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帰り道、隣りにいる孝介のことを妙に意識してしまって、普段のように接することができなかった。
夕方の人通りが少なくなった住宅街は、よりいっそう二人を物寂しげにさせる。
「な、なに緊張してんだよ」
そう自分に声をかける孝介だけど、その口調だってどことなく強張っている。
孝介は、先ほどのことは気にしているものの、ずっと沈黙が続いている、今の気まずい雰囲気をなんとか変えようとしているらしい。
「緊張なんてしてないよ」
「そうか」
「うん……」
「……」
なんだか会話が続かなくて、重い空気が肩にのしかかる。
「あッ、そうだ。あのさ、さっきの話だけどさ……」
孝介が、今、思いたったように口を開いたけれど、それがなんともわざとらしい。
「なに?」
「翔がドイツに行ったあと……海斗はどうすんだよ。恋人も作らないで、独りでいるつもりなのか?」
「わからない。ただ言えることは、今の恋人は翔だけだということだよ。それ以外に、恋人を作る気はしないんだ」
孝介はふっと息をつき、静かな笑みを浮かべる。
「一途なんだな……」
「ああ」
やがて、二人はT字路のところまでやってきた。ここから先は、別々の方向へ向かって帰途につくことになる。
「ここで、お別れだな。…じゃな」
名残惜しそうに見つめる孝介の目が、自分の気持ちを波立たせる。
いつもの陽気な様子はなく、初めて自分の前で見せるしんみりとした表情の孝介に、気持ちがほんの少し傾いてしまう。
ごく自然な茶髪に、意外にもさわやかな孝介の顔。自分に熱い視線をおくる瞳は、どこまでも優しい。
それに人懐っこくて親しみやすく、孝介の前では自然体でいられる。
こんなこと、今まで意識したことがなかった。それどころか、胸のなかでジワリと甘酸っぱいものが染み出している。
それは、恋心に近いもの……
海斗は、慌ててブルブルと頭を振り、すぐに打ち消した。
なに考えているんだ、俺は。俺には、翔がいるじゃないかッ。
なんだか、翔に悪いことをしたという後ろめたい気持ちになってしまった。
「う、うん。…さ、さよなら」
顔の筋肉を強張らせ、動揺が表れた口調であいさつを交わした海斗は、孝介と別れて家路についた。
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