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「この本を読んで眠れなくなりましたか?」 「いいや、ちゃんと寝られたよ。どちらかと言えば安心だな。」 「この本の著者の佐藤勝彦先生はあの『インフレーション宇宙』を提唱した人でしょ?」 「そうだなあ。オレはちょっと前までは胡散臭いと思っていたんだが、この頃、インフレーション宇宙を受け入れたよ。」 「頑固ですねえ。いい加減理論を認めたらいいのに(笑)。」 「ま、理論を受け入れるとかどうとか言う前に、この先生の基本的思想に共鳴するわけなんだな。」 「なんでしょうか?」 「それはなあ、人間の理性で世界は認識可能だと言う信念だ。これがなきゃ生きていけないな。」 「さすが無神論。あなたの大好きそうな考え方ですね。」 「おまえ、もし世界が認識不可能だったとしてみろ。そもそも人間の思考になんか意味があるか?世界が分かるはずだと思うから考えるんだよ。探求心ってのは根本的に可知論なんだよ。」 「え?でも不可知論と言えば、カントですけど、あの人だって考えたんじゃないですか?」 「あいつは自分の理性に自信がなかったんだよ。人間の認識は現象を捉えるだけでその物自体は分からない、てのは要するにガキの考えだ。あいつが結婚しなかったのはそのひねくれた思想からじゃないのか?」 「いや、結婚したくないのは自由ですからいいんですよ。」 「だいたい、おまえ、もし彼女が出来たとするじゃないか。」 「はい、出来たと思いましょう。」 「カントの考えでは人間は現象しか捉えられないんだから彼女の現象しか見えないわけだ。これは非常に痛い。」 「なんでですか。女の人の心なんか分からないんですから現象だけかも知れませんよ?」 「ああ、この頃の女性の心は分からないな。だが、オレの言おうとしてるのはそういうことじゃない。たとえばだ。彼女と付き合いだして仲良くなって抱き合ったとしてみろ。カント君は自分の彼女を抱いてるはずなんだが、彼女の現象しか見えない。これはものすごい言い訳に使えそうだろ?」 「どんな言い訳ですか。」 「そりゃおまえ、どんなことをしても現象しか捉えられないんだから、本質は分からないんだ。なので彼女に飽きたら『あなたの本質は分かりません。じゃあさよなら』ってなことになるだろ。実にひどい別れ話だな。逃げ口上にぴったりだよ。どんな状況でも『本質は分からない』なんてことを言えば許されると思うか。」 「状況にもよるんじゃないですか?」 「じゃあたとえばだ。ある眼科の先生の大好きなお城の形をしたホテルに知らない女性と一緒に行ったとしてみろ。それが世間様にばれても『本質は分かってないので大丈夫です。』てな言い訳が通じると思ってるのか?」 「さすがにそれは無理ですね。」 「だろ?世の中の人は健全だから人間同士はわかり合える、あるいはわかり合えない場合はお互いに世界の見方が違う、と言う世界は共通だと言うのを薄々認め合ってるからそうなるんだよ。それがもし『わかり合えない場合にはお互いの世界(宇宙)はまるっきり関係のない世界だからお互いにあきらめましょう。』ってことになったらどうするんだよ。そもそも人間社会が成り立たないだろ?」 「分かりました。それはカントが悪いんです。」 「ま、別にカントは悪くないけどな。でも、カントの自分の理性に対してのちょっとした自信のなさを拡大解釈するやつは悪いな。」 「はっ!!また本の中身の紹介を全然してないじゃないですか!!」 「いいんだよ。佐藤先生はすごいってことが分かればそれでいいんだ。こういう人こそ本当の科学者だよな。」 「へ〜。あなたってひねくれてるから人なんか信用しないと思ってたのに(笑)。」 文系の人にお勧めの宇宙のお話です。 きっと夜食を食べながら読むと体脂肪が増えて驚くと思います。 |
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2010年01月28日
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