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48「ユーチューブで観た映画」に「カメラを止めるな!」の感想を追記

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川端康成の文章

 川端康成の文章に、私は魅了されます。
 
 川端康成というと、日本で最初のノーベル文学賞作家であるし、何度も映画化された小説「伊豆の踊子」などのイメージから、清く正しく美しい小説を書く品行方正な正統派作家だと思われているかもしれません。
 
 確かにそれはその通りなのですけど、川端康成には、それだけじゃない、それを超えるデモーニッシュな何かが存在するのも確かです。
「眠れる美女」のような作品を書かせるのは、彼の中に潜むデモーニッシュな力なのでしょうね。
 
 彼は呪われた作家。
 すなわち、本物の作家。
 ヘルマン・ヘッセの「デミアン」風に言うと、額にカインのしるしがある人間。
 最近は、額に何のしるしも付いていないくせに、自分を作家だ詩人だと勘違いしている連中ばかりで困るのですけど・・・呪われよ、平凡な魂よ!
 
イメージ 1
 
 そんな川端康成の文章は、静かな中に独特の鬼気を忍ばせています。
 その一例として、三島由紀夫も「文章読本」の中で引用していた「しぐれ」の一節を読んでみてください。
 
 
 ・・・昨日も秋にはときどきある、朝も昼もずうっと夕暮のような空模様のまま夜になるとしぐれが来ましたが、まだ東京近くでは木の葉が散るしぐれやまがふころではないと知りながら、私は落葉の音もまじっているように聞こえてなりません。
 しぐれは私を古い日本のかなしみに引きいれるものですから、逆にそれをまぎらわさうと、しぐれの詩人と言われる宗祇の連歌など拾ひ読みしておりますうちにも、やはりときどき落葉の音が聞こえます。葉の落ちるには早いし、また考えてみますと私の書斎の屋根に葉の落ちる木はないのであります。
 してみると落葉の音は幻の音でありましょうか。私は薄気味悪くなりまして、じっと耳をすましてみますと、落葉の音は聞こえません。ところが、ぼんやり読んでおりますと、また落葉の音が聞こえます。
 私は寒気がしました。
 この幻の落葉の音は、私の遠い過去からでも聞こえて来るように思ったからでありました・・・
 
 
 どうです? 素晴らしい文章でしょう? もはやこれは散文ではありませんよね。詩ですよね。
川端康成の後期の作品は、言ってみれば韻文で書かれた小説です。
 
 最後に、川端康成の代表作「山の音」から、初老の主人公・信吾が初めて山の音を聞く場面を読んでみてください。
 先に引用した「しぐれ」にも通じる鬼気が凄いですから。
 こういう文章が書ける人こそが本物の作家なのです。

イメージ 2
 
 
 月夜だった。
 菊子のワン・ピイスが雨戸の外にぶらさがっていた。だらりといやな薄白い色だ。洗濯物の取り入れを忘れたのかと信吾は見たが、汗ばんだのを夜露にあてているのかもしれぬ。
「ぎゃあっ、ぎゃあっ、ぎゃあっ」と聞こえる鳴声が庭でした。左手の桜の幹の蝉である。蝉がこんな不気味な声を出すかと疑ったが、蝉なのだ。
 蝉も悪夢に怯えることがあるのだろうか。
 蝉が飛びこんで来て、蚊帳の裾にとまった。
 信吾はその蝉をつかんだが、鳴かなかった。
「おしだ」と信吾はつぶやいた。ぎゃあっと言った蝉とはちがう。
 また明かりをまちがえて飛びこんで来ないように、信吾は力いっぱい、左手の桜の高みへ向けて、その蝉を投げた。手答えがなかった。
 雨戸につかまって、桜の木の方を見ていた。蝉がとまったのか、とまらなかったのかわからない。月の夜が深いように思われる。深さが横向けに遠くへ感じられるのだ。
 八月の十日前だが、虫が鳴いている。
 木の葉から木の葉へ夜露の落ちるらしい音も聞こえる。
 そうして、ふと信吾に山の音が聞こえた。
 風はない。月は満月に近く明るいが、しめっぽい夜気で、小山の上を描く木々の輪郭はぼやけている。しかし風は動いていない。
 信吾のいる廊下の下のしだの葉も動いていない。
 鎌倉のいわゆる谷(やと)の奥で、波が聞こえる夜もあるから、信吾は海の音かと疑ったが、やはり山の音だった。
 遠い風の音に似ているが、地鳴りとでもいう深い底力があった。自分の頭のなかに聞こえるようでもあるので、信吾は耳鳴りかと思って、頭を振ってみた。
 音はやんだ。
 音がやんだ後で、信吾ははじめて恐怖におそわれた。死期を告知されたのではないかと寒気がした。
 風の音か、海の音か、耳鳴りかと、信吾は冷静に考えたつもりだったが、そんな音などしなかったのではないかと思われた。しかし確かに山の音は聞こえていた。
 魔が通りかかって山を鳴らして行ったかのようであった。

閉じる コメント(4)

おぉぉぉ〜!
確かに、ここで拝読させていただくと『すごい!!』と思いました。
が!あんじゅはこの時代の作品群がニガテでありまする。
なんというのか理屈っぽい?描写がくどくて想像の余地がナイ?
そんな風に感じ途中で投げ出してしまう・・・。
この「山の音」じっくり読んでみます。
今度こそ!読める気がします!ありがとうございます(*^_^*)

2012/6/24(日) 午前 10:43 あんじゅ 返信する

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あんじゅさん、こんにちは。
川端康成の小説は、理屈っぽくないし、とても読みやすいですよ。
他にも「雪国」や「名人」などオススメです。

2012/6/24(日) 午前 10:50 [ ふじまる ] 返信する

早速!『雪国』を読みました。
お恥ずかしながら初めてすべて読みました。
中学生ぐらいの頃に買ってあったの。
もぉ、茶色っぽく変色してましたわ(笑)
年齢を重ねたからなのかしら?
思いもかけずサラッと読めました。
ありがとうございました!

2012/6/29(金) 午後 9:57 あんじゅ 返信する

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あんじゅさん、こんばんは。
「雪国」を読んだなんて素敵です。読みやすかったでしょう? 川端康成の小説は、表面は静かでサラリとしていますが、その奥に深い何かが隠れている感じです。

2012/6/29(金) 午後 10:12 [ ふじまる ] 返信する

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