廊下のむし探検

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ハエの翅脈 その3

三枝豊平氏のハエの翅脈に関する考え方を知りたいと思って、先日から次の原稿を読んでいます。

T. Saigusa, "A new interpretation of the wing venation of the order Diptera and its influence on the theory of the origin of the Diptera (Insecta: Homometabola)", 6th International Congress of Dipterogy, Fukuoka 2006. (ここからpdfがダウンロードできます)

素人の私にとってはなかなか難解で、標本の翅脈を見ながら少しずつ理解に努めています。この原稿では、ハエ目に近縁のシリアゲムシ目の翅脈と比較して、その相同性から、従来までのハエの翅脈の考え方を改めようとしています。その根拠として次の7つの点を挙げています。

1)Bittacus(シリアゲムシ目シリアゲムシ科ガガンボモドキ属)とTrichocera(ハエ目ガガンボダマシ科Trichocera 属)の翅脈の幾何学的(topological; 形態学的)類似
2) Bittacus属とTrichocera属の翅脈の凸脈と凹脈の比較
3)臀脈の位置
4)claval furrowの位置
5)翅脈基部での翅底骨への結合
6)翅脈と気管との関係
7)翅脈の構造

このうち1)から4)まではこれまで調べてきたので、今日は5)と6)を調べてみることにしました。5)は翅脈の基部の話なので難しくて、私には分からないところだらけでした。

イメージ 1

これはハエ目に近縁のシリアゲムシ目のホソマダラシリアゲの前翅基部を拡大したものです。翅脈の基部が翅基部のいろいろな構造(翅底骨)とどのように結合しているのかを調べていくのです。とりあえず、三枝氏の原稿の図を見ながら名前をつけてみたのですが、実のところどれがどれだかはっきりしません。

この手がかりは原稿にも引用されていますが、次の本に載っています。

R. E. Snodgrass, "Principles of Insect Morphology", McGraw-Hill (1935).(ここからpdfがダウンロードできます)

この本と三枝氏の原稿によると、Ax1という翅底骨はSc脈の基部と結合します。Ax2はR脈の基部と、Ax3はA脈と結合します。一方、M脈はdistal median plate(DMP)という骨状の構造の前側で、Cu脈はDMPの後ろ側と結合しています。このmedian plateはAxのようなはっきりした構造ではないのですが、重要な役割を果たしています。medial plateはAx2とAx3の間にあり、たぶん、claval furrow(本ではvannal fold)という翅の折れ目と結びついた斜めの溝でPMP(proximal median plate)とDMPに分離されます。PMPはAx3の腕についたような構造で、おそらくAx3の一部だと思われます。これに対して、DMPは常に骨状の構造として存在するとは限らないのですが、M脈とCu脈の一般的な基盤部分として存在していると思われます。これらの詳細については上の本のFig. 122とその周辺の説明を読んでください。(追記2016/03/08:この部分が不明確だったので、Snodgrassの本を読み直して書き換えました

これらの知識から上の写真で名前をつけていくのですが、実のところかなり難しいです。Ax1からAx3は何となくSc、R、A脈と接している骨を選びました。これに対して、DMPとPMPがよく分かりません。この写真ではM脈はR脈のすぐ下側を走っていると思われるのですが、はっきりとは見えません。これが到達しているところがDMPの前部分です。一方、Cu脈の基部は細い透明の脈が見えています。この行き着く先がDMPの後ろの部分です。ということでDMPの場所を決めました。次に、DMPに連なった基部ということでPMPの場所を決めたのですが、Ax3というよりむしろAx2に着いているように見えます。うーむ。

イメージ 2

これはガガンボダマシの方の翅の基部です。先ほどの知識をもって見てみると、シリアゲムシと同じように見えなくはない感じです。特に、M脈の基部とCu脈の基部は先ほどと同じみたいです。ここが重要で、もし従来までの解釈を使うと、Cu脈の基部はA1脈(あるいはA1脈とCu脈の合流部)として解釈するので、Ax3との関係が合わなくなります。でも、はっきりとは分かりませんね。この辺りはもう少し詳しい検討が必要です。

イメージ 3

これはおまけで、ガガンボダマシの翅基部を生物顕微鏡で撮影してみました。綺麗には写ったのですが、あまりよくは分かりません。

次は、6)の翅脈と気管との関係です。翅脈の中には内部が中空になっている脈と潰れてしまって中空でなくなっている脈があります。中空の脈の中には呼吸に関係する気管、それに神経、それから体液が流れます。このうち、気管と翅脈との関係を調べようというものです。

イメージ 4

これはTillyardが1919年に出した論文

R. J. Tillyard, "The panorpoid complex. Part 3: The wing venation", Proc. Lin. Soc. New South Wales 44, 533 (1919). (ここからpdfがダウンロードできます)

の中の図で、ツリアブ Comptosia属の翅基部の翅脈とその中を通る気管を描いたものです。上からは気管が伸びてきて、それが分かれてC脈、Sc脈、R脈にそれぞれ入っています。下の方は別の気管が伸びてきてCu脈に入り、それが2つに分離し、一方はCu1脈に、もう一方はTillyardがCu2+1Aとした脈の中に入っています。手元にビロードツリアブの標本があるので、それと比較してみます。

イメージ 5

これはビロードツリアブの翅ですが、三枝氏に従って翅脈に名前をつけてみました。翅基部を見ると、

イメージ 6

こんな感じになります。先ほど気管がCu脈に入って2つに分かれた部分は、この写真ではCuAとCuPになっています。つまり、この2つの脈はCu脈の2つの枝として解釈したら、気管を考える上で都合のよいことが分かります。

イメージ 7

従来までの解釈による図も載せておきます。黄色の部分が異なるところです。つまり、CuAのすぐ下を走る筋を"CuP"脈に、CuP脈は"A1"脈としたので、Cu脈に入った気管は"CuP"には入らず、代わりに"A1"脈に入ってしまうという変なことになってしまいます。やはり、これを見ても三枝氏の解釈でいいような気がしてきました。(追記2016/03/08:従来までの解釈による図も載せておきました。翅の基部部分の翅脈がどう走っているのかよく分かりません。特にM脈の行方が分かりませんでした。Cu+Aというのもこれでよいのやら・・・)

これで原稿の2/3ほどを読むことができました。あとちょっとです。

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