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そういえば、一樹もやくざなんだよな。
裕也の表情が曇る。
一樹は――普段は悪ぶっているようには見えないけれど、自分の知らないところでは誰かを苦しめているのかもしれない。
そんなことを考えてしまって、気分が落ちこむ。
どうして、やくざの男を好きになってしまったんだろう。
自身に対する苛立ちが募り、頭を抱えて悩んでしまった。かたわらには、拓海がいるというのに。
「裕也くん、どうしたの?何か悩みごとでもあるの?」
「俺……じつは付き合っている男がいるんだ。でも、その男がやくざで、もしかしたら誰かにひどいことしているんじゃないかと心配で……」
「その人のこと、好きなの?」
「好きさ。俺の人生のなかで一番好きになった男なんだ」
拓海に「好きか」と訊かれて、裕也はすぐさま答えた。
好きか嫌いかで迷うなんてありえない。クールで、カッコよくて、お金持ちで、優しくて……それに、なにより自分にめいっぱいの愛情を注いでくれる。
今まで、愛情が足りないなんて思ったことはない。自分も、その愛情に応えるように、一樹にたくさんの愛を注いできた。
他人が羨むほどの相思相愛の仲。そう自負しているぐらいだ。
ひとつの問題を除けば、順調万端。ドラマならハッピーエンド間違いなし。
幸せの数に比べれば、たったひとつの問題なんて……。
いや、そのひとつの問題が重大なのだ。
一樹がやくざという事実。
その事実が、今の自分を苦しめている。
拓海は、思い悩んでいる裕也をいたわるようにして優しく腕を絡ませてきた。
「その人、すごく羨ましいな」
「何で?」
「だって裕也くん、その人のこと、すごく好きなんでしょ?こんなにも悩んでいるってことは、どうしてもその人のこと……あきらめられないってことだから」
「あきらめるって?」
「嫌いになって、別れることができないってこと。ほら、好きな人じゃなくて普通の人だったら、いやになって、すぐに別れられるじゃない。でも、すごく愛しているときは、苦しくて辛い思いをしても別れられないと思うんだ。裕也くんは、その人のこと、苦しい気持ちよりも、ずっと好きな気持ちのほうが大きいってことなんだよね」
拓海は、最後に「がんばって」と付け加えて微笑む。
「…拓海」
まるで天使のようなやわらかい笑みを浮かべている拓海のおかげで、ひどく重たかった心が楽になり、すぅーと悩みが引いていくと身体までもが軽くなった。
華奢で女の子っぽくて、頼りなく見える同級生に励まされた裕也は、少し苦笑しながらも拓海に感謝して、心に幸せを取り戻した。
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14/50話
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