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「翔……」
力の入った声に反応して、ゆっくりとまぶたを開けて振り返ると、翔の顔を見る間もなくすばやく唇を奪われてしまった。
突然のキスに驚き、ビクンと身体を強張らせたけれど、すぐに口腔をまさぐられる気持ちよさに気づいて、肩の力を抜き口内に侵入しているやわらかな舌の蹂躙を素直に受け入れる。
「ん……んん」
激しく口腔を吸われて、息を漏らす。
うつ伏せになって、顔だけを背中へ向けようとしている無理のある体勢に、だんだん苦しくなってくる。
「ううん……ちょっと、翔……」
唇を重ねている翔を軽く押しやり、ベッドの上でごろりと横になる。お互い向き合うように体勢を変えて、鼻先が触れるほど目の前にきた翔の顔を、まじまじと見つめる。
もうすぐ離ればなれになるというのに。
間近で見るきらびやかな男の顔は、海斗の心をますます魅力させた。
「翔のせいだよ……」
「え?」
小さくぼそりとつぶやいた海斗に、翔はわずかに目を大きくする。
「もうすぐ、翔と別れるというのに……こんなに近くで……こんなにも素敵な顔を見せられちゃ別れることなんてできなくなるよ」
すねた口調でつぶやき、甘えるように身体をすり寄せる。
「……海斗」
ひっそりと静まる保健室は、かすかに漏れる息づく音だけが二人の存在感を出している。
二人だけの空間に二人だけの時間……
このまま時間が止まってくれたら、どんなにいいだろう。
そう、願わずにはいられないほど愛しくて。
生理現象でぼやけた目には、寂しげな笑みを浮かべる翔の姿が映る。
そっと、翔のたくましい腕に抱き寄せられて、暖かい胸のなかで静かに目を閉じる。
まるで胎内にいる赤ん坊のように、身体を小さく丸め、密着度が増した胸のなかで翔の心音を感じる。
今日が最後かもしれない……
悲しくて、寂しくて。ないまぜになった気持ちがつのり、閉じたまぶたから自然と涙が染み出した。
「愛してるよ……翔」
「俺も愛している……」
翔の言葉に笑みで返し、大きな包容感と幸せに包まれながら、海斗は深い眠りに落ちていった。
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