国としての資格や地位、あるいは日本の国益という観点からも説明可能だが、第二次世界大戦の末期に勝利が確実だった国々が中心になって結成された組織の「体質」を根本から変えるためにも、本来、自然なことである。そして、安保理の実質的な決定が常任理事国を中心になされる現実を見据えるなら、非常任枠の拡大だけではこの組織の体質改善にはつながらない。
旧敵国とされた国家から国連の求める平和愛好国に転生し、経済復興も遂げ、分担金だけでなく任意の拠出金も含め、国連の広範な活動の屋台骨を支える存在となり、国連平和維持活動(PKO)や人道救援に人的貢献の幅も広げている日本。軍備管理・軍縮・不拡散や開発・平和構築、環境、教育そして人間の安全保障など、日本ならではの発想とイニシアチブが今日もなお世界の多くの国々や地域で有益な役割を果たしうるケースは多い。そうした日本の声を常時、国際政治のパワー・センターに反映させられる地位を得ることは、多大な責任を伴うが、国際公益の増進に直結するものである。
常任理事国入りは日本の憲法改正を義務付けるわけでも、日本に過剰な軍事的貢献を条件付けるものでもない。日本のODA(政府開発援助)をGNP(国民総生産)比で〇・七%にまで引き上げることなど容易ではなく、民間資金の流れともつなげる努力が必要だが、経済協力は世界が最も日本に期待する分野である。非核国の日本が常任理事国に加わる意義も大きい。また、豊かな国だけでなく、アフリカ、アジア、ラテンアメリカを代表する途上国の常任理事国入りを支援する日本の立場は、安保理の決定の正統性・民主性を高めるだろう。常任理事国のポストを目指す日本の資格や願望は、きわめて良識的なものと考えられる。
しかし、道理がそのまま通じないのが国際政治のパワー・ゲームである。安保理改革の成否は、結局、日本を含む新理事国候補が世界にいかなる貢献をするかではなく、既得権をもつP5が、全体の利益のためにどれほど妥協をする用意があるかに依存する。
中国やフランス、ロシアが安保理議席の拡大を支持する理由があるとすれば、それは多極化世界が米国パワーを牽制できるからにほかならない。片や米国は、現在の安保理でさえ自国の制約要因となりうるので日本以外の新理事国候補に触れず、必要ならば単独行動をとるオプションを強調するに違いない。中国が日本の動きを封じたい真意は、靖国や歴史問題などではまったくなく、日米同盟関係(特に緊密な小泉・ブッシュ関係)が中国に及ぼしうる影響からである。こうしたなか、G4に正面から対抗するコンセンサス・グループの動きは、米中にとって、きわめて都合のいい存在といえる。
日本にとっては頼りの米国も本音では安保理の効率優先なので、慎重姿勢を崩さない。日本にとってできることは、米国をつなぎとめながら、持ち味を生かし、アフリカやラテンアメリカ、中・東欧の国々の支持固めと浮動票の取り込みを進め、中国とコンセンサス・グループをいかに“周辺化”していくか、ということになるだろう。しかし、その道は険しいと言わざるを得ない。
(フォーサイト2005年7月号)
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