廊下のむし探検

このブログではマンションの廊下にでてくる「むし」の紹介とカメラを使ったちょっとマニアックな趣味を紹介します

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ハチの翅を調べる

年末の「廊下のむし探検」で一匹の小さなハチを捕まえました。今日はそのハチを実体顕微鏡を使って調べてみることにしました。

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捕まえたのはこんなハチです。体長はわずか4mmほどの小さい小さいハチです。翅の特徴からおそらくヒメバチの仲間だと思います。ハチやハエでは、翅にある翅脈という網目模様が同定によく用いられます。翅脈は蛹の間は気管や神経が通り、翅の生命活動維持のために重要で、羽化するときには体液を通してその圧力で翅を伸ばす役目をします。しかし、成虫になると翅にある細胞は死んでしまうので、むしろ、翅の機械的な強度を上げるのに使われていると考えられています。

ヒメバチを初めとする寄生蜂については、神奈川県立生命の星・地球博物館の渡辺氏らによる非常に詳しいホームページが出されていました。私はハチについては全くの素人で、これを機会に少し勉強してみようと思いました。

今日は、そのうちでハチの翅にある翅脈について調べてみました。翅脈を表すのにいろいろな記号が使われていることは以前から知っていたのですが、それが何を意味するのかは全く知りませんでした。良い機会なので、それも少し勉強してみました。

上記のホームページを参考にさせていただき、翅脈に記号を付けてみました。

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こうして記号を付けていくと、まさに、これはヒメバチの仲間だなということがよく分かります。ところが、ネットでヒメバチを調べていると、American Entomological Instituteのホームページがあり、そこにも、ヒメバチについて同じような記号が付けられている図が載っていました。しかし、どうも記号の付け方が少し異なることに気が付きました。

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この図がそれです。ほとんど同じなのですが、上の図でRs+Mという部分がRsとMに分かれていたり、Cu1aやCu1bというのが無かったり、ちょこちょこと違います。そこで、これらのもとになっている1936年のH. H. Rossの論文や1990年のW. R. M. Masonの論文、及び、1918年のComstockの"The Wings of Insects"という本をパラパラと見てみました(H. H. Ross, Ann. Ent. Soc. Am. 29, 99 (1936); W. R. M. Mason, Proc. Entomol. Soc. Wash. 92, 93 (1990); J. H. Comstock, "The Wings of Insects", Ithca (1918). これらの論文や本は、いずれもネットからフリーでダウンロードできます)。

これらの記号の意味についてはComstockの本に載っていました。それによると、1886年に出されたRedtenbacherの本の中で、これまで、人によっても、昆虫の種類によっても、まちまちだった呼び方を統一するように主張したそうです。これにより、昆虫では基本的に6種類の翅脈があって、それぞれに独特の呼び名が付けられているのです。例として、次のアミメカゲロウ目のネグロセンブリの標本について書いてみると、

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となります。それぞれの記号の意味は次の通りです。

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一番上のCはCostaの略で、肋骨を意味します。翅全体の強度を支えるための脈だという意味です。Cuは肘を、Aはお尻を意味しています(補足:Wikipediaによれば、Radiusは腕にある橈骨という骨を表し、Mediaは中間という意味のようです)。これらの脈は、皆、その源がそれぞれ異なっています。例えば、1Aから3Aは一箇所から固まって始まっていて、他の脈とは明らかに別になっています。Sc、R、Mの源は上の方で固まっていますが、Cはその上側、CuはAとの中間付近から始まっていることが分かります。つまり、その源が違うことから名前が付けられているのです。

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ところで、この写真はヒメバチの一種の翅の付け根の部分の拡大写真ですが、ハチはその脈の本数が少ないことが特徴です。基本的には3本しかありません。センブリでは8本あった脈が3本になっているので、退化したのか、それとも、いくつかの脈がまとまったのかでいろいろ意見が分かれるところです。

これを見つける方法として、1〉近縁の種類を調べて、ハチの原型となる仮想的な脈相を考える方法と、2)発生途中の蛹の中での様子を調べたり、化石を調べたりして、原型を探し出す方法です。

私が読んだComstockの本では、ヒメバチについて次のようになっていました。

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分かりやすいように、中心となる脈を色分けしてみました。いわば、都内を走っている下水道網を、どれが本流でどれが枝流かを色分けしたようなものです。灰色はCとScが合わさったもの、赤はR、黄はM、緑はCu、青はAを意味しています。色のついていない黒い部分はそれぞれの本流をつなぐ枝流です。枝流であることを示すには、例えば、RとMをつなぐ枝流ではr-mというような書き方がされ、Rの支流同士をつなぐ枝流だと、単にrと書かれます。さらに、本流が2つに分かれる時には、それぞれにM1とかM2というように番号をつけていき、2つの本流が合流している時にはR+Mというような書き方をします。

これらの記号を手がかりに本流を探していくのですが、ちょっとクイズを解いていくような感じです。もともとない道も探さないといけないからです。点々で描かれているのはまさにそれで、本来は脈はないのですが、近縁種(この場合はコマユバチ)にあるので、それを意識して付けられた流れを示しています。ともかく、黄色がかなり複雑な流れになっていることが分かります。

Rossは1936年にセンブリやシリアゲムシなどの近縁種を考慮に入れて、近縁種から仮想的な脈相をつくり、翅脈の解釈を行いました。それが初めに載せたGauld(1991)やAmerican Entomonological Instituteの図のもとになるものでした。同じように色分けして書いてみると、

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どの色の脈の本流もすっきりと表されていることが分かります。ここで、RsはRadial sectorの略で、径脈分枝を意味します。上と下の写真の違いはほんの僅かであることも分かります。この違いの一つについてはMasonの論文に書いてあって、Cuとして、もう一つ別のほとんど消えかけているような脈(CuP)を考慮にいれるかどうかによっています。いずれにしても、このように脈の名前が付けられると、どの脈のどの部分がどう違うという議論がいちいち図を出さなくても言えるようになるので便利です。しかし、いろいろと分布している脈を、どれが本流かどうかという議論にどれほど意味があるのかはよく分かりません。

縁紋の下部分には特に複雑な形をした脈が集まっています。これは、前翅と後翅を連結させる翅鉤(しこう)とよばれる毛が縁紋の下の方にあり、縁毛と翅鉤を結んだ辺りを力学的にもっとも強固にする必要があるため、脈も細かくなっているのだろうと考えられているようです。

そこで、最後に、その翅鉤を、手元にあったオオスズメバチの標本で確かめてみました。

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後翅の前縁に生えている曲がった翅鉤が、しっかりと前翅を固定している様子が分かります。これが見えて、ちょっと感動でした。


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