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翔が静かに口を開く。
「海斗。お前は、寂しくなんかじゃないさ」
「え?」
泣きそうな顔を持ち上げて、まじまじと翔の顔を見る。
どういうことなのか、さっぱりわからない。
「海斗は、すでに他の誰かに愛されているってことだ。そいつには、お前の魅力が充分伝わっている。だから、俺がいなくても寂しくないはずだ。昔のように、一人になることはないんだ」
「俺を……愛してくれている人……?」
そうつぶやき、頭の中でいろいろな人物の顔を思い浮かべるが、心当たりはない。
それに、自分を好きになってくれる人がいたとしても、今は翔以外好きになれる人なんていない。
「でも、俺……今でも翔が好きだから……」
「それは、俺も同じだ。海斗と離ればなれになるのは、俺だってすごく寂しいさ。しかし……人生には、愛する人と別れる辛さを経験しなくちゃいけないときもあるんだ。海斗には、それをしっかり乗り越えてほしい。もっと強くなるんだ」
穏やかながらも、芯のあるしっかりとした口調で言い聞かせるようにして、海斗の目を見る。
強い眼差しを送る曇りのない瞳のなかは、海斗の姿が映っている。
「翔……」
切なくて、やるせない心のわだかまりが胸一杯にひろがり、冷たい涙がポロポロと流れ……翔は、海斗の頬に流れる涙を、人差し指で優しく拭い取る。
「俺、俺……」
なんて言えばいいのかわからず、こぶしを強く握り締めて肩を震わす。
翔は寂しげな笑みをうかべ、海斗の前髪を掻きあげて額にそっと優しくキスをする。
孝介は二人から一歩ほど離れてじっと立ち尽くし、いつもの明るい表情を消して、なにも言わず海斗と翔の二人の様子を静かに見守っていた。
学校帰りの辺りの景色は、夕刻の太陽が赤く染め上げて、活気づいていた昼間の街はしだいにひっそりとした日没の様子へと移り変えようとしている。3人の長い影が、寂しげに映し出されていた。
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