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『日本百景』 夏 第342回 月山 〔山形県〕
ハクサンイチゲの園の
奥にそびえる月山本峰
月 山 がっさん (磐梯朝日国立公園)
東北の名峰の上に立つと最も美しいシルエットを魅せてくれる峰が、この月山 1984メートル だ。 特に、飯豊・朝日連峰の山々から望む眺めが端正である。 雲海に裾を延ばすその容姿を目にすると、“あの美しい山に登ってみたい”との思いを誰しも思い描くだろう。 その“思い”こそが、その“思い”を抱かせる峰こそが・・、“名峰”の戴冠を得るに相応しいのである。
また、登山ででこの山を訪ねても、その期待を裏切らない素晴らしい自然創造美を魅せてくれる。 その1つが、山上大湿原の《弥陀ヶ原》である。 大湿原に彩る花々を愛でながら、“登ってみたい”と思い描いた峰に立つ高揚感を是非味わって欲しいものである。 月山八合目・ハイキングルート 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
JR鶴岡駅よりバス (1:30)→月山八合目より弥陀ヶ原散策・所要1時間 (1:00)→仏生池小屋
(0:45)→月山頂上・姥ヶ岳まで1時間40分 (1:20)→月山八合目 (1:30)→JR鶴岡駅 さて今回は、東北の山としては手軽な月山を前夜発の日帰りプランで楽しんでみたいと思う。 行程表ではバス利用の形を取っているが、便利なのはやはりマイカー利用である。 もし、マイカー利用ならば、前夜に登山口である《月山八合目》まで、容易にアプローチ可能だ。 それでは、早朝日の出と共に出発の形式で、正午過ぎ位までに戻ってこれるプランで歩いていこう。 ・・朝、夜明けと共に出発しよう。 《月山八合目》の広い駐車場の奥側から、土手の上に建つレストハウスの右脇をかすめるように登山道がつけられている。 レストハウスのすぐ上に《弥陀ヶ原》の案内板があり、ここから《弥陀ヶ原》全体に木道が敷設されている。 《弥陀ヶ原》を散策するなら、約1時間位時間を取っておけばいいだろう。 湿性のお花畑と優雅に裾野を広げる鳥海山、そして《鶴岡》の街並みと日本海の大海原が出迎えてくれるだろう。 この時は天気が今イチで海原は望めなかったが
天気が良ければ日本海が一望できる
※ お隣の鳥海山からの画像デス・・ スンマセン
さて、月山に続く登山道は、《弥陀ヶ原》のほぼ中央にひかれている木道である。 これを歩いていくと《弥陀ヶ原小屋》があり、木道はここまで続いている。 ここから、目前にのっぺりとそびえるオモワシ山へと登っていく。 オモワシ山の取付までは以外に長く、オモワシ山を前面に見ながらほぼ平坦な道を30分近く歩かされる。 オモワシ山に取り付くと、ジグザグ登りであっという間に200m位高度を稼いでしまう。
途中でひと休みして、《弥陀ヶ原》全体を見渡せるこの高台でカメラに興じるのもいいだろう。 弥陀ヶ原に点在する池塔群と
裾野を下界に広げる鳥海山
《弥陀ヶ原》の木道から見えた景色に加えて、ライトグリーンの《弥陀ヶ原》全体と《いろは四十八沼》と呼ばれる《弥陀ヶ原》の池塘群が見渡せて、絶好の撮影スポットとなっている。 さて、この坂を登りきると《仏生池》が現れ、辺りは小さな庭園を成している高台に出る。 高台の奥には《仏生池小屋》があり、その背後にオモワシ山 1828メートル がそびえ立っている。 まだ、大休止するには早いし、早朝で小屋も開いていないだろうから、休憩は帰りにする事にして先を急ごう。 仏生池の周辺は
ウスユキソウが咲き乱れていた
小屋からは、《モツクラ坂》と呼ばれるなだらかな坂が続いている。 『頂上まで1600m』の立て札があるが、まだ頂上は見えない。 それは、この坂が三段の段丘を成しているからである。
そして、月山へのプロムナードは、この坂道から始まるのだ。 坂道の周り、道の中央を問わず大群落の花・花・花・・。 ハクサンイチゲ・ツリガネシャジン・タカネウスユキ・ハクサンフウロ・ハクサンコザクラ・・などなど、色とりどりの花が出迎えてくれるだろう。 そして、二段目の段丘を越えると、お花畑の奥に月山本峰が姿を現すのである。 後は、頂上まで一投足だ。
ハクサンイチゲ
ツリガネシャジン ハクサンチドリ
月山 1984メートル の頂上は、月読命 つきよみのみこと を祀った《月山神社》の祠が建っている。 祠を囲む石垣の中は《月山神社》の内宮とされ、頂上の祠に行く為には社務所で御払い(有料)を受けねばならない。 もちろん、祠での撮影は禁止されている。 従って、頂上写真は祠から80mほど離れた三角点 1979メートル で済ます事にしよう。 神社鳥居の建ち並ぶ月山山頂と鳥海山
頂上での“儀式”をひと通り済ませたなら、姥ヶ岳へと足を延ばしてみよう。 《月山神社》の鳥居から《頂上小屋》を抜けて、《神仙池》のたたずむ高台に出てみよう。
この高台からの景色は、おそらく月山随一であろう。 朝日や飯豊の山なみ、栗駒山・岩手山、そして《月山神社》の高台の背後に鳥海山が美しいシルエットを魅せている。
ここから姥ヶ岳の取付である《金姥》まで、標高差230mの急下降だ。
朝日連峰と飯豊連峰の山なみ
当然、帰りには急登となるので、ペース配分は考慮しておくように・・。 この坂を下りきると《牛首》だ。 東斜面に豊富な雪を乗せた姥ヶ岳が見えてくる。 軽く上下して取付である《金姥》までくると、姥ヶ岳までほんの10分の登りである。 登り着いた姥ヶ岳 1670メートル からは、より迫力を増した朝日連峰の重厚な山なみが印象的だ。 弥陀ヶ原の花と鳥海山を愛でながら
下っても昼過ぎには下り着けるだろう
頂上でのひとときを味わったなら、往路を忠実に戻っていく。 先程も述べたが、《牛首》から月山頂上までは急登となるので気を引き締めたい。 これさえこなせば、後は緩やかな下り坂。 帰りは、花を見ながらゆっくりと下っていこう。 ゆっくり下っても、お昼過ぎには登山口に戻れるはずである。
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『日本百景』 夏
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『日本百景』 夏 第341回 奥入瀬渓流 〔青森県〕
落ち着いた雰囲気を漂わす雲井ノ滝
奥入瀬渓流 おいらせけいりゅう (十和田八幡平国立公園)
奥入瀬渓流は、カルデラ湖である十和田湖より流れ出る唯一の川・奥入瀬川がおりなす清楚な渓流である。 清らかで神秘的な十和田湖より流れる水が創ったこの渓流には、清らかな水がかもしだす気品高き清楚な趣を感じるのである。 奥入瀬渓流を望むに最もいい季節は、萌える新緑の頃とあたり全てに白銀の衣をまとう冬であろうか。 この頃が、清楚な雰囲気をより一層感じる事ができていいだろう。 ・・さて、プロフィールであるが、十和田湖畔の《子ノ口》より《焼山》付近までの約14kmに及ぶ奥入瀬川の流れを『奥入瀬渓流』と呼んでいる。 上流から、《銚子大滝》・《白糸ノ滝》・《玉簾ノ滝》・《雲井ノ滝》・《阿修羅ノ流》などの滝や早瀬を連ねている。 また、滝の眺めとあいまってこの渓流の魅力を高めているのは、渓流の両岸から覆いかぶさるように枝を広げている豊な原生樹林であろう。 これらの樹木のほとんどが広葉樹林で、ブナ・カツラ・ミズナラ・カエデ等の木々が多く、新緑の頃は瑞々しい雰囲気をかもしだしている。 また、これらの樹木は、秋も魅せてくれる。 紅葉と黄葉がおりなす鮮やかな彩りが、清楚な渓流とあいまって素晴らしい眺めを魅せてくれる事だろう。 そして、冬。 全てを覆い尽くす白銀の衣は、清楚な渓流に静寂な時の流れを感じさせて、より一層その魅力を引き立てている。
奥入瀬渓流・滝位置図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
三沢駅よりバス (1:30)→石ヶ戸バス停 (0:50)→雲井ノ滝 (1:20)→銚子大滝
(0:25)→子ノ口バス停よりバス (1:50)→三沢駅 瑞々しい樹木に囲まれて早瀬や滝を落とす、《奥入瀬渓流》を探勝してみよう。 ・・三沢駅よりバスに乗って、《石ヶ戸バス停》で下車しよう。 遊歩道は民宿街の《焼山》集落から続くが、《焼山》〜《石ヶ戸》は取り立てて目を引く早瀬や滝がないので、時間を節約する為にも《石ヶ戸》までバスで行った方がいいだろう。 渓流探勝はこの《三乱ノ流》より始まる
《石ヶ戸バス停》から遊歩道に入り少し戻ると、最初の早瀬《三乱ノ流》だ。
これは、本流が3本に分かれ、それが激しくぶつかりながら1本に合流している早瀬である。 《三乱ノ流》を探勝したなら、《石ヶ戸》まで戻ろう。 《石ヶ戸》には、その名のつく大きな自然石の岩屋がある。 何でもこの岩屋は、鬼神の窩としての伝説があるらしい。 さあ、これより十和田湖畔の《子ノ口》までの約9kmの渓流探勝だ。
道程は長いが、遊歩道は車道沿いにつけられているので迷う事はまずないし、途中で体調が悪くなってもリタイアが利くので気楽に歩いていこう。
《石ヶ戸》の次の景勝は、十和田火山が噴出した溶岩によって創られた柱状摂理の岩壁・《屏風岩》だ。 渓流に沿って、見事な柱状摂理の岩壁が約400mにも渡って続いている。
そのすぐ上流が、『奥入瀬渓流』随一の急流・《阿修羅ノ流》だ。 白く渦巻く早瀬と樹木とのコントラストが美しい。 阿修羅ノ流
渓流最大の早瀬だ
《阿修羅ノ流》よりしばらく歩くと車道側に小道があり、《雲井ノ滝》の案内板がある。 その指示通り車道を跨ぎ、この小道に入っていく。 小道を100m程入っていくと、『奥入瀬渓流』第二のスケールを誇る《雲井ノ滝》が、落差20mを三段に分けて白布を掛けている。 更にその奥を行くと、《双竜ノ滝》がひっそりと白布を落としている。 《雲井ノ滝》から上流は、“瀑布街道”との呼び名の通り滝が連続する。
玉簾ノ滝 双竜ノ滝
絹糸のように繊細な流れ
遊歩道を上流に向けて歩いていくと、左右両岸に次々と滝が現れる。 《白糸ノ滝》・《玉簾ノ滝》・《白絹ノ滝》・《不老ノ滝》・《双白髪ノ滝》・《九段ノ滝》など、個性的な滝の眺めを楽しみながら歩いていこう。 特に、《九段ノ滝》・《不老ノ滝》・《白糸ノ滝》・《白絹ノ滝》は一度に四つの滝を眺望できる事から、“ひと目四滝”と呼ばれている。 白絹ノ滝
対岸にひっそりと白布を掛けていた
そして、『奥入瀬渓流』のクライマックス・《銚子大滝》だ。 渓流の幅いっぱいに瀑布を落とすこの滝は、この渓流のシンボルとなっている。 そのスケールの壮大さは“視覚”もさる事ながら、周りの樹木に響き渡る豪快な瀑音・・、すなわち“聴覚”によってより感じることができるだろう。 《銚子大滝》を越えると、これから通る早瀬や滝を待ち受けるかのように、渓流は落ち着きを得て緩やかに流れている。
川幅いっぱいの水を落とす銚子大滝
後は、森林のシャワーを浴びながら歩いていこう。 十和田湖畔にある《子ノ口バス停》まで、30分もあれば着くだろう。 行程では、《子ノ口バス停》から折り返して三沢まで戻るが、もう1日使って十和田湖畔の民宿街・《休屋》を起点に十和田湖を望むのもいいだろう。 《御鼻部》・《瞰湖台》・《十和田山》・《発荷峠》・・といった十和田湖の四大展望地に立って、十和田湖の眺めを楽しむのもいいし、遊覧船で湖上めぐり・・をするのもまた楽しいであろう。
《休屋》からは、鹿角・黒石・青森方面へとバス便が多く設定され、帰りの便の心配は不要だ。 |
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『日本百景』 夏 第340回 石狩岳 〔北海道〕
雲海の彼方に浮かぶ東大雪・石狩連峰
※ 裏大雪〜トムラウシ縦走路より
東大雪 ひがしたいせつ (大雪山国立公園)
奥大雪より更に深く位置する東大雪・・。 登山客で賑わう『表大雪』と違って、人もあまり入山せず静かな山旅を味わえる事だろう。 また山容も、石狩連峰やニペソツ山など、『表大雪』にはない切りたった岩稜を示し、登山的な魅力を大いに引き立てている。 展望も『奥大雪』の絶好の展望台として、雄大な景色を魅せてくれる事だろう。
もちろん花も豊富で、今や大雪の中でも最も原始の香りが漂う山域ではないだろうか。
石狩岳登山ルート 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 上士幌町・糠平より車 (1:20)→ユニ石狩岳登山口 (1:40)→十石峠 (1:10)→ブヨ沼幕営地
《2日目》 ブヨ沼幕営地 (1:50)→音更山 (0:50)→シュナイダーコース分岐 (0:40)→石狩岳 (1:10)→音更山 (1:20)→ブヨ沼幕営地 (1:00)→十石峠
(1:10)→ユニ石狩岳登山口より車 (1:20)→上士幌町・糠平
東大雪の盟主・石狩岳
手前の急な尾根がシュナイダーコースだ
《1日目》 ユニ石狩沢からブヨ沼へ
糠平より、今や一級国道顔負けの快適国道273号線を進んでいく。 途中、かつてのライダーの聖地・《三国峠》をスイスイと越えて、ユニ石狩川のたもとから延びている『由仁石狩林道』を通っていく。 林道入口にはナンバー錠が掛かっており、事前に管轄の上川営林署に連絡して開錠番号を聞いておくとよい。 ついでに、登山道についての情報も聞いておこう。 林道は、約6km先で猫の額のように狭い荒地となって途切れている。 車をこの荒地(車3台程の駐車可)に置いて、登山開始しよう。 登山口には記帳の為のバラック小屋が建ち、案内板も設置されて整備されている・・と思いきや、洪水によって河原と化した不明瞭な林道の残骸を歩く事になる。
のっけから
荒れてズタズタとなった林道を歩く
途中2〜3度、林道を分断するユニ石狩沢を徒渉するが、いずれも靴を脱ぐかどうか迷うキワドイ幅の徒渉である。 これを繰り返しながら、轍の跡があるものの、道ともつかぬ河原の中を歩いていく。 すると、左手の土手に、笹に覆われた獣道と見まがう小径がある。 この下に、朽ち果てた『ユニ石狩岳登山口』の道標が転がっている。 どうやら、ここが登山道入口のようだ。 ・・とりあえず、進むべき道が判ったので登っていこう。 だが、案の定、猛烈なクマザサに覆われた道で、足元どころか目の前も見えない。 この道を朝方に通ると、クマザサについた朝露で衣服がベチョベチョになる事だろう。 こんな足元が見えないクマザサ帯をゆく
それよりも、もっと気になるのは、ヒグマなどの猛獣の事だ。 こういう見通しの利かない所で遭遇したら、“睨みつける”もへったくれもないからである。 そういう訳もあり、羽ばたく野鳥の羽音や、エゾシカの飛び跳ねる音が響いただけでビクッとくる。
約30〜40分のクマザサの洗礼を受けると、笹地を抜けてダケカンバの樹林帯の中を行くようになる。
ダケカンバからハイマツ帯に変わる頃、小さな巣穴が無数に空く狭い庭園状の岩場に出る。 ここは『鳴兎園』と呼ばれる所で、この小さな巣穴は“氷河時代の生き残り”と言われる彼らの棲だ。 この巣穴のどこからか、彼らのかん高い鳴き声がこだまする。 鳴兎園
周囲は荒れていてナキウサギより
ヒグマのとの遭遇の方が気になったりして・・
※ グーグル画像を拝借
見た事はあるが撮れた事はない
※ ウィキペディア画像を拝借
『鳴兎園』を越えると道は沢に出て、その右岸を歩くようになるが、通称・“大崩れ”という呼び名の通り大規模な土砂崩れを起こしている。 この崩れそうな浮いた岩ガレの上を延々とトラバース気味に伝っていく。 このトラバースは、崩れそうな岩だけでなく、その上に乗っかっている倒木にも手を焼く。 跨ごうとすると引っ掛かるし、その上に乗って力をかけ過ぎると、地すべり的に落下するのである。 山の半分がガレた”大崩れ”をゆく
核心部はもっとエグイよ
※ グーグル画像を拝借
そのような訳で、倒木は極力避けながら、所々の岩にあるペンキ印を手掛かりに沢をつめていく。 このようにして“大崩れ”の土砂崩れを越えると、岩ガレ帯も少しおとなしくなる。 山肌につけられた道を歩いていくと、再び“小崩れ”という土砂崩れを越えて、ユニ石狩岳の山腹を大きく巻くように横切って、稜線上のやや低い“峠”と思しき所へ直登していく。 この辺りからチラホラと、チシマギキョウやキジムシロなどが花を開いてくる。 そして、最後まで土砂崩れのような岩ガレ帯を登りきると、《十石峠》に着く。
石狩連峰稜線上の要害・十石峠
背後はユニ石狩岳
この《十石峠》は石狩岳本コースと合流し、なおかつ左手にはユニ石狩岳、右手には音更山・石狩岳・・という石狩連峰の要害である。
十石峠より望む音更山
後に残雪眩しい『表大雪』の山なみが見渡せる
十石峠より望むニペソツ山
ここからの眺めは、ニペソツ山がアルプスばりのゴツゴツした容姿を裾野より魅せて壮観だ。
また、明日に目指す石狩岳も、緑の盾のようにそびえている。 《十石峠》でそよ風に吹かれて、体を休めたなら先に進もう。
《十石峠》からは進路を右手に取り、稜線上の起伏を確実にこなしていく。
しかし、途中からは猛烈なハイマツのブッシュとなっていて、体に荷物に引っ掛かって、小さな起伏を1つ越えるだけで15分はかかる。 これを3〜4回繰り返すと、ブヨ沢の源頭の峰に立つ。
ここから、ややぬかるんでいる黒土帯を下っていくと、その名の通りブヨが飛び回る濁った小さな沼が現れる。
はっぱムシムシ〜のブヨ沼
もちろん水は飲めない
※ グーグル画像を拝借
この沼はお世辞にもきれい・・とはいえず、もちろん沼の水も飲めたものではない。 早々にこの沼を過ぎて50mほど歩くと、テント5張りほど可能な手狭い平地に出る。 ここが《ブヨ沼幕営地》で、ここもその名の通りブヨが飛び回る“ハッパむしむし!?”状態である。 そして水場も、約10分下ったブヨ沢でしか得ることができず、お世辞にもいい展場とはいえない。 また、眺めも、ユニ石狩岳の山腹が見えるだけの貧相なものである。 それゆえに、明日の石狩岳には大いなる期待を抱いてしまう。 明日は、石狩岳に登ってユニ石狩沢に下山する長丁場だ。 早発と山頂への早着は当然の事だ。 明日に備えて、今日はゆっくり休もう。
アルプスばりの美しい姿を魅せるニペソツ山
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水場は遠くはっぱムシムシな露営地だけど
ブヨ沼露営地の展望は大雪随一だ
《2日目》 石狩岳を踏んで下山
今回の下山は往路をたどるので、テントは撤収せずにそのままデポして軽身でいこう。 但し、持ち物はテントの中に入れて、入口は必ず閉めていこう。 これを怠れば、獣達の格好の餌食となるだけだ。 さて、道は展場を出ると、途中に雪渓を抱くコブへの急登となる。 先ずは緑濃き音更山へ登っていく
小さな雪渓を越えて、笹ヤブの中を笹をつかみたくなる程の急登で乗り越えると、展望が開けたコブの頭に立つ。 ここからは、『東大雪』の山々が一望できる。 音更山がデンとそびえて、それに続く石狩岳や真横にそびえる秀麗な容姿のニペソツ山など、“山で望んでみたい”と思い描く景色が眼前に広がる。 しかし、展望が開けて朝の爽快な気分を味わえるのはここだけで、この先音更山の頂上付近に登り着くまで、延々とブッシュ漕ぎとなるのだ。 翌朝に魅せられた奇跡
美しい限りのニペソツ山の姿
カムイミンタラが創造した奇跡の山姿
明けの空を白鳥雲が
優雅に翼を広げていた
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奇跡的な情景が空にあった
・・朝の爽快感を満喫したら、名残惜しいが先に進もう。 このコブからは、ハイマツや潅木林の森に向かって急下降していく。 先程も述べたように、当然ブッシュ漕ぎだ。 コブの上から眺めた通り、緑濃く薄暗い“樹海”の中を最低鞍部まで下っていく。 下りきると当然、音更山への“跳ね返し”の急登が待っている。 ハイマツのブッシュにつかまりながら、約300m登っていく事になる。 砂礫地に咲くイワブクロの花が
急登の慰めとなる
ブッシュに手こずりながらも、中腹までくると岩の突き出た砂礫地帯となり、ひとまずハイマツのブッシュも収まってくる。 しかし、相変わらずの急登で、汗を搾り取られることには変わりはない。 この砂礫地の急坂で振り返ると、先程通った樹海が盛り上がって“ラクダの背”のようになっている。 ここから見る限り、相当深い密林地帯だったようである。
砂礫地から、再びハイマツのブッシュの急斜面をよじ登る。 これを乗り越えて、再び背後にニペソツ山が美しい姿を現しだすと、音更山の頂上へはあとひと息だ。 残雪眩しい『表大雪』の
山なみが現れるとあと一息だ
最後は、岩ガレを直登気味に登りつめると、お花畑の点在するただっ広い音更山の頂上丘に着く。
ここからの眺めは、正に雄大だ。 旭岳・白雲岳の大雪の山なみ、それに続き雪渓を乗せて幾筋もの縞模様を白く輝かせた平坦な丘が眼前に広がっている。 そう、《高根ヶ原》の大平原だ。
音更山は『表大雪』と高根ヶ原の
絶好の展望台だ
向こうには、《五色ヶ原》の緩やかな傾斜台地も見える。 そして、その奥に独特な冠を乗せた“聖なる山”・トムラウシ山も頭を覗かせる。 それに、辺り一面のお花畑・・、これらを全て我一人で味わえるのだ。この高揚感は、人気の高い手軽な山や整備の行き届いた山では、決して味わえない感覚だと思う。
朝日に光るチングルマの群落
ブッシュ漕ぎや徒渉など、困難の末に登りついて始めて享受できる喜びであろう・・と思うし、またそうでなくてはならないとも思う。 この周り、足元全てに素晴らしい景色を楽しみながら、頂上丘を歩いていこう。 やがて、最も西寄りの岩レキで一段盛り上がった丘にたどり着くだろう。 この上が、音更山 1932メートル 頂上だ。 ケルンが積んである頂上で、変わらぬ雄大な景色を楽しみながらひと息入れよう。 いつまでも眺めていたいが、まだ先があるので切り上げて先に進もう。
エゾノハクサンイチゲ
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この花が大地を白く染め上げると
北の夏は最盛期となる
エゾノツガザクラ・チングルマ・エゾノハクサンイチゲ・ハクサンチドリ・・などの咲く音更山の頂上からは、左手にそびえ立つ石狩岳を正面に見据えるべく進路を左手に変えて、ロックガーデン状の岩ガレの積み重なりを急下降していく。 途中、キジムシロやヨツバシオガマなどの花や、眼前にそびえる石狩岳の勇姿に気を魅かれがちだが、この岩ガレは浮石が多いので、踏み外すこ事ないように注意していこう。 アオノツガザクラ
岩の陰にひっそりと真珠の輝きがあった
このロックガーデンを下りきると、ハイマツのブッシュ地帯をくぐり抜けて、石狩岳に続くなだらかな稜線の鞍部に出る。 ここが《シュナイダーコース》の分岐である。 この《シュナイダーコース》は、“一番近いが、一番しんどい・・”といういわく付きのコースである。 それは、2kmの距離で高低差900mをイッキに登る“心臓破り”の尾根道だからだ。 私も、これ程の急坂は、『日高』の戸蔦別岳からの急下降以外には記憶にない。 まぁ、使うとしても、下りで使うべきであろう。 我々は“楽しい山行”をしているのであって、“辛く苦しい山行”をするのではないのだから。
ミヤマキンバイのお花畑
:
このお花畑の尽きる所が
シュナイダーコースの下り口だ
この分岐からは、石狩岳の急峻な岩場を高低差150m、文字通りよじ登っていく。
中腹の辺りからキンバイソウが斜面に黄色を染め上げて、他にもエゾノハクサンイチゲ・エゾノツガザクラ・エゾコザクラ・ミヤマオダマキなどが、それぞれ群落をなして斜面を輝かせている。 これらを見ながら登っていくと、下から見上げた眺めに反して、あっさりと岩の裂け目につけられた登路から頂上に踊り出る。 『東大雪』の盟主・石狩岳 1967メートル の頂上だ。
石狩岳頂上標と『表大雪』の山なみ
頂上からの展望は『盟主』の名の通り、何一つ遮るもののない雄大で味わい深いものであった。
先程に音更山で見た絶景が、今度は雲海越しに広がっている。 そして、石狩岳から続く稜線は、“ニペの耳”の独特な突起を連ね、《五色ヶ原》の大平原に向かって大きく弧を描いて続いている。 石狩岳頂上から望む
“北の槍”・ニペソツ山
振り返ると、ニペソツ山が秀麗な山岳風景を魅せてそびえている。 その山麓は、濃い原生林となって遙か彼方に続いている。 原生林の濃緑、残雪の輝く白銀の峰々、大地のライトグリーン、雲海の綿白色、素晴らしき色彩の調和が目を虜にする。 時を忘れ、この極上のひとときを全身で味わおう。 この素晴らしい風景に対して、落ち着きを取り戻せたなら、最高点の石狩岳・南峰に行ってみよう。 石狩岳の三角点から200mほど先に行った所で、最高点といってもその差は僅か1mだ。 しかし、より《五色ヶ原》の大平原と、それに続く石狩連峰の稜線がはっきりと見えてくるので、行ってみる価値はあるだろう。 圧巻は残雪を乗せた高根ヶ原の大平原と
トムラウシの眺めだろう
何遮るもののない静寂な山頂でのひとときを満喫したなら、下山に取りかかろう。 下山コースは、マイカーでアプローチしているので、忠実に往路を戻ろう。
下りは、花を撮りながらゆっくりと下っていこう。
・・帰りは下山口までの長丁場で、途中に音更山・ブヨ沼幕営地横のピーク・十石峠に至るピークと3つの登り返しがあり、しかも猛烈なブッシュや笹漕ぎ、そしてとどめは土砂崩れのトラバース・・と決壊した林道の徒渉が控えていので、かなり疲れるである。 ヘバらぬように、ペース配分を考えて下っていこう。 なお、《ブヨ沼幕営地》でのテント撤収を正午位で設定して予定を組めば、無理なく下山できるであろう。 それに応じて、《ブヨ沼》出発時間を決めて頂きたい。 下山の後は、野趣溢れる《幌加温泉》や、《糠平温泉》で山の疲れを癒そう。
東大雪の山旅での汗や心地よい疲れは
『五色の湯』が堪能できる
幌加温泉で癒すのが定番だろうね
※ 幌加温泉・鹿ノ谷案内サイトより
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『日本百景』 夏 第339回 八峰キレット 〔長野県・富山県〕
八峰キレット核心部
見た目ほどの難所ではない
※ ウィキペディア画像を拝借
八峰キレット はちみねきれっと (中部山岳国立公園)
八峰キレットは北アルプス後立山連峰の五竜岳、鹿島槍ヶ岳の間にあるキレットで、富山・長野の県境に位置している。 南岳と北穂高岳の間にある大キレット、白馬山域の天狗ノ頭と唐松岳の間にある不帰キレットと共に 北アルプス三大キレットの一つに数えられる難所である。
だが、キレット通過の難易度は他の二つのキレットに比べて格段に低く、山慣れしている者には「単なる鎖とハシゴがつらなっているだけの場所」と捉えられている。 それは、キレットの核心部分はほんの20分程で通過できる事と、キレット部を抜け出すとキレット小屋があってルート上の整備も行き届いているからであろう。
鹿島槍ヶ岳〜五竜岳縦走ルート 行程図
行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR信濃大町駅よりバス (0:40)→扇沢 (0:10)→扇沢出合 (3:20)→種池山荘
(0:50)→爺ヶ岳・南峰 (1:00)→冷池山荘 《2日目》 冷池山荘 (2:00)→鹿島槍ヶ岳・南峰 (0:35)→鹿島槍ヶ岳・北峰 (1:50)→八峰キレット (0:50)→口ノ沢ノコル (3:00)→五竜岳 (0:50)→五竜山荘
《3日目》 五竜山荘(1:20)→大遠見山 (1:30)→小遠見山 (1:00)→地蔵ノ頭よりリフト (0:05)→アルプス平駅よりテレキャビン (0:10)→山麓駅 (0:25)→JR神城駅 ※ 前回の『第338回 鹿島槍ヶ岳・夏山』からの続きです。
鹿島槍ヶ岳の頂からは
絹のような雲海に浮かぶ山なみが望めた 登り着いた鹿島槍ヶ岳・南峰 2890メートル からの眺めは正に雄大で、残雪眩しい剱・立山連峰・・、そして恐竜の背びれのような稜線の突き出しを魅せる《八峰キレット》と五竜岳岩峰群・・と、素晴らしい山岳風景が目白押しだ。
鹿島槍から望む山なみ
これより鹿島槍ヶ岳を下って、先程見えた“恐竜の背びれ”を越えていかねばならない。
あの美しき岩峰も、“一つ一つ上下せねばならない”と思うとゲンナリしてしまう。 南峰の頂上台地より黒部側を周り込むようにして下ると、“二ッ耳”をつなぐ吊尾根の上に出る。 吊尾根の上はザラついた不安定なガレ石帯で、急な下降とあいまって歩きにくい。 所々突き出す岩の間を縫って鞍部に出ると、北峰直下のテラスに向かって少し登り返す。
北峰直下のテラスで縦走路は左に折れて、《八峰キレット》に向かって大きく落ち込んでいく。 北峰へは、真っすぐについている踏跡をたどっていけばすぐに登り着く。 北峰 2842メートル からはより高い位置にある南峰と、それをつなぐ吊尾根が左肩上がりで連なり迫力満点だ。 そして、断崖絶壁となっている北東面から足下を覗き込むと、U字谷となっている《カクネ里》の雪渓が逆光に鈍く光り、その上を北壁のブッシュが急傾斜で落ちている。 北壁の核心部は、あまりにも角度がなさ過ぎて死角となり見えない。 それほど垂直・・、いやそれ以上に下にもぐり込んでいるのだろう。 このダイナミックな風景を十分目に焼きつけたなら、分岐まで戻って縦走路を急下降していこう。
これより恐竜の背びれのような
八峰キレットを越える
この下降は強烈で、1km足らずの距離で300mイッキに下っていく。 下っていく最中に《キレット小屋》の屋根が見え隠れするがこれがまた不可解で、下れば下る程に離れてやがて見えなくなる。 《カクネ里》のU字谷やそそり立っている鹿島槍の北壁など素晴らしい景色が続くのだが、それらに目を向ける余裕のない程の急下降の連続に気持ちが萎えてくるかもしれない。
鹿島槍〜五竜岳 ルート詳細図
《キレット小屋》が隠れてしまう辺りから黒部側に移って下っていくと、ハシゴが現れる。
いよいよ《八峰キレット》越えだ。 このハシゴを下り鹿島槍の稜線と別れて、迫り出す岩を黒部側に大きく巻いてキレット最低部に下り立つ。 写真で撮ると危険そうだが
ワテ自身も通過にそう苦難は感じなかったよ
ここからは、迫り出す岩壁をヘツるように下っていく。 “底”と呼ばれる最低部からは斜めに架けてあるハシゴを上り、迫り出す岩を鎖片手にヘツっていくと、右側に周り込んで両側から迫り出した岩壁が創る“門”のような所をくぐる。
八峰キレット核心部の
岩壁の『門』
これをくぐり抜けると信州側に出て、信州側の岩壁を背にヘツっていく。 やがて前方が岩で塞がれるようになり、この岩を越えるべく架けられたハシゴを昇って越中側へ乗っ越す。 長い鎖場やハシゴが続いた《八峰キレット》核心部もここで終わり、再び足下に見え出した《キレット小屋》にホッとひと息着ける事だろう。 この岩崖の上から針金片手に急下降していくと、《キレット小屋》だ。
キレット越えのオアシス
キレット小屋
※ 北アルプス小屋ネットより
小屋の正面にあるテラスからは、剱の《八ッ峰》が残雪眩しく横たわっている。 そして、そのテラスには、下から涼風が吹き上がり休憩にはもってこいの所だ。 あまりの心地良さに、昼寝が過ぎてタイムオーバーでこの小屋に宿泊・・なんて事にならぬよう(筆者は危うくなりかけたので、念の為)。 ここからは、あの恐竜の背びれのような五竜岳岩稜群の乗り越えが始まる。 これがかなりのアップダウンで、《キレット小屋》からすぐ前にそびえ立つ五竜岳まで4時間近くかかる。 《キレット小屋》小屋の建つ狭い鞍部より、右側の岩壁を鎖片手に乗り越えていく。 この岩壁の上に立つと、《キレット沢ノコル》に向かって下っていく。 早速、アップダウンの始まりだ。
“せっかく登ったのに・・”という言葉が出る程見事に下っていく。 次は、赤茶けたピークに向かっての急登だ。 北尾根ノ頭への急登
大きな岩が浮石状に乗っかる嫌な登りだ
この登りは、ザラザラした砂礫帯に大きな岩が浮石状に乗っかって不安定な事この上ない。 この赤茶けたピークを乗り越えると、再び急下降して《口ノ沢ノコル》に出る。 足元を覗くと、信州側には《カクネ里》の雪渓が鈍く光っている。 コルのツメのような小狭い鞍部から、越中側を斜めに切るように登っていく。 次に目指すピークは、赤茶けた屋根型の小壁を魅せる《北尾根ノ頭》である。 このピークは、『G7』とも呼ばれている。 『G7』を越えると、黒い小岩峰の集まりである『G5』の領域を越えていく。 『G5』の南端の峰を黒部側を巻いて越えると、砂利石で敷きつめられてザクザクした急坂となる。 めり込んで滑りやすい嫌な急登だ。 これを踏ん張って登りつめると稜線に出て、『G5』の小岩峰群の細かい起伏を乗り越える。 五竜岳が見渡せた
:
このルートの核心部は
八峰キレットではなくこの登りだ
やがて、一番北側のピークを踏むと、主稜線から離れて越中側に下っていく。 『G5』に続いて主稜線上にそびえ立つ『G4』の岩峰を左に見送って、この峰の越中側を巻いていく。 『G4』の峰が背後にくるまで巻いていくと、五竜岳の南東斜面がそそり立つ狭く痩せた鞍部に出る。 五竜岳に向けて
脆い岩場の直登となる
:
八峰キレットよりよっほど危険だよ
ここから急傾斜で突き上げる南東斜面を、ジグザグとトラバースを絡めながら登っていく。
ここもボロボロと小石が崩れ落ちる脆い地質の急登で、ふくら脛が悲鳴を上げる事だろう。 踏ん張り損ねてスリップするとボロボロと砂利石が崩れ落ちるので、これにも神経を使う。 これに耐えて登っていくと、やがて上にアーチダム型の雪田が見えて、周囲がハイマツで囲まれていく。 こうなると、もう頂上は近い。 この頂上標柱の立っている丘は頂上への分岐で、五竜岳 2814メートル 頂上と三角点は、ここより50mほど岩稜帯を西に移動した所にある。
五竜岳頂上にて→
重量感ある山体を示す名峰・五竜岳
五竜岳の頂上からは、苦労して越えてきた《八峰キレット》と五竜岳岩峰群、そして鹿島槍の“二ッ耳”を眺めてみよう。 しみじみとした思いが募り、感慨深い眺めとなるはずだ。
鹿島槍方向は残念ながらガスってたので
剱岳の雄姿おば・・
後は《五竜山荘》に向かって下っていくだけだが、疲れて足が棒になり普段のコースタイムの40分では到底無理だと思う。 従って、所要50分としたのだが、これは私の気のまわし過ぎだろうか。
今日は、《五竜山荘》前のキャンプ場でストップとしよう。 もし、疲れがピークと感じるならば、ちょっと奮発して山荘泊もいいだろう。
五竜山荘暮情
《五竜山荘》前で朝日を浴びて染まる五竜岳を目にすると、もう一度五竜岳の頂に立ちたくなる事だろう。
余裕があれば山荘又はテント場に荷物をデポって五竜岳を往復してくるのもいいだろう。
朝日をいっぱいに浴びて輝く
ハクサンフウロ→
シルエット美しき剱・立山連峰
五竜岳へは、キャンプ指定地の脇からグングンと高度を上げていく。 五竜岳の見応えのある姿を形成する『G0』・『G2』と呼ばれる岩峰を、それぞれ黒部側に巻きつつ登る。
特に『G2』は、“御領菱”の雪形を刻む岩峰として有名だ。
これらの岩峰が黒部の《餓鬼谷》へ落とすそのヒダをヘツる所では、鎖付きとなっているので注意しよう。
これを越えると、頂上直下の小鞍部から越中側のザラついた岩場に取り付き、巻き気味に登りつめると頂上標柱の立つ鹿島槍ヶ岳との“分岐点”に登り着く。 本当の頂上は、更に右へ細い稜線を20m位伝った所にある。
←五竜岳頂上へは
御領菱をかたどる岩峰・『G2』への登りだ 五竜岳から戻ってきたなら、デポった荷物を回収して《遠見尾根》コースを下っていく。
白岳の分岐まで戻り、岩屑を盛り上げたような山頂に向かって登っていく。 白岳 2541メートル 山頂は縦に細長い感じで、山頂広場は北アの山にしては珍しく荒れている。 白岳の細長い頂上台地を尽きるまで歩いていくと、右の《白岳沢》に向かって大きく進路を変えて、ザラザラのガレ場を急下降していく。
この下りは調子ついて下ると、必ずといっていい位転倒する。 ここでの転倒は小さな砂利石に乗っかっての“スライディングタックル”なので、全身擦り傷となりかなりのダメージを受けるのである(筆者の体験に基づくものである)。 この下りを終えると、痩せた鞍部を越えて西遠見山に向かって登り返す。 どこが頂上か判らぬ樹林帯の中を通り抜ける。 たぶん、素知らぬ内に西遠見山の頂上を越えているのだろう。 やがて、汚い水溜りのような《西遠見ノ池》を横に見て湿地帯をダラダラと上下すると、ネマガリタケに覆われた大遠見山 2106メートル の山頂に出る。 ここも山頂がどこか判らぬ丘の上だが、ただ一つ自慢できるものがある。 それは、五竜岳と鹿島槍ヶ岳が肩を並べてそびえる“風景”である。 鹿島槍ヶ岳と五竜岳
後立山の盟主揃い踏み
:
越えてきた峰々を一望する高揚感
大遠見山からは、小さく下って北に位置する《平川》側の支稜から南の支稜へ乗り換える。 後は、ネマガリタケに囲われた道を何度か上下すると、中遠見山の頂上を経て小遠見山直下の広場に出る。 ハイキング程度のトレッカー達は、ここまでで引き返す事が多いみたいである。 ここからはダケカンバの樹林帯を越えて整備された《見返り坂》を下り、《地蔵ノ頭》の山頂公園を通ってリフトの乗場に下り着く。 リフトに乗って、足をブラブラさせながら山の余韻に浸るのも結構“乙”である。 《アルプス平》からは、テレキャビンを利用しよう。 標高差800mをイッキに下ろしてくれる。
山麓駅に着いたなら、クアハウスで汗を落としていこう。 JR神城駅からの松本方面の列車は、1時間に1本程度あるので心配はないだろう。 なお、このコースを逆に行くと、五竜岳岩峰群と《八峰キレット》越えが楽になるが、この《遠見尾根》の登りと鹿島槍への最後のアタックがかなりキツくなる。 差し引きすると、やや逆コースの方がキツいだろう。
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『日本百景』 夏 第338回 鹿島槍ヶ岳・初夏 〔長野県・富山県〕
五竜岳の背後に姿を魅せる鹿島槍ヶ岳
後立山連峰 うしろたてやまれんぽう (中部山岳国立公園)
秀峰・白馬岳を盟主とした後立山連峰は個性的で優れた山容を持つ名峰が多く、人気・魅力とも北アルプスではトップクラスである。 爽快な雪渓登り
白馬大雪渓
大雪渓と広大なお花畑を擁する盟主・白馬岳 2932メートル 、高山のいで湯とお花畑が自慢の白馬鑓ヶ岳 2903メートル 、山々の姿を映す八方沼と広大なお花畑をかかえる唐松岳 2699メートル 、武田氏の御陵菱を雪形に持つ五竜岳 2814メートル 、2つのピークが吊尾根で結ばれていて他の山から眺めてもひときわ目立つ後立山連峰のもう一つの盟主・鹿島槍ヶ岳 2890メートル など、今すぐにでも飛んでいきたい名峰がそろっている。
後立山のお花畑
白馬鑓ヶ岳・大出原(おいでっぱら)にて・・
登山コースはどのルートを取っても素晴らしいものばかりだが、特に白馬岳から栂池へ下っていくコースは、山上の楽園を散歩する気分を満喫できる最高のコースである。 その他にも、唐松岳の北側にノコギリ刃のような岩峰を連ねる《不帰ノ嶮》を通るコースや、鹿島槍ヶ岳の北にある《八峰キレット》など、バリエーションコースも豊富である。 行程表 駐車場・トイレ・山小屋情報
《1日目》 JR信濃大町駅よりバス (0:40)→扇沢 (0:10)→扇沢出合 (3:20)→種池山荘
(0:50)→爺ヶ岳・南峰 (1:00)→冷池山荘 《2日目》 冷池山荘 (2:00)→鹿島槍ヶ岳・南峰 (0:35)→鹿島槍ヶ岳・北峰 (1:50)→八峰キレット (0:50)→口ノ沢ノコル (3:00)→五竜岳 (0:50)→五竜山荘
《3日目》 五竜山荘(1:20)→大遠見山 (1:30)→小遠見山 (1:00)→地蔵ノ頭よりリフト (0:05)→アルプス平駅よりテレキャビン (0:10)→山麓駅 (0:25)→JR神城駅 柏原新道より針ノ木岳を望む
《1日目》 扇沢から種池・冷池へ
以前はシーズン中になれば急行【アルプス】号などの臨時列車が運行されて、JR信濃大町駅に5時に到着していたので、この列車を利用して信濃大町駅に早朝に着けば、駅で接続するバスで早朝6時に《扇沢》に着く事ができた。 このように、以前は前夜に都会の居住地を出発しての朝早登山が可能だったのである。 だが、夜行列車が廃止となり、夜行バスはあるもののツアー系のバスばかりで、ツアーパックに参加しないとこういったバスに乗れないようになってしまったようである。 そして、ツアー系という事で、《扇沢》で接続する関電トンネルトロリーバス(今は電気バス)の始発(7時頃)に合わせた運行で、早朝とは言い難い時間の到着となってしまっているようだ。
要するに、前夜居住地出発の早朝登山は難しくなっているようである。
まぁ、登山者の大半がマイカーでやってくるし、鉄道なんぞは今や夜行列車の運行から手を退いていっているので、土日休日を利用しての登山はますます困難な事になるみたいである。
マイカーは運転と下山後の回収が面倒だし、夜行バスも狭くてよく寝れないし・・ね。
さて、話は脱線したが元に戻すとしよう。 扇沢駅からは車道を少し戻り、トラス橋を渡り終えたたもとにある《扇沢出合》から『柏原新道』に入っていく。 この『柏原新道』は、《種池山荘》の経営者・柏原正泰氏が切り開いたことから、その功績を称えて名づけられた道だ。 以前の沢通しの道に比べると格段に楽に、そして安全に“名峰”・鹿島槍ヶ岳に立つ事ができる。 それでは、このルートを使って稜線上へ、そして“名峰”・鹿島槍ヶ岳の“二ッ耳”を極めてみよう。 登山口に入って尾根の末端を覆う樹林帯をジグザグに登っていくと、やがて中腹のトラバースに移る。 針ノ木岳から鹿島槍ヶ岳までの
後立山南部の峰々のスカイライン
これより左手が開けて、蓮華岳・針ノ木岳から岩小屋沢岳にかけての立て屏風のような主稜線や、『日本三大雪渓』の1つ・《針ノ木雪渓》が白竜の如く主稜線に突き上げているのが見渡せる。
また下を俯瞰すると《扇沢》のトロリーバス駅が点景となっていて、かなり標高を稼いでいるのが実感できるだろう。 大きなターンを数回こなすと南稜の支稜線の上に出て、シラビソやダケカンバが目立つ石畳みの道に出る。 ここは、登山道開設工事の時の石畳みの名残で、そのまま《石畳》と呼ばれている。 ここを通り過ぎると森林限界が近づいたのか、頭上を中心に展望が広がって明るい雰囲気となってくる。 残雪眩しい主稜線を仰ぎながら歩いていくと、道は南稜を離れて西方へ大きく周り込んでいく。 この南稜からの乗り換えの途中で、《扇沢》の右俣源頭を渡る。 普段は涸れ沢のトラバースだが、早い時期などは雪渓を渡る事になる。 やがて、迫り出した支尾根のヒダを巻き気味に登っていくと道は右に折れて草付きの斜面となり、頭上には《種池山荘》が現れる。 後は《種池山荘》に向かって、ほぼ一直線に仕切られた砂利盛りの道を登っていけばいい。 照りつける太陽と白い砂利石からの照り返しのせいか、このルートで最もキツいと思われるこの坂を乗りきると、高山植物花咲く《種池平》に飛び出す。 もちろん、《種池山荘》は目の前に建っている。
《種池山荘》で休憩の後、東へ進路を取ってピラミタルな山容の爺ヶ岳に向かって登っていく。
ザラザラの砂礫地を“三歩進んで一歩めり込む”といった感じで登っていくと、頂上にケルンの積まれた爺ヶ岳・南峰の頂上だ。 はっきりした標高は示されていないが、すぐ隣の爺ヶ岳・本峰 2670メートル より高いとの事である。 爺ヶ岳の頂上から
残雪の剱・立山を望む
この頂からの眺めは、何といっても残雪眩しい剱岳・《八ッ峰》の眺めだろう。 また、真下に俯瞰できる《黒部渓谷》の深く切れ込んだV字谷も目を引く事だろう。 これから目指す鹿島槍ヶ岳も緑豊かで優雅な稜線の弧を描き、“二ッ耳”の独特の山姿とあいまって素晴らしい情景を魅せてくれる。 今日は、稜線が盛り上がる“付け根”の部分に乗っかかっている《冷池山荘》までの行程だ。 素晴らしい景色を満喫したなら、先に進もう。 雄大な“二ッ耳”を魅せる鹿島槍ヶ岳
南峰から下って三角点のある本峰、そして北峰と稜線通しに進むルートと、これらの峰を全て巻いていくコースとある。 稜線通しのコースは、下の巻道を行くより15分程時間がかかるだろう。 下の巻道はほとんど起伏がなく、楽に歩いていける。 但し、樹林帯なのであまりいい展望とはいえないが・・。 どちらを取るかはお好み次第だ。 越中側につけられた巻道は、左へ大きくカーブしながらほぼ水平に進む。 歩いていくと、それとなしに北峰を越えて、下りにかかって樹林帯を抜ける。 足元には信濃側が切れ落ちた《冷乗越》が見えて、これを通り過ぎると頭上に《冷池山荘》が見えてくる。 夕日に染まる爺ヶ岳
この小屋のキャンプサイトは《冷池》のすぐそばだ。 今日はこの場所で、鹿島槍と剱岳・《八ッ峰》の贅沢な夕景を見ながら1日を終えよう。
茜色の空が魅せるもの・・
徐々に空が茜色に染まりゆく
茜色の空につつまれる剱・八ッ峰
茜色の空と剱・八ッ峰のシルエット
一瞬の間に霧が晴れて絶景を魅せてくれた
茜色のクライマックスの時
そびえ立つ“二つ耳”へ登っていこう
《2日目》 鹿島槍ヶ岳から八峰キレットを越えて五竜岳へ
今日は、鹿島槍ヶ岳から八峰キレットを越えて五竜岳へと向かう。 鹿島槍ヶ岳から五竜岳の間には天然の要害・《八峰キレット》があり、距離の割りには随分と所要時間がかかる。 従って早発は、この日の必須条件となる。 それでは出発しよう。
山荘の前から続く縦走路を北上し、お花畑の広がる主稜線上の小高い台地に出る。
できれば、この辺りで御来光を迎えたい所である。 朝の光が霧に乱反射して
眩い花がさらに眩く・・
この台地より信州側の草地を横絡みしながら登っていくと潅木帯にぶつかり、これも絡みながら乗り越えると、いつの間にか道は越中側に移ってハイマツの中をジグザグに登っていく。 これを乗りきると、布引山 2683メートル 山頂だ。 この山は信州側が大きく切れ落ちているので、道は越中側のハイマツ帯の中につけられている。 ハイマツの中を漕いでいくと二重山陵となった窪地を抜けて、鹿島槍・南峰に向かっての直登へと続いていく。
この登りは結構キツく、ペース配分を考慮せねば、この先の長い行程を乗りきるのが困難となるだろう。 越中側につけられた直登路を喘ぎながら登っていくと、山頂に積んである大きなケルンの剣先が見えてくる。 ケルンがだんだん大きくなってきて、やがて南峰の頂上台地の左端に飛び出る。 鹿島槍ヶ岳の頂からは
絹のような雲海に浮かぶ山なみが望めた
鹿島槍ヶ岳・南峰 2890メートル からの眺めは正に雄大で、残雪眩しい剱・立山連峰、そして恐竜の背びれのような稜線の突き出しを魅せる《八峰キレット》と五竜岳岩峰群・・と、素晴らしい山岳風景が目白押しだ。 ※ 続きは次回『第339回 八峰キレット』にて・・
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