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欧米キャンピングカー製造、激動の業界再編 
M&A in the RV world

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欧米の主要RVメーカー(旧図 イメージ 1)

 リーマンショック以降、RV関連市場の急速な拡大によりキャンピングカー業界で再編が進行している。  アメリカやヨーロッパではM&A(買収/合併)の多発により、業界内の勢力図が変化。 業界再編の波はアメリカ国内に留まらず、北米とヨーロッパ、北米とオーストラリアなどの二大陸間にも波及している。

 背景には、キャンピングカー車種の過当競争や共倒れ防止、材料調達コストの削減、グローバルな製造/サービス拠点の再構築がある。 また、キャンピングカーベース車両の調達先である大手自動車メーカーとの提携強化も重要な課題になってきている。 何故なら自動運転やコネクテッドカー技術、移動サービス、牽引車とキャンピングトレーラー連結における走行安定制御等、次世代自動車技術への対応も将来必須になるから。

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 昨年9月に発表されたソーア(Thor Industries)社のハイマー(Erwin Hymer Group)社買収計画は、今年 2019年2月に完了した。 買収金額は約2700億円(€2.1 billion=US$2.45 billion)と発表されている。 この大型買収でRV業界に激震が伝わった。 米RV界の巨人が欧州RVの雄を買収するなんて、全くの予想外だったから。 しかし、投資家の反応は冷ややかで、減速の兆しが見え始めたRV市場の中、ソーア株は下降基調が続いた。
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Thor社の株価チャート(ニューヨーク証券取引所)

 この買収により、Thor Industries社はアメリカとヨーロッパの二大陸でRV業界の構造や勢力図を塗り替え、新たなRVビジネスにも挑戦する。 一方のErwin Hymer Group社の経営陣は会社売却後も経営を続け、更なる会社の発展と経営者としての成長を目指す。 今後、欧米両市場でRV販売シェアが変化し、RVメーカー各社の経営環境も変化して行くことになる。

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EHG社買収前、2018年 売上高 第一位のThor社 約9千億円 23万台
(第二位 Forest River社、第三位 Winnebago社)
Source from toyota.co.jp, mazda.com,

 2018年 Thor社(THO)は北米RV新車登録台数 占有率48パーセントで第一位。 第二位はバフェット氏も出資している非上場 Forest River社で33パーセント、第三位は2016年にGrandDesignRV社を買収したWinnebago社(WGO)で15パーセント、第四位は特殊車両やRVを製造するREV Group社社(REVG)で約1パーセント。

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北米とヨーロッパ メーカー別 新車登録台数の占有率
各大陸の占有率 第一位は、ソーア社とハイマー社。

 2017年、Erwin Hymer Group社はヨーロッパのRV新車登録台数 占有率29パーセントで一位。 第二位はトリガノ(Trigano)社で28パーセント、第三位はクナウス(Kunaus Tabbert)社で9パーセント、第四位はホビー(Hobby)社で6パーセント。 2018年のThor社の売上と台数に Erwin Hymer Group社の約3千憶円 約6.2万台を加えると年間売上 約1兆円 約30万台となる。

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1990〜2018年 北米と欧州 RV新車登録台数の推移
2018年 アメリカとカナダで約49万台、ヨーロッパで20万台

 M&A(買収や合併)では、大企業が有望な新興メーカーに目を付けて吸収したり、逆にベンチャー的な小さなRVメーカーは大企業に身売りをして事業承継を実現する。 買い手は自社の飛躍的な成長を狙い、売り手は圧倒的高値の売却を望む。 商品価格の優位性を維持するためには、事業規模の拡大が手っ取り早い。

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何故か イメージ 8 が抜け落ちている
Image via ir.thorindustries.com

Thor Industries (17ブランド+アルファ+Erwin Hymer Group)
Airstream, Bison Coach, Crossroads RV, Cruiser RV, DRV Luxury Suites, Dutchmen, Entegra Coach, Heartland RV, Highland Ridge, Jayco, Keystone RV, K-Z RV, Livin' Lite RV, Redwood RV, Starcraft RV, THOR Motor Coach, Venture RV and [Four Winds Int'l(Fourwinds), Komfort(-2004), Garage RVs(Outlaw Toy Haulers), Damon RV, Breckenridge, General Coach]

各RVメーカーのリンクは、下記ブログ記事に掲載

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Erwin Hymer Group (15ブランド)
Bürstner, Carado, Dethleffs, Elddis(+Compass, Buccaneer, Xplore), Eriba, Etrusco, Hymer, Niesmann+Bischoff, Laika, LMC, Sunlight and 3DOG

各RVメーカーのリンクは、下記ブログ記事に掲載

 Thor Industries社は1980年の創業以来、これまで数多くのRVやバス関連企業を買収/再建している。 創業当初は、不況に喘ぐ老舗 エアストリーム(Airstream)社を買収して立て直した。 その後も次々とRVメーカーや材料メーカー等を買収。 最近は買収するだけではなく、レンタル事業等を展開するRV関連サービス会社と提携もしている。 これらは、正に”勝者の選択”。 どちらかというと、業界全体を考える優良企業が集まって強者連合を作ったり、企業の共倒れを防いで競争力を強化してきたErwin Hymer Group社とは異なる。

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Winnebago社は2016年にグランドデザインを傘下に収め、
2018年 RV新車登録台数 占有率 約15パーセントで第三位。
クラスBでは、占有率 約40パーセントで 第一位。
Image via investor.winnebagoind.com

 業界第三位のウィネバゴ社(Winnebago)はグランドデザイン(GrandDesignRV)社を2016年年に買収したが、これは”小が大をのむ”展開で自社の弱い部分であったキャンピングトレーラーを補強するもの。 業界トップクラスのRVメーカーでは、材料や部品メーカーを買収して垂直統合している(できる)。 また、関連業界を買収して新しいビジネスにも挑戦している。 中には会社を売却した売却益を手にし、老舗RVメーカー創業者が引退するパターンもある。

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American Fastbacks, Cliffride, Roadtrek (3ブランド)
Erwin Hymer Group North America社の現在の親会社は、
Corner Flag LLC社になっている。

 M&Aは会社・社員・顧客を幸せにするものでなければならないが、時に過酷。 Erwin Hymer Group社は北米展開の足掛かりとして2016年 Erwin Hymer Group North America(EHGNA)社を設立。 ラングラージープをベース車とする米RV製造会社(CliffrideとAmerican Fastbacks)と カナダのクラスBキャンパーバンの老舗 ロードトレック(Roadtrek)社を買収した。

 ところが、Roadtrek社は不正な会計処理を行っていて、内容虚偽の財務諸表を作成していた。 実情は300億円の負債を抱えて倒産の危機にあり、2019年2月、操業停止に。 約850名の従業員は解雇通告を受けている。 これまでのRoadtrekユーザーへのサービス継続や在庫車を抱える販売ディーラーへの対応は不透明。 (米国では新車販売時にメーカー保証を義務付けている)

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クラスBの老舗 ロードトレック社の旧ロゴ イメージ 13
2015年までの25年間、北米Class B販売で常にトップシェアだった。
2016年以降、首位の座を奪ったのは、北米販売網で勝るウィネバゴ社。

 Thor社は今回の買収において、契約違反を理由にErwin Hymer Group社に対しEHGNA社の買収除外を要求している。 しかし、老舗 Roadtrek社のブランド名と特許や意匠権は手中に収めたいはず。 何故なら、EHGNA社の主力カテゴリーはクラスBだから。 現在、Thor社はクラスB 新車登録台数において、占有率 10.8パーセントの 三位に甘んじている。(クラスA/Cとキャンピングトレーラーの各カテゴリーでは、50パーセント弱で一位)  今後、成長が期待されるクラスBキャンパーバン市場開拓に注力できる体制を整備したいはずだ。
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2017〜2018年 ヨーロッパ各国のタイプ別RV販売台数

 Thor社がErwin Hymer Group社を買収した事で、ヨーロッパのRV情報がThor社のIR資料に加わった。 これまで、ヨーロッパ製の冒険用キャンピングカーだけは良く知っていたが、今後はヨーロッパ RV業界全体の理解も進みそうだ。

<Postscript, June 2019>
 Thor社のErwin Hymer Group社買収は、EHG社が北米で展開する事業を除外する事になった。 買収金額は約2050億円(€1.7 billion=US$1.9 billion)。 RoadTrek社は、Corner Flag LLC社から仏Rapido Group社に譲渡される事が4月に決定した。 元従業員850名の内、200名以上は再雇用される見込み。 RoadTrek社の10憶円を超える資産は7月中旬のオークションで売却され、1工場を残してオンタリオ州の3工場は閉鎖される。

<関連ブログ記事>
erwinhymergroup.com Feb. 1, 2019
s21.q4cdn.com Sep. 17, 2018
sec.gov
 Thor's Acquisition of Erwin Hymer Group Html & JPG Sep. 18, 2018
ir.thorindustries.com
thorindustries.com
fundinguniverse.com

RVBisiness.com
  €2.1 billion(US$2.45 billion、約2700億円)

  Retail sales increasing in Truck Camper 20.8%, Class B 28.3%  
  Class B market share, Winnebago 40%, EHGNA 28.8%, Thor 10.8%
  Thor 42.5%, Forest River 22.5% Winnebago 13.5%
  Class A Thor 34.5%, Forest River 15.6%, Tiffin 14.3%
   REV Group 13.2% and Winnebago 12.5%
  Class C Thor 48.4%, Forest River 27.6%, Winnebago 14.2%
  Towable Thor 48.2%, Forest River 34.8%, Grand Design 5.9%

kitchener.ctvnews.ca Feb. 18, 2019

RVBisiness.com Oct. 2, 2016
investor.winnebagoind.com Oct. 3, 2016

rv.org

Forest River (7ブランド)
イメージ 16Forest River, Coachmen RV, Viking, Prime Time, Dynamax, Shasta and Palomino

REV Group (7ブランド)
イメージ 15Fleetwood RV, Holiday Rambler, Monaco Coach, American Coach, Renegade RV, Lance and Midwest Automotive Designs (Trek RV, Beaver, Safari, R-Vision)

Youtube
Tin Can Tourist wikiーbackup
enWwiki
camping-cars.jp
keizaireport.com 経済リポート
nihon-ma.co.jp 日本M&Aセンター
americabu.com
 
END

 Travel by a rental RV in Japan 

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El monte RV Japan社のキャンパー

 ”レンタルキャンピングカーで巡る日本”に関係する記事が英語圏のウェブサイトに掲載されるようになった。 レンタルキャンピングカー会社が外国人向けに英語のサイトを用意した事や、外国人向けレンタルに注力する会社が増えた事が背景にあるようだ。 各社のホームページに掲載されている画像は、日本の文化や風景を紹介する素晴らしい写真が盛り沢山だ。 訪日外国人数が増加基調にある中、外国人のレンタカー利用も増えており、中にはキャンピングカーをレンタルする方もいる。

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Source from mlit.go.jp and jice.or.jp

 エボラブルアジア社の傘下になってから、El monte RV Japan社は外国人向けにレンタルキャンピングカー事業を他社に先駆けて発足(2016)させた。 元々は日本人のアメリカRV旅行者に対して取次サービスを提供する会社で、現地のレンタルRV会社は”El monte RV”だった。

 この”El monte RV”は(シェア28パーセント)全米第2位の貸出台数やレンタル拠点を有する会社。 1位(シェア52パーセント)のCruise Americaに次ぎ、アメリカで知名度が高い。 僕もアメリカで3回利用した。 2016年末にニュージーランドのTourism Holdings Ltd. (THL)に約6500万ドルで買収され、2010年に買収されたRoad Bear RV社と同様にTHL傘下に入った。

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写真は2017ジャパンキャンピングカーショーに展示されていた車両
2017年より日本国内でのレンタルを開始している
富士山周辺をドライブしていた時にすれ違った事がある。

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外国人にお勧めしたい旅行の季節は、桜の咲く春ですでね。


<参考ブログ記事>

en.japantravel.com
japan-crc.com 2018/8
biz-journal.jp 2018/9
addd-link.co.jp 2018/11
mlit.go.jp
RVbusiness.com

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 Growth came to an end in 2018 
米国経済もピークアウトして後退局面か?

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RV Shipments in the US 1980-2018 with forecast 2019
1980〜2019 アメリカ RV出荷台数の推移
Data from RVIA, Chart by Fuji-maru

 2018年のアメリカ国内RV出荷台数は当初予測(約54万台)を下回る約48万台となった。 前年約50万台からマイナス4.1パーセントとなり、8年間続いた増加は終了した。 RV関連で数多くの研究を続けているミシガン大学調査研究センターによれば、2019年のRV出荷台数は前年比マイナス4.8パーセント、約46万台と予測されている。 新規一戸建て住宅販売件数も減少していることから、米国経済はピークアウトして後退局面に差し掛かっている状況が推測される。 政府閉鎖に加えての極渦による寒さで、RVメーカーも2019年の年初から苦境に立たされている。

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2017/2018 月別RV出荷台数

 2018年前半までRV出荷の増加基調が続いたが、後半は失速してしまった。 堅調なRV市場の背景にあったのは、安くなった自動車燃料費と低い貸付金利。 RV需要を支え続けているベビーブーマー世代の購買層。 そして、ミレニアル世代での購買意欲の高まりが、これらに加わっていた。 しかし、米国株が高値を更新しなくなってきたことや、各種経済指標から景気減速が懸念され、2018年はRV需要の節目になったようだ。

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2016〜2018年 タイプ別RV出荷台数

 タイプ別にみると、クラスBとトラックキャンパーが増加しているが、出荷台数の下支えには遠く及ばない。 クラスBはバンベースのキャンピングカーで、自走式RVの中で最も小型。 また、トラックキャンパーは居室をピックアップトラックに積載したキャンピングカーで、着脱式RVの中で全長が最も短い。 両タイプに共通しているのは、”小さくて扱いやすいRV”。 これまでのRV買い替え需要が一巡する中で高齢化したRVerがRVをダウンサイジングしたり、新規ユーザーが購入するRVがクラスBやトラックキャンパーになってきているようだ。

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満車から一転、閑散としたクラスA完成車ヤード
RV産業の中心地、インディアナ州エルクハート

 RV出荷台数/金額の減少で、NYSEに上場するThor Industries (THO)、RV製造の老舗 Winnebago Industries (WGO)、特殊車両やRVを製造する REV Group Inc (REVG)、RV用部品製造の Patrick Industries (PATK, HP), Camping World (CWH, HP)や LCI Industries (LCII, HP)など、RV関連株は2018年以降 下落基調に転じた。 今後のRV市場に大きな懸念は無いと言うアナリストもいる。 理由は、アメリカのRV購買層は55〜74歳と30〜45歳が中心で、2015年から2025年にかけ、この年齢層の人口は約15〜13パーセント増加するからだ。

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米国年齢別人口構成と2020年のRV購買層
Source from census.gov

 現在、RVX:The RV Experience 開催中 

Youtube:RVX Sizzle Reel
RVX:The RV Experience, March 12-14, 2019 Salt Lake City, UT
ケンタッキー州ルイビルのNational RV Trade Showは2017年で終了し、
2019年よりユタ州ソルトレイクシティにて新名称”RVX”で開催スタート。

イメージ 5イメージ 6
左:クラスBトップシェアとなったWinnebago社の2020 Boldt
右:2019 Lance 650, トラックキャンパー

<追記>
 2018年の北米RV新車登録台数は過去最高だった。 アメリアとカナダを合わせると、489,440台で前年比 3.6パーセントアップ。

<参考ブログ記事>

<参考サイト>
RVIA.com
RVbusiness.com
goshennews.com
seekingalpha.com
21rv.com

<その他>

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 脱着式キャンパー創作のアイデア 

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luxe strandwoningen in holland

 オランダでは、夏になると海岸にビーチハウスを運んで来るらしい。 そんな写真をネットで見つけた。 居室部が着脱可能なキャンパーに見えてしまうのは、僕だけか? 過去の記事で下記のユニークなキャンパーを紹介してきたが、これらもトラックの荷台に居室を積んだタイプだ。

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オランダ Tonk社のFieldsleeper
冒頭の写真と同様に居室を積載しているが、これは市販のキャンパー。

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フラットベッドトラックにプレハブハウスを積んだ自作キャンパー。
Image via flickr.com

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 平ボディトラック & UNIC + スーパーハウス=即席キャンピングカー。
ブログ記事 Home Made Removable RVs in Japan で紹介。

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セミトレーラーのロールオフコンテナ内に居室を造作した自作キャンパー。
ブログ記事 着脱出来る キャンピングカー ロールオフ編 で紹介。
Image via fakrub.com

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 Fuel-cell cars create zero emissions 

 燃料電池車FCVの普及には、解決すべき技術的問題が山積している。 水素は常温/常圧では爆発性の気体。 化石燃料のように自然界から収集できない。 いかにして安全に大量に、且つ、安価に製造・貯蔵・運搬・利用するかが課題である。 電力貯蔵の高密化はリチウムイオン電池技術の進展により可能となり、バッテリー式電気自動車BEVが実用化された。 しかし、水素に関する様々な技術は発展途上にある。

 現状では、水素製造工場、水素運搬や燃料電池車FCVに水素を供給する水素ステーションの設置(約4.6憶円/ヶ所)など、社会インフラの整備にも莫大な投資が必要になる。 この水素でFCVが発電する電気コストは、送電網につながるEV用充電ステーションの電気に比べ、現状レベルで約4倍になるとの試算もある。

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水素ステーション (建設費約4.6憶円/ヶ所、運営費約45百万円/年)
整備費用の1/2〜2/3に補助金(上限390百万円)、活動補助金(上限22百万円)
(2030年:目標建設費は2億円以下) Image via toyota.jp

 水素は、天然ガスなどの化石燃料、森林資源や廃材などのバイオマスから化学反応により取り出すことが出来る。 また、製鉄、苛性ソーダ(食塩電解)などの工場で発生するガスから分離した副生水素もある。 石油精製では原油から水素を製造し、この水素をガソリンや灯油等の石油製品の製造に用いている。 ここには余剰の水素製造能力(日本は47億Nm3/年)があり、燃料電池車FCVの普及初期には十分な量だと推定されている。

 大電力(水素1Nm3あたり約5kWh)が必要になるが、水に電気を流して電気分解しても水素が得られる。 (水素エネルギーナビ) この電力には、CO2を排出しない風力、太陽光、太陽熱、バイオマス等、再生可能エネルギーの投入が期待されている。 光触媒やISプロセスもCO2を排出しない水素製造技術として研究が続けられている。

 水素はガソリンに比べ、重量当たりのエネルギー密度は約3倍と高い。 しかし、気体の水素ガスは、体積当たりのエネルギー密度が約3000分の1と低い。 従って、水素ガスを貯蔵・運搬する場合は、密度を高める必要がある。 また、燃料電池車FCVに搭載可能な水素タンクのサイズでガソリン車並みの航続距離を確保するには、高密度化した水素が必要になる。

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体積及び重量当たりの燃焼熱量比較

 水素を効率的に高密度で運搬したり貯蔵する方法として、水素を吸収反応させる媒体(吸蔵合金、有機ハイドライドMCH、ホワイトグラフェン、単層カーボンナノチューブ、アンモニア等)が研究開発されている。 燃料電池車FCVの開発当初は水素吸蔵合金が採用されていたが、重量あたりの吸蔵量が小さいため、重い燃料タンク(数百kg)となっていた。 また、エネルギー密度が水素ガスの約800倍になる液体水素では、水素ガスを液体にする為に投入するエネルギー量が大きく(約1kWh/Nm3、11kWh/kg)、また、貯蔵タンクは蒸発(ボイルオフ)を防ぐ高断熱化を要す。 この様な状況下、消去法からか、現在は高圧縮水素ガスが採用されている。

 乗用車に積載可能な燃料タンク容積は、100リッターほど。 現在の燃料電池の発電効率でガソリン車並みの航続距離を確保するには、このタンク容量の約700倍の水素ガスが必要になる。 逆算すると、700分の1に高圧縮した水素ガスをタンクに充填しなければならない。
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MIRAIの水素タンクは、前方60L(45kg)と後方62.4L(47kg)の2基
Image via FCV(燃料電池自動車)適正処理/回収・リサイクルマニュアル

 高圧縮された水素を封入するタンクは、金属で強度を確保しようとすると肉厚となり、空でも200kg近くになってしまう。 しかし、炭素繊維強化プラスチックCFRPを主とした高強度材料を用いた三層構造にする事で、強度確保と軽量化が可能になり、約半分の約92kg(MIRAI)になった。 容積や重量は、CNG車やLPG車とほぼ同じである。 尚、この高圧水素タンクは、世界統一技術基準(GTR容器)の基になっている。 (※高圧水素容器/水素自動車の最高充填圧力87.5MPa/公称使用圧力70MPa、マイナス40℃〜85℃)

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2基の水素タンクFCスタックアセンブリー(シャシー準備工程)
Image via Youtube Toyota Mirai Production

 現在、世界基準となった燃料電池車FCVの水素タンク圧力は70MPa。 水素ステーションでは更に高い82MPaでの貯蔵となっている。 この圧力は大気圧の約700倍、及び820倍で、水素ガスの体積は約700分の1になる。 気体は圧縮されると温度が上昇するので、仮に断熱圧縮で単純計算すると、1800℃近い現実離れした温度上昇となる。 気体の圧縮と発生する熱の冷却には、大きなエネルギーが必要になる。

 例えばトヨタの燃料電池車FCV Miraiの122.4リットル水素タンクには、1気圧(0.1MPa)20℃の水素ガスで換算すると、約84.6キロリットル(約7.06kg)の圧縮水素ガスが貯蔵できる。 タンク残量圧10MPaから開始して70MPaまで充填すると、約6.08kg(1気圧20℃換算で72.5キロリットル)の水素ガスが補充される。

 水素ガス製造時の0.1MPaから82MPaへ圧縮されて70Mpaでタンクに充填されるまでの仕事量を計算すると、約30.6kWh/6.08kg(110MJ/6.08kg、5.04kWh/kg、18.2MJ/kg、453Wh/Nm3、電気代 約83円/kg)になる。 この電力 約30kWhがあれば、電気自動車BEVなら約300kmも走行できる。 (※1気圧0.1MPa 20℃から70MPaへ圧縮する理論上の仕事量は、等温圧縮で7.9MJ/kg、断熱圧縮で16.8MJ/kgとなる。)

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オフサイト型水素ステーションで供給される圧縮水素

 水素ステーションで82MPaへ高圧縮された水素ガスは、ディスペンサーから燃料電池車FCVの水素タンクに充填されて70MPaに下がる。 通常、膨張して圧力が下がれば温度も下がるが、水素ガスの場合は逆。 ジュール・トムソン効果により、ホースやノズル等の狭路を流れる際に水素ガスの温度は上昇する。 その為、充填する水素ガスを冷凍機でマイナス40℃に冷却(プレクール)している。 また、過充填や水素タンクの過負荷を防止する為、タンク内の圧力と温度情報をFCVからディスペンサーに送る通信充填が採用され、外気温も考慮した水素充填制御になっている。

 水素ガスは高圧縮するほど運搬や貯蔵の効率は上がる。 しかし、圧力に比例して圧縮/冷却に要するエネルギーが増え、単に充電だけのEVに比べて余分なCO2排出の要因になっている。 その為、ホンダでは開発初期からClarityの初期モデル(2008年 FCX Clarity)まで水素ガス充填圧力を70MPaの半分の35MPaに設定していた。 35MPaであれば、従来のエンジン車よりもWell-to-WheellでCO2を削減できるが、70MPaではかえってCO2排出量を増やしてしまうと試算していたようだ。

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ガソリンスタンド一体型 水素ステーション
JXTGエネルギー(株) Dr.Driveセルフ海老名中央店
Image via newsroom.toyota.co.jp

 現在、日本には約100ヶ所に水素ステーションがあり、35MPa車専用の40MPa水素ステーション、35と75MPa両車対応の80MPa水素ステーションの2タイプとなっている。 35MPaの充填ノズルは70MPa車でも使えるので、70MPa車は35MPa/70MPaいずれも利用可能。 逆に、70MPaの充填ノズルは、35MPa車に接続できない仕組みになっている。 また、満充填に近い70MPa車に35MPaノズルを接続しても、水素ガスが逆流する事はない。

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水素製造装置(水蒸気改質炉と水素精製装置)
左:炭化水素系燃料を約800℃で水蒸気と反応させ、CO2と水素を製造
右:圧力変動吸着法(PSA法)により、水素を分離して純度を向上
Image via car.watch.impress.co.jp

 水素ステーションでは、都市ガスやLPガスから水素を自前で製造/圧縮して販売したり、外部から購入した水素を圧縮して販売している。 前者はオンサイト型、後者はオフサイト型と呼ばれている。 大規模な水素製造装置で水素を製造した方が効率が良いが、運搬には高圧(45MPa)水素専用のタンクローリー(約4千万円/台)が必要になる。 それ故、工業用(光ファイバーや半導体製造)の水素は、オンサイト(自家製造)が主流で都市ガス、天然ガスLNGやメタノールから製造されている。 この水素製造装置は実用化が進んでおり、経済性も良い。

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水素製造コストとCO2排出量は、下記の熱化学方程式にて試算
改質反応+シフト反応:CnHm+2nH2O → nCO2+(2n+m/2)H2−Q1(吸熱)
燃焼:CnHm+(n+m/4)O2 → nCO2+m/2H2O+Q2(発熱)

 現状のオンサイト型では、水蒸気改質で化石燃料から水素を製造しており、A重油を原料にすれば約280円で水素1kgが製造できる。 しかし、燃料となる水素製造でCO2を約11kgも排出している。 このCO2重量を走行1kmあたりで消費される水素重量(約0.01kg/km)で乗して、走行1kmのCO2排出量に換算すると、燃焼式エンジン車が走行で排出する量に近くなる。 燃料電池車FCVや電気自動車BEVは走行中に(Tanl-to-Wheelでは)CO2を排出しないが、電気や水素の製造で(Well-to-Tankで)燃焼式エンジン車よりも多くのCO2を排出している。

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Well-to-Wheelで、1km走行で排出されるCO2の重量

 利用段階でCO2を排出しない水素は、低炭素型のエネルギー媒体として有望で、様々なエネルギー源から製造することが可能。 但し、原料や製造方法によってコストや意義が大きく異なる。 上記通り、原料に化石燃料を用いると、製造段階で大量のCO2を排出する。 CO2回収/貯蔵にCCSを導入すると、電力コストや減価償却費を含めた水素製造コストは30〜40パーセントも跳ね上がる。

 水電解に再生可能エネルギー(風力や太陽光発電など)由来の電力が投入できれば、CO2の排出量が削減できる。 ただ、水素1kgの製造に必要な電力 約50kWhがあれば、電気自動車BEVなら約500kmも走行できる。 製造や圧縮で大量のエネルギーを消費し、且つ、製造方法によってはCO2を大量に排出する水素だが、貯蔵・運搬できるエネルギー媒体としてのメリットが大きい。 電力を水素等のガスに変換する”Power to Gas”が、再生可能エネルギーの間欠性やムラを補う方法の一つになる。

 ホンダが、高効率の水素供給システムを2018年11月21日より販売を開始している。 固体高分子膜を用いた差圧式高圧水電解システム「Power Creator」で、水素製造能力は、2.5kg/日。 製造圧力82MPaで、貯蔵量は約11kg。 特筆すべきは、一般的な水電解(常圧)で必要だった除湿や圧縮に要するエネルギーを4分の1に減らしている事。 グラフより、約1180W/m3-H2(13.8kW/kg)から、約270W/m3-H2(3.8kW/kg)になっている事が読み取れる。

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2016年に江東区青海に設置された実証実験用の70MPa SHS
SHS:Smart Hydrogen Station:スマート水素ステーション
Image via honda.co.jp, Source via jcpage.jp

次の記事 「Fuel Cell #4 燃料電池の種類」へ続く。

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