廊下のむし探検

このブログではマンションの廊下にでてくる「むし」の紹介とカメラを使ったちょっとマニアックな趣味を紹介します

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今回もまた、先日捕まえてきたハエを調べてみました。これだけハエばかり続くと見られる方は嫌になるかもしれませんね。

イメージ 1

今日は翅にこんな模様のあるハエです。天井に止まっていたので、捕虫網で捕まえてきました。

イメージ 2

実体顕微鏡で撮影した写真です。左側が背側から、右側が腹側から写したものです。体長は6.8mm、前翅長は6.3mmです。「絵解きで調べる昆虫」の検索表を使うと比較的簡単にカバエ科に到着しました。その時に用いる形質は

1.中胸背にV字型のしわがない
2.前縁脈は翅を一周しない
3.翅に中室がある
4.R2+3脈とR4+5脈を結ぶ横脈はない

というわずか4つです。今日は種までの検索をするので、今回はこれらの確認を省略しますので、後の図を見て判断して下さい。まず、属の検索をしてみます。これには、Manual of Nearctic Diptera Vol. 1の検索表を用いました。実は、「原色昆虫大図鑑III」にも載っていたのですが、これに気が付かずにこちらの方を使ってしまったのです。

原文は英語なのですが、私のつたない英語で訳してみました。なお、私はハエについてはまったくの素人なので、どうぞそのつもりで見てください。

イメージ 14

検索表を表の形にまとめてみました。なお、赤字は今回の個体とは合致しない性質を示しています。従って、黒字で書いたところを追いかけると、結局、Sylvicola属(カバエ属)に至ることが分かります。ここで、使う形質に関係する写真を載せてみます。まず、翅脈に関するものが出てきます。

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Anisopodinaeと書いた枠内を調べていきます。初めに中室があるというのは上の写真ですぐに分かります。次はその中室から3本のM脈の分枝がでていますが、M1あるいはM2脈の長さはその柄(中室の上側の二辺の和)より長いことを示しています。翅には黄色から茶褐色のパターンがついています。ここまでは書いてある通りです。次は微毛と長毛に関するものですが、翅を拡大して見ます。

イメージ 3

これは透過照明で撮影した翅の下側の部分です。小さな毛が密に生えていますが、これが微毛(microtrichia)だと思います。それに加えて根元に黒い輪(ソケット)のある長い毛が見えます。これがおそらくmacrotrichiaだと思います。その他にも、翅の縁には更に長い毛が並んでいます。最後の項目は触角ですが、Fig. 1を見ると分かりますが、触角は短いですね。

次に下にあるSylvicolaの説明を読んでいきます。まず、初めは翅に暗色斑でパターンができることですが、その通りですね。次のC脈がR4+5脈の先端付近で終わるというのはFig.2を見てください。前縁脈(C脈)は翅の前縁を通り、R4+5脈の末端付近でなくなります。また、翅膜には長毛はありました。次の額と顔の大きさ比較ですが、写真を追加します。

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上の写真が顔を表し、下が額を表しているつもりです。顔は触角の下から口までの間で、見ると分かりますが、ある程度の幅を持っています。それに引き換え、触角の上から単眼の間までの額はまったくといってありません。従って、顔の方が広いということになります。触角の長さもFig.1で測れますが、頭と胸を足したものよりは短くなっています。これは♂なのですが、両方の複眼は完全に接しています。最後は爪の間の突起の話ですが、次の写真を見てください。

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これは脚の先端を写したものですが、爪の間にはこんな白いフワフワしたものがありました。これのことを指しているのかなと思います。

さらに、「大図鑑」の検索表では、「後脛節端の後面に小刺毛が密生した櫛歯状構造を持つ」という項目がありました。

イメージ 7

これは後脛節末端の写真ですが、この白いトゲトゲの列が櫛歯状刺毛のことだと思われます。ということで、いずれにしてもこのハエはカバエ科Sylvicola属に属することが分かりました。

次は種の検索になります。これには、三枝豊平氏が「一寸のハエにも五分の大和魂・改」で公開された検索表を使うことにしました(公開していただいたことに感謝いたします)。「大図鑑」にも検索表が載っていますが、これは掲載されている5種に対するものです。これに対して、先の検索表は未同定種3種を加えた8種になっています。これも必要な部分だけを抜粋して、表にしてみました。

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打ち消し線まであって大変ややこしい図ですが、その理由は後で説明します。まず、赤字で書いた部分がこの個体の性質とは一致しないところ、青字はどちらとも言えない性質を示します。従って、上から青字は飛ばし、赤字を避けて線を追いかけて行くと、最終的には二重線で消してあるSylvicola japonicusに到達します。ちょっと迷路みたいでしょう。これらに関係する図を載せていきます。

イメージ 9

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まず、初めの分岐でSylvicola亜属を選びます。ここではM脈の分岐の様子についてですが、Fig. 2を見るとその通りであることが分かります。その次は後腿節の色に関するものです。ここで悩みました。左側の道は「後腿節は一様に黄褐色」、右側の道は「幅広い暗色環を持つ」です。Fig.9をみると、後腿節の先端は黒くなっています。従って、右側の道を選ぶと、赤字の枠ばかりでてくるようになりました。従って、右側の道を諦め、左側の道で、条件を「先端を除いて後腿節は一様に黄褐色」と解釈すると(「大図鑑」には、「後腿節は先端を除いて明色」と書かれています)、ここを無事にパスできます。でも、写真をよく見ると、中央より少し先端寄りがうっすら黒くなっています。「一様に黄褐色」と言って良いのか迷うところです。でも、迷わず、左側の道を進みましょう。

次は中胸盾板の縦筋です。Fig. 8に示すように、この個体には明確な3本の縦筋が走っています。従って、上下に分かれた上の道の方をたどります。次はr2+3室とr4+5室をつなぐような淡色斑があるかという項目ですが、Fig. 2を見ると確かにそのような淡色斑があります。従って、二重線で消してあるSylvicola japonicusに到達します。

ここからが少しややこしくなります。先ほどの「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の2010年2月18日付けの記事を読むと、その後、三枝氏がSylvicola japonicusの原記載である松村松年氏の論文の内容と、北大にsyntypeとして残っている模式標本を比べてみたそうです。論文の記述では中胸盾板に3本の縦線と書いてあるのですが、論文の図およびsyntype標本では共に4本の縦線になっていたのです。ここで、syntypeは正基準標本(holotype)がないときに指定されたり、複数指定された基準標本をいいます。従って、ここではこの4本線の種をSylvicola japonicusとするのが妥当だとして、上の検索表のSylvicola sp.2が新たにSylvicola japonicusになりました。この種は主に北海道などの北方に分布する種です。これに対して、全国的に普通にいる種は3本線でしたが、突然名前がなくなってしまいました。従って、上の表では仮にSylvicola sp.2としています。同時にマダラカバエという和名もSylvicola japonicusにくっついていくので、普通種に和名もなくなってしまったことになります。この辺りの事情は「大図鑑」のマダラカバエの解説にも書かれています。

というわけで、今回の種はSylvicola sp. 2 (以前のS. japonicus)ということになりました。この個体は♂だったので、ついでに見える範囲で交尾器の写真も撮ってみました。

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上が背側から、下が腹側からの写真です。交尾器の見方がよく分からないので、とりあえず分かるところだけ名称を付けてみたのですが、合っているかどうか。先ほどの「一寸のハエにも五分の大和魂・改」には、三枝氏の交尾器のスケッチも載せられていて、それと比べると、Sylvicola japonicusによく似ていることが分かりました。ただ、hypoproctの切れ目がこの個体の方が大きい気がしましたが・・・。いずれにしても、上の議論によれば、Sylvicola japonicusとはなっていますが、これは最終的にSylvicola sp. 2のことなのでしょうね。

ハエの名前を調べていて、種まで調べていくのがいかに大変なことかということを実感しました。まぁ、これも勉強の内でしょうけどね。

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細身で蚊やガガンボに見えます
昆虫類は小さくてよかったと思います。
哺乳類並みの大きさだったら、恐るべき怪物だらけになります

2015/3/2(月) 午前 11:27 [ あおやまはるま ] 返信する

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こんにちは、あおやまはるまさん
今回は事情が複雑でまとめるのがかなり大変でした。でも、細かい構造が綺麗に写せたときは本当に嬉しいですね。少しずつ腕が上がっているので、そのうち、もっとびっくりするような構造をお見せしますよ。

2015/3/2(月) 午前 11:46 [ 廊下のむし ] 返信する

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これは確かに悩ましくてよく分かりませんね。
最初の記事の画像では暗くて脚の特徴もよく分からなかったのですが、確かに後腿節の先端の暗色部が広い様ですし、中央から先に環状の暗色部と言えそうなものがありますね。
こういうものは多くの標本を見比べる作業をしたことのある専門家でもないと判断が付けられない部分でしょうね。
でも、翅の紋についての記述とは一致しそうなんで、この通りで合ってる気はしますが…
問題は、どちらにしてもハッキリと種を特定できないカバエ科の現状ですか。 削除

2015/3/2(月) 午後 2:23 [ 通りすがり ] 返信する

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いつもずばっと決めることができないですね。外国の検索表も見てみたのですが、後腿節の模様には注目してはいないようで、それほど確定した形質ではないかもしれません。いずれにしても、今回の個体は♂で、交尾器の形状もかなり似ているので、これまでS. japonicusと呼んでいた種ではないかと思っています。

2015/3/2(月) 午後 8:36 [ 廊下のむし ] 返信する

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