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束の間の沈黙。部屋の空気が重く二人を包みだしたころ、裕也はぼそりとつぶやいた。
「別れよう……」
それは、なんの前触れもなくでた言葉だった。そんなことを言った自分に驚いてしまったが、取り消すにしても、もうすでに後戻りができないように思えた。
一樹は「え?」と、目を大きくした。
あまりにも唐突な裕也の言葉が信じられず、自分の耳を疑っている――そんなふうに見える仕草をして耳をかたむけさせた。
「今……なんて言った?」
「別れようと言ったんだ」
聞き返した一樹に、重い口調で繰り返す。
なぜ、そんなことを言ってしまったのか。
頭の隅に、後悔の念があることに気づいたけれど、一度出た言葉は止まることはなかった。
「もういやなんだ、ヤクザと関わりあうのは。怖いし、なにかあったら、いつも暴力、暴力。あーやだやだ、そんなの最低の人間だよ。
それにきっと、一般の人たちにも迷惑をかけているんだよね。俺、それを考えるといつも心が痛むんだ。一樹は心が痛まないの、平気なの?ねぇ?」
一樹と付き合ってから、ずっと溜めていた心のわだかまりを一気に吐き出すようにべらべらとまくしたてる。そして、激しく一樹の身体をゆすって問いかけの返事をせかしたけれど、答えは返ってこない。黙って自分から顔を逸らして、うつむいているばかりだ。
「俺とヤクザの仕事……どっちを取るの?ヤクザを辞めないと、俺、一樹と別れるからねッ」
相変わらず、返事はない。
そんな一樹の様子がとても苛立たしく思えて、発作的に最後の言葉を言ってしまった。
「もういいよ!一樹とは別れるから。さよならッ」
ソファーから勢いよく立ち上がるなり、大股で部屋のドアへ向かう。
「ちょ……ゆ、裕也。ま、待て」
背後から、慌てて引き留めようとする一樹の気配を感じていたけれど、ドアを開けた裕也は振り返ることもなく、勢いよくそれを閉めた。
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41/50話
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