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「おはよう」
「おはよう」
学校に近づくにつれ、クラスのみんなと顔を合わせることが多くなり真はその度に挨拶を交わす。
校門前までくると、真はふっと緊張の色が混じった顔つきになった。
視界に飛び込んできたのは、同じクラスの女子生徒の姿。周りの女子生徒たちのなかでもひときわ輝きを放っている。
ドクンと心臓が大きく脈を打ち、思考が完全に止まりそうなぐらい頭のなかが彼女のことでいっぱいになり、
無意識のうちに足を止め、憧れの眼差しで遠くから見つめた。
「どうしたんだ、真」
背後から、怪訝《けげん》そうに問いかける信長の声も耳に入らず、可憐な女子生徒の姿をうっとりと眺めている真。
視界に映っているのは、クラスのアイドルでもある憧れの伊藤春菜の姿。
春菜を中心として、左右には同じクラスの女子が二人並んでいたけれど、かわいさという点において春菜が断トツにかわいい。
春菜さん……。
心のなかで、憧れの女子生徒の名前をつぶやく。
「おい、真。人の話を聞いているのか?」
勝手に好意を寄せている春菜に見とれて、ぼぅとしている真に信長は声を少し大きくして真の肩を揺さぶる。
「え……ああ、聞いてるよ」
そう言いつつも、真の口調は心ここにあらずといったふうで頼りない。
「ぜんぜん聞いてないじゃないか。急に足を止めやがって。どうしたんだ、気になることでもあったのか?ん……」
真の視線が遠くにいる三人組の女子生徒に向けられていることに気がついた信長は、なにやら感づいたようににやりといやらしく笑った。
「へぇ。もしかして、前を歩いている女たちに興味あるのか?で、誰なんだ、あの三人のうち、誰がいいんだよ?教えろよ、な?」
いたずらっぽい笑みを浮かべた信長に、肘でわき腹を突かれたが、真は答えるもんかとばかりに唇を固く引き結び答えなかった。
「なあ、いいだろ?もし、なんだったら力になってやるからさ。教えてくださいよ。真くん」
今までの口調とは違う、妙な言葉遣いの信長が耳元でささやき、それが甘い猫なで声なものだから、固い意志がぐらりと傾く。
あと一押しとでも思ったのだろうか。信長はさらにしつこく尋ねてきた。
「なあ、教えてくれたっていいだろ。あの三人のなかで誰がいいんだ?」
「…真ん中の子。三人の真ん中の女の子がいいんだ」
信長にしつこく言い寄られたせいで、思わずポロリと口に出てしまった。
ずっと長く誰にも言わず、胸のうちにしまっていたというのに、昨日初めて会った信長に、秘密を打ち明けてしまったことの恥ずかしいと照れくささで
一気に顔が熱くなる。
でも、どうしてだろ?
信長には、なんの抵抗もなく心を開けてしまったのは……。
信長の前では、本当の自分をさらけだしてしまいそうだ。
自分の気持ちになにか異変を感じながらも、初めて好きな女の子がいることを口に出してしまったことの恥ずかしさから、強く信長を押しやった。
「へへ、好きなのか?ちゃんと自分の気持ちを伝えたのか?」
小さな子供が興味を示してあれこれと尋ねるみたいに、信長は目を大きくして興味津々に詮索する。
真は顔を振って小さな声で言った。
「ううん、まだだよ。彼女は、クラスのなかでも一番かわいいんだ。僕なんかと釣り合わないよ」
急に弱気になった真の様子に、信長が声を荒げた。
「初めて会ったときから思っていたけど、お前は女々しいやつだな。言ってもいないのに、そんなことわかんないだろ。あきらめる前に、一度自分の気持ちを伝えてみろってんだ」
「そんなこと言わなくても、返事は決まっているさ。信長にあれこれ言われる筋合いはないよ」
「ああ?」
むっとしたのか信長が眉を寄せた。
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10/50話
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