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玲二の組事務所に無理やり連れて行かれた裕也は、落ち着かない気持ちで薄汚いソファーの上で縮こまっていた。
室内は事務所で使われているような飾り気のない棚が所狭しと並べられ、奥には麻雀卓が置いてある。
たばこのヤニで黄ばんだ壁は、つんとした異臭を放っていてめまいがする。
もちろん、あからさまに鼻を覆うことなどできるわけもなく、じっと顔をうつむかせ、どこへ向けていいのか分からない視線を自分の膝に向けていた。
玲二は、窓際に立って携帯電話でなにやら会話をしている。
そんな玲二の声を耳に入れながら、裕也は首をひねった。
どうして、俺をこんなところに連れてきたのだろう?
組事務所に連れてこられたときからずっと疑問に思っていて、不安な気持ちでいっぱいになっている頭で推測してみる。
一樹がらみのことというのは間違いないだろう。
玲二はまだ、一樹のことが好きのかもしれない。
それで、いつも一樹のそばにいる俺が目障りで……。
その時、恐ろしいことが頭に浮かんではっとした。
もしかして、目障りな俺を…消す……?
冷たい汗が額を流れ、手が震える。
不安な気持ちのせいで、よくないことを考えてしまう……というわけでもない気がする。
玲二なら、やりかねない
今、室内にいるのは玲二と裕也の二人だけだ。
密室のなかで、なにがあっても知る者は誰一人いない。
この状況は、玲二にとって好都合のはず。
なるべく目立たないように、うつむかせた顔を上げず視線だけを玲二のほうに向けて様子をうかがった。
大事な話をしているのか、玲二は電話に夢中になっていて、裕也のことなど気にとめていない。さらに運がいいことに、玲二は窓の外へと顔を向けている。
こっそりと、携帯電話を取り出して助けを呼ぶぐらいなら気づかれないかもしれない。
一樹に助けを呼ぶなら、今のうちだ。
緊張で急激に乾く喉をごくんと鳴らした裕也は、ゆっくりとポケットに手を入れて携帯電話を取り出す。
その動作は、最小限の動きで音をたてることはない。
焦る気持ちはあったけれど、派手な動きをして相手に感づかれたらおしまいだ。ここは、静かに動いて、迅速に……だ。
顔をうつむかせたまま、そっと静かに二つ折りの携帯電話を開く。
アドレス帳から、一樹の名前を見つけ出すとボタンに指をかけた。
一樹……。
携帯電話の画面に表示された一樹の名前を見ると、今日、さよならと言ってマンションを飛び出した光景が頭をかすめ、発信ボタンを押すのをためらってしまった。
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44/50話
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