映画「満員電車」(1957、大映)を見た。
監督は市川崑で、主演は川口浩。
共演は川崎敬三、笠智衆、杉村春子、船越英二など。
サラリーマン社会を風刺したコメディで、日本がまだ所得倍増計画などが打ち出される前の時期で、一流大学をでても、決して安定した生活がおくれるわけではないという話。
市川崑監督自身は、失敗作と位置づけているという記事を読んだが、サラリーマンが大挙して列車にすし詰め状態にされ、タイムカードを押すために、長い行列を作るなど、チャップリンの「モダンタイムス」のような機械文明の皮肉も感じられる。今も昔も社会構造などは変わっていないようだ。サラリーマン社会が中心の日本という国は、不思議な国でもある。
・・・
映画は、明治九年の総長告辞から始まる。
日本国最高学府における卒業式大学の風景だが、卒業生はわずか8人。
次の大正二年の卒業式では数十人になり、昭和元年には数百人となり、現代は…と変わる。
名門の平和大学の卒業式は、土砂降りの雨の中、校庭で行われている。
会場となる校舎が、卒業式の数日前に火事で焼失してしまったのだ。皆が一様に黒い傘をさしている。その中に茂呂井民雄(川口浩)がいる。彼は成績が良かったか、大手飲料メーカーの「駱駝(らくだ)麦酒株式会社」(らくだビール)に内定していた。
さて「らくだビール」の入社式。
社長が新人に訓示を述べる。会社は人員削減を考え、新卒採用を極力抑える最中だったが、入社式会場には10名の新卒者が並んでいた。うち8名は社長・重役の縁故だった。茂呂井は実力入社のひとりであった。
社長は、総務部長に「社員を減らしたい。外国ではオートメーションの機械で人は減っている。うちでは、労働組合がうるさい。僕は板挟みだ」と嘆く。
新人研修が始まる。この時から、茂呂井はサラリーマンの空しさを覚悟している。生涯賃金−諸費用=わずかな残高を計算していた。一方でサラリーマンが気楽な稼業だとも思っていない。茂呂井は計算高さと、状況に流されないドライさと前向きさを信条とする男。言い換えれば、ちゃっかりと抜け目なく振舞える男だった。
配属先は尼崎にある工場の経理部。配属初日の朝、配られた伝票の山をあっという間に処理した茂呂井は、上長に呼ばれ注意された。
「あの伝票の束はネ、一日かけて処理してもらわないと、職場の規律が乱れるので困る」と言われる。(人員整理を恐れている風でもある)さっそく茂呂井は、伝票一枚あたりの処理時間を割りだして、ゆっくりと仕事をした。また、職場の先輩の更利満(さらり・まん)(船越英二)からは、「サラリーマンはネ、健康が第一、そして怠けず休まず働かず」と言われる。
ここから、いくつかのエピソードが語られる。
一番のエピソードは、茂呂井の父母の話。
父親(笠智衆)は小田原で時計屋を営む時計職人。清廉潔白な市議会議員でもある。ある日、茂呂井は父親からの手紙を受け取る。そこには、母親(杉村春子)が「気違い」(台詞のママ)になったと書いてあった。が、実は父親が精神異常で病院に入院してしまった。茂呂井は急ぎ実家へ向かった。
この話に和紙破太郎(川崎敬三)という精神科の医学生が絡んでくる。
和紙破太郎は、ハイスピードで人生の成功を実現したい男だった。そこで地元有力者である茂呂井の父の協力を得て、小田原に精神病院建設を促してもらい、近い将来、和紙破太郎自身がその病院の院長の座に座ろうという魂胆だった。
ある日、茂呂井と和紙破太郎が、お茶の水駅付近の聖橋上で落ち合っていた。ハイスピードで成功を実現したい和紙破太郎が、話の勢いが余って、こうだっ!と突如、猛スピードで三段跳び。そのホップ・ステップ・ジャンプのジャンプ着地で不幸にもバスに轢かれてしまう。
茂呂井は驚いて駆け寄ろうとしたその瞬間、前方不注意で電柱に激突。その後、彼は病院で1ヶ月も意識不明の日々が続いた。
こんなてんやわんやののち、茂呂井は久方ぶりに尼崎に戻り出社したが、無断欠勤で既に解雇となっていた。仕方なく、職安で職探し。やっと見つけた就職先は小学校の小使い(用務員)。だが、間もなく、それも解雇となった。理由は学歴詐称、大卒なのに学歴を隠していたのだ。職安での職探しには、大卒の肩書は邪魔だったのだ。
茂呂井を頼ってきた母親とおんぼろの今にも風で吹き飛ばされそうな掘っ立て小屋で、小学生向けの学習塾を始めるというのだ。
映画は、大学の卒業式で始まり、小学校の入学式で終わる。
小学校入学式では校長が、何もわからない小さな子供たちに「小学校の次は、中学校、その次は、高校、さらにその次は大学とあり、実に前途洋洋たるものです」と語るのだが、子供たちはきょとんとした顔や、シラケた顔つきで、映画は「完」。
やや地味な映画だが、喜劇映画としては面白い。
・・・
大学卒業生の一人として、田宮二郎の顔が見えた。この映画は田宮二郎のデビュー作でもあった。今では放送コードに引っかかる差別用語「気狂い(キチガイ)」などが普通に使われている。「小使」(=用務員)というのも久しぶりに聞いた。
主人公の川口浩演じる茂呂井民雄だが、小市民的というのか小賢しいというのか、3人の女性と同時に付き合っていたが、それぞれに、勤務地が関西(尼崎)になるからと、一方的に別れ話をさらりと持ち出すのだ。
相手の反応は、映画館の切符窓口の女性(久保田紀子)も、百貨店の女性店員(宮代恵子)も「私もそれがいいと思っていた」と割り切っていたのか、未練もなくあっけらかんとしたもの。
高校教師となり地方に向かう同窓の壱岐留奈(小野道子)に別れを告げようとすると壱岐は「西と東に別れるわけね」と社員講習の日、軽くキスして別れるのだった。
「満員電車」というタイトルで、確かに、ギュウギュウ詰めのサラリーマンが電車に乗るシーンがあり、駅員が乗客を押し込んで、靴で尻を押すシーンもあるが、「日本には、われわれが座れるような席なんてありゃあしない。満員電車に乗り遅れてしまわないようにしないとね」と言うセリフが象徴しているようだ。
映画館の窓口の女性に茂呂井が別れ話をしている時に上映されていた映画は「キリマンジェロの雪」(1952)だった。入場料は、一般70円だった。
ビールの製造工程などが延々と映し出されていた。明らかに”キリンビール”をもじった「らくだビール」のラベルが瓶に貼られていたが(笑)。
1950年代のバスや電車、街の風景など約60年前の日本の街並みが見られるのもいい。
監督:市川崑|1957年|99分|
脚本:和田夏十、市川崑|撮影:村井博|
主な出演者:川口浩(茂呂井民雄)|笠智衆(その父・権六)|杉村春子(その母・乙女)|小野道子(茂呂井の彼女で教師になった壱岐留奈)|川崎敬三(精神科医の卵・和紙破太郎)|船越英二(茂呂井の先輩社員・更利満)|山茶花究(駱駝麦酒社長)|見明凡太郎(本社総務部長)|浜村純(平和大学総長)|杉森麟(町の歯医者)|響令子(その奥さん)|新宮信子(女歯科医)|佐々木正時(茂呂井のYシャツを修理する洋服屋)|葛木香一(小学校校長)|泉静治(教頭)|花布辰男(新人教育講師の工場長)|高村栄一(新人教育講師の営業部長)|春本富士夫(尼崎工場の給与課長)|南方伸夫(人事課長)|宮代恵子(茂呂井の彼女で百貨店の女店員)|久保田紀子(茂呂井の彼女で映画館の女)|吉井莞象(大学総長(明治時代))|河原侃二(大学総長(大正時代))|宮島城之(大学総長(昭和時代)
☆☆☆
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
「にほん映画村」に参加しています:ついでにクリック・ポン♪。