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高木仁三郎著作集

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高木仁三郎著作集です。
おそらく、この人が日本で最も有名かつ堅実かつ論理的で冷静な反原発研究者だったのではないでしょうか?
今年、最も衝撃的だった福島第一原発の爆発事故は高木先生の最も恐れていたことでした。
先生はこの事故を知ることなく他界されましたが、先生の教えを頑強に貫けなかった事に悔いが残ります。

科学技術にはイデオロギーは全く関係ありません。
その技術が安全に使えるのか、危険なのか、そして危険があるのならどのような危険で、どのような対処をすれば良いかを考えることは思想とは関係のない技術の問題です。
高木先生は生前から福島第一原発が最も危ない原発だと言うことを指摘していました。
しかし、先生の意見は全く無視され、そして事故が起こりました。

私は、人間の認識力は自然を次第に解明していくだろうし、解明する能力があると信じています。
やがては宇宙開闢の神秘さえ解明するのだろうと思います。
人間の素晴らしい所は、その解明した事実を元に技術を発展させる実践的能力にあります。
火を自ら起こすことを学習した人類が次第に巨大なエネルギーを取り扱うことが出来るようになったのは、人間の人間たる所以でしょう。
そして、人間はついには自然界に存在しなかった元素さえ作り出すことが出来るようになりました。
私は、プルトニウムを作り出した技術を悪いとか良いとか判断するつもりはありません。
ついに人間はそこまで科学を発展させたのだと、むしろ自信をもってかまわないと思うのです。

しかし、プルトニウムを作り出す技術は途方もなく不安定な技術だったのです。
巨大な装置を必要とし、作り出す過程でつねに冷却しておかなければなりません。
おそらく、人間が初めて経験した、「自分たちの世代だけでは解決不可能な技術」だったのだと思います。

人間は歴史の中で数多くの事故、災害、そして戦争を経験しました。
その経験の中で人間は数多くの悲劇を見、語り継ごうとしました。
今現在もいろいろな経験を語り継ぐ人たちがいることも知っています。
しかし、人間は永遠に生き続けることは出来ません。
たかだか100年の人生を生きるわけで、未曾有の経験であってもおそらく3世代後の人たちには実感が湧かないだろうと思います。
それは逆に言うと、今まで起こってきた大災害や戦争は少なくとも300年過ぎた人にはほぼ無関係となってしまうと言うことです。
関係者はやがて死んでしまうのです。
そして、悲劇は風化し、忘れ去られます。
この事実は、非常に大切な事で、大災害や戦争はその時代の世代の人の間で解決をつけ、あるいはつくことがなくても後代の世代には影響を及ぼさないと言うことです。
具体的な例を挙げれば、「白村江の戦い」を考えたら分かるでしょう。
この当時、大和朝廷と百済の連合軍が唐と新羅の連合軍の前に大敗北しました。
多くの人が海の藻屑と消えました。
悲惨な戦いでした。
この戦争が具体的に今の私たちの生活に生かされているでしょうか?
「白村江の戦いを思い出しなさい。ひどい戦いだったのよ?」
と言う人に会ったことはありません。
つまり、忘れてしまっても現在に生きる人には何の影響もなくなっているのです。
良いか悪いかは別として、起こった事柄を忘れても人間の生活には特には支障がなかったのです。

ところが、プルトニウムを生産する技術を得たその日からある意味で人間の歴史は厳然として変わりました。
原子力発電所というのは要するにウランを燃やしてプルトニウムを生産する過程でしかありません。
その過程で出た熱を電力に変換しているだけです。
だから、過程としては実に単純な事なのです。
プルトニウムが何に使われるかと言う問題はこの際無視して話を進めますと、管理さえ出来れば特に問題はなかろうと思うのです。
しかし、どんなに単純な事だろうと複雑なことだろうと、この原子力発電と言う技術は絶対に事故が起こってはならないと言う人類初の技術なのです。
5年や10年無事故などは無意味です。
少なくとも10万年を越える時間の中で無事故でなければなりません。
放射性物質は一度環境に出てしまったら数世代の間では解決が出来ません。
千年も一万年もひたすらに放射性物質の崩壊を待つしか手立てがないのです。
現実に、人間の作った装置で絶対に安全という技術はありません。
そして、現実に事故は起こりましたが、今まで人間が扱ってきた技術は千年を超えるような被害をもたらしませんでした。
広大な土地が使い物にならなくなるような事故はかつて人類が経験したことのない事故なのです。
その事故は人間の実生活の時間からしたらほとんど無限と言って良いほどの期間続くのです。

そして、プルトニウムを作り出す技術を得たその日から人間は新しい考えもしなかった課題に直面することになります。
プルトニウムを作り出す技術は科学的に見て何の矛盾点もありません。
非科学的な技術ではありません。
非常に高度で厳密なそして科学に裏付けられた技術です。
ウランを燃やせば熱エネルギーとプルトニウムが得られるという事を否定する科学者はいないと思いますし、現実にそれは日々実現されています。
だから、原子炉というのは非常に現実的な装置です。
この点は押さえておかなければならないと思います。
それはある一面では科学と技術の飛躍的進歩だったのです。
しかし、この技術は失敗を許されません。
どのような事態になろうとも失敗は許されず、失敗したら千年かかっても償いきれない大損害を与える技術なのです。
こうして、人間は、歴史上初めて一度得た技術を封印しなければならない事態に直面したのです。

私が、高木先生の事を知ったのは大学生の頃読んだ「プルトニウムの恐怖」と言う新書本でした。
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私は文系であり、また思想史的な事を研究対象としましたが、私の人生の方向を決定づけたのは結局、高木先生のこの本でした。
反原発運動に関わることはありませんでしたが、あらゆる場面で原発反対の意思表示はしました。
時間的に有限な人間がほぼ無限とも言える時間の中で無事故でいられるはずはありません。
科学技術者としては無念であるかも知れませんが、現実には原子炉を完全に無事故で運転する技術を獲得することは人間には無理なのです。
今回の福島第一原発がもたらした被害を見て、二度と事故を起こさない原子炉を開発しようと思う技術者もいるでしょう。
しかし、人間が有限である限り「事故を起こさない」原子炉の開発は無理なのです。
事故を起こしてしまったら自分の人生をかけても解決できない技術はどうか、封印して下さい。
人間に解決の出来ない事故が想定される時、やはり人間は自然に対して謙虚になるべきです。
ウランを燃やせばプルトニウムが出来ると言うことはもう分かったことです。
誰も疑わないでしょう。
科学的な理解が出来たのですから、もうプルトニウムを作り続けるのはやめてください。
人間の存在そのものを賭けてまですることではないと思うのです。

2011年の終わりに高木先生の著作集を手に入れることが出来たのはうれしい事でした。
高木先生にお会いしたことはありませんが、おそらく先生の影響を受けて人生の方向を決めた事を後悔することはないと思います。

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