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鷹壬実業高校 グラウンド
九浄 沙耶子(くじょう さやこ)は、鈍く光る赤色力場の中心にいた。
周囲には幾百もの生徒が様々な様相をして思いも思いの位置に立っているが、その視線は全て私の方向を向いている。
何故こんなことになったのだろう、と、思わなくもない。
「では―――」
傍らに佇む長身の生徒が、言葉を発した。自然と周囲の視線はそちらへと移動する。
整髪料で逆立て、前髪の一部を意図的に脱色しているのが特徴的な、群青色のローブに身を包むその生徒、戦部上那は言葉をつづけた。
「これより、九浄会長の命に従い、水月河へと本格的な侵攻を開始する。異論のある者は挙手しろ」
荘厳な雰囲気を声に纏わりつかせた上那は、周囲を一瞥。その群衆の中に、一人、挙手をしている生徒の姿を確認すると、少しばかり苛立ちを見せながら、手振りで発言を促した。
数歩こちらに進み出て、生徒は意見を述べようとする。
見たことのある顔だ。確か四堂という名字の二年生だった気がする。本籍をここに置いている生徒で、クラスはなんだったか覚えていないが近接系、ランクはBというのは覚えている。
立場的に言うなら、生徒会役員以外で作戦会議にまともに出席を許される数少ない生徒。だったか。
「まず、その意見は“本当に九浄さんの意見なのか”についてなのだが」
いきなり確信を突かたものの、上那は動揺の色を見せない。四堂は更に質問を連ねる。
「“ソレ”は何ですか?」
四堂が上那の丁度左に立つ人物を指差す。おそらく後者の疑問は、水月河との抗争が始まってから誰もが思ってきた疑問だろう。
目立つ純白の衣装に、目立つ大振りの薙刀。異質だ。
「前者の回答は、無意味だ。生徒代表にも、戦時に置いては会長と同等の決定権が与えられている。今回が形式的に沙耶子の命としただけだ。深い意味はない」
沙耶子、か。
昔はサヤって呼んでくれたなぁ…。と微かに思いながら上那―――幼なじみの次の言葉を待つ。
「そして後者の回答だが、こいつは傭兵。今回の抗争の都合上、水月河の嬢と互角以上に戦える戦力が必要だったから雇った。以上だ」
右の方向に視線を映すと、件の傭兵―――十澄さんと眼があった。
三年生で生徒会長である沙耶子でも、この人物については詳しくない。
基本的に傭兵凱旋サイトは本人の希望が無い限り情報の公開はしていないことと、沙耶子自身が世間の情報自体に疎い事が理由としてあげられるが………。
「自分もその方について調べようとしましたが、ほとんど情報は得られませんでした。情報の提示を希望します」
「無理だ。非公開っていう条件だったからな」
「………」
四堂の沈黙を会話の終了と見てか、上那は群衆へ視線を向け――――
「じゃぁ、戦闘可能時刻までに所定の位置に付け。予定時刻になり次第、侵攻を開始する」
「解散」
各々が四方八方へ散っていった。
現在は水月河の領土を数割手に入れているので、そちらの防御も固めないといけない分侵攻速度が遅くなっている気がする。
上那は、不良生徒が多い事で敬遠されがちだった鷹壬実業をうまく纏めていた。
だが今は、比較的穏健派だったあの頃とは別人の様に水月河への侵攻のことばかりを考えている。
侵攻するなら他府県にもっと侵攻しやすい高校があったはずなのに、何故近畿最大とまで言われていた水月河を相手に選んだのかがイマイチ理解できない。
調べた方が、いいの、かな?
箱入り娘同然の世間知らずの女子高生。
最初に取った行動は―――
―――――――――――『敵に相談する』ことだった。
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