廊下のむし探検

このブログではマンションの廊下にでてくる「むし」の紹介とカメラを使ったちょっとマニアックな趣味を紹介します

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最近、マンションの廊下でクサカゲロウをよく見かけます。その名前をきちんと調べてみたいなとつねづね思っていました。クサカゲロウについては、塚口茂彦著"Chrysopidae of Japan (Insecta, Neuroptera)"(1995)という本があります。今回、それをお借りすることができました。この本は日本産43種についての検索表や、種の詳しい説明、それに、詳細な図が載っており、大変素晴らしい本です。

そこで、早速、そこに出ているクサカゲロウ科の検索を実際に試してみました。

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試料は昨日採集したヨツボシクサカゲロウです。まず、ヨツボシクサカゲロウというのはこんな虫です。顔の両側に2つずつ黒い点があるので、ヨツボシクサカゲロウと呼んでいます。この個体で検索表を使って本当にヨツボシクサカゲロウに到着するかどうかを試してみます。なお、素人がやっていて間違っているところも多いと思いますので、そのつもりで見てください。

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まず、この本によれば日本産クサカゲロウ科には上のような種がいます。クサカゲロウ科は大きく分け、クサカゲロウ亜科、アミメクサカゲロウ亜科に分かれます。さらに、クサカゲロウ亜科はクサカゲロウ族、ヒロバクサカゲロウ族、フトヒゲクサカゲロウ族に分かれ、それぞれがさらにいろいろな属に分かれます。

まず初めに、亜科への検索を行います。

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原文は英語なのですが、私のつたない語学力で訳してみました。はっきりしないところは元の単語も載せています。亜科への検索は翅脈について行います。

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これは先程のヨツボシクサカゲロウの前翅ですが、本に従って翅脈と翅室に名前を付けてみました。ここで、疑問に思うのはPsmとPscという馴染みのない翅脈です。この解釈にずいぶん時間がかかってしまいました。結局、J. H. Comstockの"The Wings of Insects"(1918)という本に載っていました(ここから一部ダウンロード可能)。

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クサカゲロウの翅脈は上図のように見かけ上名前を付けることができます。ここで、M'とCu1'と書いた翅脈に注目してみます。これは通常ではM脈、Cu1脈と付けたくなるのですが、蛹の中での発生期の翅脈を見ると、M脈もCu1脈も共に一本の脈としては発達していないことを、Tillyard(1916)が見つけました。(追記:Tillyardの論文は、R. J. Tillyard, Proc. Linn. Soc. New South Wales 41, 221 (1916)で、この雑誌はpdfがここからダウンロード可能

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これはその時に載せられていた図ですが、図aは発生期の翅脈です。R系、M系、Cu系の脈が重なり合って、M'脈とCu1'脈を作り上げていることが何となくうかがえます。それを使って解釈したのが図bです。M脈は根元近くからM1+2とM3+4の2つの脈に分かれ、さらに、Cu1脈に重なりながら、最終的に翅端に到達します。このように、見かけ上、M脈、Cu脈だと思っていた脈はいろいろな脈が重なりあって作られているというので、TillyardはPseudo-media M'とPseudo-cubitus Cu’と名づけました。これを、現在ではその頭文字を取って、Psm、Pscと呼んでいるようです。

さて、検索表では前翅Sc領域の基部に1横脈があるということですが、Sc領域はSc areaを私が勝手に訳したもので、ScとRに挟まれた領域を指しています。これに、Sc-Rという横脈が基部にあるかないかがアミメクサカゲロウとクサカゲロウを分けるポイントになっています。Fig. 1では確かに横脈があります。そのほか、M脈が屈曲し、分岐しているというのは先程の発生期の翅脈を見て解釈するとよく分かります。PsmとPsc脈が離れているかどうかは相対的な話ですが、アミメクサカゲロウではこれが接近して長く続いているので、それに比べると離れているという意味です。これでクサカゲロウ亜科になりました。

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次は族への検索ですが、Fig. 1を見てim室が三角形に近いこと、m3室が分かれていないことはすぐに分かります。大顎と口肢については次の図を見てください。

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大顎はFig. 2のように見えることは見えるのですが、幅が広いのか、あるいは、非対称なのかというところまでは見えません。口肢についてはFig.3に小腮鬚を載せていますが、先端が切断状でしょうか。また、C領域はC脈とSc脈の間の部分ですが、これがあまり広がらないというのは、ヒロバクサカゲロウとの比較の問題で、多分、これは広がっていないのでしょう。ということで、クサカゲロウ族にたどり着きます。

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追記:この検索表では、ニセコガタクサカゲロウ属(I)はセホシクサカゲロウ、コガタクサカゲロウ属(II)はカオマダラクサカゲロウ、ヒメクサカゲロウ属(II)はヤマトクサカゲロウを指しています

次は属への検索です。検索表の1の第2腹節の構造は次の図を見てください。

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第2腹節にも特に構造は見られません。それで、3に飛びます。頭部に紋があるので、7に飛びます。7の紋が触角直下の縫合線に接続するかどうかは次の図を見てください。

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これは触角直下の拡大図ですが、縫合線と黒い紋が接していることが分かります。これで、クサカゲロウ属に到達しました。

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種の検索は♂については詳しいのですが、今回の試料は後で載せるように♀でした。従って、♂の表記を飛ばして読むと、頭頂に紋がなく、頭部に4-5個の黒紋があることで、無事、ヨツボシクサカゲロウになりました。

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最後に、腹部末端の側面からの写真も載せておきます。こういう形は♀のようです。

というように紆余曲折しながらも、ヨツボシクサカゲロウになんとか辿りつけたようです。♂はもう少し見るところが多いので、今度は♂についても挑戦してみたいと思います。

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千葉大のサイトに無いものは、ナナホシ、ミヤマ、エゾ、リュウキュウ、ヒメキントキ、スジ、マダラ、ヒメマダラ、クロオビヒロバ、ウスチャヒロバ、ニセヒロバの11種ですか。
最低でも2種は不明種を抱えてるんで、非常に魅力を感じますね。
この11種のうち、見れば分かるのはエゾだけですが、本州では東北北部以外では居ないでしょうね。

この検索を見ると、段横脈は使われて無い様ですが、種によるところなのか変異で参考にしかならないのか… 削除

2014/10/18(土) 午後 10:22 [ 通りすがり ] 返信する

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通りすがりさんはきっと興味を持たれるだろうと思いました。属の検索表、種までたどり着けるものがあるので追記しました。パラっと見ただけですが、段横脈は使われてないようですね。やはり変異が多いからでしょうか。この本では、♂腹部末端と交尾器だけの検索表があったり、3齢幼虫の検索表があったりと大変充実しています。でも、私のような素人では専門用語が分からず、翻訳に四苦八苦しています。

分布だけを見ると、ナナホシ(北海道)、エゾ(北海道、本州、九州)、ミヤマ(日本?)、リュウキュウ(本州、九州、沖縄)、ヒメキントキ(鹿児島、沖縄)、スジ(北海道)、マダラ(日本?)、ヒメマダラ(九州、沖縄)、クロオビヒロバ、ウスチャヒロバ、ニセヒロバはいずれも九州、沖縄でした。

2014/10/19(日) 午前 6:39 [ 廊下のむし ] 返信する

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段横脈が安定した形質ではないというのが分かるだけでも進歩ですね。
英文の検索表だと、先ず翻訳に苦労しますよね。
暇ができた時にしか向き合えません(笑)

エゾは九州にまで居るんなら、長野にも居るのかな。
よく似たクモンクサカゲロウは臭いがキツイんで、顔でクモンだと思ったらスルーしちゃうでしょうね。 削除

2014/10/19(日) 午後 9:53 [ 通りすがり ] 返信する

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個々の種の説明には載せられているのも多いので、重要な形質ではあるのでしょうね。ただ、範囲がだいぶ広いので、検索には使えないのでしょう。いろいろな種類が見れると、分かるようになると思うのですが、このマンションではせいぜい数種なので、なかなか理解が進みません。フィールドに出ないと駄目ですね。

英語の専門用語が特に難しいですね。どの辞書にも載っていなくて。それでも、今回は絵が載せられているので、ややマシですが。文章だけだとどうしようもないですね。

2014/10/20(月) 午後 5:56 [ 廊下のむし ] 返信する

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