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「そこまでだ、玲二」
部屋の入口から、突然聞き覚えのある声が響いた。
その瞬間、裕也の表情に明らみが射した。
力強くて、安らぎを与えてくれる声。頼もしい恋人の登場に、喉に詰まっていた声が勢いよく飛び出す。
「一樹ッ!」
「一樹だとッ?」
はっと驚いた玲二は、声がした方向へ拳銃を構える。どうやら玲二には、声の主がわからなかったらしい。
「銃を下ろすんだ、玲二」
暗い部屋の奥からゆっくりと二人に近づき、一樹の姿が月明かりに照らされて徐々にあらわになる。
「銃を下ろせと言っているんだ」
二人の目の前に現れたのは、厳しい顔をした一樹だった。鋭い眼光を放つ怒りの目は、玲二に向けられている。
「なにをしていたんだ、玲二?」
低く、くぐもった声。怒り心頭に発しているのが、ありありと分かる。
「冗談だ。そう怒るな、一樹」
少し気持ちの乱れを見せていた玲二だったけれど、一樹がふたりの前にはっきりと現したときには、いつもの冷徹さを取り戻していた。
一樹が、ギロリと睨む。
「おいおい、俺はまだなにも手をつけていないぜ。心配すんな」
玲二は一樹の気迫に動じることなく、フッと鼻で笑って軽くあしらう。
「邪魔がはいってしまったようだな。しょうがない。今日は、これで帰るとするぜ。じゃまたな」
やれやれといったふうに両手を広げた玲二は、拳銃を胸元にしまってきびすを返した。すれ違いざまに、一樹がボソリと言った。
「玲二。これ以上、俺たちにかまうな」
玲二は振り向きも耳を傾けようともせず、そのまま部屋を出て行った。
バタンとドアが閉まったところで、一樹の怒りの表情がすっと消えて、いつもの穏やかな表情に戻る。
「大丈夫か、裕也?」
気遣う優しい声に、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまい、裕也の目にどっと涙が溢れでてきた。たまらず、ベッドから跳ね起きて力いっぱい一樹を抱きしめて、広い胸のなかに顔をうずめる。
「怖かった……すごく怖かったよ」
肩を震わして泣いている裕也に、一樹は優しく背中に手をまわし抱き寄せた。
「もう大丈夫だ……もう大丈夫」
ぬくもりのある一樹の手を背中で感じながら、裕也はいつまでも嗚咽を漏らしていた。
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23/50話
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