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「裕也、愛している……」
そう言って、一樹は自分の唇を奪った。
それはまさに、突然のことだった。
「ちょ……一樹……」
驚き、思わず手の力が抜けてオレンジジュースが入ったグラスを落としそうになってしまった。
幸いグラスを落とすことはなかったけれど、それでも小刻みに震える手は危なっかしい。
たくさんの人がいるというのに……。
当惑する裕也をよそに、一樹は舌をするりと潜りこませて口腔をペロリと舐める。
ワインの濃厚で甘い香りが鼻腔をつき、それは本当にアルコールのせいであるかのように心地よい酔いが脳内を刺激する。
「…ん……んぁ…」
快楽の波がどっと押し寄せて気持ちが盛り上がるけれど、やっぱり他人の目が気になる。
高ぶる感情をぐっと押し殺し、グラスを掴んでいない片方の手で一樹の胸を押し返そうと試みるが、自分を抱き寄せている一樹の力が予想以上に強い。
たいした抵抗もできないまま、口腔を蹂躙されてしまう。
クチュっと唾液の混ざりあう音が漏れ、身体がぴくんと跳ねる。
「…ふぁぁ……」
アルコールが混じった唾液が、全身に染みわたるようだ。文字どおり酔いしれるキスの味。
先ほどまで「きれいな夜景だね」などと言って、楽しくおしゃべりをして、窓から見える夜景を眺めていたのに……。
いきなり、こんなにも激しいキス。
どうしたの、一樹?
「悪かった。急に、こんな真似をしてしまって……」
裕也の心の問いかけが伝わったのか、一樹がそっと唇を離す。時間にして3秒ほどのキス。
周りの人たちも特に奇異な目を向けることもなく、何事もなかったようにパーティーを楽しんでいる。
「悪かった。いきなり、キスをしてしまって。さっきあいつの……玲二のことでイライラしてて……。いわゆる現実逃避ってやつだ」
「一体どうしたっていうの?」
裕也は、眉を寄せて尋ねる。
「玲二と付き合っていたことは、俺の汚点だ。あいつは、恐喝や麻薬の売買、それに人を殺めることも平然とやってのける本物の悪人だ。最初、そんなことを知らなかった俺は玲二と付き合っていたんだが……」
一樹は言葉を止めて、嫌なものでも振り払うようにぶるぶると頭を振った。
一樹が、すごく悔やんでいるように思えて……。
裕也は静かに口を開いた。
「もう、思い出さなくていいよ。今は、俺だけを見て……」
「…裕也」
さっきのキスのせいで、艶が増した瞳でまっすぐ見つめる裕也に、一樹は穏やかに表情を緩めた。
・+☆+・
7/50話
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