廊下のむし探検

このブログではマンションの廊下にでてくる「むし」の紹介とカメラを使ったちょっとマニアックな趣味を紹介します

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イボバッタの翅脈

先日、淀川べりを歩いていた時にバッタを見つけました。マダラバッタか、ヒナバッタかよく分からなかったのですが、ひょっとして翅脈を見れば分かるのではと思って、バッタの翅脈を調べてみようと思い立ちました。

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それで、10月11日にバッタを取りに川の土手に行ってみました。この間まであんなに飛び回っていたのに、この日は気温が低かったせいか、ちっとも見当たりません。やっと見つけたのがイボバッタ。慌てて捕まえたので、写真は撮りそこねました。これは2016/08/22に撮影したものです。見た目にパッとしませんが、とりあえず調べてみました。

でも、これがともかく難しい。まるで情報がありません。わずかにあるのは、「原色昆虫大図鑑III」に簡単な絵が載っているだけです。こんな時に頼りになるのが、Comstock(1918)とTillyard(1919)なのですが、どういうわけかゴキブリについては載っているのですが、バッタについては載っていません。やむを得ずに、"Opthoptera"と"venation"で検索をかけてみると、まずひっかかるのは次の論文です。

O. Bethoux and A. Nel, "Venation pattern of Orthoptera", J. Orthoptera Research 10, 195 (2001). (ここからダウンロードできます)

雄大なタイトルなのですが、中身は化石のバッタ目の翅脈についてで、今までの解釈を変えるという内容です。主に翅脈の凹凸に注目していて、いまいち根拠がはっきりしません。この論文に出てくる文献も探してみたのですが、ことごとくダウンロードできず、これもアウトです。たぶん、「バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑」には載っているのだろうと思うのですが、これは茨木市立図書館まで行かないと見れません。そこで、イボバッタの属名である"Trilophidia"と"venation"で検索してみると次の論文がひっかかりました。

Y. Bai et al., "Geographic variation in wing size and shape of the grasshopper Trilophidia annulata (Orthoptera: Oedipodidae): morphological trait variations follow an ecogeographical rule", Sci. Rep. 6, 32680 (2016). (ここからダウンロードできます)

これはイボバッタと同属のバッタについて翅のサイズや形の地理的変異を測ったというものですが、信じられないくらい簡単な翅脈の図しかありません。Nature系の雑誌なのに、どうしてこんな図で許したのか分かりません。ということで、ちょっと愚痴っぽくなりましたが、八方ふさがりになってしまいました。

それで、やむをえず、自分で名前をつけてみることにしました。

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前翅はこんなに細長い翅です。これを各部A〜Dを見ながら、翅脈に名前を付けていくことにしました。

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まずは翅の基部です。翅脈に名前を付けるにはルールがあります。これについては以前、ハエシリアゲムシについて書いたことがあります。でも、実はかなり難しくて、いまだに十分理解できていません。要点は次の本に載っています。

R. E. Snodgrass, "Principles of Insect Morphology", McGraw-Hill (1935).(ここからpdfがダウンロードできます)

この本に載っている次の図が分かりやすいと思います。

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翅脈の名称などが今用いられているものとかなり違うのですが、要は、それぞれの翅脈の基になる翅底骨(1Ax〜3Ax)とmedian plate(m、m')を探すことから始めます。例えば、Sc脈は1Ax、R脈は2Ax、Vと書いてあるのは現在のAなのですが、これは3Axが関係します。また、M脈とCu脈はmedian plateという硬化した部分が共に起源になり、前半部分から出るのがM脈、後半部分から出るのがCu脈になります。

このことを基にしてバッタの翅の基部をかなり一生懸命見たのですが、どれがそれぞれの翅底骨なのか、結局、同定できませんでした。ただ、同じ系統の翅脈は同じ基部から出るということを使うと、上の写真のようにとりあえず、名前を付けることができます。例えば、Sc脈やA脈はそれぞれ2本出ていますが、基部を探すと同じところから出ているので、同じ系統の翅脈ということになります。同じ系統というので、A、Pとつけたり、1、2とつけたり一定していないのですが、二つあるものはA(Aはanteriorの意味)とP(Pはposteriorの意味),A脈はしばしば何本もあるので1、2とつけました。でも、あまり根拠はありません。R脈のすぐ下には細い脈があるのですが、これを辿っていくとm'の前半部に到達するので、M脈としました。m’の後半部からは2本の翅脈が出ます。共にCu脈として、前側をCuA、後ろ側をCuPとしました。

右端にある+や-の記号は凸脈か凹脈を表しています。これについても以前書いたことがあります。要は翅が縦に折れ、凸脈が上、凹脈が下になって折りたたまれるような構造をしているということを意味し、その折り目にあたるのが翅脈になるのです。したがって、これらは原理的に互い違いになっています。ただ、凹脈が途中から凸脈に変化することもあるので、普通は翅基部での振る舞いを見たらよいということになっています。とりあえず、+と-をつけてみたのですが、特にMとCuの辺りはあまり自信がありません。また、最後のA脈については翅の縁での強度を持たせるために共に凸脈になっています。とりあえず、こんな風に翅脈に名称をつけてみました。

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基部を含んで翅の中央部まで延長してみました。ここで、気になるのは矢印で示した翅脈です。これは途中から現れてきますが、擬脈とするにはあまりにもはっきりした翅脈です。

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この翅脈はその後、M脈に接近し、その間に多くの横脈でつながるので、M脈の一部として考えた方がよいのではと思いました。そういうことで、もともとのM脈を前側のM脈ということで、MA脈、途中から現れてきた脈をMP脈と書いておきました。

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さらに後ろを見てみました。今度はR脈に注目します。黒矢印の部分でR脈はR1脈とRs脈に分岐しています。これが先ほどのMA脈と重なっているので、分かりにくかったのですが、拡大してみると、何か立体交差みたいになっている感じです。通常、R脈はR1脈とRs脈の二つに分かれるということになっていたので、初めはよく分からなかったのですが、拡大してようやく分かりました。

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ということで、だいたい全部の翅脈に名称をつけることができました。でも、怪しい点がいっぱいあるので、半信半疑の気持ちで見てくださいね。もう少し文献を探したり、また、翅底骨との関係を調べてみたいと思っています。

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ついでに後翅も載せておきます。

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そして、これが翅の基部です。どれがM脈かCu脈かが分からず、まだ、悩んでいる最中です。ともかく難しいですね。

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バッタの翅脈、トンボとかと違い、おおもとの部分が急にカーブしてて面白いですね。
詳しく読んでみると翅脈というのは二つの脈が組み合わさって出来たのですね。
自分の中で翅脈といえば翅を支えるものという認識が強かったのですが、折りたたまれているとは思いもしませんでした。
蝶、トンボの翅を見ると、ゆがみが少ない感じがするのでそのあたりも調べてみたいですね。
ナイス!です。

2017/10/14(土) 午後 11:08 [ タイコウッチ ]

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翅脈に食らいついてくるなんて!さすがタコウッチ君。誰も読まないだろうなと思いながら書いていました。

翅脈の中には体液も流れ、気管や神経も通っているので、いわば血管、肺、神経を一緒にしたようなものになっています。発生時には翅のパターンや形づくりにも関係しますし、成虫になるとソーラーパネルのように熱を吸収したり、逆に熱を発散させるときにも役立っています。また、仰るように翅の強度にも関係していますし、飛翔時には空気抵抗を増やしたり減らしたりするために、また、静止時には翅を折りたためるようにと、一部の翅脈が曲がりやすくなっています。翅の基部の構造は特に飛翔や折り畳みと関係して複雑になっています。そういえば、トンボの翅の動きは単純ですね。分類学上だけでなく、翅のいろいろな動きや機能にも関係しているので、これからも注目していきましょう。

2017/10/15(日) 午前 6:03 [ 廊下のむし ]


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