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「県民健康調査」は県が福島県立医科大学(写真)に委託する。
県は避難住民を帰還させたいので、医大はそれに沿った結論を出したり
情報隠しを行なっているのではといわれている

福島で甲状腺がんが多発している原因が福島第一原発からの放射線かどうかを専門的な立場から助言するために県が設置した「県民健康調査検討委員会(検討委)」
チェルノブイリ原発事故では子供の甲状腺がんが多発した。そのため福島でも疑ってかかるべきなのだが、実際には逆方向へと進んでしまっている。
このままではがん患者が見殺しにされかねない事態になりそうだ。一体、何が起こっているのか?

■チェルノブイリ同様、5歳以下からがん患者が
6月6日に福島市で開かれた「第23回県民健康調査検討委員会」。放射線被曝(ひばく)と甲状腺がんの因果関係を調べるこの有識者会議で、県民や報道陣が傍聴する中、福島の事故当時18歳以下だった子供の甲状腺がんが、さらに15人増えたことが報告された。
これでがんと確定したのは131人になったのだが、今回、この15人の中に当時、5歳以下の子供が加わっていたことが初めてわかり、傍聴人の間に衝撃が走った。
もともと小児甲状腺がんの発症率は、100万人当たり年間2人程度といわれている。それが原発事故後の福島では、約38万人いる18歳以下に対して、5年で131人ががんと診断された。34倍以上の明らかな「多発」といえる。
だが、検討委は「過剰診断が多発の理由であり、放射線の影響は考えにくい」としてきた。過剰診断とは、本来は診断する必要もなかったが、調べてみたら見つかってしまい、手術までしてしまった診断のことだ。
検討委が被曝の影響は考えにくいとする根拠はいくつかあるが、その中のひとつが「チェルノブイリでは事故当時5歳以下の子供に甲状腺がんが発症したケースが見られたが、福島では出ていない」というものだった。
子供の甲状腺は放射性ヨウ素を吸収しやすく、原発事故で飛散したヨウ素131を取り込むとがんになる。だが、福島では、事故当時5歳以下の発症者がこれまで見つかっていなかったため、がんは放射線とは関係ないとのスタンスだったのだ。
ところが、今回初めて5歳以下の患者が出た。県や医大は公表していないが、事故当時、いわき市に在住していた5歳の男児が、今年5月頃に手術を終えたとみられていることが取材でわかったのだ。これで検討委の「被曝と関係なし」とする根拠のひとつが崩れたことになる。
だが、記者からの質問に答えた星北斗座長はこう突き放した。
「恣意的に公表しなかったわけではなく、全体的に判断すること(だと考えている)。この先どのくらい5歳以下の患者が出てくるのか検証する必要はあるが、放射線の影響は考えにくいとするいままでの論拠を、これで変更することはないと考えている」
つまり、ひとりぐらい5歳以下から患者が出ても、被曝と関係があるのか議論することはしない、ということだ。こうした検討委の姿勢に、福島の甲状腺がんの患者や親が集まる「311甲状腺がん家族の会」代表世話人の千葉親子(ちかこ)氏はこう怒りをにじませる。
「星座長の言葉は言い逃れにしか聞こえません。5歳以下の子供にがんが見つかったのだから、きちんと検証をしないといけないはず。第一、今の甲状腺がん多発についても『過剰診断』と言っていますが、もっと被曝の影響をちゃんと検査をして調べるべきです」


■患者のデータを医大が隠そうとする理由
そもそも検討委は、以前から結論ありきの組織ではないかとの批判が多い。福島の甲状腺がん問題に詳しいジャーナリストの藍原寛子氏が解説する。
「4年前、検討委は秘密会を開いて県民が知らないところで大事なことを決めていることがわかり、大きく批判されました。当時の座長だった山下俊一氏らのメンバーは、それをきっかけに代わりましたが、検討委の本質は今でも同じ。放射線の影響は考えにくいとした今年3月の中間とりまとめにしても、どういう議論がされたのかさっぱり見えてきません。
初めのうちは、予防医学につなげるようなことを言っていたけど、フタを開けてみると疫学的な分析も不十分な上、チェルノブイリなどほかの地域との比較もおざなりで、都合のよいデータしかつまみ食いしないのです。実際のデータさえきちんと比較分析していないのに自分たちは科学的だと言う」
秘密会とは、検討委員会に先立って非公開の会議をこっそり開催し、調査結果に対する見解を「がんと原発事故の因果関係はない」とするよう擦(す)り合わせしていたものだ。この問題は県議会でも取り上げられ、村田文雄副知事(当時)が陳謝する事態に及んだ。
藍原氏は、検討委の人選もありえないという。
「まず当事者である患者が入っていない。これでは県民のための調査といえません。それに委員は東京や長崎から来ていて、福島で患者を実際に診ている人がほとんどいない。星座長は地元ですが、医師免許を所有していても病院の経営者で、実際に患者を診ていないのです。そもそも甲状腺の専門外の委員がほとんどだから、バラバラに好きなことを言って終わってしまっているのが現状です」
検討委の議論が、結論の方向がある程度決まった前提で行なわれているとしたら、その責任は委員を選んだ県にある。県は、福島県立医科大学に県民健康調査を発注し、検討委もその調査の一環に含まれている。つまり、医大も検討委も県の目指す方向性に沿って議論を進めざるをえないのだ。
その方向性とは、原発事故で避難している住民を地元に帰す帰還政策のこと。うかつに被曝の影響で甲状腺がんになったと認めたら、県民は地元へ帰らないばかりか、補償も求められる。そのため「被曝とがんの因果関係はない」との結論に誘導されている…というわけだ。
そう考えると、甲状腺がん患者のデータの多くを医大が公表しない理由も見えてくる。実際に医療関係者からはこんな指摘も出ている。
「例えば、がんの進行度を数値で分けた『TNM分類』というものがあります。Tは腫瘍の大きさ、Nはリンパ節への転移、Mは他の臓器への転移を示し、これを見れば福島で起きている甲状腺がんの傾向が一発でわかる。だが、県や医大はこの分類を診療情報、個人情報だとしてデータを出さないのです。
しかし、この分類はもともと疫学データに使うものであり、個人情報とは性質が違う。それに、甲状腺がんの手術をした後に再発している人もいるというのに、そんな重要なデータさえ一切出してきません。県や医大は今の甲状腺がん多発の状況をデータ化されたくないのかもしれませんが、公表しないことには違和感を覚えます。個人を特定しない範囲で出すことはできるはずです」

この続きは、明日配信予定! このままでは甲状腺がん患者の存在がなかったものとされる?
(取材・文・撮影/桐島 瞬)

 ニュース23では、16日夜、原子力機構の競争入札について「談合とも言える状況」と指摘した、自民党プロジェクトチームの報告書についてお伝えしました。報告書をまとめた議員らは17日、内容を公表する記者会見を予定していましたが、党上層部からの指示で急きょ中止されたことがわかりました。

 17日夕方、自民党本部で予定されていたのは、「行政事業レビュープロジェクトチーム」の議員による記者会見です。行政レビューPTでは、原子力機構の競争入札に関し、業者が知りえない予定価格と同額の落札が、5年間で189件あったことなどを分析し、「談合とも言える状況」などと指摘する報告書をまとめていました。

 この報告書を17日の会見で発表する予定でしたが、直前になって急きょ中止となり、その理由について、行政レビューPTの座長・平衆院議員は、「自民党の行革本部長から中止の指示があった」とのコメントを発表しました。

 これについて、PTの上部組織である自民党行革本部の桜田本部長側は、「行革本部役員会の手続きが済んでいないため」などと説明しています。一方で、党内の一部からは、「この時期にそんな報告書が出たら、原子力機構の予算編成に支障をきたす」と懸念する声も上がっているということで、背景には、巨額の予算を抱える原子力機構をめぐって、なんらかの利害対立がある可能性も垣間見えます。

 行政レビューPTの議員らは、当初18日、文科大臣と行革大臣へ申し入れを行い、公正取引委員会に通報する予定でしたが、それも中止に追い込まれたということです。(17日21:08)

福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか?〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 後編】〜

宝島 3月25日(水)12時0分配信

最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回!

福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか? 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 前編】〜

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小児甲状腺ガン、急性心筋梗塞「汚染17市町村」で同時多発
 福島第一原発事故発生当時、18歳以下だった福島県民の人口は36万7707人。そのうち、14年12月末時点で甲状腺ガン、またはその疑いがある子どもの合計は117人である。この数字をもとに、福島県全体の小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、10万人当たり31.8人となる。これでも相当な発症率であり、十分「多発」といえる。
 14年度の検査で新たに「甲状腺ガン、またはその疑いがある」と判定されたのは8人だが、そのうちの6人が「汚染17市町村」の子どもたちである。「汚染17市町村」における小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、同33.0人と県平均を上回り、より多発していることがわかった。
「汚染17市町村」では、急性心筋梗塞も多発している。【図5】は、同地域における過去5年間の「急性心筋梗塞」年齢調整死亡率を求めたものだ。
 最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同27.54人)を上回る同29.14人。おまけにこの数値は、12年(同29.97人)から“高止まり”している。つまり「汚染17市町村」が、福島県全体の同死亡率を押し上げていた。
 周産期死亡率、小児甲状腺ガン発症率、さらには急性心筋梗塞年齢調整死亡率のいずれもが、「汚染17市町村」で高くなる──。
 これは、福島第一原発事故による「健康被害」そのものではないのか。それとも、偶然の一致なのか。

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 本誌取材班は、東京電力を取材した。同社への質問は、
(1)原発事故発生後の「福島県における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。
(2)原発事故発生後の「汚染17市町村における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。
(3)「汚染17市町村」で周産期死亡率と急性心筋梗塞年齢調整死亡率がともに上昇していることは、この中に、被曝による「健康被害」が内包されている可能性を強く示唆している。これに対する見解をお聞きしたい。
 という3点である。
 取材依頼書を送ったところ、東京電力広報部から電話がかかってきた。
      *
「(記事を)読む方が、心配になったりするような内容ではないんでしょうかね?」
──「心配になる内容」とは?
「質問書をいただいた限りだと、『震災以降、率が上がっている』といったところで、特に不安を煽るような内容になったりするのかなと、個人的に思ったものですから」
──「不安を煽る」とはどういうことでしょうか?質問した内容はすべて、国が公表したデータなど、事実(ファクト)に基づくものです。
「ファクトですか」
──はい。
「国等(とう)にも当社と同様にお聞きになった上で、記事にされるんでしょうかね?」
──はい。そうです。
      *
 その後、同社広報部からファクスで次のような“回答”が送られてきた。
「人口動態統計での各死亡率等についての数値の変化については、さまざまな要因が複合的に関係していると思われ、それら変化と福島原子力事故との関係については、当社として分かりかねます」
 しかし、「分かりかねる」で済む話ではない。
 そもそも、日本国民の「不安を煽る」不始末を仕出かしたのは東京電力なのである。それを棚に上げ、事実を指摘されただけで「不安を煽る」などという感情的かつ非科学的あるいは非論理的な言葉で因縁をつけてくるとは、不見識も甚だしい。
 自分の会社の不始末が「国民の不安を煽っている」という自覚と反省が不十分なようだ。猛省を促したい。

環境省「放射線健康管理」の正体を暴く
 続いて、国民の健康問題を所管する厚生労働省に尋ねた。
      *
「それは、環境省のほうに聞いていただく話かと思います」
──原発事故による住民の健康問題は、環境省に一本化されていると?
「そうですね」
      *
 ご指名に基づき、環境省を取材する。面談での取材は「国会対応のため、担当者の時間が取れない」との理由で頑なに拒まれ、質問への回答は、同省総合環境政策局環境保健部放射線健康管理担当参事官室よりメールで寄せられた。回答は以下のとおり。

「昨年12月22 日に公表された、『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』の中間取りまとめによれば、
●放射線被ばくにより遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されないと判断する。
●さらに、今般の事故による住民の被ばく線量に鑑みると、不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することも予想されない。
 とされています」

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  環境省は、たとえ周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率が増加したとしても、それは原発事故の影響ではない──とした。その根拠は「専門家会議の中間取りまとめ」が、原発事故の影響でそうした疾患が増加することを予想していないからなのだという。ちなみに、「専門家会議」を所管しているのは、この回答の発信元である同省の「放射線健康管理担当参事官室」である。
 科学の権威たちが揃って予想だにしないことが起きたのが福島第一原発事故だったはずだが、あくまで「予想」に固執する環境省は同じ轍(てつ)を踏みそうだ。もちろん、科学が重視すべきは「予想」より「現実」である。
 環境省の説が正しいとすれば、原因は別のところにあることになり、それを明らかにするのが科学であり、それは環境省が拠りどころとする「専門家会議」の仕事のはずだ。だが、その原因を特定しないまま、環境省は端から全否定しようとするのである。なぜ、環境省は現実から目を逸らし、真正面から向き合おうとしないのか。
 身も蓋もない言い方だが、環境省が現実に目を向けることができないのは、昨年12月に出したばかりの「中間取りまとめ」を、環境省自身が否定することになりかねないからなのである。つまり、本誌取材班の検証で明らかになった「汚染17市町村」での周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率の増加の事実は、「専門家会議の中間取りまとめ」の「予想」結果を根底から覆しつつ「権威」を失墜させ、その贋物性を白日の下に曝け出してしまうものだった。
「中間取りまとめ」が予想していない疾患の増加はすべて「原発事故の健康被害ではない」として、頭ごなしに否定する環境省の姿勢は、かつて「日本の原発は事故を起こさない」と盛んに喧伝してきた電力御用学者たちの姿を彷彿とさせる。
 12年7月に出された国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の報告書は、
「歴代の規制当局と東電との関係においては、規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電力事業者の『虜』となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」
 としていた。環境省もまた、電気事業者の「虜」となっているようだ。そう言われて悔しければ、「現実に向き合う」ほかに名誉挽回の道はない。

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 このように不甲斐なく、頼りにならない環境省のおかげで、このままでは「汚染17市町村」での“健康異変”は十把一絡(じっぱひとから)げにされ、かつて「水俣病」が発覚当初に奇病扱いされたように、原因不明の奇病「福島病」とされてしまいそうである。
 メチル水銀中毒である「水俣病」に地域の名前が付けられたのは、加害企業の責任をごまかすべく御用学者が暗躍し、「砒素(ひそ)中毒説」などを唱えたことにより、原因究明が遅れたことが原因だった。これにより、病気に地域名が付けられ、被害者救済も大幅に遅れることになったのである。
 従って、「汚染17市町村」で多発する病気に「福島」の名が冠されるようになった時の原因と責任は、すべて環境省にある。

調査スクープ!原発近隣住民の間で「悪性リンパ腫」多発の兆し 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第5回】〜

宝島 3月9日(月)12時10分配信

避難7町村における悪性リンパ腫は、特に「50歳以上」の「男性」たちの間で集中発生していた。放射能汚染地帯におけるガン多発は、子どもたちの甲状腺ガンだけではなかった!


2013年も続いていた急性心筋梗塞の「多発」
 当連載の女性読者Aさんから、次のようなお便りをいただいた。
「福島県の中通りで暮らしていた私の父は、福島原発事故の翌年の2012年2月、大動脈解離で突然死しました。連載の第1回で取り上げられていた『急性心筋梗塞』ではないのですが、地元では最近、大動脈解離で亡くなる方も多いと聞いています」
 大動脈解離は、人口動態統計で急性心筋梗塞と同じ「循環器系の疾患」の項目に分類され、血管疾患の中でも特に重篤なものだ。初めて出る症状が「突然死」ということもある。Aさんからのお便りには、当連載の第1回で読者の皆さんにお願いした「亡くなられた方の11年3月11日時点の健康状態」や、「発症するまでの生活状況」に関する情報も、きちんと記されていた。
「父は62歳でした。少々肥満気味でしたが、持病もなく、健康状態は極めて良好でした。11年3月の原発事故発生後、原発周辺地域の住民の皆さんが地元の役場に避難してきましたので、父はその間、率先してボランティアをしてお世話をしていたそうです。
 父は草刈りが趣味でした。あちらこちらの草刈りをしつつ、お年寄りのゲートボールの世話をしながら、定年退職後の生活を楽しんでいました。
 そんな父ですから、放射能汚染のことはあまり気にしていませんでした。食べ物に気を使っている私に対しても、
『そんなに神経質になっているようじゃ、世の中生きていけない』
 と、私が間違っているかのように咎めるほどでしたので……」
 手紙の趣旨は、急性心筋梗塞以外の循環器系疾患にも目を向けてほしい──というものだった。指摘を受けて本誌取材班は、最新の「2013年人口動態統計」データを入手し、福島県における「循環器系の疾患」による死者数の推移を検証することにした。

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 続いて、すべての住民が避難している原発直近7町村(注2。以下「避難7町村」)の「循環器系の疾患」年齢調整死亡率も求めてみた。それが、【図1】である。全国平均をグラフにした【図2】と同じく、年々減少傾向にある。驚いたことに最新の13年には、ついに全国平均まで下回り、同86.2人へと激減させることに成功していた。一体どんな健康対策を取ったのだろう。
 そのうえ、原発事故の発生以前は、循環器系疾患による同死亡率がガンによる同死亡率を上回っていたのに、11年を境に急激に減り始め、12年に上下が入れ替わり、13年にはその差がさらに広がるという「逆転」現象まで起きている。
 そこで、疑問が浮上した。【表4】や【図3】で示したとおり、福島県全体の「循環器系の疾患」年齢調整死亡率は全国平均の1.3倍なのに、なぜ避難7町村だけが全国平均を下回っているのか――ということだ。
 この現象には放射能汚染が関係しているのではないか──との仮説を立てた本誌取材班は、セシウムに強く汚染されたものの住民が避難していない地域を抽出し、再検証してみることにした。1平方メートル当たり4万8000〜33万1000ベクレルの汚染地域(注3。左上の地図で淡いグレーで示した地域)は、福島県内の17市町村(注4)に及んでいる。これら「汚染17市町村」における「循環器系の疾患」年齢調整死亡率を求めたのが、【図4】だ。
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 最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同110.9人)を上回る同112.7人。おまけにこの数値は、12年(同112.7人)から“高止まり”している。つまり、福島県全体の同死亡率を押し上げていたのは「汚染17市町村」だったのである。
  これらの事実から推定されるのは、汚染地帯から避難することにより、循環器系疾患で亡くなる人を全国平均かそれ以下にまで減らせる可能性がある――ということだ。本稿ではこのことを、仮に「避難効果」と呼ぶことにする。
 (注2)楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の7町村。
 (注3)セシウム137の汚染値を、12年12月28日現在の値に換算したもの。
 (注4)相馬市、南相馬市、福島市、国見町、桑折町、伊達市、川俣町、二本松市、大玉村、本宮市、三春町、田村市、川内村、広野町、須賀川市、西郷村、白河市の17市町村。
 
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原発直近で被曝した人々に「悪性リンパ腫」多発の兆し
 13年の最新人口動態統計データの検証作業を通じて判明した事実は、これだけではない。
 昨年11月に逝去した俳優・高倉健さんの死因は「悪性リンパ腫」だったとされる。その悪性リンパ腫が、原発直近で暮らしていた「避難7町村」の人々を襲っていた。

 改めて【図1】を見てほしい。本誌取材班では今回、「循環器系の疾患」年齢調整死亡率だけでなく、福島県における過去5年間の「悪性新生物」(ガン)年齢調整死亡率の推移も検証している。前述したように避難7町村では、循環器系疾患による同死亡率とガンによる同死亡率の上下が短期間に入れ替わる「逆転」現象が起きていた。
 原発事故と発ガンの関係を考える時、重視すべきなのは、ガンの種類ごとに異なる「潜伏期間」である。
 当連載の第2回でも触れたが、米国のCDC(疾病管理予防センター)では、01年9月の世界貿易センター事件(いわゆる「同時多発テロ」事件)を受け、ガンの最短潜伏期間に関するレポート『Minimum Latency Types or Categories ofCancer』(改訂:13年5月1日。以下「CDCレポート」)を公表している(【表5】)。
 避難7町村の人々は、事故発生からの数日間だけで77京ベクレル(77×10の16乗ベクレル)にも及ぶ放射能が原発から漏れ出す中、防護服もゴーグルも防塵マスクも着けずに避難していた。
 CDCレポートによれば、白血病と悪性リンパ腫の最短潜伏期間は「146日」である。最短潜伏期間はとうの昔に過ぎている。私たちはこの2つのガンに着目し、さらに検証してみることにした。


【図5】は、避難7町村住民における過去5年間の「白血病」「悪性リンパ腫」年齢調整死亡率をグラフにしたものである。まず、白血病を見てみると、原発事故のあった11年に急上昇し始め、翌12年には全国と県の同死亡率を上回る。13年も、さらに上昇し続けている。全国の同死亡率を計算した【図6】や、福島県の同死亡率を計算した【図7】とは、見た目にもまったく違う折れ線グラフになっている。
 最新13年における白血病の同死亡率は「10万人当たり3.4人」。この年は全国の値も若干上昇(同3.3人)したため、ほぼ同じレベルだが、福島県全体(同2.8人)と比べると1.2倍となり、何らかの“異常事態”が起きていると見て間違いない。
 13年の時点で総人口およそ6万5000人の避難7町村における白血病死者数は、09年が4人、10年が2人で、11年、12年、13年はともに3人ずつ。実数では“横ばい”だった。
 一方、原発事故前はおよそ7万人ほどだった避難7町村の人口は、11年以降、急減している。原発事故以降の3年間で5000人も減った計算になり、「10万人当たり」の値で示す年齢調整死亡率が、この影響を受けずに済むはずがない。
 白血病の同死亡率を押し上げている最大の要因は、どうやらこの「人口減」にあるようだ。避難7町村で起きている“異常事態”とはつまり、急激な人口流出のことだったのである。ただし、白血病は近年、全国規模で増加する傾向にあるので、今後も注意が必要だ。
 が、安心するのはまだ早かった。人口動態統計は、悪性リンパ腫のほうで「異変」を捉えていたのである。

 リンパ腫は白血病と同様、放射線被曝によっても起こるとされ、被曝による労災認定の際の「労災対象疾患」になっている。
 避難7町村における悪性リンパ腫死者数は、09年4人、10年7人、11年2人、12年6人、そして13年の9人である。原発事故以降は「毎年3人ずつ」の白血病とは様子が異なり、死者の実数で増加している。
 【図5】の年齢調整死亡率グラフを見ると、悪性リンパ腫は直線的に増加しており、白血病とは明らかに異なる軌跡を描いている。
 最新13年の同死亡率は「10万人当たり6.0人」。この数値は、全国(同3.7人)の1.6倍であり、福島県県全体(同3.4人)と比べれば1.8倍にもなる。「人口減」だけでは、とても説明がつかない。
 避難7町村の住民たちの間では、悪性リンパ腫「多発」の兆しがすでに表れている──。
 素直に検証結果を見れば、そう受け取るしかない。避難7町村でガンと循環器系疾患の年齢調整死亡率が短期間に「逆転」したことの背景には、こうした「異変」(=多発の兆候)が潜んでいたと考えれば、辻褄も合う。
 循環器系疾患を見る限り、避難した人たちは健康被害から逃れられたかに見えた。だが、悪性リンパ腫からは逃げ切れなかったのかもしれない。
 避難7町村における悪性リンパ腫は、特に「50歳以上」の「男性」たちの間で集中発生していた。放射能汚染地帯におけるガン多発は、どうも「子どもたちだけ」の問題ではなさそうである。 

高性能ガン罹患率データはいまだ活用されないまま
 循環器系疾患では、すぐに亡くなるケースが相当な数あるのに対し、ガンは発症したからといって、すぐに亡くなるわけではない。医療技術の向上でガンの治癒率が上がったことが、その最大の理由だ。21世紀の今、ガンは必ずしも「死の病」というわけではない。
 従ってガンの場合、死亡者のデータである人口動態統計には、集団発生(=アウトブレイク)の変動や兆候がすぐには表れにくいという傾向がある。つまり、明らかな変動が確認できる(=大勢死んでしまう)までには何年も時間がかかるのだ。
 ガンの発症頻度を検証し、いち早く今後のガン治療や、被害者救済に活かすためには、ガンの発症時に患者数(=罹患数)をカウントする「がん登録」データのほうが適している。ガン死亡率よりガン罹患率のほうが、変動をキャッチする感度も優れており、対策を実施するまでの時間短縮にも貢献できる。
 ましてや、人口動態統計によるガン死亡率でさえ、悪性リンパ腫「多発」の兆しをすでに捉えているのである。
 となれば、国立がん研究センター(旧・国立がんセンター)の出番だろう。ここが、福島県をはじめとした全国各地の「がん登録」データを持っている“総本山”だからだ。

 国立がん研究センターに集められた統計情報は、国や都道府県が実施するガン対策をはじめ、ガン検診や治療の体制づくり、ガンの治療研究などに役立てられる──というのが「がん登録」制度の建前だ。ならば、原発事故によるガン多発の有無を「がん登録」データで検証する意義も、十二分にあることになる。
 ガンは、いわゆる「町医者」では対応が困難な病気である。ガン治療の拠点となる病院「がん診療連携拠点病院」が全国各地にあり、多くの場合、こうした病院でガンの診断を受け、治療を受けることになる。
 この際に病院側が把握する個人情報を都道府県等が集め、それを国(国立がん研究センター)が吸い上げて集約したものが「がん登録」データである。1年後の16年1月からは、国のデータベースで一元管理する「全国がん登録」制度もスタートする予定だ。その後は、ガンと診断された人のデータは全国どこでも漏れなく登録されるようになる。
 データが収集・分析され、一般に公開されるまでに現在かかっている時間は、およそ4年間。同センター・がん対策情報センターがインターネット上で公開している“最新データ”は、なんと原発事故前年の10年のものだ。すでに原発事故の発生から4年が過ぎようとしているのに、原発事故による健康への影響調査に「がん登録」データが活用されている気配がまったく感じられないのは、そのためなのである。いくら変動をキャッチする感度が優れていても、これでは宝の持ち腐れだ。
 ただ、感度は本当に良さそうである。例えば、10年における全国の「ガン」年齢調整死亡率は「10万人当たり130.8人」であるのに対し、同年の「ガン」全国推定罹患率(粗率)は「同628.8人」である。その差はおよそ5倍。死亡率では捕捉しきれていないガンを山ほど網羅していることが窺い知れる値だろう。ともあれ、私たち日本国民が「がん登録」を有効活用するための最重要課題は、データ公開までのスピードアップである。
 原発事故による健康への影響を知るうえで当面必要なのは、福島県の「がん登録」データだ。そこで、同県の「がん登録」事業の事務局をしている福島県立医科大学附属病院に、「がん登録」データを検証に使わせてもらえないか相談してみた。
 だが、データの使用については「国立がん研究センターに聞いてくれ」の一点張り。結局、「ウチからデータを提供することはできない」と断られる。ならば、「県民健康管理」のためにも自分で検証しなさい。それは、福島県当局の使命である。
 では、“総本山”の国立がん研究センターでは、原発事故による健康への影響調査に「がん登録」データを活用することについて、どう考えているのか。本誌取材班の取材に対する同センター・ 広報企画室からの回答は次のとおり。
「福島県においては、より正確ながん罹患を把握すべく、担当者が医療機関を訪問して事故発生前からの情報収集をしています。福島県のがん罹患数の公表は、福島県が主体となって、県民健康調査の結果と合わせて随時、行われるものと考えられます」
 同センターも“福島県が自分でやれ”と言っていた。同センターの回答は続く。
「(中略)国立がん研究センターが研究班活動(注5)で収集したデータのみから、福島第一原発事故の健康への影響の有無を結論づけることは困難ですが、当然、一つの資料にはなりますので、2011年以降の集計結果を注視し、分析していきます。
 現時点では、あくまで地域がん登録は都道府県事業ですので、がん登録の活動については、都道府県の自主的な判断に任せざるを得ませんが、一昨年(13年)末に成立した『がん登録推進法』に基づき、2016年から国の事業として体制整備が進み、全国がん登録事業として、より迅速で、正確ながん統計が作成されます。国立がん研究センターとしては、がん登録を環境モニタリングのツールとして有効利用していく所存です」
「所存」は、わかった。使命感の滲み出る決意表明として受け止めよう。原発事故被害者の救済に「全国がん登録」が役立てられることを期待したい。
 だが、鈍感な人口動態統計でさえ、悪性リンパ腫死亡率の上昇を検知したというのに、制度が未整備であるため、あと1年は放置されるのだという。分析に着手するのが1年後であれば、結果が明らかになるのはさらにその先、ということになる。果たして、あと何人の人が亡くなれば、原発事故で被曝させられたことによる健康被害が公式に認められ、救済策が実施されるのか。

 福島第一原発事故の発生から、4年の歳月が過ぎようとしている。しかし、被曝による健康被害はいまだ一件も公式には認められていない。そのため、放射能汚染により10万人以上もの人々が住み慣れた故郷を追われる非常事態を引き起こしていながら、加害企業の東京電力とその責任者らは「業務上過失致死傷」の罪を免れている。
 我らが祖国、日本よ。このままで、いいのか?

(注5)現行の「がん登録」事業は「地域がん登録」と呼ばれる。都道府県等の事業として実施されており、全国から集められたデータの集計作業は現在、国が所管する「厚生労働科学研究班」が実施している。「研究班活動」とはこのことを指し、11年における診断症例の集計結果は、今年3月末に公表される予定だ。「地域がん登録」は1年後の16年1月より、国が一元管理する「全国がん登録」制度に集約される。

 取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(『宝島』2015年3月号より)

「原発健康被害」の揉み消しに加担する「朝日新聞」の“非科学”記事 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第4回 後編】〜

宝島 1月17日(土)11時50分配信

「記事取り消し」や「社長引責辞任」の不祥事で揺れる朝日新聞社。新社長の就任で、膿は出し尽くされたのか。そこで同社の「原発事故」報道を検証したところ、続々と問題記事が見つかった。真っ先に取り消されるべきは、こちらの記事ではないのか?

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記事を信じた読者は救われない?
 福島第一原発事故発生から間もない11年4月24日付『朝日新聞』朝刊の「ニュースがわからん! ワイド」欄に、
「年間100ミリシーベルトを超えなければ、体に影響は出ないとされている」
 とする記事が掲載された。書いていたのはまたしても前出・岡崎明子記者である(第4回 前編記事掲載)。一体、どこの誰が「影響は出ないとされている」ことにしたというのだろう。
 日本の法令では、被曝を伴う仕事をする人の健康を守るため、放射線管理区域の基準を「3か月当たり1.3ミリシーベルト」と定めている。この放射線管理区域に立ち入るためには、特殊な資格が必要となる。一般人の被曝許容限度はさらに厳しく、「1年間に1ミリシーベルト」である。そして、個々の原発に対しては、1年当たり50マイクロシーベルトを被曝の目標値とするよう定められている。
 福島第一原発事故が起きるまでは、被曝に対してこれほどまでに気を使っていたのだ。にもかかわらず、原発の大事故が起きたらいきなり、
“100ミリシーベルトを超えなければ問題ない”
と言われても、面食らうばかりである。
 この記事が、事故直後の混乱期に書かれていることにも着目してほしい。この記事を読み、信じた読者は、被曝への警戒心をきっと緩めたに違いない。しかし、朝日新聞社広報部は「回答」の中でこう語る(カッコ内は筆者の注)。
「(記事は)100ミリシーベルト以下なら影響なしと断定したものではありません」
 まるで、記事を信じた読者のほうに責任があると言わんばかりだ。

 現在の朝日新聞社には、「100ミリシーベルト」という線量値に対し、異常なまでに執着する記者たちが存在する。彼らが福島第一原発事故以降に書いた記事には、「100ミリシーベルトまでなら、健康に影響なし」としか読めない文言が盛んに登場するのだ。以下、例を挙げると、
●13年2月27日10時11分配信の朝日新聞デジタル「甲状腺の内部被曝『1歳児50ミリ未満』30キロ圏内」記事中にある、
「100ミリシーベルト以上でがんが増えるとされている」
 との記述。
●13年5月27日10時15分配信の朝日新聞デジタル「福島事故の甲状腺集団線量『チェルノブイリの1/30』」記事中にある、
「がんが増えるとされる100ミリ以下だった」
 との記述と、記事に添えられた解説中にある、
「甲状腺局所の線量が、100ミリシーベルトを超えると甲状腺がんが増えるとされる」
 との記述。
●14年4月2日5時00分配信の朝日新聞デジタル「原発事故後の福島県民分析、がん増加確認されず 国連科学委」記事中にある、
「甲状腺への被曝が100ミリシーベルトを超えると、がんのリスクが高まると考えられている」
 との記述。
 これら3つの記事の筆者は、医療や被曝の問題を担当する同社福島総局の大岩ゆり記者(元・科学医療部)。まるで世間の常識か定説であるかのような書きぶりだが、そもそも、どういった学者らによって「…と考えられている」のかが明らかにされていないところが、全く科学的でない。
 それに、「…とされる」「…と考えられている」などと、語尾がすべて濁してあるのは、
“これは記者自身の意見や考えでは決してないのだ”
 という、万一の批判に備えた逃げ口上のつもりなのだ。先に記した広報部の「回答」は、彼らが“確信犯”的に言葉を使い分けている証拠──と言うことができるだろう。
 彼らは責任を取らない。なので、読者の皆さんも、新聞記事を読む際にはそんなところにも注意を払って“自衛”していただきたい。

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「100ミリシーベルト以下は影響なし」説は記者の誤解?
 さらに問題なのは、こうした見解が、ICRPの「2007年勧告」(注1)や、我が国の放射線医学総合研究所(放医研)の見解(注2)に真っ向から反していることだ。
 ICRPは、
「100ミリシーベルトを下回る低線量域であっても、被曝線量が増えるのに比例して、ガン死リスクは増加する」
 との見解。一方の放医研は、
「100ミリシーベルト以下ではガンが過剰発生しないと、科学的に証明されたわけではない」
 としている。放医研はICRPの勧告内容に合わせて見解を見直しており、従って両者の間に見解の相違はありえない。
 ところで、11年に放医研が作成した「放射線被ばくの早見図」では、100ミリシーベルト以下では「がんの過剰発生がみられない」と解説していた。このため、「100ミリシーベルト以下ではガンが過剰発生しないことが科学的に証明されている」かのような誤解を招いてしまう。実際、記者稼業をしている者の中にも、誤解したままの者が少なからず存在する。
 そこで放医研は12年に「早見図」を改訂する。100ミリシーベルト以下の解説を削除したうえで、100ミリシーベルト以上になると「がん死亡のリスクが線量とともに徐々に増えることが明らかになっている」と、表現を改めたのだ。
 これに噛(か)みついたのが、大岩記者だった。13年7月25日付『朝日新聞』朝刊で、放医研が「一般向けの『放射線被ばくの早見図』を十分な説明なしに改訂している」と批判。続く同日の朝日新聞デジタル記事では、
「改訂は昨春だが、変更の履歴も理由も書かれておらず、ツイッターなどで最近、『(こっそり変更は)ひどい。多くの人にしらせないといけない』『(100ミリ以下でがんが出た時の)責任逃れの証拠隠滅?』と話題になった」
 と畳み掛ける。科学と縁遠いSNSからわざわざコメントを引用しているあたりに、「科学記者」大岩氏の怒りと動揺のほどがうかがえよう。まさか、大岩記者が唱える「100ミリシーベルト以上でがんが増えるとされている」説の科学的根拠が、改訂前の放医研「放射線被ばくの早見図」だったわけでもあるまいし……。
 そこで、この件に関しても、朝日新聞社広報部を通じて大岩記者に尋ねることにした。質問は次のとおり。
「大岩記者はこの記事を書くまで『(100ミリ以下で)がんが過剰発生しないと科学的に証明されている』と誤解していたのではないでしょうか」
 大岩記者からの回答は、なかった。

「朝日新聞がわからん!」
 放医研が作成した「放射線被ばくの早見図」の改訂で見逃せない点は、もともとは「がんの過剰発生がみられない」としていたのを、「がん死亡のリスクが線量とともに徐々に増える」と、「死亡」の2文字を入れたところだ。
 ガンになることと、ガンで亡くなることは、次元の異なる話である。従って、朝日新聞が言う「がんが増えるとされている」と、ICRPや放医研が言う「ガン死リスクは増加する」は、全く違う話をしていることになる。
 ようするに朝日新聞の言説は、国際的な見解とは全く異質の独自見解なのである。果たして朝日新聞は、どんな科学的根拠をもとにして記事を書いているのだろう。当方の質問に対し、朝日新聞社は真正面からの回答を拒んだため、謎は今も残ったままだ。
 原発事故を引き起こした原子力ムラの人々が、原発事故で毀損(きそん)した自らの権益を守るべく、
「100ミリシーベルトを超えなければ、体に影響は出ない」
 と、法令違反を承知で主張したいのであれば、勝手にやればいいだけの話である。だが、新聞記者が同じ趣旨の発言をすれば、その人はジャーナリストではなく、原子力ムラの「代弁者」と見なされる。それは報道機関による「事故の過小評価」にほかならないからだ。
 朝日新聞社の名を冠した「朝日がん大賞」は、11年に山下俊一・福島県立医科大学副学長(当時)に大賞を贈ったことで批判を浴びていたのは、記憶に新しい。ところで、同賞の選考委員には、同社の科学医療部長や元社長がいる。
 朝日新聞社「改革」の道程は、相当険しい。

(注1)ICRP「2007年勧告」より抜粋
「がんの場合、約100mSv以下の線量において不確実性が存在するにしても、疫学研究及び実験的研究が放射線リスクの証拠を提供している」
「認められている例外はあるが、放射線防護の目的には、基礎的な細胞過程に関する証拠の重みは、線量反応のデータと合わせて、約100mSvを下回る低線量域では、がん又は遺伝性影響の発生率が関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしい、という見解を支持すると委員会は判断している」
(注2)放医研「放射線被ばくの早見図」より抜粋
「(100ミリシーベルトを超えると)がん死亡のリスクが線量とともに徐々に増えることが明らかになっている」

 取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(全文は『宝島』2015年2月号に掲載)

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